「わたし」を主語に、話をしよう。
「誰かの話はおやすみして、一人ひとりの『わたし』の話ができる場を、みなさんと一緒につくっていきたいです」
これは、わたしが子育てメディアコノビーで1年半前から担当している「コノビーサロン」という親向けコミュニティで、毎期、かならず始めにお話させてもらうこと。
「自分」が母に浸食されてゆくという感覚
なぜ、そんな話を最初にするのか。
これは、いままでコノビーで様々な子育てに触れさせてもらったり、保育士として多くの親御さんと関わってきて感じてきたことなのですが、子育てをしている人たちが、「親」という役割で自分を捉えなくてはいけないこと、そして、他者から“そう”捉えられることが、あまりに多い。
それはつまり、彼女(彼ら)たちが、「わたし」の話ができる場が圧倒的に少ない、ということでもあります。
ある一人の女性が、「“自分”が母に浸食されてゆく、という感覚がある」と話してくれたことがあるのだけれど、ほんとうに、そうなのだと思う。
それは実際の生活のなかで、母としての振る舞いを期待される時間の長さや圧倒的な役割の多さも関係しているだろうし、他者との会話のなかでも、子どもの話ばかりで自分の話をする機会がなくなる、ということもあるだろう。
例えば、お母さんになってから、初めて出会った人との会話は、
「お子さんかわいいですね、おいくつですか?」
『もうすぐ1歳です』
「そうなんですね。うちの子も同じくらいで、最近アンパンマンだいすきなんですよ。お子さん、お名前はなんていうんですか?」
…というような感じが多くなる。
〇〇ちゃんママとして他者に認識され、自分の名前を相手に伝えることも、自分の好きなものの話をすることも、どんどんなくなってゆく。
そんな日々の繰り返しのなかで、「わたし」というアイデンティティがなくなってしまう感覚を抱くのかもしれない。
わたしを主語に話す、ということ
でも、当たり前だけど、母という顔はその人の一部分でしかない、と思うんです。
だから、コノビーサロンは、子育てメディアではあるけれど、なにより、あなたを大切に、一人ひとりのわたしを大切にできる場にしたいと思って、ただたただその気持ちだけで、スタートしました。
会話の主語を「わたし」にするという意味だけではなくて、思考の主語も、行動の主語も「わたし」にしよう、していいよという想いを込めて、『自分に立ちもどれる場所』というコンセプトを。
そして、わたしに立ちもどりやすいように、グランドルールもつくりました。
それから、サロンをやる上で大切にしているのは、こんなこと。
・「子どもと離れて」、わたしとして出会える環境づくり
・○○ちゃんのママではなく、「名前(あだ名)」で呼び合う文化づくり
・○○くんママではなく、「わたし」を主語にして話せる対話
・わたしの話をすることで、「本当の気持ち」を大事にしやすくするルール
その人がよりその人らしくいられる状態で、そのまんまの、“わたし”と“あなた”で繋がれる関係を、サロン生同士のあいだでも、サロン生と私たちのあいだでもつくれるように、意識しています。
じつは、卒業したサロン生から、こんな言葉をもらったことがあって。
いやー、娘を産んでから“ママ”としての私の話ばっかりで、“私自身”の話を、誰かに聞いてもらえることがなかったから、とにかく嬉しかったし、ちょっと大げさかもしれないけど、存在を認めてもらえたと思って…
「しほのママである」っていうことが、いつも自分の一番手前にきてたんです、ずっと。でも本当は、「私はママである前に、こういう人間なの」っていう部分もあって。それを言えないでいたのが苦しかったんだって気がつきました。
サロンでさ、何度も「私を主語にして話そう」って言ってくれたでしょ。それも、「あなたのままでいていいよ」と言ってもらえてるみたいで、すごく嬉しかった。
サロン生インタビュー記事より
ああ、ちゃんと伝わっていたんだなあ、と、すごくうれしい気持ちになりました。
「わたし」に立ちもどれる場所
毎回、車座になって、「わたしのいまの気持ち」を話すところからスタートするコノビーサロン。
それから回によって、わたしの好きなことを話したり、過去・現在・未来に目を向けてみたり、わたしの大切にしていることはなんなのかを、掴んでいく対話をしています。
これは、1~3期までやってみて、私たち自身もすごく驚いていることなんですが、参加してくれたサロン生たちが、新しいその人に変わっていくという変化ではなく、その人のがより濃くなっていくような、その人らしい温かさみたいなものがでてくる変化をしていて。
そうすると、自然とその人のペースで前に、横に、斜めに、進みたい方向に歩みだす姿が見られるようになり、サロンの中では特に触れていなかった、パートナーシップや子育て、仕事にも変化がうまれてくる人が、とっても多い。
そんなサロン生たちの変化をみて感じたのは、わたしを主語にして話をしたり、自分を大切にするということは、決して我がままに生きようということではなくて、より周りにも目が向き、あなた(他者)のことも大切に想うようになっていくのだということ。
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「誰かの話はおやすみして、一人ひとりの『わたし』の話ができる場を、みなさんと一緒につくっていきたいです」
コノビーとしてやっていることだけど、わたしを主語にして、わたし自身の想いとして、サロン生に伝えてきた、この言葉。
実はいま、コノビーサロンは新しいチャレンジをしようとしているところなんですが、これからも、この軸からぶれることなく進んでいきたいなあ。
追記:
早速、新しいチャレンジがひとつ始まりました!どきどき
応援していただけるとうれしいです。
(無事目標達成しました!ありがとうございました)