星と飛行機
「あっ、あぶない!」
しずくは、顔をそむけました。
しかし、しばらくしても、何も起こりません。
しずくは、おそるおそる再び夜空を見上げました。
夜空は、平和そのもので、しんと静まり返っています。
しずくの隣には、おじさんがいました。おじさんは、お母さんの弟です。
「おじさん、ずっと空見てた?」
しずくは、聞きました。
「あぁ、見てたよ」
おじさんは、夜空から目をそらさず言いました。
「さっき、飛行機さんが星さんにぶつかりそうだったのに、なんでぶつかってないの?」
おじさんは、顔をしずくの方に向けると、あごひげを触りながら、また夜空を見上げました。
「しずくは、なんでだと思う?」
「わたしは、飛行機さんは夜になったから、眠くなっちゃって、星さんに気付かなかったんだと思う」
おじさんは、「ほぉ」と唸って、嬉しそうに笑いました。
「それで?」
「だから、星さんがね、叫んだの。飛行機さん危ないよって」
「そしたら、飛行機さんが起きたわけか」
「ううん、違うよ。飛行機さんは疲れていたから、起きなかった」
「じゃあ、星さんとぶつかっちゃうじゃないか」
「星さんが、よけてあげたんだよ」
おじさんは、また「ほぉ」と唸って、白い歯を見せました。
「星さんは、避けれるのか?」
「うん、ふだんは動かないけどね。きんきゅうじたいだったから」
「緊急事態なんて、難しい言葉知ってるな」
しずくは、誇らしげな顔でおじさんをみました。
「で、星さんは、どうやって避けたんだ?」
「星さんは、ひとりじゃ動けないから、仲間の星に引っ張ってもらったんだよ。星さんたちは、仲良しだからね」
「星さんは、みんなのおかげで、飛行機さんとぶつからなくて済んだわけだ」
「うん、そう。助けてもらった星さんは、みんなにありがとうって、いつもよりたくさん光るんだって」
「それで、あの星はいつもよりたくさん光っているのか」
おじさんは、感心したように言いました。
「飛行機さんは、寝たままだけど、大丈夫かな?」
「それは、大丈夫。飛行機さんは、もう起きたから」
「えっ、星が叫んでも、起きなかったのに?」
「飛行機さんのお母さんが、すごい怒ったみたい」
「しずくがママに怒られるみたいにか?」
しずくは、ちいさくうなずいた。
「おじさんは、なんで飛行機さんと星さんはぶつからなかったと思う?」
「おじさんは、飛行機さんと星さんは、最初から、ぶつかるつもりはなくて、ただ近づいただけだと思うな」
「近づく?」
「そう、近づく。たぶん飛行機さんと星さんは、些細なことで、ケンカしていたんだ」
「どんなケンカ?」
「どっちが、大きな声で笑えるか」
「飛行機さんも星さんも笑うの?」
「あぁ、聞いたことないか?」
しずくは、すこし考えてみましたが、思い当たりません。
「おじさんたちと違って、飛行機さんと星さんの笑い方は、違うんだ。星さんは、笑うとキラキラ光る。飛行機さんは、ブーンと音を鳴らす」
「あれって、笑い声だったんだ」
しずくは、目を輝かせました。
「それで、飛行機さんと星さんは、どっちが大声で笑うか競争した。けど、どちらも自分の方が大きく笑えるって譲らない。これじゃ、らちがあかないから、誰かに見てもらおうってことになった」
「それで、それで」
「だから、さっき飛行機さんと星さんは、近づいていって、同時に大声で笑ったんだ」
「どっちが勝ったの?」
「決めるのは、しずくさ」
「えっ、わたし?」
「しずくに、どちらのほうが大声で笑ったか、判定して欲しいんだって」
しずくは、突然の大役に戸惑いました。どちらが上なんて決められそうにありません。
「どうだ?しずく」
おじさんは、しずくに優しく声を掛けました。
「わたしが、決めないとだめ?」
「そうだな、飛行機さんと星さんは待っているからな」
しずくは、しばらく考えこんでから
「どっちも、おなじくらいだから、ドロー」
と夜空に向かって叫びました。
「どうしてドローなんだ?」
「だって、どっちが上かを決めたら、またケンカしちゃうでしょ」
おじさんは、「ほぉ」と唸り、しずくの頭をやさしく撫でました。
「おじさんは?」
「おじさんも、しずくと同じ。さぁ、帰ろうか」
「うん。おじさんいつまで家にいる?」
「そうだな、今回は長くなりそうだ。ママに怒られないといいけど」
「ママに怒られそうになったら、わたしが守ってあげる」
「そりゃ、頼もしいな」
「おじさん、ずっと家にいてもいいからね」
おじさんは、ハハハッと笑いました。
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