Let's be a Plant!
梅雨
入ったんだか入ってないんだか
明けたんだか明けてないんだか
毎年よくわからないうちに過ぎていくけれど、確かに雨が降っててジメジメしていて陰鬱な気持ちになる日は多かったかもしれない。
梅雨は頭が重くなって何をするにも億劫になりがちだ。
何を聴いて何を着ようか、という身近な決定事項も決めかねる。
元気の出る明るい音楽を聴いて、ゴアテックスを着るのも勿論良いんだけれど、そんなに雨や湿気を悪者のように扱うのもいかがなものかと思う。
そこで、音楽と洋服でこちらから梅雨を迎えに行ってみたら晴れの日には味わえない歓びが味わえてしまうんではないか?というお話を。
音数が少な過ぎず多過ぎず、少し雨の音が向こう側に聞こえるようなSam Gendelのアルバム。
雨の風景にぼんやり馴染むAncellmのパーカー。
satouによる綺麗な土色のストレートパンツ。
2021年の7月にリリースされたこちらのアルバム。
同名義で制作された『Music For Saxofone & Bass Guitar』(2018年リリース)の続編的作品である。
レストランでの演奏や、撮り溜めた音源をラフにまとめた本作
どの楽曲も必聴だが、アルバムの名の通りベースとサックスのみのバンド編成と、ミニマルな打ち込みのパーカッションによって、
洗練された聴き心地の良い作品となっている。
幻想的でメロディアスなサックスは、LAを拠点に活躍するSam Gendel。
多ジャンルを横断する現代ジャズシーンの中でもキーパーソンの一人であり、日本においては折坂悠太の楽曲『炎 (feat.Sam Gendel)』での客演でも脚光を浴びている。
そんなサックスを底上げする重厚なベースはSam Wilkes。
こちらもLAを拠点に活躍しており、界隈のミュージシャンの間では凄腕ベーシストと名高いそう。
特に素人(僕)目から見ても凄腕の片鱗が見えたのは、本アルバムの収録曲『Caroline,No』後半のベースソロ。
語彙力を失った後の感想で申し訳ないが、
激しくてメチャメチャカッコいい。
ぜひとも注目してお聴きいただきたい。
(尚、『Caroline,No』はビーチボーイズによる同名楽曲のカバーである。)
線が曖昧なサックスに、どっしりとしたベース。
アルバムを通して楽曲ごとにテンポが変わったり、時に跳ねたようなリズムになる本作は雨の降る都市の風景と、相性がこの上なく良い。
さて、こんな雨の日に最高なアルバムだからこそ肌で雨を感じたい。
というかもはや雨を全身で感じる植物みたいになりたい。
「視点を変えた経年変化の提案」をテーマに掲げるANCELLMによる極上の春夏フーディ。
首までズボッと覆う襟、首元、襟元と裾のコード、ついつい入れ過ぎてしまいそうなフロントポケット
ミリタリーやアウトドアブランドでも見られる仕様で、それらの多くが雨をネガティヴに捉え、雨に抗う素材で作り上げている。
しかし、ANCELLMの解釈は違う。
リネンとレーヨンを織り合わせたしっとりした生地は決して密閉、密着せず、風に靡いて断続的に肌を撫でる。
たっぷりとした身頃ゆえの落ち感
天気の良い日にはほど良く光沢があり、曇りや雨の日はマットでぼんやり浮かび上がってくるような佇まい。
写真だけでも波打っているような滑らかなさが伝わってくる。
日常着とモードの絶妙なバランス、、
つまり、これを表現するのに最適なデザインソースだったのだ。
雨は防げるが、密閉され、蒸れていく洋服と
雨をある程度受け入れ、常に風を感じられる洋服。
雨の日を心地良く過ごせるのは後者だと僕は思う。
デザイン然り、生地然り。
この一着に雨の日の新たな解釈を感じずにはいられない。
何年も着込んで行ったらどんなふうに育つんだろう
きっと、かっっっこよくボロボロになっていくんだろうな
hatakeという名の通り、いなたくて土臭さのあるムード。
しかし野暮ったさを全く感じさせないのがsatouの優れたバランス感覚だ。
丁寧に手入れされ、上質な土を耕した「hatake」
足を通すと手仕事への計り知れない想いを感じる。
生地の凹凸が作り出す陰影と、どの角度から見ても綺麗に見えるシルエット
動いても、動かなくてもとにかく綺麗。
肌に当たる部分に無糊のコットンをあてがうなど、
垣間見えるsatouならではの繊細な思いやりが、ある種の大人の色気を感じさせる。
畑仕事をするには晴れていた方が良いのかもしれないが、
個人的には曇りや雨の日にこそ魅力が発揮される逸品である。
この繊細さは翳りのある静けさにこそ、心に色濃く染みわたると僕は思う。
We are mostly plant!
ムシムシして、頭と足取りは重くなって(たまに予定も飛んで)、髪はいうことを聞かないし、視線はうつむきがちになる。
並べてみると雨の日ってたしかに悪いことばかりに見えるし、今でもそりゃどっちかと言うと嫌だ。
しかし日本に住んでいる以上、梅雨や夏の終わりなど、雨が多い時期を避けては通れない。
視線はうつむきがちになる。
路肩の雑草が雨に打たれているさまが目に入る。
打たれているけれど、その様子は天を仰いで歓喜しているようにも見える。
雨を喜ぶ植物を見てると、雨の日もそんなに悪くないなと思う。
水が占める割合
植物の80%〜90%
ヒトは60%〜70%
ずっと雨が続いて欲しいってくらい好きになることはないけれど、
たまには僕たちも植物みたいに雨を喜んだっていいよね。
良い洋服と良い音楽はきっとそのきっかけになってくれるはず。