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アッテルベルリとウルトラマン?
12月12日ということで、1887年のこの日に生まれた作曲家のお話です。
皆さんはアッテルベリというクラシックの作曲家をご存知でしょうか?スウェーデンで生まれたクット・アッテルベリ(Kurt Atterberg)は、生涯に9曲もの交響曲を書いているのですが、本業は特許局のお役人さんであり、作曲はほぼ独学らしいのです。ところが1928年にコロンビア・レコードが主催した「シューベルト没後100周年作曲コンクール」で、なんと職業作曲家のフランツ・シュミットを抑えて優勝し、いきなり有名になってしまいました。さて、どんな曲なのでしょうか。早速聞いてみましょう。
どうでしょうか。初めの方こそ静かに始まりますが、徐々に盛り上がってくると、ほら、なんだか「ウルトラマン・シリーズ」に出てきそうな勇壮な音楽に聴こえてきませんか?1928年と言えば、シェーンベルクがすでに十二音技法で作曲を始めていて、クラシック作曲界の潮流からするとやや時代遅れ、ということになるのでしょう。しかしそこはアマチュア作曲家、本業の方で生活基盤は出来ているという、ある意味羨ましい立場なので、楽壇に色目をつかう必要もありません。自分の趣味全開で書かれたその音楽は、クラシック音楽としてはやや野暮ったいけど、実に聴きやすく楽しい音楽になっています。なんだかヒーローと怪獣が戦っているシーンが目に浮んできませんか?
もう一曲挙げておきます。
どうやらそのように思っているのはボクだけではないらしく、「アッテルベリ ウルトラマン」で検索すると同じ思いの人は他にもいるみたいです。時間があったら検索先から他の交響曲を探して、ぜひ聴いてみてください。「ヒーローものっぽい曲」がわんさか見つかる筈です。
音楽って常に新しくないといけないの?
ところで、このコンクールに参加した審査員の作曲家達ですが、地区予選を含めると、ラヴェル、レスピーギ、シマノフスキ、ニールセンらの名前があがっています。また、委員長はグラズノフだったそうです。
一方、応募してきた作曲家としては、アッテルベリの他にハンス・ガル(第1交響曲・オーストリア地区2位)、ブライアン(あの長大な交響曲としてギネスにも載った「ゴシック交響曲」の1部)、フランツ・シュミット(第3交響曲・オーストリア地区1位)等が並んでいます。
こうしてみてみると、シェーンベルクやウェーベルン、ベルクと言った新ウィーン楽派の作曲家は参加していなくて、調性音楽を書いていた作曲家ばかりです(晩年ちょっぴり調性崩壊気味な人もいますが)。
あれ?学校で音楽の歴史を習った時には、20世紀に入って十二音音楽やセリー音楽が主流になったって習わなかったっけ?でもこのコンクールが開催されたのは1928年ですよ?
そうなんです。実はこの時代でも調性音楽を書き続けた作曲家は意外に多く、彼らは精力的に作品を生み出していたんですよね。それでも反調性音楽派の批評家たちは、当時の調性音楽作曲家達を罵り続けました。シベリウスなどは、彼らに「世界最悪の作曲家」とまで言われ、まだ引退する年でもなかったのに作曲しなくなっちゃったし。カワイソウ。
ところでこのコンクール、Wikipedia では一等の賞金が1万ドルと書かれていますが、日本初演CD(児玉宏・大阪シンフォニカー)の解説を書かれた渡辺和氏によると、実際の賞金は750ドルだったらしく、となるとアッテベルリがそれでフォードを買ったというのも単なる噂話ということになりそうです。
そんなアッテルベリですが、クリスマスの時期にピッタリな北欧の冷たい空気感が感じられる美しい弦楽曲も書いています。ぜひ、こちらも聴いてみてください。