令【8】
7歳離れた兄さんとは、物心ついた頃から仲が悪かった。
子ども心に兄に嫌われているのが分かっていたからあえてこっちから歩み寄ることもなく、それがますます兄弟仲を冷ややかにしていった。
次男という立場上、重圧は低く、周りから甘やかされて育ち、そのくせ何でも適当にこなして、ほどほどの結果を残す要領の良さも嫌われた。
俺は兄さんのひたむきに努力する一面が嫌いじゃなかったけれど、そこを褒めても嫌味かと罵られて終わるのでいつしか褒めることをしなくなり、尊敬の気持ちも消えていった。
すでに父親の傍で会社経営を叩き込まれている兄さんは、まだ学生でのらりくらりと生活している俺よりもあきらかに立場が上なのに、俺なんかを警戒して潰しにきているあたり、器の小さな男だと思うようにもなった。
俺は俺で好きにやってるんだから、兄さんも好きにやればいい。
そう思う反面、ごく稀に家で顔を会わせるとこっちが気まずい思いをする。
「品のない女と関わって家の品位を落とすな」
だの、
「髪の色を戻せ、最低限の身なりで外に出ろ」
だの。
俺の顔を見るたびにめんどくさい話しかしないからだ。
「品のある女って、例えば?兄さんの婚約者のあの地味なおばさんみたいな?あれはマジ、俺は無理」
「令!」
・・・息が詰まる。
そばに来るなと罵るくせに、才を隠せと命じるくせに。
目の届かない場所で自由に振る舞うことも結局は咎められる。
だから俺は、何も考えていない、単純に可愛い女の子が好きだ。
俺の家と、家の金と、見た目の良さにわかりやすく寄ってきてくれて、俺を好きだと言ってくれるバカな女の子がただ可愛い。
口うるさい女や正論で生きている女や、ひとりの男を律儀に慕って、羽目も外さないクソ真面目な正統派のお嬢さまも、そんなものにはまったく興味がなかったんだよ。
マジで。
あの、クソむかつくお嬢さまに会うまでは。