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#倉吉コンテスト の参加作を全部読んだので推し作品を勝手に推してみる

はじめに

1/30までPixivにて募集されていた「倉吉ポップカルチャーフェスティバル開催記念 倉吉短編小説コンテスト」。

鳥取県倉吉市を題材にした短編小説を募集するコンテストでした。
Pixiv内バナーにて存在を知って以来、準地元民(市内在住ではないが同県民)として参加せずにおられようか!! と、今年1月は、カクヨムコン10の短編部門をほぼほったらかしてまで注力していたのですが。

締め切られてみれば、エントリー数は全141作。
この規模感なら、全作読もうと思えば読めてしまうのでは……? と思い、かつ準地元民的な関心もあって、締切後からちょこちょこと読み進めていました。

そして、読み進めていて思いました。
せっかく全部読むのなら、見つけた推し作品は推していきたい!

そんなわけで、個人的な推し作品をまとめてみた次第です。
「いち推し」1作・「強推し」3作・「推し」5作を、コンテスト本体の入賞枠数に合わせて選んでみました。

なにかしら、コンテストの賑やかしになればいいなあと思いつつ。
楽しんでいただければ幸いです。


推し作品(並びは投稿が新しい順です)

「大山鬼門封じ-加茂神社攻防戦の夜-」作並愁太郎様

短編らしからぬスケールの大きさが好きです。冒頭からどんどん話が広がるテンポの良さ、倉吉にまつわるいろいろな事物を一本の線で繋ぎ、半ば強引にまとめあげてしまった大法螺の魅力(全面的に褒め言葉のつもりです)、それでいて山陰の現状もきっちり絡めてくる現実味、そしてラストバトルの超展開……。
スケールが大きいだけに、長編の第1話感もありましたが、難しいことを考えずに楽しめるエンタメとして楽しかったです。

「黒檀の見る夢」水仙様

倉吉市という地域ではなく、倉吉市にある特定の建物を舞台にした作品。意外とこのアプローチは少なかったように思います。
建物ひとつにフォーカスしているだけあって、描写の精度がとても高く、幻想的な雰囲気を醸し出しています。植物と心通わせるファンタジックな雰囲気がとても好きです。

「新米付喪神・紺の憂鬱」暖猫様

同じく山陰にある出雲大社と絡め、寄り道中の付喪神を主人公に据えたのがまず面白いな、と。そして主人公の心情が「レトロな町並の中に現れる二次元キャラ」のミスマッチ感と重ねてあるのが、そこからフィギュアというもののありかたへ繋いでいくのがとても自然な流れだな、と。
複数要素の自然な重なり方がいいな、と感じました。

「最強ペア誕生!」有水千秋様

新雪さんのキャラが好きです。そして会話のテンポの良さも。「ガチ」のあと即「おとうさーーーん! 変な梨がいる!!」に繋いでしまうスピード感、なかなか出せない気がします。
終盤の展開が予定調和的でなく、別れの場面に梨と人間ならではのコミカルかつしんみりした情感が漂っているのもよかったです。
あと、タイトルの「ペア」ってやはりpearですよね。梨だけに。

「ふるさとにあるもの」湊様

倉吉愛を特に強く感じた一作。倉吉のさまざまな事物に対する作者さんの思い入れをものすごく感じました。
食べ物や景色や建物の、それぞれに対する「好き」の感情の解像度が高くて、作者さんは倉吉のあれやこれやそれが本当にお好きなんだなあ……と強く感じました。

強推し作品(並びは投稿が新しい順です)

「来る春の日の二度目まして」ライア様

せわしない日常での疲れを、時間の流れが緩やかな倉吉で癒す……という作品は多くあったのですが、本作はそれを「化ける」という現象に託す形で語っておられたのが、新鮮で巧いなと感じました。
倉吉各地の情景もいきいきしていましたし、蔵吉も愛らしいですし、ラストの読後感もよくて、とても丁寧で綺麗にまとまっている感がありました。
「倉吉を舞台にしたエンタメ短編」として、とても楽しめる作品だと思います。

「垂れない蜘蛛の糸と階段の昇り方」kompika様

全応募作中でまちがいなく一番重い話、だったように思います。強い懐疑の念と、消えない後悔とを背負った主人公の重苦しい心情……この内容を「ポップカルチャーイベントの開催記念コンテスト」に応募するのは相当に挑戦的だったように思いますし、賛否両論ありそうな気がしますが、私は好きです。
小規模地方都市のまとう、閉塞感を伴った重苦しい空気の描かれ方が、主人公の重い心情にも重なってくるようで、時に痛みさえ伝わってくるようでしたが、それだけに「生の」地方のありかたが描き出されていたようにも思います。

「月夜の叶」伍月 鹿様

技術的な巧さをいちばん感じた作品。倉吉の街並の様子や、途中に登場する建物のありようなど、非常に描写が丁寧で、どのような情景を思い浮かべればいいのかがとてもクリアに伝わってきました。
登場する倉吉の事物についても、メジャーどころばかりでなく、鉄道記念館のようなあまり知られていなさそうなスポットにも触れられていて、そこが不思議なリアリティを醸し出していたように思います。

いち推し作品

「大人になる前、最後の冒険」不伝様

全作中、突出して一番好きな作品です。
倉吉という土地で生活する登場人物たちの、肌感覚というんでしょうかなんというんでしょうか……観光カタログ的でない土地の「感触」のようなものが、作中に息づいているように思いました。
そして土地の手ざわりが、登場人物の心情とシンクロしていく様子も丁寧に描かれていて美しいです。
地方都市の若者は、時期が来ればかならず幾人かは都会へ出ていく……地方ならではの、成長に伴う変化と寂寥感とが、とても鮮やかに伝わってきたように思います。
登場する鉄道乗り換えルートが一般的な経路と異なっているのも(通常、スーパーはくとから新幹線に接続する際は京都でなく姫路で乗り換えるように思います)、演出として効果的に使われていて、ただただ感服です。

おわりに

有効応募作134作(エントリー141作 - 規定不備6作 - 自作1作)を読み通してみて、読み手として楽しかっただけでなく、いち応募者としていろいろと気付くことがありました。
読み手として書き手として、経験値がずいぶん上がったように思います。

本記事で勝手に挙げさせていただいた推し作品が、コンテスト本体の入賞作とどのくらい一致するのかはまったくわかりませんが……いまは結果を楽しみに待とうと思います。

そしてチョイスは完全に自分の好みベースでしたので、「なんであの作品が入ってないんだ!」というご意見は多々おありかと思います。
よろしければ、他の応募作品についても、ここのコメント欄なりSNSなりで推し語りをお聞かせいただければ、私が大変喜びます。
(特に、私は恋愛ものが苦手なので、恋愛関連で良作の見落としが多々ありそうな気がしています)

最後になりましたが。
コンテストに参加された皆様(含自分)、おつかれさまでした!!


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