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冬の北海道で野営した話③
「厳寒期の北海道でわざわざ野営して一周」した2018年のお話、3回です。
帯広、釧路を経て今回は網走突入となります。
5.網走
5-1.さらば楽園
5-2.流氷はいずこ
5-3.次の列車はいずこ
5-4.今日の寝床はいずこ
5.網走
5-1.さらば楽園
朝6時すぎ、風のうねりで目が覚める。
そしてぎょっとした。フライシートとインナーテントの間、前室部分に雪が吹き溜まっている。
景色がよくて、地熱で雪がないからとか安直に湖畔へ設置したテントは、荒れ出した真冬の屈斜路湖を駆け抜ける風を思いっきり受けていた。
軽く朝食をとり、装備に身を固めてテントから這い出る。
青い。圧倒的に青い。
薄明の光を、眼前すべて覆い尽くした雪が反射し、世界全体が透き通ったシルキーブルーに染まっている。
が美しいのは色彩だけで、昨日までは凍りついて上に乗っても平気だった湖面の氷がすべて割れ、風による波で湖岸に流氷のごとく打ちつけられていた。まだ本物の流氷は見ていないのだが。
昨晩お世話になったタダ露天温泉に用意してある脱衣所の陰へ装備を持って行って撤収パッキング。
世界から青さが遠のいたと思うと、真っ白な雪が変わりに降ってきた。
冬とは枯れた、味気ない世界に思えていたが、これはこれで色彩豊だと思う。
朝からまたこの天然温泉に入りたいところだが、今日はバスで摩周液近くまで戻る必要がある。
湖畔から歩くと、恐らく夏季シーズンは賑わっているであろうキャンプ場の管理棟や土産屋があり、そこに雪から掘り起こされたらしいバス停がたたずんでいる。
あと30分くらいで来る予定になっているが、そもそも冬季はやっているのか、やっててもまぁまず誰もいないこんなバス停に寄るのだろうか。
気持ちのいい木立の道なので、自撮りして遊びつつ(その②のトップ写真)、シャッターの下りた土産屋の軒先で待っていると、本当にバスがきた。 こんな場所まで公共交通機関が巡ってる日本ってすごいと思う。
「すげぇやつきたよ…」とでもいうような視線を運転手と乗客(失礼だがいるとは思わなかった)からいただきつつ、席へ陣取って一息。
バスは雪を巻き上げ走り出す。
何もかもが極楽だった冬の楽園、屈斜路湖よさらば。
5-2.流氷はいずこ
運転手のおじさんが、乗客たちといろんな話をしながら進む。
結構人も少ないけれど乗り降りがある。
ここの人の生活に寄り添った足なんだなと思う。
駅のある街まで戻ったが、もう少し時間があったので道の駅やらを見つつ、コンビニがあったので網走までの昼食を買ったりしながら、摩周駅へと戻った。
またやってきた小さな電車。人はやはりそれなりについて乗っている。
見送りにまた温泉宿の人たちが旗を振りながらホームで声を上げる。なんかすいません…。
さぁいよいよ網走へ。 イメージは刑務所。
もう湿原はとっくに通り過ぎたが、今度は進行方向へ向かって左側の座席へ座った。
電車を流れる風景が、初日とは違い、まっさらな広い広い大地、と北海道のステレオタイプな風景になってきた。
真っ白な大地と快晴のコントラストが美しい。
線路はシラカバ並木のまっすぐなコースも多かったが、運転手横の窓は座席に荷物だけおいて見に行った方がずっと張り付いて、結局真似して眺めることも写真も撮れなかった。少し残念に思う。
天気はまさに快晴。
果たして網走とはどんな町か、脳内はすでにアルカトラズで埋まっていたアホな私を載せて、電車はとうとう終点の網走に到着した。
とりあえず駅舎は古めだが、味のある雰囲気のホーム。
観光地によくある顔だけ出して記念撮影できるパネルがあるが、網走駅にあったそれはレンガにはめられた鉄格子。ザ・刑務所。推し方も一味違う。
寒さも売りなのだろう。鉄格子脇に温度計もついていて、マイナス7度を指していた。なに、屈斜路湖で寝た昨夜より10度も高い。
とにかくまずは第一目標、流氷である。
先のニュースではようやく観測されました!とのことだったので、目の前でというのは難しいだろうが、そこそこ見れるのではないだろうか。
期待を胸に歩く。海岸まで歩く。
途中路地を間違えたのか除雪するおじいちゃんが道を教えてくれる。ありがとうございます。
歩く歩く。たいした距離ではないが、海は堤防で見えない。
着いた。堤防をよじ登る。
これが…流氷…と思いきや。
眼前に広がるのは、単に寒い潮風が吹き付けるただのオホーツク海だった。
ない。一切ない。
少なくとも見渡せる海面には流氷どころか氷一粒見えない。
今日行こうと思っていた施設に、オホーツク流氷館と博物館網走監獄がある。
流氷館なのだから、海の目の前何だろう。と思っていたのだが、奇怪なことに駅からも海からも離れた、小高い山の上にある。
面妖な…土地が確保できなかったのか?と市の観光政策を訝しんだのだが、愚か者は私の方だった。
つまり、流氷は海のすぐそばからいつもすっと見渡せるわけではなく、あのくらい小高い山からでないとなかなか最初から観測というか視認すらできないのだ。
今日乗る予定の電車は夕方近く、北見辺りを狙っていたのでまだ余裕がある。
また歩いて行くことにした。
歩くのは楽しく、流氷館へ続く山道に入ってもそんなに飽きない。 しかしフル装備なのでそれなりに負担がかかる。こんなに歩くのなら、網走駅のコインロッカーを使えば良かったと今更後悔した。
えっちらおっちら、ガンガン車に抜かれながらようやくたどり着いた流氷館。
観光客はみんなツアーバスで乗り入れてくる。
一応冬でも普通のバスもあるらしい。
流氷館ではおなじみのクリオネ水槽がたくさんある。
今日日水族館ではそこまで珍しくないが、さすがに数は段違いに多い。
大画面での流氷紹介シアターショーもなかなかきれいだった。
唯一入らなかったのが「流氷体験コーナー」
寒い室内で本物の流氷に触ったりできるらしい。
海に浮いてない流氷に魅力を感じなかった上、「マイナス15度を体験できますよ!」とお姉さんが誘ってくれたのだが、すいません、それより寒い中昨日外で寝たりしてるんで…。
屋上にあがると展望が一気に開けて、オホーツク海の水平線に白い帯。
ようやく見えた。流氷。いや、遠すぎだ。
ちなみに振り返るとリアル網走刑務所が見下ろせる。
次は流氷が接岸する季節にまた来ようと決意した。
目当ての流氷も超遠いけどようやく見れたので、さぁ次は網走刑務所の博物館かな。とまた歩くか考えてスマホを開くと、メッセージが。
「JR石北本線、列車故障のため運転見合わせ」
それは網走から北見や旭川へ続く電車が止まったとかいう連絡だった。
5-3.次の列車はいずこ
列車遅延、運転見合わせ。
当然雪どっさりの北海道。厳寒期の旅なのだからある程度覚悟もあるし、天気予報は天気図も細かい予報も見て、「今日の日程は問題なさそう」くらいは考える。 そしてこの日は夜も快晴。問題なく日没前には北見へ入って一泊する算段だったのだが、列車故障とはちょっと予想外だった。しかも全線見合わせとか。
ちょっと迷惑かもしれないが、HP以上の情報を求めて網走駅に電話してみる。復旧は今日中には無理そう。代替えバスなどは未定…。
ちょっと博物館行ってる場合じゃなくなったので、急ぎ下山する。バスで待ってる時間で駅につけそうだったので歩いた。まぁまぁ早歩きでバスより早く駅まで戻った。
ちょうど駅員さんが張り紙をしていて、代替えバスのお知らせだった。とりあえずここで足止めにはならなさそうだが、どうも北見は止まらずに遠軽等へ寄ったら旭川へ向かってしまうらしい。
網走→北見(1泊して朝フラフラしたら電車)→昼過ぎに旭川。という算段だったのだが、今日の22時には旭川入りしてしまうらしい。
網走でもう1日も考えたものの、たった1日であの流氷はもっと見える距離まで流れてこないであろうことはわかるくらい遠かったので、今日のうちに旭川入りを決めた。
バス出発まで2時間ないくらいと微妙で、とりあえずほっとしたのでこんなところにもある牛丼チェーンのすき家で食べた。
地元のお店はどこも閉まってる微妙な時間帯だったので仕方ない。
カニ入りの駅弁も買って準備完了。駅に代替えバス到着のアナウンスがはいってすぐバスへ飛び乗った。
窓際をとりたかっただけなのだが、結局バスには20人も乗らなかったのでガラガラで問題なかった。
ものすっごい今でも気になっているのが、まず乗車時に切符の確認をされなかった。(スルーで乗せられそうになって一応フリーパスを見せた)
後から乗ってくる人たちは誰も切符を見せていない。これってしれっと乗ったらただで旭川まで行けたんではないだろうか。
あと出発後に切符代の返金について話をしていた。
私はフリーパスなので返金もなにもないため、聞き流していた。 後から気がついたのだが、代替えバスまで出しておいて返金したら、バス手配代もかかって利益なしで大損ではないだろうか。
もしかしたら指定席の場合、指定料金だけ返金かもしれなかったが、よく聞いておくべきだった。今でも気になっている。
5-4.今日の寝床はいずこ
夜の北海道、ぐねぐねした山道を切り裂いて走るバス。
残念ながら結構な結露と雪で景色は全く見えない。そもそも家の明かりすら稀だった。
バス車内で改めて旭川の地図を確認する。
到着は22時前後で結構な遅さであり、ここからテント設営はなかなかきつい。
そもそもそれなりに街の旭川はテントを設営できそうな静かな場所がなかなか見当たらない。
一応キャンプ場もあるのだが、当然ながら冬季閉鎖中だ。
バスに乗って1時間は迷ったあげく、ネットでホテルの予約を取った。5千円。個人的には高い…。
が、スマホ用のバッテリー充電ができること、装備全般を乾燥させること、洗濯ができる点を重視してちょうど日程の折り返しにもなるからと言い訳しつつホテルにした。
4時間揺られ、ようやくバスが旭川へ。不思議なことに電車で降り立った時のような感慨がない。
ホテルは駅近く。数年ぶりのホテルは超快適だった。
部屋の中にロープを張り巡らして、暖房を入れて一気に乾燥。
ホテルの人がみたら「ちょっとお客様それだけは…」なくらい、ザック全解体して全力で乾燥と充電を行い、いい感じに装備をリセットできた。
布団って寝心地素晴らしいよね。と妙な感慨をえながらこの日を終える。
明日は朝から一度は行きたかった旭川動物園へ。
噂の有名動物園とは…果たして。
今回もこんなところで。 その4はまたそのうちに。
ひいらぎ