何者でもないオタク、タイ語を学ぶ①
ACTION1:きっかけ
描き手として活動していた時、同ジャンルで活動していた仲間が突然Kポ沼に落っこちた。
それを機にSNSで回ってくる投稿にも韓国語が増え、そうこうしているうちに彼女の投稿にもチラホラ韓国語が混ざるようになった。はじめは恐らく推しの名前であろう単語だけだったのに、段々と短い文章も増え、ハングルの読み書きを練習しているのだと聞いた時には正直驚いた。オタクの熱意とはここまですごいものなのかと。その熱量と努力に心から尊敬したのを覚えている。
そこから数年後、今度はわたし自身がタイ沼に落ちた。
それまで外国人を好きになることはもちろん、海外に興味を持つことすらなかったので正直自分でも驚いたし、なにより推し活がこんなにもままならないこととは思わなかった。
長いオタク人生、ずっと小さな界隈で細々と生きてきたので情報はどれも手を伸ばせば手に入れられる範囲内にあった。アーティストや俳優を推していた経験もある。でも相手は日本人なので流れてくるものを読んだり、知りたいことはあの手この手で探しにいけば大概の情報は手に入れることが出来た。自分で言うのもあれだが情報には強い方だったので、公式から出ない小さなイベントの告知なんかも漏れなく回収出来ていた。なので、タイ沼に来て今までのオタク人生で培ってきた色々が全く通用しないことにめちゃくちゃ動揺してしまった。
だってもうまずSNSが読めない。日本に比べてSNSの更新頻度が高いタイ俳優達はほぼ毎日のように日々の出来事を投稿してくれる。でも、それが読めない。もちろん翻訳機能があるので使えばいい話ではあるのだが、わたしとしては翻訳機云々の話ではなく、推しの投稿が読めないという現実に大きなカルチャーショックを受けてしまった。
いや、外国人を推している以上言語が違うので当たり前のことではあるのだけど、長いオタク人生で初めての経験だったので読めない自分が悔しくてもどかしかった。それに加えて文字が読めない所為で情報も入らない…いや、情報があっても取りに行けない。いま何が起こっているのか、いつどこでなにがあるのかがさっぱり分からない。タイ沼に来て早々情弱の無力さをめちゃくちゃに痛感した。
そして文字が読めないということは、もちろん喋る言葉もわからないので折角IGLをやってくれていても何を話しているのかさっぱりで、唯一分かるのは推しの顔がいいことくらい……。こんなのあまりにも悔しい。
タイ沼に落ちてそんな状態が半年ほど続いた頃、負けず嫌いな性格がここに来て覚悟に変わる。
タイ語が分からないならそれはもうタイ語を勉強するしかないんじゃないかと。文字が読めないなら、聞き取れないなら出来るようになればいいんじゃないかと。そこで気付いた。
なるほど海外沼にいるオタク達がなぜ外国語を学び始めるのか、そうしないと推し活がままならないのだ。こう言う言い方をすると主語がでかくなってしまうので補足をすると、もちろん推すために勉強が必須な訳ではないし、言語を学ばなくても十分推し活は出来ると思う。でもわたしのしたい推し活は出来ない。推しの書いた投稿をGoogle先生に頼らずそのまま推しの言葉で読みたいし、手紙もその人の母国語で送りたい。楽しそうに話している内容がなんなのか自分の耳で聞いて理解したいし、必要な情報は自分で手に入れて確認したい。自分のために勉強が必要だと思った。
とは言え外国語を学んだことがないので果たして何処から手をつけていいやら…。
昔一度だけ「便利そう」という理由だけで英語を勉強してみるかと思い立ち英会話教室の体験に行ったことがある。レッスンを受けるにあたって今どれくらいなにが理解できるのかヒアリングを受けた際、そこの先生に「あなたが英語を学ぶのは赤ちゃんが言葉を覚えるのと同じ。中高の勉強はどうしてたの?」と言われて笑ってしまった。文字通り英語が分からない自覚はあったのだけど、さすがに人から言われるのは面白すぎる。ちなみに中高のテストは選択問題もあるし、なんとなくで乗り切れたんですよ先生。頭のいい学校じゃなかったので。
そんな経験があったのでそれまで触れたこともないタイ語を勉強していけるのか?という気持ちと、どうせ英語もゼロ始まりなら推しの母国語を勉強する方が楽しくない?という気持ちとで取り敢えず始めるだけ始めてみることに。
わたし自身が自覚している特性として、目から得た情報は比較的覚えやすく理解も早い、でも耳から得た情報はものすごく遅いというところがある。例えば知らない場所に初めて行ったとして、一度自分で行ってしまえば確実に場所と道順を覚え、次に行く時は地図なしで辿り着くことができる。一方で音楽を聴く時はそれがどんなに好きな曲だったとしても、サビ部分を覚えるのに10回以上は聞かないと歌詞はもちろんメロディも覚えられない。実際わたしの認知特性を調べてみたら視覚優位者の三次元映像タイプと診断が出てなるほど確かにと納得がいった。なので、まず文字から勉強することにした。
タイ語学習のことを調べていくと文字からやると挫折する、会話から入った方がよいとする情報が多々出てきた。けれど、結論から言うとわたし自身はやっぱり文字から入ってよかった。
聞き取りが弱い自分の特性から考えると、初めて触れる声調の違いや発音、音節の短い言葉が流れるように続くタイ語はめちゃくちゃハードルが高かったから。唯一の救いはタイ語の音はすごく耳馴染みがよいこと。聞き取れはしないけど聞いていてストレスにならないことだった。逆に習得を諦めた英語は何故だか昔から耳馴染みが悪く、洋画を観るときもストレスになるので吹き替えで観ることの方が多かったりする。
そういう経緯もあり、まずはテキストとYouTubeを相棒に独学でタイ文字学習に取り組むことにした。