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小説 第二章◇宇宙時代への扉・4
《アルバ国際宇宙空港とキューブの部屋》
いただいたおにぎりはシャケと昆布のおにぎりがひとつずつ。緑茶も向こうに着いたらしばらく飲めないかもしれないし。そう思うととても貴重に感じて、一口一口味わって飲んだ。
ほっとするな。
飛行機は揺れることもなくスムーズに飛んでいた。
食べ終えると研究ノートと睨めっこしていた。
おじいさんがいてくれたらな……。なかなか解読出来そうな文字は出てこない。
その中に、電話番号のような数字が書いてあった。気になったので、なぜか手の甲にその番号を書いておいた。そして、彼に会うための数字も。
その後、しばらくしてすっかり眠ってしまっていた。
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
それは突然の事だった。
眩しい!!
機内が一気に明るくなる。
「白濱様、白濱様。頭を下げて目を服で覆ってください。光は見ないように!!」
キーンと言う音とも違う、どこかで聞きた音。
そうだ、あの時。
テレビから聞こえてきた音。
「宇宙船が近づいております」
目の前がすべて光に包まれ、俺は気を失った。
《大丈夫。あなたは守られているから》
君はだれ?
《そのうちわかる。あなたの味方。心配しないで》
ハッと意識が戻ると、目の前にあった景色が一変していた。
空間が光っている。ゆらゆらと波打つ光。
まるで虹のようなプリズムが脈打つように。
《あなたには見える。必ず迎えに行くから》
あの声。
「君は誰?」
俺は光に向かって叫んだ。しかし、返事はない。
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
急に重さを感じ、目が熱くなった。周りを見渡すともとの機内に戻っていた。
あの音。テレビから聴こえた音がまだ鳴っている。耳を塞いでも意味はなかった。
「白濱様!白濱様!!」
誰かの声がする。
「大丈夫か?空港内までタンカーで運ぶか?」
「いや、ダメだ。この間、宇宙光を浴びた人間をタンカーに乗せたら金属が溶けたらしい」
「本当か?」
「あぁ」
俺は熱さを感じる目をなんとか開けようとした。
「意識はあるぞ!白濱様!白濱様!!」
「あっ、あなたたちは……」
「良かった」
うっすらと開いた目からは、黄色い防護服を着た男性が数名見えた。
「わたしたちはアルバ国際宇宙空港の医療チームの者です」
アルバ国際宇宙……
「ここは……」
「アルバ国際宇宙空港です」
とうとう着いたんだ。
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
俺は、金属に触れないように言われ、防護服の男性に抱き抱えられながら飛行機を降りた。
キャリーケースとリュックは別の医療チームの方が持ってくださっている。
「二十四時間は宇宙光の影響が残っている可能性があります。空港内の職員の指示に従い行動されてください」
「わかりました」
俺は抱き抱えられながらも視界はもとに戻りつつあった。身体の重さも次第になくなっている。
滑走路の向こう側に建物が見えた。
あそこが空港か。全体が見えないほど大きい。
俺は、滑走路を突っ切り、数名の銀色の防護服を着た人たちが立っている場所まで連れて行かれた。
そこに立っていた一番背の高い大柄の男性に空港の出入り許可書とパスポートを提示するよう指示され、金属に触れる事が出来ない俺のかわりに医療チームの方がそれぞれ取り出してくれた。
許可書とパスポートを手渡すと、首から下げた懐中電灯のような物で光を三秒ほどそれぞれに当てた。
「白濱様、お疲れ様でした。ようこそ、アルバ国際宇宙空港へ」
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
リュックとキャリーケースは医療チームの方から銀色の防護服を着た空港職員に持っていただくことになった。
身体を支えてくれた医療チームの方とはここでお別れのようだ。俺は「ありがとうございました」とお礼を伝えた。
「よい旅を!」
彼らは俺の乗ってきた飛行機の方にまた戻っていった。
俺はさっきから気になっていた事をキャリーケースを持ってくれている空港職員に聞いた。
「あの、機長さんたちは大丈夫ですか?」
「彼らの事は医療チームにお任せください。さぁ、中へ」
職員の一人が壁に手をかざすとコンクリートの壁の一部が光り、自動ドアのように開いた。そして、通り抜けると静かに閉まった。
そこを入ると小さなモニターがひとつ置かれた白い部屋に通された。とてもシンプルな空間だ。
「ご説明いたします。この部屋を出ると、突き当りがチェックルームとなっています。そこでチェックを受け、問題がなければ透明な部屋に移ります。良い旅の続きを」
そう言って、白い部屋の扉を開けてくれた。
「どうぞ、こちらへ」
「ありがとう」
部屋を出ると壁の一部が発光している不思議な空間に出た。かなり長い廊下のようだ。特に装飾もなく、薄暗い廊下だ。
しばらく歩くと防護服を着た人が二人見えた。
あそこがチェックルームだろうか?
そのまま歩いていくと彼らが手招きをしている姿が見えた。近づいていく。
すると「そこで停止してください。これ以上前には進めません」という声が聞こえた。
立ち止まると周りが微かに光始めた。
驚いたことに、先ほど見えていた防護服の2人はモニターの向こう側にいた。たしかにここは突き当たりだ。そしてかなり大きなモニターが壁に埋め込まれてあった。人間が等身大で見えるほどだから、かなりの大きさだ。
「これからチェックに入ります。そのままモニターに向かって立っていてください」
俺は言われるがままにモニターに向かって立った。
一緒に着いてきてくれている防護服の男性たちは俺から三メートルほど離れたところで待機していた。
「では始めます。動かないでください」
突然、真上からグリーンの光が点滅しながら足元まで下りてきた。その光はまた頭上まで上がっていく。それを三回ほど繰り返し、今度は左右に三回、光が俺を通過した。
「これで終わりになります。問題は見つかりませんでした」
「向かって左側にまっすぐ歩いてください。一度ここから出ると二度とこちらには戻れません」
モニター越しの防護服の二人は見えなくなった。
待機してくれていた職員が近づいてきた。
「ここからは、わたくしたちは同行出来ませんので申し訳ありませんがお一人で行っていただきます。お荷物は後ほど白濱様のもとへ職員が運ばせていただきますのでご心配なく。では、引き続き旅をお楽しみくださいませ」
いろいろな事がいっぺんに起きて、頭の整理は出来ていない。でも、この驚くような状況化でも俺はとても親切にしてもらっている。これはとても幸運なことなのだろう。
俺は感謝の気持ちで胸が熱くなった。
「ありがとうございます」
彼らにお礼を言うと、言われた通り左に歩き始めた。
数歩歩くとすぐに壁が見えた。
すると、目の前で青い文字が点滅し始めた。
『ようこそアルバ国際宇宙空港へ』
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
読み終えると同時くらいに文字の点滅が消え、壁から光が漏れてきた。その壁は扉となり音もなく開いた。
「うわっ!!」
あまりにも強い光を感じて目をつぶった。
しばらくして目をゆっくり開けると、そこには透明なキューブ型の部屋がいくつもならんだ不思議な空間だった。