11歳の誕生日|シニア犬日記 #11
冬の公園につもった枯葉の上を、カサカサと音を立てながら愛犬のめいこがゆっくりと歩く。冬の冷たい空気とあたたかい陽ざしを味わうように、ふたりで何度も立ち止まりながら歩いた。めいこはまだ少し眠そうで、でも時々しっぽを振って嬉しそうにしている。
「今日はめいこの誕生日だよ」
一瞬きょとんとした顔をしたあと、気にせずまた歩き始めるめいこ。歳をとったことなんて知らずに、気にもせずに、いつものように散歩を楽しんでいた。
12月25日、めいこが11歳になった。犬の11歳は人間でいうと60歳。犬の一年は、人間でいうと4年分にもなるらしい。
今年はずいぶん、老いを感じることが増えた。
例えば、背中が丸くなってきたこと。
特に座った時の背中がまるく、撫でると大きな曲線を手のひらに感じる。前から背中の変形性脊椎症だと言われていたので、今年から月一回の注射を始めてみたけれど、どれだけ効果があるのかは分からない。できるだけ長く歩いてもらえたらいいなという思いで続けている。
あとは、朝の散歩に行きたがらなくなったこと。
お散歩が好きで、前までは「散歩」と聞くと飛び跳ねてよろこんでいたけれど、最近は朝の散歩に誘うと、眠そうな顔で、「まだ寝てたいよ」というかのようにゴロンと横になるようになった。だから、誕生日の朝に珍しく散歩に行きたがったときは、とても嬉しかった。
それから、白内障が進んできたこと。
少しずつ瞳が白っぽくなってきた。最近、白内障の目薬もはじめたのだけど、ブラッシングも歯磨きも嫌がらずにさせてくれるめいこが、目薬は大嫌いであばれるのは意外だった。さすときのコツをつかんできたから、めいこもゆっくり慣れてくれるといいな。
老いを感じることもあれば、若さを感じることもまだまだある。新しいおもちゃをもらうと、嬉しそうに何時間も遊び続けること。いっしょにお出かけから帰ってきた後は、余韻を楽しむようにしばらくボール遊びをすること。
散歩中に「何歳ですか?」と聞かれて「もうすぐ11歳です」と答えると、「まだ子犬かと思った」と驚かれることは日常茶飯事。初めての場所へ行くと好奇心旺盛に探検をするし、階段をのぼったり、ベンチの上を覗いたり、見えない場所は見てみたいという純粋でまっすぐな気持ちは、いつも私たちを笑顔にさせてくれる。
めいこはいつだって自由で、「今」を生きている。
冬の朝は、リビングに差し込む光で気持ちよさそうに日光浴をしている。甘えたいときにたっぷりと甘え、お腹を見せて「撫でて」と言ってくる。おやつが欲しいときは、チラチラとごはん皿のほうに視線を向けて訴えてくる。楽しいときは家中を走り回る。
老いなんて気にせず、ただ今を楽しんでいるめいこは私よりよっぽど強く、頼もしく見える。自分の過去や未来のこと、世界で起こっていることは何も知らず、無防備に眠るめいこの顔は、いつもやさしく穏やかだ。
これからも何も心配せず、ただ今日を楽しんで生きていてね。私たちも、めいことの日々をめいっぱい楽しむよ。
毎日寝る前、布団の上で「今日もありがとう」と伝える。それを聞きながら、心地よさそうに深い呼吸で眠りにつくめいこ。めいこの柔らかいお腹に顔を近づけて匂いを吸い込むと、どんな香りよりも癒される、陽だまりみたいな匂いがする。
過去でも未来でもなく、私たちはいつも「今」を生きている。未来のことを思うと不安になることもあるけど、きっと大丈夫。私がいくら未来を心配したって、「今、いっしょにいるよ」ということをめいこが命いっぱいに教えてくれるから。
めいこの寝息を聞きながら、目をつぶる。ちいさな温もりを感じながら、幸せな気持ちに包まれながら、いつの間にか私も眠っていた。