東大経済学研究科がすごいって話

お久しぶりです。
バークレーでの1年目が終わりました。
今回は、1年間アメリカの経済学PhDコースで授業を受けた感想と、その上で東大の経済学研究科ってすごかったんだなと実感したので、その辺りを書いていこうかなと思います。
最後に、最近多くの先生方が東大に戻ってきていて、教員の質が更に爆上がりしていると感じているので、そこに関して触れようと思います。


はじめに

2022年の夏からカリフォルニア大学バークレー校(以下、バークレー)の経済学PhDコースに入学したものです。行動経済学や応用ミクロ経済学に関心があります。
出願準備や渡米準備などの真面目な記事は、経済セミナー様に掲載させていただいた、社会人の米国経済学Ph.D.受験記〜出願準備編〜社会人の米国経済学Ph.D.受験記〜出願後・渡米準備編〜がありますので、そちらをご覧ください。
なお、あくまで個人の意見であり、所属機関等の代表的意見ではないことにご留意ください。

前提

経済学の修士課程やコアコースについて詳しくない方のために、背景をいくつか書こうと思います。
日本だと、経済学修士1年生(以下、M1)、アメリカの経済学博士課程だと博士1年生(以下、D1)は、コアコースと呼ばれる必修科目を受けることに1年を捧げることになります。
私みたいに、日本で修士を取った後にアメリカに来ている人間はコアコースを2度受ける羽目になります。
コアコースは一般的に、マクロ経済学(以下、マクロ)、ミクロ経済学(以下、ミクロ)、計量経済学(以下、エコノメ)の3教科で構成されていて、自分の専門に関わらず全て受けることになります。

注意書き

以下で東大の経済学研究科(以下、経研)のことを書きますが、あくまで筆者が授業を受けていた当時(2017-2018)の話がベースとなっています。コアコースに関しては、そこまで変わってはいないと思いますが、ご理解いただけますと幸いです。
また、私程度の人間が、授業や教授陣を評価するのは恐れ多いのですが、今回はお許しください。

アメリカの経済学PhDコースは日本より素晴らしい?

良いか悪いかは置いておいて、少なくとも私がいた当時の東大経研では、修士卒業後に海外のPhDコースに行くことが当たり前とされていました。
北米PhDがおすすめされる理由は色々ありましたが、そのひとつとして、コアコースの質がありました。
ただ、バークレーで1年間授業を受けましたが、コアコースに関してのみ比較すれば、東大の質はバークレーより上なのではないかと思いました。
以下では、その辺りについて、私の感想を述べようと思います。
もちろん、私は日本人で、英語だろうが日本人から教わる方が分かりやすい可能性は高いので、そこは割り引いてお読みください。
また、バークレーのコアは、他の大学と比べて緩いと聞いているので、他の大学はよりしっかりとしたコースかと思います。
ただ、コアコースによって退学させられるのは憂鬱なので、落第させる気がないバークレーのコアは私は好きです笑

コアコースの違い

バークレーも東大も2学期制なので、1学期に、マクロ1、ミクロ1、エコノメ1をとり、2学期に、マクロ2、ミクロ2、エコノメ2をとりました。
私は東大のことしか知りませんが、(多分)日本との明確な違いは授業時間の多さです。
東大の時は各授業週1コマ(90-105分)でしたが、こっちは週2コマ(90分)だったので、実質2倍です。
また、東大の時は基本期末試験だけでしたが、バークレーは中間もあり、中間が終わったタイミングで教員が変わるので、負担も実質2倍でした。
これはアメリカにある経済学PhDコースでは一般的だと思います。
なので、仕方ないですが、授業でカバーできる範囲は東大の方が少ないです。
そういう意味で、一般的にアメリカの大学でコアコースを受けることがおすすめされるのは納得です。
ただ、東大での授業を受けていたおかげで、バークレーでのコアはかなり楽でした。
特にミクロとエコノメは、世界的に見ても相当質が高いのでは?と思うくらいには良かったんだなと痛感しました。
マクロに関しては、私が詳しくなく、間違ったことを言う可能性が高いのですが、個人的にはマクロはバークレーの方が好みでした。

東大のコアコース

注意書きでも触れましたが、以下の話は主に2017-2018の情報となっています。
以下は私が誰の授業を受けていたかという、かなり内輪な話になるので、興味がない方はこの部分はスキップしていただくことをおすすめします。
まず、ミクロに関してですが、私の場合、ミクロ1はOD先生、ミクロ2はMA先生が教えていました。ミクロは毎年ローテーションしているイメージです。
エコノメに関してですが、私はエコノメ1をSK先生、エコノメ2をIH先生から受けました。エコノメは基本的に上記の2先生から教わることが多いかと思います。
マクロはコロコロ変わっている印象が強く、私はマクロ1をJR先生とSM先生、マクロ2をAK先生から受けました。

バークレーのコアコース

ミクロ

ミクロ1の前半は選択理論、後半は一般均衡理論、ミクロ2の前半がゲーム理論、後半がメカニズムデザインとマッチングでした。
基本的にバークレーのミクロの授業は、某ビンシュタインの教科書を一部使う以外は結構好きでした。ミクロ1は比較的ゆっくりのペースで、詳しいところまでカバーする感じで、ミクロ2は結構早足で教えられていた印象でした。ミクロ2はぽんぽん次のトピックに移っていたので、同期の多くはかなりミクロ2を嫌っていました。
東大ではミクロ1で選択理論と一般均衡を一気にやって、ミクロ2でゲーム理論をカバーするという形だったので、バークレーでのミクロ2の後半は基本初見で少し大変でしたが、基本的に東大のミクログループは数学や証明をしっかり追ってくれるので、授業数は少ないといえ、特に問題なくついていけたと思います。

エコノメ

エコノメに関しては、1の前半が確率論、1の後半と2の前半で回帰関連とノンパラメトリック手法を少し、2の後半でマシンラーニング(以下、ML)関連の理論でした。
確率論を腰を据えて勉強するのは初めてだったので良かったですが、回帰あたりの授業は結構ひどかったです笑
単回帰をやる前にブートストラップの理論をやり始めた時は、正気の沙汰ではないと思いました笑
また、2の後半の先生はML×Econが専門だったので、ML関連をやるのはいいんですが、logit, pobitなどの二値選択モデルを飛ばしてやるべきではないのではと思いました笑
一方、東大はかなり整備されている印象です。(私は好きですが、IH先生の授業は難しいという理由で評判が良くないです笑)
東大経研のエコノメは行列表記(いわゆる、Y = Xb + e)なので、若干初心者殺しである部分は拭えませんが、一応救済措置として、隣の公共政策大学院のエコノメを受けることも可能です。こちらはスカラー表記(いわゆる、y = a + bx + e)で、しっかり基礎の基礎からやるのでかなり易しいです。
私はSK先生による、スカラー表記の学部エコノメを受けていたので、大学院で行列表記のエコノメを受けたことで理解がより一層深まったと思っています。学部SK先生のエコノメは個人的にかなりおすすめです。

マクロ

マクロは、上の述べた通り、私の知識が乏しく、間違ったことを言っている可能性が高いので、ご注意ください。
バークレーでは、1で経済成長に関わるトピックを全てカバーする形で、2の前半がRBC、後半が、labor macroでした。
個人的にバークレーのマクロの方が良かったと思う点としては、東大では時間の制約上、理論周りを教えるにとどまりましたが、バークレーでは、各モデルにどういう歴史があって、どのような形で論文が発行され、どういった経緯で淘汰や批判をされていたのかを教えていたので勉強になりました。
とはいえ、マクロはミクロやエコノメと比べて教員による授業内容の違いが大きいと思っています。ある先生は経済成長をしっかり扱ったり、ある先生は実証寄りだったり、時系列だったり、金融だったり、、、なので、比較は難しいと感じます。

上でも触れている通り、時間制約がある以上、同等の条件で比較をするのは難しいですが、それでも、少なくともエコノメは東大の方がよく、ミクロも同じくらいよかったと感じたので、東大はすごいなと思いました。

最近の東大経研について

これを書いてて、自分も歳をとったなと実感してるわけですが、最近の東大の教員の質はとんでもなく高いと思っています。
私が学部在籍時代は、ミクロの東大とよく言われていて、ミクロは強いが、当時エコノメをしっかり勉強するならSK先生のゼミくらいしかない状況でした。(IH先生は私が学部3年生の時に1年目で当時はゼミの存在を知らなかった)
ただ、現状、東大経研のHPを見ると、ミクログループはKF先生はじめ、スーパースターが日本に戻ってきてより強くなっており、エコノメに関しても、laborやIOなどの応用分野の先生がたくさん海外から戻ってきて、今の学生が羨ましい限りです。
バークレーからもKK先生が7月から東大に赴任されるので、私は悲しいですが、東大としてはすごい補強だと思います。
また、生活面でもかなり改善されていると思います。
まず、2020年くらいに新しい経済学部棟が建ったので、綺麗なオフィスや教室で研究をできるのは素晴らしいと思います。
さらに、大学院生はよく金銭的な制約で苦しいという話がよくあります。実際、私が学部生の時は1番良いレートで時給1500円程度で、相当数TAやRAをやらないと、奨学金なしで学費や生活費を賄うのはかなり難しかったと思います。ただ、色々な先生が東大に戻られたことで、CREPEを皮切りに、Amazonなどの企業でのインターン、UTEconUTMDなどの経研の先生が起こした企業ができ、金銭的にも経験的にもかなりアップグレードされていると思います。
ただ、上のように環境がかなり良くなったため、多くの学生が経済学に関心を持ち始め、その結果、最近は競争がより激しくなっていると聞きます。
幸いなことに、自分が企画した駒場での現代経済理論が好評らしく、多くの学生からこの授業をきっかけに経済に移ったという話をよく聞くので、嬉しい限りなのですが、受け入れ側の経済学部・経済学研究科側のキャパが増えたわけではないので、在学している方は苦労しているようです。

まとめ

とはいえ、東大経済はかなり魅力的な場所で、最終的に海外のPhDコースを目指すにしても、海外PhD予備校と言われるくらいには進学実績も良いので、修士で卒業して会社に属するにしても、その後アカデミアに残るにもいい場所なんだなと思っています。
次の投稿がいつになるのかは分かりませんが、もう少しアメリカ生活を経験した上で、次は「博士課程は日本と海外どっちの方がいいのか?」などにも触れていければと思っています。
自分としても、東大経研には多大なる恩があるため、研究はもちろんですが、今後もこのような形で情報発信をして、少しでも経済学が世に広めていければと思っています。ではまた。

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