おじさんとの夏休み 6話
「これなー、刺されたんだよー」
シャワーを持つ手と反対の手で傷をなぞって、そう言いながら俺をみたおじさんの顔は、今まで見てきたおじさんのどれとも違ってた。笑ってはいるんだけどね。
「え…刺された?」
「そー、刃渡20センチの…まあいわゆる「短刀」ってやつ?」
シャンプーを流して、オールバックにしたおじさんは、そう言う髪型だと少し上の年齢にも見えて、しかも空気が違ってるからちょっと怖い。
「それって…」
俺が問おうとするのを目を伏せることで遮って、シャワーを全身にかけて身体中の泡を落とすと、ちょいちょいと言いながら俺をよけさせておじさんは湯船に入ってきた。
湯船に余裕はあるけど、筋肉いっぱいのおじさんが入ったから、お湯が溢れたよ。
入るときちょっと見えちゃったおじさんのナニは、それはそれでご立派なものでもあった。見えちゃったんだよ!
「やっぱ酔ってたのかな。まずかったなー」
俺の対面の湯船の淵に寄りかかって、俺を挟むように足を投げ出してきたおじさんは、今までの快活な目とは違いちょっと影のある目つきで俺を見てきた。
「もう悠馬には言っちゃおうかな」
ため息混じりに何か隠してる事を暗に仄めかすじゃん…。
「…なにを?俺聞かなくていいことは聞かない主義だけど…。それにおじさん怖いよ?」
「怖くないよーいつもの優しいおじさんだよー」
雰囲気を消して、さっきまでのおじさんに戻ってくれたけど、さっきの顔とか、刺されたとか聞いちゃうと、もうその顔の方が嘘くさい。
「俺ね、警備会社なんかに勤めてないんだよ」
あーあー!俺聞くって言ってないのに勝手に話し始めるなよー
「聞かない聞かない、やめて」
「いや、傷見られちゃったら言わなきゃな。あれが刺し傷ってバレちゃったら悠馬も聞かなきゃダメな立場」
なんでだよ!刺されたってペラッたのそっちじゃんか
「俺探偵やってんだよね」
「へ?」
探偵?
「ディテクティブ…?」
「さすが現役受験生」
前髪を濡れた手でかきあげて、急にアウトローな目しないでほしいわっ!
「まあ、今時探偵なんて浮気調査とか、身辺調査が主なわけだけどさ、この傷はその浮気調査で奥さんの浮気相手がこれもんでさ」
指でほっぺた斜めに擦るのなんだっけ…傷?ああ…ソッチの方…。
「そんでいきなり短刀でどすっとね」
「うわ…現役の親父ギャグ…」
「おお、良い返しだね、やられたわ」
やられた風じゃ絶対ないじゃん!しかしさっきから醸されてるこの退廃的な空気はなんなんだ…おじさん俺の前ではもう装おう気はないんか。
「で…あー、中2って何歳?」
「んー14くらいかな」
「じゃあお前が14あたりからいま18か?約4年か…こう思うと結構かかったんだな」
「なにが?」
指おり曲げてるおじさんは、ちょっと感慨深そう
「この傷ちょっとやばかったんだよな」
「え、やばかったって…」
「うん、重傷だったんだよ。半年入院してたわ。お前が15頃か」
なんて事ない刺し傷なら1ヶ月もすれば退院なはずらしいんだけどな…てまた遠い目する〜
「だから、4年も来られなかったわけよ」
掻い摘むね…