髪を切ったことに気がつかないから好き
夫は、私が髪を切ったことに気がつかない。
という私の話を聞いた美容師さんが、笑いながら答えた。
「えー、そうなんですか?でも、今回はかなり短くしたから気づくと思いますよ?」
確かに、かなりざっくり切った。床に大量の髪の毛が散らばっているし、そこそこ変化しているような気がする。
が、それでもやっぱり。
「いやぁ、気づかないと思いますよ。一応、髪切ってくると言って家を出たんですけど」
「それなら、絶対気づくじゃないですかぁ」
そう。家を出る時、私は夫に「髪を切ってきます」とハッキリ告げた。夫も「いってらっしゃい」としっかり答えた。
だけど、
「それでも、気づかない可能性がありますね」
ある。多いにある。夫はそれくらい「髪の毛の長さ」に関する変化を見分けることができない。
その代わり、
「ただ、私の髪がツヤツヤになってると美容室に行ったって気づくんです。今回、ツヤツヤにしてもらったんで、それで髪を切ったって気づくと思いますよ」
「そんな判断の仕方、ありますか?笑」
ケラケラと美容師さんが笑っている。冗談だと思われたのかもしれないが、本当の話だ。
いざ、帰宅。結果は?
「ただいまー」
「おかえりー」
家に帰ると、夫はいつもどおり液タブに向かい絵を描いていた。肩をたたいて自分の方を向かせる。
「見て見て。どう?」
「ん?なに?」
右を向き左を向き、NEWヘアースタイルを見てもらう。
まじまじと私の髪型を見て、夫が言った。
「髪の毛、短くなった?あんまり変わったように見えない」
やっぱりだ!あまりに予想通りの答えで笑ってしまう。
「ん?なんで笑うの??」
「いや、やっぱり髪を切ったかどうかわからないんだなぁ、と思って」
「んーーー。でも、髪の毛がツヤツヤだから髪を切りに行ったことはわかるよ?」
全部予想通り
すごい!何から何まで予想通りだ!
あまりの予想通り具合にケラケラ笑ってしまった。
夫は不思議そうな顔をしている。
本当に人の外見に対してこだわりのない人だ。
だから彼は、他者の外見に対する評価を口にしない。誰かに対して「劣化した」とか「ブサイクだ」とか言わない。その人の行動を見て「かわいい」とか「かっこいい」とは言うけれど。
そんな夫の言動を当たり前のように思っていた。でも、様々な人と交流を持つようになって、夫の外見に対する捉え方はなかなか有り難いことなんだな、と思うようになった。
なので、夫が私の髪型の変化に気づかなくても全く構わない。むしろ、そこが好ましい訳で。
・・・けど、少しくらいは気づいてほしいかもしれない。