シェア
EMILY.K
2020年7月29日 18:40
***「りょうこちゃん!」一番初めに気づいたのは真司だった。後ろを向いていた黒髪の女の子が振り向いた時、何度も会っているはずの彼女に、俺はドキリとした。真司の振っていた手が一瞬止まっていたのを、俺は見過ごさなかった。こいつも同じだ。 久しぶりに会った涼子は、たった一カ月だけの滞在とは思えないほど現地に溶け込んでいるように見えた。少し灼けた肌と、日本では付けないような大きなピアスをして、幾分
2020年7月21日 00:34
*** 祐樹と一夜を共にした朝、後悔の念が一切なかったのが、自分でも驚いた。 祐樹が全身で困惑をぶつけてきたとき、私は心の底から祐樹を愛おしく思えた。彼が必死になって閉めていたダムのゲートが、一気に開いた。止めどなく流れる混乱と悲しみを、私も全身で受け止めてあげたい、そう思えた。 朝、彼は真っ先にベッドに頭を付けて謝り倒してきた。私はそれを同意の上だったと何度も言い放った。 シャワー
2020年7月17日 20:53
次の日、喫煙所にいた彼女は、やっぱり独特のオーラを放っていた。そのミステリアスとも言える外見は、東南アジアの血が混じっているようで、周りの男どもの目線を感じているのかいないのか、じっと中庭の芝生を見つめていた。「意外だね。タバコ吸わなそうな雰囲気なのに。」 中々の勇気を振り絞ってそう声を掛けたとき、俺の内心は彼女に対する嫉妬心だけだった。 その美しい外見を持っているだけでたくさんの視線を
2020年7月15日 19:53
女の子は、柔らかい。合わせる肌はもちもちとしていて、発する声も猫のように甘く、いい香りがする。 秋を迎えて、肌寒くなってきた。 俺は昨晩出会った女の子の家で、床に落ちていた下着を履きなおしていた。「帰るの?」布団をかぶったままの裸の彼女が、甘えるように聞く。「連絡先、交換しようよ。」そう言ってベッドの横に置いてあった鞄からスマホを取り出す彼女の髪は、出会ったときよりも乱れていた。
2020年7月13日 18:29
*** あの日、目が覚めると風邪気味だった身体が幾分軽くなっていた。変な時間にベッドに籠ったせいか、起きたのは夜中だった。 また身体がざわついてくるのが分かった。 思い出すのは真司の身体であり、腹の底から欲情という感情が留まることなく湧き出てくる。戸惑いというのはこういう事を言うのかと冷静に頭で考えられても、それを止める術を俺は知らない。体と並行して徐々に起きていく思考を止めなければと、キ
2020年7月12日 18:14
***「意外だね。タバコ吸わなそうな雰囲気なのに。」 そう声を掛けて来た時の彼の顔を、私は今でも忘れない。大学一年の、十月の中頃だった。その日は雨が降っていたのもあって、冬の始まりを痛感するほど冷え込んでいた。タバコを持つ右手が冷め切っていたのを覚えている。 彼はげっそりとしていた。なのに、口元はニヤついて、目はやけに鋭かった。可笑しな男にナンパされたと、ついつい吹き出した。「あれ
2020年7月11日 01:49
夏休みも終盤に差し掛かった九月、その日は前日から雨がしとしとと降り続け、気持ちも沈んでしまうほどだった。 俺は前日の交通整備のバイトで雨の中一日外に立ちっぱなしだったからか、せっかくの休みも風邪をこじらせて家で過ごしていた。溜まった洗濯物も洗えず、カップラーメンを食べてテレビを何となく付けてはだらだらと過ごしていた。 三時ごろに玄関が開き、朝からカフェのバイトに出ていた真司が帰って
2020年7月10日 14:53
学校の授業が本格的に始まり、思っていたよりも意外に授業を受けなくてはいけないことに驚いた。大学生というのは一日に3コマくらいの授業で、あとはダラダラと過ごすものだと思っていた。 「よっ。」 飲み会の翌日に喫煙所に向かうと、真司も喫煙所にいて、俺の姿を見かけると何の躊躇いもなく声を掛けて来た。それからと言うもの、俺は喫煙所に行く度に真司の姿を少なからず意識して探した。 授業の合間に喫煙所
2020年7月9日 01:35
浪人時代を乗り越えてやっとの思いで入学した大学は、ドラマの舞台になるほど厳かな佇まいだった。東京にありながらも伝統的な雰囲気を醸し出すその校舎は、高校生の頃テレビを通して勝手に想像していたキャンパスライフを演出するには最高の舞台だと感じた。 入学式二週間前、長野の実家から上京した部屋には、少しずつ家電が届き始めた。実家から持ち込んだ慣れたベッド以外、部屋には自分以外にも「新顔」と主張する
2020年7月8日 00:21
周りを見渡すと、そこはまるで迷路のように道が入り組んでいた。ただただすべてが白く、俺は諦めたように立ち尽くしている。 ふと人の気配がして振り返ると、そこには白い壁があるだけで、誰の姿もない。前を向き直すと、誰かが背中に手を置いた。あたたかく、随分と心地がよくて、俺はその迷路の出口を探すことを諦めたようにゆっくりと目を瞑った。「お前、またこんな所で寝てたのかよ。」 わき腹を軽く蹴られ、最悪