第1687回 古典の中の鳥
①https://www.kitsune-music.com/entry/2016/05/22/210000より引用の日本画
万葉集、古今新古今、源氏や枕草子など古典の本の中には沢山の野鳥がでてきますが、住んでいる地域によってはみたこともないものもありますし、知らないものも結構多くあると思います。また読物以外にも日本画や文様など色々な所で扱われています。野鳥の姿を実際に思い浮かべることができればもっと古典を楽しめるのではないでしょうか。そこで今回は日本に古来からいる野鳥の中で二羽を選び、また現在のミヤコドリとは違ったユリカモメが正体だという真実を探ります。
②http://www.birdlover.jp/modules/pico/index.php?content_id=2より引用の四季の野鳥のイラスト
古典での四季折々に登場します野鳥は春には、うぐひす(春告鳥、報春鳥=ウグイス)、きぎし(きぎす=キジ)、つばくらめ(つばくら=ツバメ)、ひばり(雲雀、告天子=ヒバリ)など、夏にはう(鵜、烏=ウ)、くひな(水鶏=クイナ≒ひくいな)、さぎ(鷺=総称)、ぬえ(鵺=トラツグミ)、ほととぎす(子規、時鳥、不如帰、杜鵑、恰好『カッコウ』=ホトトギス)、秋はいかるが(いかる、鵤、桑鳲、まめまわし、まめころがし=イカル)、うずら(鶉=ウズラ)、かささぎ(鵲=カササギ)、かり(雁、鴈=がん)、しぎ(鴫〔国字〕)、冬はかも(鴨)、ちどり(千鳥)、つる(鶴、たづ)、にほ(鳰=カイツブリ)、やまどり(山鳥=ヤマドリ)、をし(鴛鴦=オシドリ)、みやこどり(都鳥〔ミヤコドリ〕、百合鴎=ユリカモメ)とあり、みやこどりは冬の野鳥とされます。
③https://rekijin.com/?p=27002より引用の「伊勢物語」のイラスト
在原業平がモデルかといわれるのが、経歴や人物像とともに、彼と関係の深い『伊勢物語』の第九段は東下り章段といわれる有名なお話で、その最後話に色男の在原業平と「都鳥」が登場しています。昔男の一行は、墨田川を渡る途中で見慣れぬ鳥を見つけました。その時の第一印象として「京には見えぬ鳥」とあり、だからこそ同じく見知っていないであろう京都の読者に対して「白き鳥のクチバシと脚と赤き、鴫の大きさなる」と具体的にその野鳥「都鳥」の特徴を示しているのです。
④https://www.birdfan.net/2019/10/18/73978/より引用のミヤコドリ(体長約45㌢)
ミヤコドリ(都鳥)は、チドリ目ミヤコドリ科に分類される鳥類の一種です。④の写真のように、クチバシと足は長くて赤く、身体の上面は黒く、胸から腹、翼に白い部分があります。日本では海岸で越冬します。かつては旅鳥または冬鳥として主に九州に渡来していましたが、近年は東京湾でも定期的に観察されるようになり、小さな群れで行動します。しかし、古典の世界の伊勢物語や古今和歌集に登場する「都鳥」は赤い足は同じですが、白い身体とあるのでミヤコドリと違います。
⑤-2.https://www.birdfan.net/2018/01/19/58944/より引用のユリカモメ(体長約40㌢)
⑤-2.https://rekijin.com/?p=27002より引用の「伊勢物語」のすみだ河での日本画
⑤の写真のユリカモメ(百合鴎)は、やはりミヤコドリと同じく赤いクチバシに赤い足という出立ちは確かにユリカモメと似ています。当時は当たり前ですが、写真や図鑑もなく、人のいい伝えでそれが恐らくミヤコドリということになったのかも知れません。伊勢物語の業平が隅田河にいた水鳥の名前を船頭に訊ねたところ、京の都からきたので「都鳥」と聞き、その水鳥のことを「都鳥」としました。ミヤコドリを知っていたわけではなく本当にユリカモメを「都鳥」と思ってました。