冬の北海道で野営した話②
はいではタイトル通り「厳寒期の北海道でわざわざ野営して一周」したときの話、その2ということで。 早速参りましょう。
4.釧路
4-1.縁のある街
4-2.憧れの地は背後より迫る
4-3.摩周と屈斜路と
4-4.楽園
では2日目スタートです。
4.釧路
4-1.縁のある街
そんなわけで突撃北海道電撃1周旅、2日目である。
初日から歩き回って凹んだり出会ったり食ったりでなかなかの濃い思い出となった帯広をでる。
北海道フリーパスをフル活用した特急スーパーおおぞらの指定席へ乗り込む。
昨日はしゃぎすぎたせいか少しうつらうつらと車窓を眺めている間にもう釧路へと着いていた。2時間ないとはいえ早い。快適すぎる。いいのかこんな快適すぎる旅で。
車内から一変、さっと澄んだ空気に自分の輪郭を改めて感じる。
駅舎をでて、振り返り仰ぐと、なんというか、思ったより地味である。
目次項に「縁」といれたが、一つはここ釧路の街は私の親の生まれ故郷であること、もう一つは縁でもないが私が昔から読み漁った数少ないマンガである「釣りキチ三平」のイトウ釣り編の舞台となった憧れの釧路湿原があるためだ。
三平くんのイメージだと、釧路とはもっと湿原か小屋か、くらいの原生なイメージを持っていた(大変失礼)わけだが、普通にちょっと人の集まった田舎町だった。我が地元の山口県とどことなく同じ雰囲気。
せっかく行く親の生まれ故郷。家族にも釧路に行くという一方を入れていたが、祖父母からは是非「幣舞橋が有名なので行くと良い」旨のメッセージを受け取った。 正直まず読み方がわからなかったが、駅からさほど遠くないので徒歩で向かう。
なお、幣舞橋(ぬさまいばし)と読むらしい。アイヌ語に由来があるそうな。
でテクテク歩いていると、釧路川へと出てきた。 凍っている。
表面とはいえ川が凍っているとはさすが北海道である。東北在住としては確かにたびたび川の表面がうすーく凍っているのは見かけるものの、ちょっとした流氷レベルでの厚さである。
漁船がバリバリ砕氷しながら川を進む。 すげーほえーなんていながら川を渡りきった。
…おわかりいただけただろうか。
そう、今のが幣舞橋である。
なんかこう近代的な橋脚や遠目から目に付くような欄干その他もない。
確かに装飾はされているし、銅像もいくつか見える。がそれだけである。
歴史やらを鑑みて象徴的な意味もある名所なのだろうが、いかんせん地味であった。川に浮かぶ氷の方が私に取ってインパクト大だった。
(確かに列車でも通り過ぎる川はだいたい凍っていたのだが、河口からもすぐのデカい川で、さらに氷が紋様のように川を覆っていたので印象深い)
そんな川沿いを歩きつつ今日の昼食へ。
どうもこの地域のご家庭からとある料理を消滅させたとかいうソウルフードがあるらしい。
なお釧路市滞在時間はかなり短め。釧路から網走までは特急が存在せず、今日は摩周湖か屈斜路湖を見て、そのあたりでの野営を検討していた。
川沿いからぐるりと駅へ向かう道をたどると、見つけた。
その名も「インデアンカレー」。 カタカナの赤いインデアンにターバンを巻いたオジサマキャラの看板が食欲をそそる。 関係ないか。
さっそく店内に入ると、まだまだ正午に早いと言うのになかなかの盛況ぶり。
フツーにノーマルなカレーをあえてトッピングもつけずに頼む。
お値段それで400円ちょい。大盛りにしたが100円と少しなのでこれでも600円を越えないなんともお手頃価格。
カレーが来るまでの短い時間にも客足は途切れない。
次から次ぎ次へと「4人前」とか頼んではテイクアウトしている。 人々は手に手にタッパーを持っている。
そう、このインデアンカレー、うまさと安さとお手軽テイクアウトにより、地域から「ご家庭カレー」を根絶するレベルで浸透しているらしい。友人曰わくなのでほんとうかは知らないが。確かにみんなタッパーになみなみカレーをついでもらって帰っていった。
さぁそんなこんなでおまちかね。インデアンカレーの登場だ!
いささかビビった。
最近ではよく映え映え聞くが、カレーの美味しそうに見える盛り付けといえばご飯とルーが3:7というやつではないだろうか。
まさかの0:10である。極振りとは潔い。
なお特に舌に自信があるわけでもないが、非常にうまかった。
看板を見て割と辛いのかと思ったが、ドロッと濃厚系であって程よい辛さだった。これならさくっと持って帰ってご家庭でも一家そろってご好評だろう。 本当にお家カレーを絶滅させているかもしれない。
カレーを堪能したら駅へと戻る。
お土産屋さんを眺めつつ、大判焼きのお店でつまみ食いをしつつ。
程なくしてやってきた摩周行きの小さなワンマン列車へと飛び乗った。
4-2.憧れの地は背後より迫る
いよいよ摩周行きの列車、途中釧路湿原などを望みつつ、ゆっくり北上するワンマン列車である。
小さなワンマン列車なわりに、この厳寒期でも観光の乗客は多かった。
釧路湿原は線路の西側。北上する列車からは進行方向左手に望むことができる。
早めにホームへ並んだ私は、電車の準備ができてドアがあくと急いで座席を確保する。
私は油断していた。ワンマンは地元で幾度か乗ったことがあると。
他地域でそう言えばあまり見ないが、ワンマン列車は終点から折り返すとき、ホームが入ってきてそのまま今度は後ろ向きに出て行くことになる。列車だから当然だ。
その際、座席の背もたれ部分だけをがったんと逆側に倒すことで、常に乗客は進行方向へ顔を向けていられるのだ。
それなりに先発気味で電車に乗り込んだ私だが、すでに乗り込んだ人々が座席へと急ぐ。
私は並んだイスの中で、ボックス座席が向いている方向、つまりは進行方向のはずの左手の席へと滑り込んだ。
無事目当ての景観をゆっくりと楽しめる喜びを感じながらいそいそとカメラを取り出して発車を待った。
汽笛が鳴る。 釧路湿原を始めとした原生の大地を切り裂いて、列車は今日の営地となる摩周へと走り出した。 …私の背後へ。
アイエエエエエエエ!?と動転する私を置いて、私にとっては後ろ向きに、軽快に走り出す釧網本線。
意気揚々と乗ったその座席は釧路湿原とは反対の右側座席であった。
結局降りるときに気がついたが、「このワンマン列車は座席が動かないのでどの進行方向でも座席の向きは固定です」的な紙が貼ってあったのだが、反対側の座席、皆が顔を乗り出して埋まる小さな車窓から、憧れの釧路湿原をチラ見するほかない私は知る由もなかった。
4-3.摩周と屈斜路と
ワンマン列車で思ったより人が多かったからか、お目当ての景色を自身の勘違いで堪能できなかったからか、妙な疲労を感じながら摩周駅に降り立った。
ホームで小旗をもった方々に熱烈な歓迎をいただいたが、後ろにいた中国系観光客のご一行を迎えにきた温泉宿の人たちのようだった。紛らわしくて申し訳ない。
摩周駅はこれまた田舎らしいこじんまりとした趣で、外には足湯もあったが、時期が時期だけに雪で周りが大変なことになっている。明日もここから出発予定なのだが、明日は入れそうだろうか。除雪はされてないだろうが。
駅でしばらく待つと、例の位置情報ゲームの仲間が車で迎えに来てくれた。
もちろん帯広で会った面々とは別。 初対面である。そもそもゲーム内でも今回のことまで交流すらなかったというのに、わざわざ歓迎しにきてくれるという。本当にありがたい。
摩周駅から摩周湖までは歩く予定だったが、お言葉に甘えて車で送ってもらう。
道中セイコーマートによったり、北海道のローカルな文化の話であったり、お互いにアウトドア系のため、薪や焚き付けの話もしながら楽しい車内であった。
霧の摩周湖とよく聞くが、時期が時期なので澄み渡った空気で全景を拝むことができた。
夕暮れに近かったとはいえ、霞むわけでもない澄んだ空気の中、薄く擦り切れたような不思議な青色が印象的だった。
さて、今夜の寝床はこの摩周湖の展望台近くにある少し林の方に伸びた空き地のような場所を候補にしていた。確認すると除雪はもちろんされてないが、ある。
雪は深いが、昨晩も河川敷だったし、歩けないほどでもない。
が、ゲーム仲間の方がマジでここにするのかと心配してくれる上、屈斜路湖の方はどうかとの提案をしてくれた。
ここでまたお言葉に甘えて送っていただけることに、つくづくありがたい。
ほぼ初対面なのに会話は尽きず、屈斜路湖の湖畔まで送っていただき、そこでコーヒーをいれてもうしばらく歓談。
日も暮れてきて、ゲーム仲間の方も応援の言葉を残して帰っていかれた。
風もない。凪いだ海のような屈斜路湖を眺める。 当初の予定であれば、今日はなんとか摩周湖にたどり着くのがやっとで、屈斜路湖は今回は見れないかもしれないとさえ考えていた。
彼にとっても、自分のできる範囲での応援をしてくれただけなのだろうけど、面白そうなことをしているやつがいる。ただそれだけで見ず知らずの誰かの為に何かをしてあげられるのはすごいと思った。 本当に素敵な人たちに会えている旅だ。
4-4.楽園
今夜の宿は屈斜路湖の岬、なんとここ、天然の露天温泉があるのである。 タダ、タダなのだ…!
地熱のおかげか、湖畔の地面は一部露出していたため、そこへテントを設営。
さぁ夕飯をとその前に、今日ここまで連れてきてくれた彼は、家にいくらでもあるからと、薪を一束プレゼントさえしてくれていたのだ。
もう足を向けて眠れない。
凍ってない地面の営地に徒歩30秒で天然露天温泉、薪もタップリ一束。
ここが楽園か…。
焚き火で夕飯を仕上げてたいらげ、露天温泉で満点の夜空と月明かりで浮かぶ屈斜路湖や周りの山々を望む。
厳寒期の野営旅がこんなにも快適であって良いのだろうか。
楽園すぎる。3日くらい居たい。
温泉はなかなか立派な露天風呂だが、珍しいことに底は岩張りではなく砂というか、つぶのこまかい砂利というか。
なかなか浸かってみて感じたことがない座り心地。
なお外気温はマイナス17度。
湯に浸かったが最後。上がるに上がれない。
結局外に外に出ても全く寒さを感じないレベルで蓄熱するまでつかった結果、ゆうに1時間以上露天風呂をひとりで堪能していた。
明日は街へ戻って散策ののち、網走へ。
ニュースでは数日前に流氷を今年初観測との一報も。
温泉に地熱に、仲間からの支援に、身も心も温まり、今行動中でも最も寒いはずの気温の中、穏やか眠りについた。
次回へ続きます。
ひいらぎ