見出し画像

睡眠か昏睡か

いつもならわたしよりも早く起きている主人がまだ大きないびきをかいて眠っている。深い深い深呼吸しているようないびき。
娘を起こして朝ごはんの準備をする。もう6時半を過ぎたのに一向に起きる気配がない。台所から「何時だと思ってるの!」と声を荒げるわたしに、娘が「起きてー!起きてー!」と加勢してくれる。
でも、起きない。起きる気配がまったくない。

6時40分を回って「ご飯の前にシャワーくらいあびてもらわなきゃ」って思いながら、主人の部屋を覗くと、壁とベッドに挟まれて床でまるで丸太のようになって寝ている姿が見えた。ベッドから落っこちていた。
わたしは「もうーっ!」って猛烈に怒りながら、部屋に入って主人の身体をゆすったけれど、やっぱり主人はいびきをかいている。冷たい、身体が異様に冷たい。
変な感じがして、ドラマの1シーンのように何度も頬をはたいたけれど、それでも主人は深くて長いいびきをかきながら、目覚めようとしない。
なにより、身体以上に、その顔の冷たさに驚いた。

でも、こんな時でも人間、いえ、わたしは「そんなことない、あるはずない」と自分の予感を打ち消して、救急車を呼ぶかどうか迷いに迷う。

ハタと正気になって 1 1 9 のボタンを押してみる。

それでも「そんなことはない、あるはずない、きっと電話口で『酔っぱらって寝ているだけだから、ご自身でなんとかしてください!』って怒られるにきまっている」だなんて思いながら、説明する。

「早くっ!そんなこといいから、住所を言ってください!!!」

受話器を持つ手が震えてがたがし始める。「ここって何番地だっけ?」と頭が真っ白になって、テレビボードの上にずっと置きっぱなしだった年賀状を見つけて、住所を読む。


いいなと思ったら応援しよう!

高次な脳機能のしょうがい読本
最後まで読んでくださってありがとうございます💗 まだまだ書き始めたばかりの初心者ですが、これからの歩みを見守っていただけるとはげみになります。