有償講評ジャンキーだが、そろそろ最強の感想サービスについて語る時が来たようだ(後編)
前編ではサービス概略を説明しました。
後編では、筆者がフィン感を実際どのように活用したか、その際にどのように感じたか、を中心に語っていきます。
筆者はどう使ったか
依頼作について
筆者は現時点(2023年6月)で、フィン感を2回依頼しております。
対象作は以下の2作です。
アルファ・ケンタウリにて待つ(SF)
笑顔のベリーソース(異世界ファンタジー/カクヨムコン8短編賞受賞)
両者のうち、筆者側が「本気でフィン感を活用した」感覚があるのが後者なので、そちらの話をします。
以降、必然的に「笑顔のベリーソース」のネタバレが含まれますのでご留意ください。
依頼までの経緯
「笑顔のベリーソース」は元々、ノベルアッププラスでの自主企画に向けて書いたものです。
後にカクヨムへユーザー登録した際に持ってきて、同年開催のカクヨムコン8短編賞に応募しました。
カクヨムコンでは12月中の評価が好調で、このままいけば中間選考を高確率で通過しそうな情勢になっておりました。
そこで「せっかく中間通るのなら、自分的にベストの状態にしておきたい」と、フィン感の利用を思い立ちました。
2022年年末に依頼し、2023年1月8日に感想を返していただきました。
「細かいところオプション(校閲風に詳しい指摘が入る)」をつけたこともあって、当時7850字だった本文に対し、感想文量は約57000字ありました。
桁、間違ってません。
ご本人の話によると、通常パートが約30000字で細かいところパートが約27000字だったそうです。
そして総字数のうち、9割ぐらいが指摘でした。
どんな内容だったか
57000字分の指摘はどんなものだったか、ですが。
依頼作が真北向き(ド直球エンタメ)であることを踏まえた上で、エンタメとして楽しむにあたって引っかかりとなる要素を、大小さまざま挙げていただきました。
具体的には、主に論理的な不足や矛盾ですね。……エンタメ創作は、論理の鎖を密に繋いでいくことで面白さを生むものなので、そこの捻れや欠落を指摘していただきました。
例をひとつ挙げます。
大きな指摘事項として「レナートにとって国王はどういう存在なのかが明確でない」というものがありました。
レナートは国王付きの毒見役で、物語の一方の主役です。役柄上、国王に絶対的な忠誠を誓っていますが、矛盾するように見える言動が一部にあるとの指摘でした。
序盤でレナートに「羊とグリフォンの区別もつかない凡人たちのために、あなたは料理を作り続けるおつもりですか?」という台詞があるのですが、この台詞はレナートが国王を侮っているようにも読める、と。
(ここの直前に、国王が羊肉の料理をグリフォン肉と信じて食べている場面があるので)
作中のレナートが、一貫してそういう人物であれば問題はない。が、物語後半でのレナートは非常に国王に忠実な人物であるため、彼がどういうキャラクターなのか理解しづらくなっている……という指摘でした。
言われてみると本当にその通りなのですが、自分自身ではこのあたりの論理矛盾に気付かないんですよね……。
他の指摘についても、大部分がこのような形の論理エラーについてでした。
以後、2023年1月は、感想を受けての改稿作業に多くの時間を費やしました。
つまりは、指摘された論理エラーをひたすら解消していく作業でした。
必要な情報を足したり、場面自体をまったく変えたりしながら。
ようやく改稿版が仕上がったのは、カクヨムコンの投稿締切目前の1/28でした。
大なり小なり、見えてきたもの
論理エラーの指摘を多数いただいたことは、本当にありがたかったです。
作者はどうしても自作を見る目が甘くなると思うのですが、私は特にその傾向が強いです。初稿を完成させると「これはこれでいい」感覚になってしまって、粗が見えなくなります。
ですが、他者の視点からその思い込みを外していただいた。
加えて、指摘された論理エラーを直していく過程で、新たな現象も起きました。
「必要と思われるパーツが自力で見つかる」ようになったのです。
「笑顔のベリーソース」最終改稿は、ほぼフィン感での指摘に沿って行いましたが、指摘外で直している箇所もあります。
はっきり認識しているのは、小さなものと大きなものが1つずつ。
具体的には、小さな方は「ラウルの山歩き設定」、大きな方は「ラストシーン」です。
ラウルの山歩き設定については、「最後の鍵になる食材を、ラウルはどのように手に入れたのか?」について、私自身で疑問が発生したためです。最後の料理を作る過程で、いくら自由に動くことを許されているといえ、監視くらいはされていそうだな、と。
そこで「ラウルは王宮への出仕前、日常的に山を歩いて食材を集めていた」という設定を足し、山で監視者をまきながら食材を調達した……とすることで、引っかかりを除去しました。
ラストシーンについては、フィン感の全体を通して、大前提が「これはラウルとレナートの関係性の物語である」だったがゆえの追加でした。
最初に自主企画向けに書いた時、既にこのエンディングは頭にあったのですが、当該企画の文字数上限(5131字)にはどうしても入らず、脳内でお蔵入りになっていました。
かつ、カクヨムコン応募当初に一度改稿した際も、あえて入れはしませんでした。綺麗に終わっているし、長々引っ張るのは蛇足かもしれないな、と。
ですが、主題が「二人の関係性」であれば、エンディングは二人の場面であった方がいいはずです。
思い直して、当初から頭にあった幻のラストシーンを復活させ、最後に付け足しました。
そして、何が起きたか
改稿した結果、思いがけず「笑顔のベリーソース」はカクヨムコン8の短編賞をいただくことができました。
ですが私本人としては「物語が本来あるべき姿になった」感慨も、受賞に負けず劣らず大きいです。
論理矛盾が解消され、より適切なエンディングが足された結果、この話が潜在的に持っていた完成形にようやく到達したのだと感じています。
言い方を変えれば「最終改稿版が、いちばん作者の意図通りのバージョンである」とも言えます。
本来であれば、他人の感想を受けて改稿している分、最終改稿版は他人の意見に寄せた版であるともいえるのですが……そんな感じは全くないんですよね。むしろ純度が高まったように感じています。
そして今、過去のバージョンを見ると「なんで自分、これで満足できてたんだ……?」と首をひねってしまいます。
自分の「目」が、明らかにアップグレードされているんですよね。
これは、今回得た恩恵の中で最も大きなものの一つだと思っています。
ここまでのことを成し遂げさせてくれる感想サービスは、本当に貴重で稀有だと、心から感じております。
最後に、注意点
ここまで語ったように、本当にお世話になったフィン感ですが。
依頼にあたっての注意点はいくつかあります。
あなた向きかどうかは確認を
前編でも触れましたが、フィン感が向いている人と向いていない人、はっきりと分かれると思います。
大量の指摘に耐えられない人には、おそらく色々と無理だと思います……
私は有償講評ジャンキーを自称するだけあって、アダマンタイト級の批評耐性を持っていると自負していますが、それでも57000字の指摘事項を最初にチェックした時は、相応の精神的負荷がかかりましたからねえ。
これまでのフィン感はFANBOX上で公開されていますので、まずはどんなものか確かめてみてください。
ちょっとダメそう、と思われた方は、どうかご無理はなさらずに!
ですがもし、あなたのお悩みにフィン感ががっつりハマりそうであれば……ぜひとも検討してみてください。
フィン感の知名度が上がって繁盛すれば、薦めている人間としてもとても幸いです!
サービス概要は熟読を
どんなサービスでも言えることですが、サービスの概要は隅々まで読みましょう。
特にフィン感に関しては、ココナラ等スキルマーケットサイトの感想サービスとは運用形態が大きく異なるため、同じ感覚でいると認識のずれが発生する可能性も高いです。
読み落としてトラブルが起きることがないよう、しっかり目を通されることをお勧めいたします。
実績、ありますから
最後に、締めの言葉を。
私がココナラ等で有償講評サービスを選ぶとき、まず確認するのは「評価」と「実績」です。
評価、つまりはサービスを利用した人がどんな感想を持ったのか。
実績、つまりはサービス提供者が何を成し遂げてきた人なのか。
フィン感について、評価に関しては各感想のコメント欄で確かめることができます。
利用された方の、丁寧な「感想の感想」が多数書き込まれています。それを確かめれば、評価は明らかです。
一方の実績については、従来、決定的な殺し文句がなかなか出せないな……とは感じていました。
ココナラ等にはプロの作家や編集者を名乗る方々が何人もいて、仕事の経歴を実績として示していますが、フィン感に関してはそうしたわかりやすい何かはない。あるのは、積み上げてこられた感想のテキストだけです。
一読してもらえばクオリティは明らかなのですが、まず覗きに来てもらうための「キラキラした箔」のようなものが、推す立場としてはなかなか出せなかった。
ですが、今なら言えます。
「この方、利用者にカクヨムコンの短編賞獲らせましたよ」と。
3/10284の倍率を突破させましたよ、と。
本質的ではないハッタリだとは思います。そもそもフィン感は(フィンディルさんご本人もよく言っておられますが)公募入選を目的としたサービスではありませんし。
対象の方角が、公募向きの北であればそちらを向くけれども、東や西や南を向いていてもそちらを向く。特定の方角を指向しているわけではない。
ですのでフィンディルさんご自身が、公募やコンテスト関連の何かを「実績」として挙げることはないはずです。方角を限定してしまうので。
とはいえ。
今回、私自身がフィン感から絶大な恩恵を得たのは事実です。
かつ、この事実は、多少なりとも人の耳目を引き付けるキャッチーさを持っているとも思います。今せっかくあるものを、外野の立場からアピールしたい気持ちはとてもある。
ですので私は胸を張って言います。
その感想書きの人、どんな実績があるの? と問われたならば、堂々と答えられます。
「私が実績です」と。
素晴らしい仕事をしてくださる、推し感想書きさんの「実績」を(ご本人とは関係ないところで)アピールできることを、今は心より嬉しく思います。
今後もなにかとお世話になると思いますが、また、よろしくお願いいたします。
そして、これを読んでいる貴方も。
向き不向き分かれるとは思いますが、もし向いていそうなら、どんどん申し込んでみましょう。最初は無料です!
それでは、フィン感の今後の発展を祈念しつつ筆を置きます。
大変な活動とは思いますが、できるだけ長く続けてくださることを願っております。必要としている人間は、多くいるでしょうから!
【了】