【RIZIN.40対抗戦超絶簡単解説】これが俺たちの”灯火の星”
*この記事は執筆者の個人的な考えや推測が多く含んでおり、また格闘技関係者から直接話を聞いて執筆したというものではなくただの一格闘技オタクが書いたものであるため間違った情報が書かれている可能性があります。もし間違いやご指摘、誤字脱字があった場合はコメントなどで教えていただけると嬉しいです。
またこの記事内で選手や格闘技関係者の敬称を省略している場合があります。予めご了承ください。
➀はじめに
この記事は「RIZIN.40」(12月31日13:30開始予定)のRIZINvsBellator対抗戦のカードを簡単に解説していこうという記事です。
両団体とも現役チャンピオンや団体のトップ選手同士で勝負する非常にアツい対抗戦となっていますので盛り上がっていきましょう!
(12月31日追記文章。)
②武田光司vsガジ・ラバダノフ
対抗戦第1陣は両団体ライト級タイトル戦線で活躍している選手です。
おそらくセコンドにはBellator軍のキャプテンに就任したハビブ・ヌルマゴメドフが着くと思うのですが、冷静に考えるとRIZINはフロイド・メイウェザー、マニー・パッキャオ、ハビブ・ヌルマゴメドフという格闘技のトップスターを大勢呼んでいる団体なんですよね。榊原さんの手腕には脱帽です。
武田光司選手は今年RIZINで全戦外国人選手相手に3戦2勝1敗と非常に良い結果を残しています。日本人離れしたフィジカルに高校レスリング五冠という実績が示す通りの組み力の強さ、そして相手がどれだけの強敵でも臆せず立ち向かうメンタルの強さが特徴です。
前戦の「RIZIN.39」ではRIZINトライアウトから参戦してきたザック・ゼイン選手に自身の得意の形であるガブリからの腕十字で一本勝利をして大晦日参戦をアピールして今回の試合にたどり着きました。
ガジ・ラバダノフ選手はダゲスタン共和国出身の選手で元EFCというロシアトップクラスの団体のライト級王者です。また元UFCライト級王者ハビブ・ヌルマゴメドフ氏の現役時代の練習パートナーの1人でありそのつながりは10年以上です。
バックボーンはコンバットサンボでスタンドではカーフキックで様子をうかがいながら必殺の左フックを狙ったり強靭な技術と組み力を活かしたタックルで相手をグラウンドに固めるスタイルで現在Bellator参戦後3戦3勝と非常に勢いに乗っています。
また宣伝になりますがラバダノフ選手の出身のダゲスタン共和国やバックボーンのコンバットサンボってなんだよ⁉と気になった方は筆者が書いたダゲスタンやサンボについての記事がありますので、良ければそちらも読んでみて下さい!
試合のカギは打撃の距離設定です。
武田選手はバックボーンのグレコローマンレスリングで鍛えた四つ組みからのテイクダウンが武器で、前にガンガン出てスクランブルの攻防からテイクダウンを狙うスタイルです。
ラバダノフ選手はカーフキックやフックなどでスタンドの攻防をしますが、基本的にはその中で相手の胴が開いた瞬間を狙ってのタックルで相手をテイクダウンするスタイルです。
そのため両選手ともテイクダウンを狙うというプランは同じなのですが武田選手は相手の脇を指しての四つ組み、ラバダノフ選手はタックルと狙う箇所が違うため組みに行きたい距離が違うのがポイントです。なのでスタンドでの距離設定を自分のモノにした方が組みやすくなります。
ラバダノフ選手は基本的には近距離で戦いますが打撃や相手のプレッシャーをもらうと素直に後ろに下がったり打撃のスピードやテクニックはおざなりだったり、自分が絶対タックルが出来る距離でなければタックルのアプローチをしなかったりとガンガン前に出るというよりかは相手のアクションに対応する形で試合を創るタイプです。もちろんタックルはスピードやタイミングなどとてつもないモノを持っていますが、それも頻繁に使うというよりかはチョウチンアンコウのように相手が自分の間合いに入ってくるのを待って極まる瞬間しか仕掛けない印象です。
個人的にはそのスタイルこそ武田選手の勝機があると思っています。
ラバダノフ選手はそのスタイルの関係でプレッシャーや攻撃をもらって下がる場面が多くタックルも間合いに入らなければ使いません。そのため対策としてはアグレッシブに前に出てスタンド勝負でもタックルにビビらずに勝負できるメンタルが必要ですが、武田選手はその退かないメンタルを持っています。
スタンドの技術でも前々戦ではリーチが長くプロボクシングで試合経験のあるジョニー・ケース選手相手に立ち技で勝負して組みまでつなげるといったアグレッシブぶりを見せました。その中でも前後のフットワークが印象的でこれをうまく使えば突破口があると思います。
このフットワークや近づく瞬間のリードフック(構えの前の方の手で打つフック。武田選手はサウスポーなので右手でのフック。)でラバダノフ選手をコーナー際に下がらせる展開を5分3ラウンドやり続けることが最良の展開ですが、距離設定を失敗してリング中央でタックルをもらうことやラバダノフ選手のカーフキックやリードフックで打撃戦の主導権を握れないなど危険なポイントは多くあります。
そのため如何に武田選手がラバダノフ選手のタックルの間合いに入らずに自身の打撃の間合いでプレッシャーをかけ続ける時間を多く作るかがそのまま勝敗に直結しそうです。
お互いしんどい試合を得意にしているこそかなり濃厚なファイトが予想されます。武田選手としてはラバダノフ選手を倒すことでBellatorへのステップアップを狙いたいですね。
ただこういう濃厚ですが派手じゃない試合はMMAをある程度見ていないとその面白さが理解しにくいというのが残念なポイントですが、あえてそういう試合を対抗戦のしょっぱなに置くRIZINの大晦日にマジMMAで売り上げ的な勝負する気概を感じれて個人的には非常に好感が持てます。
③扇久保博正vs堀口恭司
両団体のトップ選手同士というとてつもなくアツい対抗戦のカードですがこのカードはそれとはまた違う熱を感じます。
RIZINをここまで大きくした正に立役者である俺たちの堀口恭司がまさかBellator陣営で来るとは思いもしなかったです。この状況をテニスの王子様でいうと主人公の学校の部長として圧倒的な実力でチームを引っ張っていった手塚部長が新テニでドイツ陣営に行き日本の最大の敵として立ちふさがるような展開です。この例えをわかってくれた人がどれだけいるかはわかりませんがもし興味が出た方はテニプリ読んでみて下さい。
扇久保博正選手は2021年に行われたRIZINバンタム級GPで朝倉海選手や井上直樹選手と言った優勝候補を抑えて優勝した国内バンタム級最強の選手です。しかし「RIZIN.38」でキム・スーチョル選手に敗れたことや堀口選手の階級転向など様々な理由で今回フライ級に転向しました。
打・投・極すべてが高いレベルで完成された高い技術にどんな局面でもあきらめないド根性が強みです。
堀口恭司選手は現RIZINバンタム級王者、元Bellatorバンタム級王者で日本MMA界を先頭で引っ張っている選手です。しかし現Bellatorバンタム級王者セルジオ・ペティス選手、Bellatorバンタム級GP1回戦でパトリック・ミックス選手に連敗してしまいました。「RIZIN.38」で金太郎選手に勝利して連敗は脱したもののアメリカでの体格差で苦しんだことや自身の増量が難しいなどからフライ級に階級転向をしました。
空手仕込みの打撃の強さにアメリカで鍛え上げたレスリング技術がある非常に隙の無いスタイルです。またフライ級でもUFC時代にタイトルマッチを経験したりUFCフライ級ランキング3位になったなどフライ級でも実績は十分です。
やはり気になる点は両選手のフライ級(57㎏)でのコンデションですね。
MMAの階級での体重というものは基本的にその階級の体重を計量の際にパスすれば試合時には体重をいくら増量しても良いのです。なので普段の体重が75㎏の選手が減量してフェザー級(66㎏)の試合に出るという事例は珍しくありません。例えば現UFCフライ級王者のデイブソン・フィゲイレード選手は普段の体重が75㎏ほどあって試合の時は毎回17㎏ほどの減量を行って試合に臨みます。ちなみに試合当日の体重は約65㎏ほどあるので1日で約8㎏のリカバリーをしている化け物っぷりを見せています。UFCのトップに立つにはこれくらいの化け物でないと難しいですね。
その中で堀口選手は通常時の体重が65~66㎏ですので海外基準のバンタム級ではどうしてもフィジカル的な差が大きいということは否めないです。特に前々戦のパトリック・ミックス戦ではそのフィジカルさが勝敗に如実に出た展開です。また自身の肉体をバンタム級に適応させようと肉体改造を行ったものの体重を増やすことが出来づらい体質だったためフライ級転向の意志を固めたのではないかと思いますね。そしてそのアピールとして今回の試合をフライ級で受けたのだと思います。
そして扇久保選手もRIZINバンタム級GPを制したものの世界レベルのバンタム級の選手とこれから戦っていく際にフィジカル的な不安は無いわけではなかったと思います。さらに「RIZIN.38」で世界レベルのバンタム級の選手であるキム・スーチョル選手に敗北したことや長年追っかけているロ樋口選手のフライ級転向を受けてある意味吹っ切れてフライ級に転向したんじゃないかなと思います。
ですが両選手ともフライ級で試合を行うこと自体が結構久しぶりなんですよね。
扇久保選手は2019年5月6日の清水清隆戦以来なので約3年ぶり、堀口選手は2017年4月16日の「RIZIN.5」での元谷友貴戦が58㎏契約ですので約5年ぶりのフライ級での試合です。両選手ともフライ級の実績はありますし他のバンタム級の選手と比べても肉体の大きさを考えるとフライ級が適正階級だと思いますが、それなりの年数をバンタム級で戦っているのでおそらく普段からバンタム級で戦うための体づくりや調整をしているのだと思います。
そのためフライ級に適応した肉体を準備して試合でレベルの高いパフォーマンスを披露できるかどうかは正直計量や試合当日を観なければなんとも言えないポイントです。両選手とも素晴らしいチームがバックアップに付いていますので死にかけグロッキーで出てくることは無いと思いますがそれでも心配な方はそれぞれの選手のYouTubeチャンネルをチェックするのがおススメです。というの格闘家の減量後のリカバリーはそれなりに数字を取れるコンテンツですので多分良い時間帯に動画があがると思うので今のうちにチャンネル登録を澄ましておくことが吉でしょう。
試合の展開としては1,2戦目とは様相が変わってくると思いますね。
その理由は色々ありますがその要因は扇久保選手のメンタルの変化と堀口選手のケガによるスタイルチェンジだと思います。
扇久保選手側は1戦目は当時超新星UFC契約秒読みの堀口選手の勢いに飲まれたこと、2戦目は自身がUFC契約まであと1歩だったのにできなかったことと当時の妻からの離婚宣言からの堀口戦ですので、どっちの試合の時も正直メンタルはズタズタだったと思いますね。
ただ現在はその後にお付き合いし始めた京香さんと結婚し先日には第一子が誕生しました。ファイターとしても国内トップの実力を証明できたことから正に順風満帆といった感じでしょう。今の扇久保選手を見ていると今までの試合前の堀口選手を必要以上に大きく見ている状態から等身大の堀口恭司を見ている感じが個人的にはしますね。
堀口選手側は前十字靭帯断裂という膝の大けがにより以前の遠い距離からのステップと飛び込みをメインにしたスタイルから、近距離での蹴りとタックルを軸にしたスタイルに変わりました。
文字にして違いを表すなら以前の堀口選手は”空手を主軸にMMAのエッセンスを取り入れたスタイル”に対して現在の堀口選手は”MMAを主軸に空手のエッセンスを取り入れたスタイル”というわけです。
堀口選手のスタイルの基本については当時Bellatorバンタム級タイトルマッチに挑む堀口選手についてそのスタイルや当時の世界のバンタム級事情などを書いた記事がありますので良かったら読んでみて下さい!
以前の堀口選手のスタイルと今の堀口選手のスタイルの大きな違いはタックルを意図的に使うことです。
以前の堀口選手は特にRIZINで顕著ですがタックルや寝技の攻防を意図的に避けている印象があります。おそらくRIZIN参戦から言い続けている「日本の格闘技界を盛り上げたい」という信念のためにKOにこだわってきたんだと思います。
ですがケガの影響なのかここ最近は独特の遠い間合いではなく、意図的に近距離にして蹴りとフェイントに加えてタックルで試合を創っています。セルジオ・ペティス戦や金太郎戦が顕著ですが以前の堀口選手では考えられないような相手のパンチが当たるかどうかの近距離で試合を行っています。
しかしそのスタイルにすることでタックルを戦略として無理なく組み込めることで一気にMMAとしても幅が広がった気がします。堀口選手のタックルの凄いところは打撃の攻撃とタックルの踏み込みが同じなので対戦相手に瞬時にどっちが来るかという不利な二択を強要できます。また近距離だからこそより深いタックルに入れたりフェイントと組み合わせることで相手に強烈なプレッシャーをかけることが出来るので、以前より近距離に距離を設定した試合運びができるのだと思います。
そのため今回の試合は過去の試合よりも組み技の攻防が非常に重要だと思います。
今までは堀口選手の独特の間合いに対応できていなかった扇久保選手が今度は自分が組みのアプローチをできる距離まで堀口選手側から近づいてくる大チャンスだと思います。ですが堀口選手のレスリング力は現Bellatorバンタム級王者セルジオ・ペティス選手を漬け切るほど強いので扇久保選手がしたい組み際のスクランブルの展開で勝負する試合展開には素直にならないと思います。
だからこそ今現在心身満たされていてコンデションばっちりな扇久保選手の対応が注目です。単純にスクランブル勝負の削り合いをするのか、引き込んで一本を狙うのか、はたまたスタンドで一発当てて衝撃のKO劇を見せるのか、どのプランをとってもキツい事は変わりないですが扇久保選手の勝利への執念が出てくる良い試合になる事は確定だと思います。
ただそういう積み重ねた想いを圧倒的強者が踏みつぶすのも格闘技の醍醐味ですので堀口選手の圧倒劇になる事も覚悟して見ることをおススメします。
おそらくこの試合からRIZINフライ級の歴史の1ページが始まると思うのですが、その試合が日本格闘技界を再興した立役者であり日本人として海外で戦って現在進行形で多くの人に夢を見せている堀口選手と何があってもあきらめずに愚直に頑張り続けて多くの人に認知され押しも押されぬ主役になった扇久保選手の最後の決戦というのがいいですね。
誰かの最後は誰かの始まりになります。未来に希望を持てる種になるような試合になる事を期待しましょう。
④キム・スーチョルvsフアン・アーチュレッタ
ほぼRIZINで1戦しかしていないような感じのスーチョル選手をRIZIN代表としてこの大一番に送り込むRIZINの良くも悪くも節操のないところは個人的には好きです。
キム・スーチョル選手は元Road FCバンタム級王者、元ONEバンタム級王者、現Road FCフェザー級王者であり前戦の「RIZIN.38」でバンタム級日本最強選手である扇久保博正選手に正に真っ向勝負で挑み激しい削り合いを制して勝ったとてつもない選手です。その結果が買われて今回の対抗戦に出場することになりました。
パンチの強打を上下に振りながら前進して一歩も引かない超近距離のハードなスタイルで相手にしんどい試合を強要させます。特に四つ組みの強さが尋常ではなく組み際のアッパーや相手に大ダメージを与える膝、そこからのガブリの展開が得意でそれぞれの攻撃がよどみなく連結していき相手にプレッシャーをかけ続けます。
フアン・アーチュレッタ選手は元Bellatorバンタム級王者で過去に所属していたKOTCという団体では元フライ級(61.2㎏)、バンタム級(65.8㎏)、ライト級(70.3㎏)、ジュニアウェルター級(74.8㎏)の4階級制覇を成し遂げた選手です。
NCAAディビジョン1で鍛えたレスリング力に同門である元UFCバンタム級王者TJ・ディラショーのようなシャッフル(構えのオーソドックスとサウスポーを細かく変えて間合いや攻撃のテンポに変化を加える技術。)を駆使した打撃が特徴です。Bellatorでは現在バンタム級GP決勝に進出したパトリック・ミックス選手や元Bellatorバンタム級王者で過去には扇久保博正選手にも勝っているエドゥアルド・ダンタス選手にも勝利していたり、Bellatorでの敗戦も全員現役チャンピオンとレベルの高さがわかります。
また宣伝になりますが「NCAAって名前はたまに聞くけどよくわかんねぇよ!」という方は筆者が書いたそういうファイターのバックボーンで偶に聞く団体などについて書いた記事がありますので良かったら読んでみて下さい!
おそらくこの両選手はかなり噛み合いが良いと思います。
両選手とも組み技の展開を厭わずハードな打ち合いを得意としている選手同士だからこそ凄い良質なMMAらしいスクランブルが見れると思いますね。
しかしこう書くとMMAを知ってまだ日が浅い人は正直とっつきにくいと感じられてしまうかもしれませんが、逆に言えばこの試合を楽しめるなら立派なMMAオタクだと個人的には思います。
なのでそういう方はシンプルにどっちの選手が組んだ時に上を取っているかという点に注目してみるのが良いと思います。
両者とも近距離でガンガン打撃を打つ選手で相手に組まれても自身の組み技の強さでねじ伏せるスタイルで下からの柔術的な仕掛けはあまり行いません。ですのでシンプルに組み際に上を取って相手によりダメージを与えた方が有利なマッチメイクと言えます。
それを踏まえての試合展開ですがおそらくアーチュレッタ選手がタックルなどのレスリング的な仕掛けをかなりの回数行ってスーチョル選手がそれの対処をするという感じです。その中で組みの攻防があるのでその際にどっちがどうやって有利なポジションを取ったかに注目してみて下さい。
アーチュレッタ選手としては近距離の打撃=スーチョル選手の間合いで打ち合いで意識を上に持って行ってからのタックルでテイクダウンしてパウンドや相手を固めるという展開が理想ですが、スーチョル選手の圧力と自身の近距離の打撃の際のガードの甘さをスーチョル選手の強打にぶち抜かれないかがキモです。
逆にスーチョル選手としては自身の得意分野である打ち合いの距離で主導権を握るのが勝つためには大前提ですね。この距離でアーチュレッタ選手に好き勝手やられると強みである零距離での強打や相手が崩れた際のガブりからの膝などの倒せる攻撃を打てない展開になると思います。ですのでスーチョル選手はとにかくプレッシャーでアーチュレッタ選手をコーナーに押し込んで相手の強みである機動力をつぶす動きが求められると思います。
ざっくりまとめるとタックルからのテイクダウンといった上を取る動きをしている間はアーチュレッタ選手有利、相手にコーナーやロープを背負わせている間はスーチョル選手有利という感じです。なので勝敗を分ける最大のポイントは”どっちが打ち合い強いんだい!”という気持ちやタフさが大切なのだと思います。
このカードは今回の対抗戦の中でもストーリー的なアレとしてはとても薄く感情移入が難しい物ではあると思いますが、逆に言えば純度100%まじりっけなしのMMAを見れる貴重な機会ともいえます。
正直この試合についてはこの「RIZIN.40」でも個人的ベストバウト候補ですので皆さんも年明け後に知り合いにどや顔でしゃべるためにしっかり観ることをおススメします。
⑤クレベル・コイケvsパトリシオ・”ピットブル”・フレイレ
今日日このレベルのチャンプチャンプ対決が見られるとは思いもよらなかったです。改めてですが自身の団体のチャンピオンを他団体のチャンピオンと戦わせるというイカれた行為にGOサインを出した榊原CEOとスコット・コーカーCEOに海よりも深い感謝です。
クレベル・コイケ選手はRIZIN参戦後5戦5勝オール一本勝ちでRIZINフェザー級王座挑戦権を掴み「RIZIN.39」で念願のRIZINフェザー級王座に就いた今非常に乗っている選手です。
キャリア31勝の内27の一本勝ちという圧倒的な極め力に近年は海外修行を行いタックルやスタンドでのパンチや肘など総合格闘家としての全体的にスキルのレベルアップもしていて国内ではすでに敵なしの選手です。
パトリシオ・”ピットブル”・フレイレ選手は現Bellatorフェザー級王者、元Bellatorライト級王者、Bellatorフェザー級トーナメントで2度の優勝などを活躍をしているとてつもない実績を持つ選手です。また2010年からBellatorに参戦してそこからBellator一筋で団体を盛り上げ続けた正にBellatorを象徴する選手です。
165㎝とフェザー級では小柄な体格ながらスピード・パワー・精度を兼ね備えたパンチと相手の容易な組みを許さない極めの強さ、そしてBellatorを世界2位のMMA団体まで押し上げるまで戦い続けた経験が特徴です。
今大会唯一の現役チャンピオン同士の試合であり両団体でも非常に注目が熱いフェザー級での一戦ですが、言葉を濁さずに言うなら正直クレベル選手にはかなりきつい試合になると思います。というかバカ不利なマッチメイクだと個人的には思います。
クレベル選手のファイトスタイルと言えば圧倒的な寝技力のプレッシャーで相手を下がらせて組んで一本を獲るというものですが、その前段階のスタンドの攻防で必ずと言っていいほど1回は攻撃をもらう被弾癖があります。また相手の打撃をもらうと素直に後ろに下がってしまう癖もあるので相手からの追撃をもらう可能性が高いです。それでも今まで勝ってきたのは対策不可能なレベルの圧倒的な寝技でスタンドでの隙を有耶無耶にするほどの強さがあるからですが、今回はその隙が要因で敗北するのではと思っています。
パトリシオ選手のスタイルは半身の空手のような構えでどっしりと立ち相手の前進や攻撃に合わせて攻撃するカウンタースタイルです。
その特徴は打撃を撃たないでかけるプレッシャーとパンチの精度です。
基本的にパトリシオ選手は自分からパンチを出すのではなく、ステップで常に相手の正面に立ち続けて相手にプレッシャーをかけて相手に攻撃を出させてのカウンターを得意としています。それが出来るのは左手のみをガードに使う身体を半身に構えたスタイルなので相手の攻撃を自分のガードの内側のみに限定しているため相手の選択肢を構えの時点である程度つぶしているためカウンターが合わせやすいのです。またパトリシオ選手は165㎝とフェザー級やライト級の選手の中では小さい部類の選手ながら自分より大きい選手のあごやこめかみを的確に当てる”当て感”も持っているので無理やり近づいても鋭いカウンターが待っているので攻撃を出せないジリ貧状態でパトリシオ選手の攻撃を出していないプレッシャーをただ受けるだけということになってしまうのです。
さらにその打撃を受けてダメージを回復するためにタックルしに来た相手を冷静に刈り取るギロチンチョークを始めとした寝技に相手にプレッシャーをかけ続けるハードなファイトを5分5ラウンド続けるスタミナやメンタルもあるとても驚異的なファイターです。
またパトリシオ選手は前後のステップが非常に速いですがその理由はあの背筋を伸ばした独特の構えにあります。RIZINですとジョニー・ケース選手も同じような構えをしていますが背筋を伸ばした構えだと重心がどこの位置にあっても後ろに下がりやすいのです。イメージとしてはアキレス腱を伸ばす運動ですね。とりあえずやってみるとわかりやすいですが後ろ足を伸ばして立つと意外とバックステップしやすいのがわかると思います。嘘だぁと思った方はケース選手とパトリシオ選手の構えを自室で真似してみて下さい。
ここまでパトリシオ選手のスタイルの特徴を書いてきてなんとなく察しの良い方は気づくと思うかもしれませんがパトリシオ選手とクレベル選手のスタイルってすごい噛み合いが良いんですよね。パトリシオ選手有利の噛み合いの良さですが。
スタンドではどの相手からでも1発もらうほど隙のあるクレベル選手に対して階級上の相手でも1発で倒せるパンチを撃てるパトリシオ選手、打撃をもらうとまっすぐ下がる癖のあるクレベル選手に対して前後のステップが非常に強いパトリシオ選手と特に打撃の点では圧倒的荷パトリシオ選手有利なのは揺るぎのない事実です。
それに関してはクレベル陣営も百も承知だと思いますのでクレベル選手側は”組み”に活路を見出すいつものプランになると思いますが、前述したとおりパトリシオ選手はきっちりと組み技が出来る選手でクレベル選手の寝技にビビらずに戦えるメンタルを持っている選手だと思います。
そのためクレベル選手が勝つには”自身が主導権を取れる状態での組みの攻防”をどれだけ回数を重ねられるかが重要だと個人的には思います。
今までのように強い四つ組みや引き込みの攻防だけでは簡単に寝技に行かない相手ですので前戦の牛久戦で見せたスクランブルからの投げ→三角締めや自分から打撃戦で前に出て間合いをつぶしたり、前蹴りやハイキックで意識を散らしてのタックルなどクレベル選手の寝技に移行するまでの手札の枚数が勝敗に直結すると思います。
正直今回の対抗戦で1番RIZIN側が不利なマッチメイクはこのカードだと思います。
まぁ今回のこのカードに関しては何が1番やばいかって自身の団体のチャンピオンであり団体の象徴の選手をここで出すスコット・コーカーもヤバいですし、自身が1度戦ってみたい日本の舞台で試合をするために勝ってもあまりメリットが無いこの試合を受けたパトリシオもそうですし、それを受けて対抗戦を出ることを決めたクレベルも良い意味でヤバいですが、ダントツでヤバいのは対抗戦記者会見前日にパトリシオ戦をクレベルに持ちかけた我らが榊原CEOですね。やばい通り越して怖いです。
⑥ホベルト・サトシ・ソウザvsAJ・マッキー
このカードは来年開催が噂されるBellatorライト級トーナメントで見れるものだと思っていました。大晦日のRIZINで見れることが嬉しさと共にびっくりです。何度も言ってますが勝ってもそこまでメリットもなくルールも環境も違う日本に自身の持つ最大戦力で殴り込みにかかるBellator陣営の心意気にリスペクトです。こういうことにGOサインを言える大人になりたいなとスコット・コーカーを見て思いました。
ホベルト・サトシ・ソウザ選手はその圧倒的な極め力と毎試合MMAに適応していくセンスの高さで現RIZINライト級王者になった選手です。現在のMMAでは珍しい下からの寝技を得意としていてまさに1回でもミスをすればどんな相手でも極めることが出来るとてつもない極め力を持っています。
AJ・マッキー選手は元Bellatorフェザー級王者でBellatorフェザー級GPを当時王者だったパトリシオ・”ピットブル”・フレイレ選手を破って優勝した選手で非UFC選手の中でも最も世界的評価を受けている選手の1人でもあります。
幼少期からレスリング、ボクシング、ムエタイ、空手など様々な格闘技のトレーニングをしていたためバックボーンを感じさせない独特なスタイルとKO、一本どちらも狙えるフィニッシュ力の高さを両立させたハイレベルなMMAを行うファイターです。
やはり特筆すべきはマッキー選手の”構え”と”重心の位置”ですね。
MMAはその構えと重心の位置で選手の得意分野がある程度予想できる競技です。もしこの要素についてもっと詳しく知りたい方はこのnoteでも何度も紹介している”MMA言語化挑戦中”さんのこれらの動画を見ていただければより楽しめますので是非ご覧ください”!
それらを踏まえてマッキー選手の構えを見てみると構えの中心に重心がある現代MMAらしい構えです。ここから全身のバネを活かして左のパンチや蹴り、タックルに飛び膝などでガンガン攻めるのがマッキー選手のスタイルなのですが注目すべきは「構えをほぼ変えずに違和感なくパンチと蹴りを撃てる」ということです。
基本的にMMAにおいては前重心の構えの方がパンチとタックル、後ろ重心の構えの方が蹴りの攻防に強いのですがマッキー選手はどちらともいえない重心の構えでパンチも蹴りもタックルも威力のある攻撃として繰り出すことが出来ます。その理由は恐らく本人のフィジカルやバネの強さもそうですが細かい重心移動によりその攻撃に適した構えに瞬時に切り替えていると個人的には考えています。
このように少なくとも素人からは試合をじっくり見なければ判別が難しいほどの重心移動と構えの変化をマッキー選手は行っているわけです。
これだけの緻密なアクションを状況が動き続ける試合中に当たり前のように出来るのはひとえにマッキー選手が幼いころから様々な格闘技を行っていたからだと思います。前述したように幼いころから身体に染み付くレベルで複数の格闘技を行っていたため競技によって構えを変えることへの慣れやそれによる違和感やズレを自分の感覚にしたためこのような高等技術がさも当たり前に出来るのでしょう。その感覚の切り替えの応用でMMAの場面場面に合わせた構えが出来るのだと思います。
また立ち技だけではなく寝技でも非常に独創的な極めを持っています。
それが顕著に出たのがフェザー級GP準決勝で行われたダリオン・コールドウェル選手との試合です。コールドウェル選手は元Bellatorバンタム級王者であったり堀口恭司選手と2回試合を行っていることからも日本でも知名度が高い選手ですね。NCAAディビジョン1選出、オールアメリカンに2回選ばれるほどのレスリング力とトップキープの強さが特徴です。
そのコールドウェル選手相手に下から首と肩を同時に極めるマッキー・オーチンというとんでもない寝技で一本を獲っているのでまだ試合を見ていない人は良ければ見て下さい!
このように立ち技寝技ともに隙のないBellatorのスーパースターにサトシ選手はどのようにグラウンドに持ち込んで一本を極めるのでしょうか。ここの攻防が勝負のカギだと思います。
基本的にサトシ選手はスタンドでは右のオーバーハンドフックと右のハイキックを多用します。これを相手の顔面に向かって攻撃することで相手の意識を散らすことが出来て隙を見てタックルや引き込みからのグラウンドに移行するという良くも悪くもシンプルなスタイルです。ですがそれでもここまで勝ってきたのはサトシ選手の文字通り1回のチャンスがあれば絶対に一本を獲る異次元の極め力のプレッシャーで相手が削れていくため試合中1回は組みの攻防が出来る=一本を獲れるというわけです。
これがマッキー選手相手に通じるかは正直わかんないんですよね。洒落抜きで1回でも寝技に行けばサトシ選手があっさり極めると思いますが、タックルに合わせてマッキー選手の左ミドルが当たって失神KOする画も想像できるという言い方を変えればどっちにも勝ちの目がある非常に良カードとも言えますね。本当にこの試合は最初の両選手のアクションが勝負を分けると思います。
筆者がこの対抗戦のカードを見たときの第1声は「スマブラかよ!」でした。説明不要かもしれませんが大乱闘スマッシュブラザーズ通称”スマブラ”は任天堂がゲーム会社という垣根を越えて集まってきたゲームキャラクターのオールスターズたちで遊べる夢のようなゲームですが、今回の対抗戦もそんな夢のカードばっかです。
そして今回の記事タイトルに使わせていただいた”灯火の星”というものはそのスマブラ最新作のストーリーモードのタイトルです。内容は深くは書きませんが突如進行してきた敵の攻撃によってカービィ以外のキャラクターが敵に捕らわれてしまいそれを救出しながら冒険をするというものです。
現在の格闘技業界も覇権団体であるUFCの一強状態やユーチューバーによるエキシビションマッチなどRIZINやBellatorといったそれ以外の団体からすれば強大な相手が大勢いる状態です。見る側からすれば多くの選択肢や個性があり非常に楽しませてもらってはいますが、その勝負の鉄火場で戦って生き残るために下手をすれば自身の団体のブランドが破壊されるかもしれない大博打に打って出た両陣営の”覚悟”は計り知れる物ではありません。
それらの覚悟の根幹にあるのは多分PRIDEの影響があると思います。
PRIDEのプロデューサーであった榊原さんや当時のいわゆる旧K-1USAの代表であったスコット・コーカー氏、PRIDEを見て日本で戦いたい夢を持ったパトリシオ選手やマッキー選手を始め多くのファイターたちの覚悟によってこの対抗戦が出来たわけです。
まさにあの頃起きた大きな花火の残り火がそれぞれの心のたいまつにともされた灯火となって20年の時を経てさいたまスーパーアリーナにまた集まってきました。
集まった灯火がまた次の花火となり誰かのたいまつに灯されるような試合になる事を期待しましょう。
⑦おわりに
今回の記事はいかがでしたでしょうか!
このRIZIN.40の視聴やチケット購入は今からでも間に合いますので、下部のリンクから自分の都合の良いPPVを買ってみて下さい!
また対抗戦以外の「RIZIN.40」の試合をまとめた記事も現在鋭意制作中ですのでそちらもお楽しみにしててください!
追記 「RIZIN.40」の試合をまとめた記事が出来上がりました!よろしければ是非そちらも読んでください!
この記事や今までのnoteに対しての感想や意見はドシドシお待ちしていますのでコメントやTwitterで反応や拡散をしていただけるととてもうれしいです!泣いて喜びます!
ここまで読んでいただきありがとうございます!