【感想】Hayami Saori Special Live 2023 Before Dawn-夜明けに
良いライブを見てしまうと、どうしてこうも語らずにはいられなくなるのだろう…。
2023年1月2日、早見沙織さんの3年3ヶ月ぶりとなる有観客単独ライブ「Hayami Saori Special Live 2023 Before Dawn-夜明けに君と」が開催された。
いつものバンドに加えて弦楽器4本、コーラスも携えた豪華な編成による"その日だけのアレンジ"。BPMすらもその時の呼吸感で合わせてしまう生音の心地よさや、美しく、圧倒されつつも心地良く包み込んでくれるような歌声。
「あぁ、これが早見沙織さんのライブだ…。」と、至福の時間を噛み締めさせられた。
そして取り分け魅入られたのは、ライブを通して伝えられるメッセージだ。
『Before Dawn-夜明けに君と』というタイトルに相応しく、セットリストは20曲(本編16曲、アンコール4曲)を通して移ろう空が表現された。
『メトロナイト』『ESCORT』のような深い夜を経て、本編ラスト16曲目『Awake』で夜が明ける。
ラスサビでステージバックのカーテンが開き、夜明けの空が映し出されたスクリーンが見える演出は圧巻だった。
《夜明け》という言葉は時間軸の意味だけでなく、パンデミック以降初の有観客ライブを実施する、コロナ禍からの夜明けという意味も持つ。
本編のセットリストは先の2曲(『メトロナイト』『ESCORT』)を除き全て2020年以降にリリースされた楽曲で、その全てが漏れなく披露された。
このように、演奏出来なかった楽曲を"清算する"ようなセットリストは意外だった。
というのも、例えば2020年末に実施された無観客オンラインライブ『glimmer of hope』ではその年リリースされた楽曲は全て披露されていない。
これは《閉塞感のあるところから解放されていく》というテーマに沿ってセットリストが組まれたからだ。
詰まるところ、早見沙織さんのライブのセットリストは「未披露だからやる」のでなく「テーマに合う(=観客が求めてるもの)からやる」という組まれ方がされてきた筈なのだ。
今回、未披露の楽曲を本編にまとめたことに、どんな《テーマ演出的意図》があったのか。
そこにライブタイトル『Before Dawn-夜明けに君と』の《君と》の部分が詰まっていると考える。
《夜明け》を表現する楽曲は『ブルーアワーに祈りを』や『新しい朝』と複数あるが、今回披露されたのは最新曲の『Awake』だ。
この曲は心の痛みを抱える人に《同じように痛みを抱えている仲間がいるよ》というメッセージが込められており、その為"二人"という言葉が強調されている。
支えてくれる人でもなければ、大丈夫とエールをくれるわけでもない。共に傷つき、痛みながら前に進んでくれる人を描いている。
そしてこの曲の最後の歌詞に出てくる《夜明け》という言葉は、そんな心の葛藤からの解放を表現している。
すなわちライブタイトルの《夜明け》も(聞き手それぞれが日常の中で抱えてる)孤独や生きづらさからの解放、光に向かう様のメタファーでもあり、それがこのライブの最大のテーマだろう。
その《夜明け》に寄り添ってくれるものは、共に痛みを背負った誰かなのだ。
コロナ禍でライブが出来なかった期間、その期間を悲しんだのはファンだけでない。早見沙織さん自身も同様に様々な閉塞感を抱えてようやくこの日を迎えた筈だ。
その痛みがあるからこそ、今回、コロナ禍に《やりたかった曲》たちが清算されるセットリストになったのではないだろうか。
つまり、今回のセットリストは全編を通して、
《聴き手の心の葛藤》と《同じ痛みを持って寄り添ってくれる早見さん》という関係性(=ライブタイトルの《君と》)が表現されていたのだ。
アンコールで1曲目に演奏されたのは「Jewelry」だ。
続けて《夜明け》に相応しい朝の楽曲「NOTE」が披露されたが、1曲目は「Jewelry」なのである。
この曲は単独ライブでは決まって歌詞を変えて歌うパートがある。
夜明けを迎えられる理由、1番大切なファクターが《君と》だったからこそ、早見さんとファンのライブを通しての関係性、その多幸感が表現されたこの楽曲がアンコールの1曲目に相応しかったのだろう。
この曲の歌詞が、メロディが、どれだけ嬉しかったことか………。
アンコールラストに演奏されたのは1stシングルの「やさしい希望」
新しい「はじまり」を象徴するかのようなこの楽曲も、"二人"の関係性を描いた楽曲だ。
この歌詞が改めてどれだけの力強さを持つものになったのか、それはここに書くまでもない。聴き手それぞれの日常に刺さるメッセージがあったであろう。(「やさしい希望」という抽象的なタイトルがそれぞれの解釈で具現化されるように…。)
今回のライブ、このライブに向かうまでの活動テーマに関して、MCでも改めて説明があった。
【孤独や生きづらさを感じる人の心に寄り添い、光となる音楽を届ける】
早見さんらしい "寄り添い方" と、その光の温かさを改めて知ることが出来たライブであったと思う。
そしてきっとこれこそが表現者・早見沙織への最大の賞賛の言葉になると、筆者は信じてやまない。