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何気ない選択がもたらす運

ある日、ネットニュースを見ていたら、年賀はがきの当選番号が発表されていた。

ぼくは、ひそかに毎年、この時期が来るのを楽しみにしているのだけど、今年はまったく失念していた。

このニュースを聞くと、一月も終わりだなと実感がわいていくる。お正月ののほほんとした時間の過ごし方からようやく立ち直り、また日常が戻ってくるという具合に。

年賀はがきのお年玉はまだチェックしていないのだけど、たぶん当たってないだろう。郵便局のホームページで当選商品を見ると、一位は現金30万円か同額相当のプレミアム商品とある。当選の割合は、100万本に1本。

切手シートは何回か当たったことはあったけど、一位となると、相当運が強くないと無理そうだ。

が、そんなぼくでも一度だけ、ある抽選で大賞をもらったことがある。

あれは、まだぼくが大学生で、永遠に続くかと思われた暇な時間を持て余しているころだった。そのころは、バイトもしていなくて、講義に出ては、そのまま、まっすぐ家に帰り、司馬遼太郎の作品を片っ端から読んでいた。ずいぶんと陰気な学生だ。

時間は有り余るほどあって、本を読む以外は、ほとんどの時間を無為に過ごしていたと思う。いま思い返しみると、「もっとなにかやれっ」と叱咤したい衝動に駆られるが、あのときのぼくにはなにを言っても無駄だったろう。

近くに、個人経営のレンタルビデオ屋があって、そこにはたまに足を運んだ。

そこまで店内は広くなく、品揃えも特に充実しているわけでもない。TSUTAYAも近くにあったのに、なぜこのレンタルビデオ店に行っていたかというと、「近かったから」ただそれだけの理由だった。

TSUTAYAは自転車で10分くらいかかったが、この店は5分もかからなかったのだ。

レジにいるのは、ぼくと同じ年くらいかすこし上のバンドマンっぽい風貌の人ばかりだった。(実際にバンドマンだったか知らないが)長髪だったり、ピアスを開けていたり、髪を赤っぽい茶色に染めていたり。THE大学生っぽいチェックシャツでメガネをかけた青年もいた。

映画は本ほどでないが、好きでこのお店の品ぞろえの範囲で、見たいものを借りた。

ある日、レジに何本かDVDを持っていくと、キャンペーンをやっていた。確か、メールアドレスを登録すると、レンタルの半額券だったり、DVDプレイヤーが当たるというものだった。詳しくは覚えていないが。

ぼくは「半額」というパワーワードに引き寄せられて、すぐに登録した。バイトもしてなかったので。

でも、藁をもつかむ思いというわけでもなく、当たればラッキーみたいな感じだった。

それから数週間がたって、ぼくは抽選に応募したこともすっかり忘れていた。家でくつろいだいたとき、携帯のバイブが鳴った。開くと、件名にレンタルビデオ店の店名と抽選結果なる文字が見えた。

ああ、すっかり忘れていたと思い、本文を開くと、「大賞に当選しました」という文字が見えた。一瞬なんのことかわからなかったが、ぼくはすぐに「えっ」と口ずさみ、立ち上がると、部屋の中を意味もなく歩きまわった。いたずらメールではないことを何度も確認して、本文を繰り返し読んだ。

大賞は、「JTBの旅行券(2万円)」だった。ぼくは、間抜けなことに大賞がなにかも知らずに応募していた。

早速、レンタルビデオ店に行き、大賞が当たった旨を伝え、メールの画面を店員に見せた。そのときのレジはTHE大学生っぽい青年で、ぼくが恥ずかしそうに当たったことを伝えると、「マジで」というような顔して、後ろに一歩身を引いて、一瞬固まっていた。

驚くと、人は固まるということをこのときに学んだ。

そのあと、店員は気を取り直して「おめでとうございます」といい、包装紙に包まれた箱を手渡してくれた。ぼくは気恥ずかしくて、「ありがとうございます」と小声で言い、足早に出口に向かった。

家に帰り、包装紙を取ると、深緑の薄い箱のなかに、たしかに旅行券が入っていた。

ぼくはその旅行券を使い、会津若松にひとりで行った。はじめての一人旅だった。あの日、なんとなしに抽選に申し込んだおかげで、倦んだ日常に風穴が開いたのだ。

別に、それが人生を変える旅になったというわけでは全然ないけど、あのとき登録しなかったら、会津若松に一人旅する人生もなかったかもしれない、そう考えると、人生って選択と運で成り立っているなと思ったりもする。

あのときの何気ない数多くの選択が、いまの自分を規定していることもたくさんあるのだろうな。



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