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4つのテーマから見る幽谷霧子コミュ紹介

 本エントリではアイドルマスター シャイニーカラーズに登場する幽谷霧子(以下、霧子)のコミュを筆者の独断でテーマ別に分類して紹介する。もちろん、これは筆者の個人的な捉え方に過ぎないが、ある切り口から見えてくる霧子コミュの有機的な連関の一端を描写することを試みて、他のプレイヤーの読みに少しでも貢献できればうれしい。


はじめに

 本エントリでは、霧子のコミュに《声と対話》《物語と心》《循環と帰る場所》《救えなさ》という4つの観点から光を当てることにしたい。そのうえで、この4つの観点が有機的に連続しながら霧子の見る風景を形作っているという解釈を提示する。以下では、それぞれのテーマに該当するようなコミュを瞥見していく。一部True Endのコミュには断片的に言及するものの、明確なネタバレは含まない(つもりで書いている)ので、これから霧子のコミュを読むプレイヤーにも参考にしてもらえれば幸いだ。
 なお、本エントリは霧子のコミュの網羅的な紹介にはなっていないことを予め記しておく。どうしても漏れてしまったコミュについては、下記の紹介などを参考にしてほしい。
 霧子のコミュの全体像を見渡そうとする仕事は先達によって既に試みられている。ここでは二つのエントリを紹介させていただく。もちろん、その内容・形式ともに本エントリも大いに参考にさせていただいた。ここに感謝を記したい。

①声と対話

 本テーマは《声と対話》となる。霧子のコミュでは「声」がひとつのキーワードになっているようなものがある。また、それと関連して、霧子は複数のコミュでプロデューサーとの対話それ自体を焦点化するようなふるまいを見せている。その証拠に、霧子とプロデューサーの対話には様々なメディアが使われている。以下では、この観点から該当するコミュを見ていく。

【伝・伝・心・音】(2018/4/30)

『わたしは メールできるの すこしたのしいです』 

「もしもし」より

 霧子の最初期のコミュのひとつ。喉を傷めた霧子が代わりにメールでプロデューサーと会話をする日のコミュがある。メールだと普段より饒舌になる霧子の姿が珍しい。

【霧・音・燦・燦】(2018/11/19)

「たくさんの人たちの……声……」

「きこえる」より

 仕事の傍ら、教会のステンドグラスを見た霧子はそこに「たくさんの人たちの声」を感じていた。霧子曰く、それは「いろんな人のお祈りとか気持ち」のようなものだという。ここでの「声」は比喩的なものだと理解できるが、後述するように、この後のコミュでも「声」というワードが登場する。

「声って……震えて……届くんだなって……」
「……うん」
「『おーい』って……呼んでみます……」
「それが……届いたらいいな……」

「糸とこえ」より

 とある事情から、霧子がプロデューサーと糸電話でやりとりするコミュ。ここではかなり明確に、対話の内容ではなく対話すること、対話ができることそれ自体を焦点化したふるまいが描写されている。

「い、いえ………………ふふ、わたし
小さい頃から……両親が……帰ってくるのが遅くて……
あんまり……ただいまとか……おかえりとかって……」

「ほしをひとまわり」より

 後述する③《循環と帰る場所》と連関するコミュ。霧子が帰る場所を意識する(ひとつの)理由が垣間見える。

【雨・雨・電・電】(2021/6/21)

「このまま……お話しても……いいですか……?」

「100円ことん」より

 雨に降られた霧子は事務所近くの公衆電話からプロデューサーに電話をかける。すぐに迎えに行くから電話を切るよと答えるプロデューサーに、霧子はそのままお話していようと伝える。けれども、二人とも、急に話す内容を忘れてしまい……。

「声が……届いたり……届けられたりする場所が……増えて……」

「だいやる」より

 アイドル事務所に所属して、自分のかけていい電話番号が増えたことに「とっても嬉しい」という霧子。自分の「声」を届けることができる、すなわち対話することのできる他者が増えるということに、とても敏感なのがうかがえる。

【かぜかんむりのこどもたち】(2021/11/10)

「次は、聞き逃さないよ 霧子が言ってること」
「……きっと……先の時間で……待ってます……」
「おーい――――」

「き、れ、ぎれ」より

 強い風が吹いて霧子の発言を聞き逃したプロデューサーに、霧子は風がいたずらして言葉をさらっていってしまったから、その言葉は冬で待っていると答える。これは時間というメディアを介して他者と対話を試みていると言えるだろう。

②物語と心

 《声と対話》に関連するのが、本テーマの《物語と心》となる。霧子は「対話の対象」と見なしたものに「さん」付けをしてその存在を慈しむことがある。①ではプロデューサー相手の対話を見てきたが、霧子の「さん」付けのふるまいは植物や小鳥、風船など普通は対話の相手にならないとされるものに対してまるで心があるかのようになされる。ここには、対話ができるということは決して当たり前ではないというプリミティブな事実を介して、①と②がリンクする構造があるように思われる。以下では、この観点から該当するコミュを見ていく。
 このテーマにかんしては、以下の拙エントリでより踏み込んだ解釈を進めているので、興味のある方は読んでみてほしい(ネタバレを含む)。

W.I.N.G編(2018/4/24)

「ふふ、赤ちゃんさん……来てくださって、ありがとうごさいます……♪」

「マイステージ」より

 会場で泣き出してしまった赤ちゃんに咄嗟の機転で応対する霧子。赤ちゃんは霧子にとって「さん」付けの対象になることが分かる。

【包・帯・組・曲】(2018/4/24)

「痛いのさん……飛んでいけ……!」

「お手当します」より

 霧子の最初期のコミュのひとつ。痛みという感覚的な対象にも霧子は「さん」付けをする余地を見出す。

【白・白・白・祈】(2019/2/28)

『白くて、奇麗で』『でも、それで当然だって思われていて』
『きっと、とっても緊張して降ってくると思います』
『雪はとっても偉いです』
「一番最初に……降りてくる雪に……頑張ったねって……伝えたくて……」
「他のみんなも……きっと励まされたんだよって……」

「そこにいますか、雪」より

 会話の文脈上、「さん」付けはしていないが、霧子が「対話の対象」と見なしたものに深い愛情を注ぐことができる様子が描かれている。

【夕・音・鳴・鳴】(2019/4/19)

「……接着剤……接着剤さんに……来てもらいましょう……」
「破片のカップさんは……長い……旅になると思うから……」

「われたよ」より

 霧子がまさに「さん」付けをする瞬間が描かれているコミュ。気に入っていたカップを割ってしまったプロデューサーだったが、割れてその役割を果たせなくなってしまったそのカップに、霧子は何かを見出す。「旅」というワードは後述する③《循環と帰る場所》とも連関するだろう。

【君・空・我・空】(2020/4/10)

「――ふふふっ……わたし……お誕生会とかの……楽しい風船さんかなって……」

「おでこの空」より

 空高く飛んでいく風船を見て、結華が「悲しくないといいね」と言うと、霧子は自分がそれとは違う見方をしていたと告白する。飛んでいく風船一つにさえ異なる見方ができてしまう。些細だけれど重要な問題の萌芽を伝えている。

「ストーリー・ストーリー」(2020/4/30)

「生きてることは……物語じゃ……ないから…………」

エンディング「家の物語の話」より

 「ストーリー」と「物語」をめぐる霧子の姿勢が顕著に表れたシナリオイベント。霧子にとって「ストーリー」とは何か、「物語」とは何かを考えるうえで絶対に外せないシナリオとなる。過去に考察記事がいくつも書かれているシナリオなので、それらを読むだけでも楽しい。

【琴・禽・空・華】(2021/2/28)

「こうやって……寒くないようにって……思ってもらえて…………
そういう時間が……あるんだったら…………
半分だけ……生きてるのかも…………」

「ha ka」より

 小鳥が埋められた土の墓を前にして話す霧子とプロデューサー。そうやって想い出されている小鳥の存在を霧子は「半分だけ生きてるのかも」という。この一見奇妙な表現にはどのような意図が込められているのだろうか。こちらも霧子の世界観を考えるうえで重要なコミュだと言えるだろう。

Landing Point編(2021/6/11)

「霧ちゃんに……心……ですか……?
――――え、と……ない……っていうか……」

「それはなあに」より

 とある企画で、霧子は自身の会話データを学習した家庭用AIロボット「霧ちゃん」の開発に協力することになる。高度な知能を有するエージェントだったが、企画担当プランナーからの質問に、「霧ちゃんには心は無い」と答える霧子。てっきり逆の答えを得られるものと思っていたプランナーはこれに驚いた様子を見せる。霧子の意図はどのようなものだったのだろうか。続けて霧子の世界観を考えるうえで重要なコミュだろう。

③循環と帰る場所

 《物語と心》に関連するのが、本テーマの《循環と帰る場所》となる。霧子は普通は対話の相手にならないとされるものに対してまるで心があるかのようにふるまうのだった。そうして見出された心はその身体を失っても別の身体として再び旅に出ることができると霧子は考えているようである。また、そうした循環の果てにはそれぞれ帰る場所があるとも。それは霧子がこの世界に向けた祈りなのだろう。ここには、見出された心が世界を循環し、やがては帰る場所に至るというように②と③がリンクする構造があるように思われる。以下では、この観点から該当するコミュを見ていく。

ファン感謝祭編(2019/4/1)

「おーい……恋鐘ちゃん……いってらっしゃい……」
「おーい……摩美々ちゃん……おーい……咲耶さん……おーい……結華ちゃん……いってらっしゃい……」
「そして……みんな……おかえりなさい……」
「はい……お祈り完了です……」

「ふねがでます」より

 帰る場所があるのは霧子によって見出された心に限らない。アンティーカのメンバーにとっての帰る場所がテーマになっているシナリオだとも理解できるだろう。

【菜・菜・輪・舞】(2019/9/10)

「お別れするときは……よかったら……もう一度……ひらいてあげてください……他の紙たちと……また……仲間になれるように……」

「銀の包み紙」より

 きれいな包み紙を捨てるのがもったいないとプロデューサーがぼやくと、霧子は手早くその包み紙で折り紙をしてみせるのだった。役割を終えた包み紙にひとつの終わりを見出すプロデューサーと終わりを見出さない霧子が対比されている。

【縷・縷・屡・来】(2022/8/19)

「そしたら……風になって……歌になって……また……始める……」
「……はは、ええと……誰かに覚えててもらう時間を?」
「はい……誰かを……覚えてる時間も……」
「……そうだったら……いいな……」

「くる」より

 身体が死んでも心は別の姿を伴ってまた新たな始まりを迎える。霧子が考える心が循環していく世界観が顕著に表れている一連のコミュ。【琴・禽・空・華】で登場した小鳥に言及するなど、②《物語と心》との連関も強い。霧子の世界観を考えるうえで重要なコミュだと言えるだろう。

【空・風・明・鳴】(2023/5/31)

「こうやって……はじめまして……って……また来るよ……って……できるなら……嬉しい……ことだから……」

「きてくれたから」より

 長寿番組に一度お試し出演してみないかと打診を受けた霧子が、葉っぱについた雨露と重ねる形で発言する。循環する心に出会うということは、霧子にとって新たな対話の相手に出会うということでもある。この意味で、①《声と対話》との連関もある。

「もしかしたら――――この中の、誰かの帰る先に…………
いるのかもしれない――――霧子が――――……」

「おうちにかえろう」より

 霧子の祈りは誰かの帰る場所に届いているのかもしれないし、届いていないかもしれない。それでも霧子は祈るのだろうか。

【窓・送・巡・歌】(2023/9/11)

「帰って……来たんだね……この窓を……通り抜けて……」

「窓を開ける人」より

「ほこりさん……少しだけ……ゆっくり……したら……好きなところに……いてね……あなたの……行きたい場所に……帰りたい場所に……いてね……」

「ちいさいさん」より

 撮影で、昔のある画家の生家を尋ねることになった霧子。何にもないように見える風景の中に一体何があるのだろうか。現状で、本テーマ《循環と帰る場所》に最も明確に該当する一連のコミュが描かれていると思われる。霧子の世界観を考えるうえで重要なコミュだと言えるだろう。

④救えなさ

 《循環と帰る場所》に関連するのが、本テーマの《救えなさ》となる。霧子が帰る場所を祈るのは、対話の相手の心の安寧のためであろう。しかし、それはあくまで祈りに過ぎない。霧子自身が自覚しているように、霧子にはどうすることもできない事実が世界には厳然と存在している。ここには、《循環と帰る場所》の裏返しとして直視しなければならない目の前の他者の《救えなさ》が際立つという、③と④がリンクする構造があるように思われる。以下では、この観点から該当するコミュを見ていく。

【天・天・白・布】(2019/5/20)

「長く……入院される人もいるので……せめてシーツには……お日さまの匂いを……って……」
「いや……霧子が、お日さまなんだ……」

「おひさまと布」より

  病院でシーツを干す手伝いをしている霧子の姿を見て、プロデューサーは霧子自身が「お日さま」なんだと呟く。けれども、その「お日さま」は、長くつらい思いをする人たちを助けることはできないのかもしれない。

【鱗・鱗・謹・賀】(2020/1/1)

「おばあちゃんは……とっても……幸せになって……
わたしも今……とってもとっても……楽しいお正月をしてて……
でも……きっと……苦しい人や……心細い人も……いて……」

「いこうね」より

 おばあちゃんの嫁入りにお供した着物を着る霧子。心細かったおばあちゃんを応援するためについてきてしまったという魚の柄の意味が語られる。苦しい人に寄り添おうとする霧子の基本的な姿勢が垣間見える。

G.R.A.D.編(2020/6/10)

「お日さま……わたしは……――
じゅうぶんに動けるし……パンも……スープもあります……なのに……
ふかふかのパンを……もらおうとしてるんです……
パンを……もらうべき人は……わたしじゃ……――」

「パン」より

 ひょんなことから、足に大怪我をしてG.R.A.D.出場を断念せざるをえなくなったアイドルを知ってしまった霧子。恵まれた自分の存在と、どうしようもなく苦しい出来事を課されてしまう他者の存在のあいだで葛藤する霧子の姿を描く。一連のコミュ全体が本テーマ《救えなさ》に関連しているように思われる。

「かいぶつのうた」(2022/9/30)

このせかいに、かいぶつはいない

「今回のシナリオイベントについて」より

 アンティーカのメンバーの特に誰がメインとも言えないようなシナリオイベントなので本エントリに分類する。かなり踏み込んだ内容の名シナリオなのでぜひ読んで欲しい。

【犬・猿・雉・霧】(2023/1/10)

「いつか……船が……いっぱいになって……どこかで……閉めなきゃいけなくて……でも……閉められなくて……あの本みたいに……うまく……いかなかったりして……
――――でも……終わりの……ページが……どうなってても……大好きだよ……みんな……乗せたい……アンティーカのお話……」

「開」より

 『銀河の桃太郎』という絵本を読み聞かせることになった霧子。助けるべき者はまだいるのに、どこかで扉を閉めなくてはならない。いつまで扉を開いていればいいのだろうか。イベントSRながら、凄まじい内容の名コミュ。

おわりに

 本エントリではここまで、①《声と対話》、②《物語と心》、③《循環と帰る場所》、④《救えなさ》という4つの観点から霧子のコミュを瞥見してきた。それぞれのテーマが互いに有機的に連関している構造を示したつもりだ。もちろん、一つのテーマに収まらないコミュもあるから、これは絶対的な分類ではない。また、Pアイドルでは最新のマイソングスコレクション【唯・唯・寧・詠】(2024/1/26)を唯一紹介できなかった心残りもある。こちらにかんしてはソロ曲「雪・月・風・花」の歌詞の解釈まで含めると、本エントリの手には余るので別稿を期したい。

【唯・唯・寧・詠】

 また、アンティーカのメンバーとの交流がメインになっているようなコミュも残念ながらほとんど取り上げられていない。心温まるアンティーカのお話は、ぜひ実際のコミュを読んでみてほしい。
 実のところ、本エントリの内容は①→②→③→④へと進むにつれて、よりダークな領域へと踏み込んでいくように構成されている。光の当たる日常の表層だけでなく、より暗い、よりどうしようもなくそこにある現前の世界に向き合う姿勢に、霧子の深い魅力があるように個人的には思われる。本当はすぐ目の前にあるダークな領域をおぼろげに見据えながら、悩み葛藤し、考える霧子の姿に、何かを見ることができるとすれば、それは――――。


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