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半年ぶりのハイキングで大阪府の交野山へ

 10月半ばの連休最終日に、大阪府の北東端寄りにある交野山へハイキングに出掛けた。今回はその記録をつけていきたい。

 ハイキングをしたのは半年ぶりのことだった。今年の初めに「新しい趣味を持とう」と思い立ち、自然に囲まれた場所を歩けるハイキングに目を付けた。そして2月に神戸の須磨アルプス、3月に宝塚の中山連山に挑戦した。

 しかし、その後はぷっつり途絶えてしまう。中山連山へ出掛けた半月後に一度行こうとしたことがあったのだが、天候不順で取り止めた。その直後コロナに罹ってしまい、数週間運動ができなくなった。やっと動けるようになった時には、申し込み済の10㎞マラソンが1ヶ月後に迫っていたので、ジョギングを優先するほかなかった。そしてマラソンが終わった頃には、もう暑くなっていたのである。——以上が一応の顛末であるが、後半は誰の目にも言い訳としか映らないだろう。

 何はともあれ、ハイキングからは暫く離れていたわけである。それが再開したのは、3連休を目前に控えたある日、「連休中に1日くらいどこかへ出掛けたいなぁ。でも特に行きたい場所はないなぁ。——じゃあ低い山でも登りに行こうか」と思ったことがきっかけだった。

 思い立ってみると、目的地が1つすぐに浮かんだ。それが交野山だった。交野山は、大阪府交野市の奈良県境に近い場所にある標高341mの山である。山頂に巨大な岩があり、古代に磐座(いわくら=神様が降り立つ場所)とされて以来、信仰を集めてきた場所でもある。現在この岩は「観音岩」と呼ばれ、大阪の平野部を一望できる場所として知られる。僕が交野山に登りたいと思ったのも、この山頂の写真を見たことがきっかけだった。

 ちなみに交野市は「かたのし」と読むが、交野山の読みは「こうのさん」である。市名は難読地名として知られているが、山の名前のほうも重箱読みになっていて、最初は見当もつかなかった。さらに余談を重ねると、「こうのさん」と打っても変換ができないので、この記事を書き始めてからずっと「かたのやま」と打っている。そのうち頭が混乱しそうである。

 さて、今回僕が歩いたのは、京阪交野線の終点・私市(きさいち)駅を出発し、大阪府と奈良県の境にあるくろんど園地を経由して、交野山に至るルートであった。登頂後は反対側に下山し、JR学研都市線の津田駅に出た。ルート選びに当たっては、半年前に引き続き、JTBパブリッシングが発行している『大人の遠足BOOK 西日本3 日帰り山あるき 関西』を参考にした(10 交野山)。また、「YAMAP」というアプリでも地図をダウンロードし、移動中はずっとアプリで所在地とルートを確認していた。

 それでは、ここから先は写真にキャプションを加える形で、道中を振り返っていこう。

◇     ◇     ◇

出発地点の私市駅。振り返った先にハイキングコースがある。
歩き始めて10分余り。まだ舗装路だが、周りはすっかり山の景色だ。
(……と思っていたら、この先にも民家が数軒建っていた)
うっかり踏んでしまいそうになったカマキリ。今年初めてカマキリを見た気がする。
……と思ったら3歩先にもう1匹いた。どうやら睨み合いの最中だったらしい。
私市駅を出発して15分、舗装路の終点に辿り着く。いよいよハイキング本番である。
いや、急に雰囲気変わりすぎちゃう?(いきなり急な登りだった)
最初のスポット、月ノ輪滝。落差は小さいが、水がずっと勢いよく流れていて、迫力があった。
この先、幅の狭い山道が20分ほど続いた。
忽然と目の前に現れたダム。現役の施設なのに、産業遺産に辿り着いたような気分になった。
ダムの横手にある階段を上って、くろんど園地に到着。
ハイキング開始から35分少々のことだった。
くろんど園地内のハイキングコースを進む。森に覆われた谷間に小川があり、そのすぐ横がコースになっている。雰囲気がとても素敵で、思わず写真をいっぱい撮ってしまった。
この道を歩きながら、〈森に囲まれ奥へ伸びていく小川と岸辺〉というのが、僕にとっての豊かな自然の原風景だったのではないかという気がした。それくらいうっとりする光景だった。
……と思っていたら急に雰囲気変わったりするんだよなぁ。
途中にあった休憩所。湿地帯という感じでもないのに、浮島のような形をしているのが面白い。
……ん、あれは不倶戴天の敵キノコではないか。なんてものと出くわすのか。
(ひじき氏はキノコが苦手である)
どうやら悪天候時の緊急避難所だったらしい。大切なものだったのだ。
……だからなんでキノコ?
くろんど園地の中を歩くこと約35分、散策路が設けられた森に到着した。
ここで昼食。ちなみに、食べたのは家の近所のスーパーで買ったおにぎり4個である。
30分程度の休憩を挟んでハイキング再開。この後くろんど園地を抜けて、一旦舗装路に出る。
ここに来た時、「なんてのどかな休日の昼下がりなんだろう」と唐突に思った。
この後、集落の手前で左に曲がり、片側1車線の県道を車に注意しながら進んだ。
休憩地点を出発して40分、遂に交野山を示す矢印が現れた。
いきなり急な登りになる。
……と思ったら、今度は急な下り。山頂を目指しているはずなのに、なぜ?
おまけにこの下り、体感では結構長かった。ずっと急勾配のまま5分くらい続いた気がする。
先の急坂を下りきった。そして、同じように急な登りが始まる。
一旦勾配が緩くなった辺りに鳥居が建っていた。改めてここが信仰の地であることを思い知る。
山頂までは、あとおよそ5分である。
また鳥居が現れた。そして、その横に屹立する巨大な岩に、思わず息を呑んだ。
なんだかすごいところを登っていくらしい。
もう1度同じような道を進むと……
片側がぱっと開け、抜けるような青空が見えた。
そして——
交野山山頂に到着!
休憩地点を出発して1時間余り、私市駅を出て2時間40分ほどが経過した時点のことだった。
待ちに待った山頂からの眺めだアッ! ……と意気込んだ僕だったが、あまりの岩の高さと慣れない山道での疲労から足がガクガク震えてしまい、めちゃくちゃへっぴり腰で撮る羽目になった。
山頂から少し離れたところにぽっかり空いた一画を発見。そこから改めて平野を撮影する。
 緩やかに湾曲する第二京阪道路がいい味を出している。
視線を少し左にずらす。都心部の高層ビル群までくっきり見える。
そして先ほど登った観音岩。そら怖いわ。
後ろを振り返ると山と空が目立つ。手前に見えるのはゴルフ場だ。
「観音岩怖い」とは言ったものの、「それではここまで来た意味がない」と思い引き返した。
景色を見る代わりに、岩肌にもたれかかり休憩をとる。近くで蝶々が休んでいた。
岩に完全に寝転がって空を見上げる。
この時、僕はハイキング中に初めて「このまま動きたくない」と思った。
街から一番離れた山のてっぺんで、疲労と達成感でいっぱいの身体が岩とひとつになりかけた。
意を決して、もう一度観音岩の先端へ向かう。鞄を岩の下に置き、這うようにして進む。
ちょっとだけ前進できた。
反対の京都側を望む。石清水八幡宮辺りは見えているはずだが、どこかはわからなかった。
山頂の北側にある岩場から、観音岩と平野部を振り返る。結局、山頂には30分ほどいた。
昼食以外でこんなに長く立ち止まったのは珍しかった。
下山開始。登りが急だったということは、下りも急ということである。
15分ほど下って開けた場所へ出る。ただ道を間違えていたらしく、少し引き返すことになる。
案内標識とルートマップを照らし合わせ、何とか正しい道に戻った。
……で道はいずこ?
……まさか、これか?
……これしかないよなぁ。
振り返ると、山道の土の間から水がしみ出ていた。
人間の理屈なんて自然には関係ないのだということを、改めて思い知らされた気がした。
この下山路なかなかに険しい。
山道の終点付近にあった源氏の滝。修行の場らしい。
この後市街地を暫く歩いて津田駅に着いた。
私市駅からの総所要時間は4時間20分、歩行距離は11.5㎞であった。

◇     ◇     ◇

 交野山ハイキングの記録は以上である。

 山を下りた後、結局このハイキングで一番印象に残ったことは何かと考えた。その結果出てきたのは、「山頂の景色すげー、岩かっけー!」という感想だった。あまりの語彙の貧弱さに苦笑してしまうが、詰まるところその2点に集約されるというのは確かな気がした。何より、僕はその2つに出会いたくて交野山に登ったのである。それが心に残る出会いになったのは、喜ぶべきことにちがいない。

 もっとも、他のことはどうでもいいなどと言うつもりはない。とりわけ、くろんど園地のハイキングコースの、森と小川と岸辺が織りなす風景は印象深かった。あれほど美しい風景に、大阪府内で出会えるとは思わなかった。絵画の世界に迷い込んだようなあの感覚は忘れられないだろう。

 久しぶりのハイキングは、とても気持ちのいいものだった。暑さも和らいできたので、近いうちにまたどこかへ行ってみるのも良さそうだ。日程や気持ちと相談しながら、まずは妄想を膨らませてみるとしよう。

(第251回 2024.10.20)

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