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あるべき場所にあるべきものがあるということ
入院してすぐの頃、主治医のA先生から言われていたことが2つあった。
1つは、これから1か月くらいを目処にリハビリ病院へ転院できるように身体の治療をすすめながら、この病院でできるリハビリを徐々に始めていくこと、もう1つは、外している頭蓋骨の一部を元の場所に戻すための再手術をすることだった。
でも、この頭蓋骨を戻す手術をしなければ、転院そのものができないし、そもそも脳の腫れが引かなくては、骨を戻したくても戻せない。
なのに、ソレはずっとそこに居座ったままちっともびくともしなくて、いつになったら再手術できるのか全然分からなかった。
頭の上のまっしろなガーゼの下で見え隠れしている細い管は、透明で少しだけ赤い液でいつも満たされていた。
この ”液” がなくなったら、手術ができるのだろうか?
喋ることができるようになってからの主人は、 ”まともなこと” と ”まともじゃないこと” を交互に言っては、それを何度も何度も、そして、毎日毎日繰り返すようになった。
そのことに、たぶん本人は気づいてない。
「ちーちゃんの入学式に出るために俺はちゃんと前もって年休をとってたのに、この身体じゃ出られなくて、ホントに悔しいんだよ。なんでこんなタイミングでこんなことになってるんだよ…。」と言って号泣する。
( ↑ まとも )
「来週、○○君に同行してお客さんのところに行かなきゃいけなかったんだ…。大丈夫かな。○○君が困ってなきゃいんだけど…。」って、人や仕事の心配ができるようになったし、日付とかもちゃんと覚えてるんだ。
( ↑ まとも )
「たしかにさー、今は身体は動かないけどさぁ、頭はしっかり回ってるし、こんなに元気なんだから、出社しようと思えば俺はいつだって出社できるんだからさー、もういい加減、退院させてくれよ。仕事に行かせてくれよ。」って、さっきちーちゃんの入学式に出られないって自分で言ってたよね?
( ↑ まともじゃない )
「A先生!先生のゴッドハンドで俺の頭をちょいちょいっと治してくれよ!先生なら簡単に治せるんだろ?」と、超がつくほど真面目に、その言葉を信じて疑うことのない様で、言ってのける。
( ↑ いろんな意味でまともじゃない )
巻き戻しては、もう一度最初から再生するのを繰り返して、すっかり伸びきってしまったカセットテープが、壊れかけたカセットデッキからエンドレスにタレ流されている。
そこそこの高級ホテルなんじゃないかってくらいの差額ベッド代が、気が気じゃなくって、一刻も早く転院するために再手術をしてもらいたくて、管の中のほんのり赤い色を見ては、胃がキリキリとした。
そして、それとは別に、再手術を待ち望むもうひとりのわたしがいた。
「そうそう、どうしてなのかよく分からないんですけど、骨を戻す手術をすると、しゃんとする患者さんがいるんです。」
片手で拝むようなポーズを取りながら、今朝も主人は回診に来た先生に話しかける。
「Aせんせー、ホントに頼むよー!!!先生のゴッドハンドでさー、ちょちょっと俺を治してよ。先生ならできるでしょ? ゴッドハンドもってるんだからさー。ホンットォーーーッに!頼むからお願いします、先生っ!!!」
「あっ、私、Dです。A先生に言っときますね!」
これは、あるべき場所にあるべきものがないからなんだろうか?
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