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カモシカの声で目覚める奥蓼科渋御殿

さて、小谷温泉山田旅館をでた我々は、次なる目的地の奥蓼科温泉郷渋御殿へと馬(ハスラーGターボ)を進めた。

松本街道を南下し、和田峠を駆け上り、美ヶ原をやり過ごし、長門牧場でうまい牛乳とピザを食べ、白樺湖を周回し、八島湿原で汗をながし(暑かった)、縄文の湯を「ここも良かったね」などと言いながら横目でやりすごし、蓼科の湯みち街道をてっぺんまで登りつめると、いよいよ本日の目的宿、渋御殿到着だ。

渋御殿
天下の霊場 渋御殿

八ヶ岳天狗岳の登山口標高1800mの地点にあるので、てっきりこじんまりとした山小屋風建造物をイメージしていたのが、なんのなんのなかなか立派な建物じゃあないか。
すでに4台の車が停まっている。
旅装を解いてオソルオソル門をくぐると、玄関で大将が待ち受けていた。もちろん、こちらが客なので、なにも気後れすることもないのであるが、なにせ、湯治宿ど素人という負い目が心の底にあるものだから、どうしても、あ、お邪魔します。うちら、そんなに暴れたりせず文句も言わず、おとなしく温泉浸からせてもらうだけだもんね、そうだもんねと、小さく小さくなってしまう自分が嫌だ。

廊下をずんずんと案内され、トイレはここ、お風呂はあっち、お部屋ははいここね。とドアを開けると、思わずあっと叫んだほど狭い。

まあ、こんなものだ。

だいたい、どこの温泉宿でも中居さんに案内されて部屋にたどり着くと、窓の外を眺めていい景色ですねえと言ってみたり、綺麗なお部屋ですねとおべんちゃらを言ってみたりして間をとるものだが、部屋いっぱいに既に布団が敷き詰められており、荷物を置くスペースもままならぬ感じで、部屋にワシワシ上がるのも憚られ、部屋の入り口で、「あ、どうも」なんて言い大将に別れを告げたのである。

なにはともあれ、部屋に入ってしまうと、狭いながらも自分たちのアジト感があり、一安心するのである。

こんな写真いらんやろ説あり

部屋の中で圧倒的存在感を示している布団群は、しっかりとした掛け布団のみならず毛布までもしかれており、いくらなんでも毛布なんているのかね?と信州6月末標高1800mを忘れて舐めた会話をしていたのだが、翌朝これでちょうどよかったね。ほんとよね。確か食堂にはストーブもついてたよね。そーだよね。そら奥蓼科だもんな、6月末だし、標高1800mなんだもんな。と妙に納得することになるのだが、この時はまだ半信半疑である。

そんなことはさておいて、いざ温泉へ。
部屋は浴場からほど近く、廊下に出てすぐに強烈な硫黄の匂いが漂いはじめ、嫌が応でもそそられるのである。

浴場の前の洗面所

狭い脱衣場で裸になり、いざ浴室へ入ると、写真で見た憧れのレイアウト&デザイン。その懐かしい、なんとなく郷愁を誘う佇まいなのである。昨日までの小谷温泉山田旅館が大正ロマンであれば、ここは、江戸ロマン風呂なのである(知らんけど)。「あぁ、もう、たまらぬ。全くもって・・・これは、たまらぬ」と速やかに江戸化する私であった。

一番奥が源泉風呂、左が足元湧出し風呂
一番手前の上がり湯
渋御殿・無限ループの設計図

総板張りに、四角くくり抜かれた深めの浴槽に木枠の縁な湯船が2つと少し大きめの浴槽が1つ。合計3つとなるが、これがのちに無限ループとなることに気づく。
奥の四角は、26℃の源泉風呂,ほぼ水。真ん中の四角が31℃の足元湧出しプクプクの湯、大きめの浴槽が約42℃の上がり湯となり、これが無限ループを生み出しているのだ。
25℃のほぼ水風呂にえいやと入りしばらく耐えると、次のぷくぷく湯が妙に暖かく感じ、しかもこのプクプクがよい加減に尻をこそばしてくれる快感はなんともいえず、こりゃたまらぬ、なんとも言えぬの江戸っ子化しやすい環境となっている。
これはツレがいなければ、おそらく何時間でも入っていられるしそうしていただろう。
途中から入ってきたおじいさんは、もう何十年も前から夫婦で通っていた。ところが最近妻はここのトイレがどうも苦手とこなくなったので、自分一人で神奈川県からくるのだよとおっしゃっておられた。
そうここが重要なポイントかもしれない。
流石に標高1800m。トイレが一箇所はぽっとん和式。一箇所は洋式だが簡易水洗。レバーを押すと、水が流れると言うより真っ白な泡がオケツにつくんじゃないかというくらい立ち上がる。湧き上がる真夏の入道雲トイレだ。

トイレに関して言えば、椎名誠が世界で最も苦労したトイレがフィリピンの野糞だと書いている。
なにせ、構えている自分の周りを数匹の野犬が野糞を狙って喉を鳴らしている、そこに石を投げつけて追い払いながら事を成し遂げなければならないのだ!と。それは厳しい。
それに比べれば、ここは全然安全だし、入道雲トイレは北アルプスの山小屋のトイレに比べれば超近代的ハイテクトイレなのだ。
だが、ここで和式ぽっとんしか味わってない人はなおさら、入道雲方式ですら嫌な人は嫌なのだろうなと理解はできる。
そこさえクリアできれば、最高の湯治場じゃないだろうか?
確か渋御殿は選ばれた人しか入れない名湯のようなフレーズを何かで読んだことがあるが、この入道雲ハードルと鯉料理という2大ハードルのせいでそう言われるのかもしれないなどと密かに思う秋の夕暮れなのであった。

夕飯。右端が鯉の洗い。

なんだか温泉レポートというよりトイレレポートみたいになったが、いずれにせよ、小谷温泉から渋御殿は我が探泉隊にとって濃い濃い3日間であった。
最後に書いておきたいのが、渋の目覚めは初めて聞くヤギのようなニホンカモシカの鳴き声である。
大将に聞くと、その辺までよく来てるらしい。秘湯だわさ。

翌日は、安心の都会型温泉宿、蓼科瀧の湯にて今回のシメとする予定である。9時すぎると前の道路が工事通行止めとなるので、17時まで出られないので、早めに出立してねと言われていそいそと旅立つ快晴の奥蓼科温泉郷であった。

奥蓼科温泉郷 渋御殿

温泉分析書

この情報は2022.11末日現在の情報です。詳細は宿へお問いあわせください。





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