おじさんとの夏休み 14話
「あいつな、薬物中毒者でな…さっきは落ち着いてたんだろうな。普段はもっとキーキー金切り声で話す奴だ」
薬物…中毒…者?東京は怖いばい!
「今俺の仕事は、あいつを探す事なんだよ」
ん?何言ってるかわかんない。さっきいたじゃん。んでどっかに返しに行ってたじゃん?
「でもさっき…」
「そうなのよ。今ボスはね、春樹を探す依頼を二つ受けててね、一つは保護、もう一つは、『どんなでも』生きてればいいから連れてこい!っていうね、依頼」
うわ…なになに、ドラマみたいだけど…
「春樹は薬で落ち着いてる時は人恋しくなって、フラフラフラフラ東京中歩きまわるわけよ。んで結局俺に絡みにきてたんだけどな。俺も一般人なもんだから、仕事柄もあってちょっと遠ざけてたわけよ。しかしさ…」
渋い顔をますます渋くして、ビールを飲み尽くした。
その瞬間、唯希(いぶき)さんは冷蔵庫へ向かい、もう一本出しておじさんの前に置く。奥さんみたいだな…
「あいつバカだから、とある組から買ってる自分の薬を横流ししてな…その組から売った報酬寄越せとせっつかれてるわけだよ。それが、『どんなでも生きてれば』の方。あいつ、兄貴が系列の組の組長やってるから、クスリ安く売ってもらってんのにそれを売り捌くんだから、そりゃ売主は黙ってねえだろ」
ーバカでしょうがねえーとおじさんため息一つ。
『で、保護の依頼の方は、今話した春樹の実の兄貴の方でさ。金は払うから弟はなんとか助けてくれって言う…だからその折り合いをどの辺でつけようかっていうところでな…。結構危ない橋渡ってんのよ俺も」
はぁ…とまたため息をついて、今度はチビチビとビール缶を傾けている。
「春樹は、俺に遠ざけられてるもんだから、俺の血筋だと知ったお前を俺の代わりにしようとしたんだろうな…」
代わり?ですか…?いや…
「なんの?」
「セックス」
セッ!思ったより大きい声出ちゃった…ええ〜どんなこと〜〜?
「え?俺を?…ってこと?」
「や〜たぶんお前『に』かも…」
あの、どういう…
「春樹はね、ヤク中のゲイなのよ。しかもネコちゃんのね」
唯希(いぶき)さん、ネコとは…
「ネコ…?」
「あ…ああ、うん」
唯希さん、そんなおじさんに許可を得るような目をしなくても、俺は童貞じゃないんで、ちょっとのことなら平気っすよ!
「ネコってのは、受け、女性側ってことだな」
ふむふむ、そう言うふうに言うんだ…で、春樹がネコ…って事は
「俺が春樹をヤるってことですかあ〜〜〜?」
「いややらなくていいんだけどな」
おじさん笑わないで!そうだった…ヤる必要はないんだった。
「春樹は、時臣さんにされたくてされたくてされたくてされたくて仕方がない奴なのよ。だからボスの血縁と聞いて……ね」
ね、って可愛く言ってもダメです。え〜〜俺掘らされそうだったん?掘りたくない穴を??
「そんな『叫び』みたいな顔しなくても…ププッ」
そんな肩震わせて笑わなくてもいいじゃんよ!俺が新しい世界に目覚めるところだったんだぞ!って…あれ?と言うことは…だよ?おじさんの代わりに俺をってことは、俺が代わりじゃなければ…いつもおじさんが…?
「お前変な想像すんなよ?俺は女性が好きだ。おっぱいが大好きだ」
「そこまで大声で強調しなくても…え??」
壁の向こうの事務所で、激しく物が落ちる音がした。調書をパソコンに入れる仕事をしていた典孝さんの方だ
「あ、典孝がおっぱいに反応した」
唯希(いぶき)さん嬉しそうっすね
「典孝童貞だからさー、エッチィ話に敏感なんだよねえ」
事務所とは言ってもパーテーションで覆っているだけの所なので、上が30cmほど空いてて少し大きな声なら向こうに丸聞こえになるらしい。普通の声ならまあ聞こえない。だって向こうから話声聞こえたことないし。
「どっ童貞じゃないぞ!」
いやそんな大声で…
「はいはい」
唯希さんも流しすぎ。
「まあ、そんなわけでお前…名前言わなかったのは偉かったな。俺も言わないようにしてたの気づいてくれたのも偉かった」
ああ、おい、と甥がかかってるとか思っちゃったことか。そう言う意味だとはつゆ知らず…(恥)
「もしかしたら、この近所でまた絡まれるかもだが、無視しとけばいいからな。絶対ついてくなよ」
多分、暴行じゃない心配の方がおじさんは大きいんだろうな。そりゃそうだよ。俺だってヤク中になるのはいやだ…。
でもこの話は、こんなことじゃ済まなかったみたいなんだ。
おじさん出かけたから、俺は寝るね。(勉強しろよは、無しの方向で)