おじさんとの夏休み 17話
セブン前の道を駅まで向かい、左折して1分ほどで唯希のバイクが見えた。
通りすがりに唯希へ親指を立てて合図をして、時臣はそのまま車を追う。唯希はバイクを止めて飛田へ連絡をして、今現在の状況を伝えた。
一方車の中では、春樹は浮かれたまま
「キメセクゥキメセクゥ」
と歌うように連呼してハンドルを握っている。
時臣に抱かれたかった。あの鋼のような胸板にキスをして、抱きしめられて呼吸ができないほど締め付けてほしい。
そう思うだけでボッキする
「あ…勃っちゃった。オナニーでも気持ちいいんだよねええ。でもこの子としたいしぃ」
バックミラーで後部座席を見たが、悠馬は横たわっていて顔が見えない
「この子時臣くんの面影あってちょー好み♪この子なら抱かれてもいいと思っちゃったもの。我慢しよ」
独り言多いのはラリってるからなのか。
『GT-Rに追いつくかな…だいぶ暴走してそうだしな…』
スピードだけは出る車で暴走されたら、どこまで行けるか未知である。
しかしこの道はいずれ線路にぶち当たり、丁字路になっているはずだ。そこで少しはスピードもおちるだろう。そこが狙い目だが…まず追いつかないことには。
時臣はギアをあげ、グリップを捻った。
警察に出てこられてもまたややこしい。このまま飛田に引き渡したいが、飛田は間に合うか。
「見えた」
かなりなスピードは出ているが暴走まではいかないGT-Rが、200mほど先に見えた。
時臣はギアを下げ、グリップを引いてスピードを上げる。
もう少しで傍に並べそうだという時に、そろそろ丁字路が見えてきて、スピードが落ちてからでいいか…と少し後に移動した時だった。
春樹はその丁字路に、大してスピードを落とさないまま右折しようとしていたようだが、その前に黒のレクサスが春樹の前に通せんぼのように止まる。
「うわああああああああっ」
時臣にまで聞こえるような悲鳴が響き、GT-Rは右に曲がり掛けてレクサスの左後方部へ衝突し、半回転をして線路沿線に綺麗に整備してあるレンガの花壇に当たり、あわや横にめくれそうに片輪2輪が上がったがどうにか持ち堪えて道路へ降りた。
ぶつかられたレクサスには誰も乗っておらず、その状況を傍に避けて見ていたのは飛田とその部下2名である。
部下の2名は、GT-Rに駆け寄り運転席から春樹を引っ張り出すと、部下Aはエアバックをかき分けて運転席へ入り、もう1人は春樹を引きずってもう一台待機していた車に連れて行く。
地味なファミリーカーで、その後部座席に春樹を押し込めると、部下Bは壊れたレクサスの前へ、いかにも持ち主のように運転席にはいりこんだ。
バイクを傍にとめた時臣は、走ってGT-Rへ向かい
「飛田!何してる!俺の甥っ子乗ってんだぞ!」
と、大声でいいながら助手席のドアを開け、もどかしそうにシートを倒して前へと移動させた。
悠馬はシートの下に落ちていて、今の衝撃で目を覚ましていたらしく頭を抱え受け身のようなものを取って蹲っていた。
「おじさん…」
18歳でもここまで怖い目に遭ったら、涙のひとつも溢れる。
「無事だったかあ…」
時臣はシートに手をついて、心から安堵の声をもらした。