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極上のカナダワイン

メルマガ登録しているワインショップのメルマガを開いた瞬間、思わず衝動買いしてしまったワインが4本、届きました。

すべてカナダワイン。しかもすべて同じ生産者です。

生産者の情報は後ほど説明するとして、まずは日本ではほとんど知られていないカナダワインの話をしましょう。

1年半ほど前、カナダの西部ブリティッシュ・コロンビア州にあるオカナガン・バレーに約1週間行ってきました。バンクーバーで飛行機を乗り換え、1時間ほど内陸に入ったところにあるオカナガン・バレーは、南北に細長い渓谷地。渓谷の一番低いところをオカナガン湖が縦断していますが、湖の全長はなんと135キロメートルもあります。

湖岸には無数の個人所有とみられるヨットが停泊していました。訪れたのは秋で、人気(ひとけ)はあまりありませんでしたが、夏は避暑地として大いに賑わうそうです。

オカナガン・バレーのブドウ畑(手前)とオカナガン湖

オカナガン・バレーはもともとリンゴの産地として有名でした。湖の周りには今もたくさんのリンゴ畑があります。しかし、1990年代からワイン用ブドウを栽培する畑の数が急激に増えました。今では東部オンタリオ州のナイアガラの滝周辺に次ぐ、カナダ第2のワイン産地となっています。

カナダというと、氷点下の寒さで凍結したブドウを収穫して造る甘口のアイスワインが有名です。しかし、カナダのアイスワインの8~9割を生産するオンタリオ州でさえも、近年、州のワイン生産量全体に占めるアイスワインの割合は低下傾向にあり、2022年は0.5%を切りました。

代わりにカナダ全土で生産量が増えているのが、辛口の赤ワインや白ワイン。つまり、私たちが一般にイメージするワインです。

滞在中、毎日のように虹がかかっていた

カナダは、かつては、他の緯度の高い地域と同様に、寒すぎてワイン用ブドウの栽培には向いていませんでした。ブドウの栽培に適した場所は、北半球、南半球共に緯度が30~50度の間と言われています。オカナガン・バレーの緯度は北緯49~51度。ブドウ栽培の北限か、やや外れるあたりです。

なぜそんな北限の地でワインの生産量が増えているのか。一番の要因は地球温暖化です。

訪問したワイナリーの一つ、「デイドリーマー・ワインズ」のオーナー兼醸造家、マーカス・アンセムズさんは、「温暖化の影響でブドウの生育期間が延び、昔よりもブドウがよく熟すようになった」と証言します。

「デイドリーマー」のマーカス・アンセムズさん

南北に長いオカナガン・バレーは南と北で気候にも違いが見られ、その結果、地域全体では多種多様なブドウ品種が栽培されています。

デイドリーマーも、リースリングやピノ・ノワールといった冷涼な気候に適したブドウ品種から造るワインの他、南フランスの主要品種シラーを使った赤ワインなど、温暖な地域で造るようなワインも造っています。イタリア・トスカーナ州の主要品種サンジョベーゼも栽培されていました。

ワインのスタイルも多彩です。全体としては冷涼な産地特有のフレッシュな味わいの白ワインや軽やかな赤ワインが多いものの、南部では温暖な産地の特徴であるフルボディの赤ワインも少なくありません。

例えば、南部にあるワイナリー「ブラックマーケット」で試飲した赤ワインは、メルローやカベルネ・ソーヴィニヨンなどフランス・ボルドー地方の主要品種をブレンドしたフルボディのワインでした。

ボルドーワインとの類似点は品種やフルボディというだけではありません。酸味やタンニンとのバランスにも優れ、ボルドーにも引けを取らないフィネス(緻密さ)を感じました。

収穫前のサンジョベーゼ

高品質のワインが生まれる原因は温暖化の他、オカナガン・バレーの地理も関係しています。

オカナガン・バレーは太平洋から遠く離れた内陸に位置し、かつ周囲を山に囲まれているため、場所や年によっては夏場の気温が40度前後まで上がります。とても北緯50度とは思えない暑さです。そのためブドウがよく熟します。

高級ワイン産地としてのオカナガン・バレーの将来性を見越し、有能な醸造家が他の国や地域から次々と移り住んでいることも、高品質のワインを生む要因です。

実はアンセムズさんもその一人。ワインの世界的権威「マスター・オブ・ワイン」の称号を持つアンセムズさんは、オーストラリアの出身で、世界各地でワイン造りを学んだ後、1999年にカナダに渡りました。初めはオンタリオ州でワインを造っていましたが、オカナガン・バレーの将来性を感じ2006年にこの地にやってきました。

農薬も化学肥料も使わない土に優しい有機農法でブドウを栽培し、醸造も小さなタンクで丁寧に行います。「オカナガンの気候や土壌を表現するワインを造りたいから」とアンセムズさんは言います。

「リトルファーム」のリーズ・ペンダーさん

オカナガン・バレーの南の外れにあるワイナリー「リトルファーム」のオーナー兼醸造家、リーズ・ペンダーさんも、マスター・オブ・ワイン。しかも、偶然にもアンセムズさんと同じオーストラリア生まれです。ワイナリーの開設は2011年で、やはり有機栽培にこだわっています。

実は、衝動買いした4本のワインというのは、このリトルファームが造る4種類のワイン。オカナガン・バレーで試飲したワインはどれも非常に高品質でしたが、リトルファームのワインはその中でも特に印象に残ったワインでした。

しかし、1年半前に現地を訪れた時は、リトルファームのワインは日本には輸入されていませんでした。1本だけ日本に持ち帰りましたが、開けるのがもったいなくていまだに家のセラーに眠ったまま。メルマガを見た瞬間、これで日本でも飲める、と小躍りしました。思わず衝動買いしたのはそんな理由からです。

リトルファームの、シャルドネとリースリングから造る白ワインは、キリっとした酸味が持ち味。しかし同時に完熟した果実の甘味もあり、非常にバランスとストラクチャーに秀でたワインです。とりわけ、リースリングから造るオレンジワインは、これまで飲んだオレンジワインの中でも屈指の味わいでした。

「マイヤー・ファミリー・ヴィンヤーズ」もおすすめのワイナリー

温暖化で注目を浴びるオカナガン・バレーですが、気候変動は必ずしもよい面ばかりではありません。

例えば、2021年は「ヒートドーム」現象がブリティッシュ・コロンビア州の広い範囲で起き、気温が40度台後半まで上昇。暑すぎてブドウがよく育たず、ワインの質にも影響が出ました。また、同年は大規模な山火事が発生し、煙のにおいがブドウに付いてワインの味わいにも影響を及ぼす「スモーク・テイント」の被害が起きました。

ワイナリー「ブルーマウンテン・ヴィンヤード&セラーズ」は、欧州の高級スパークリングワインやフランス・ロワール地方の白ワインを彷彿とさせる味わいの高品質のワインを産出していますが、2021年産はリリースを断念しました。ほとんどのワインがスモーク・テイントにやられたためです。

「ワイナリーの評判を守るための苦渋の選択だった」と販売担当のクリスティ・マヴェティさんは振り返ります。

世界的な影響力を持つ米国のワイン専門誌『ワインスペクテーター』は、オカナガン・バレーなどカナダのワイン産地を「世界で最も無名な偉大なワイン産地」と紹介。ファッション誌『ヴォーグ』は「過小評価されている世界のワイン産地12」にオカナガン・バレーの名前をあげています。

今宵は久しぶりにカナダワインを堪能しようと思います。(写真は最後の1枚を除き、いずれも2023年に撮影。トップの写真は夕日を浴びるオカナガン・バレーのブドウ畑)

「リトルファーム」のワイン


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