回復期リハビリテーション病院を選ぶって?
それから、Tさんは書類の束の中から取り出した冊子を机に置いた。
主人の置かれている ”医療保険制度” 的な状況の説明が続いた。
へぇーとか、なるほどーとか、そうなんですねー…を駆使して応戦してみたものの、どの説明もやっぱりわたしのアタマにはすっと入ってこなかった。
”そういうものなんだ!” と、自分に言い聞かせて、聞き続けることしかできなかった。
言われた専門用語をノートにメモした。ぐちゃぐちゃに。
ただ1つだけ、こんなわたしにもよく理解できたことは、この病院に入院していられるのは、医療保険制度上はあと1か月くらいで、それまでにどの回復期リハビリテーション病院に転院するかを決めて、実際に転院しなくてはならない、ということだった。
GW明けくらいか…。
今は脳が浮腫んでいてるから骨を戻せない、だから、それまではずーっと入院していていいんだと思ってた。そりゃ、お金の問題はあるけど…。
MRI撮影をして浮腫みが解消されたかどうか確認するって、B先生は言ってたけど、その日程もまだ決まっていない。
看護師さんにも何度も聞いたけど、まだ決まらないんですよと言われるばかりだった。
そう考えると、思っていた以上に猶予は短い。
「このリストの中から、ご家族さまともよくご相談になって、行きたい病院を決めてください。決めていただいたら、私の方でその病院にコンタクトして転院に向けた調整を行っていきます。」
さっきの冊子が差し出された。
どこかのwebサイトを印刷して、ホッチキスで止められたA4用紙の束だった。
「Tさんのおすすめの病院、ありますか?」
「ご主人の場合、頭のお怪我ですから、そういったところのリハビリに強い病院を選ぶと良いと思います。あとは、ご自宅からの通いやすさですかね…。これからも奥さまやご家族さまはそちらの病院にお見舞いに行かれるでしょう?通いやすさは大切かなと思います。」
パラぽらとめくると、これはわたしたちの住む ”すべての”地域のリストだったことが分かった。市区町村レベルではない。
えぇぇーーー!なにー?これ…。
こんなにたくさんの中から、どの病院を選ぶの?
頭の怪我の後のリハビリに強いって、そもそも頭の怪我の後のリハビリって何んだろ?そのリハビリをしっかりやってくれる病院かどうかってどうすれば分かるの?
病院の選択を間違えるとマズイよね???
「あの…、その脳の怪我の後のリハビリに強い病院って、この中の、具体的にどの病院なんですか?」
「私から”ここ”というのを申し上げるのは、ちょっと難しいんですが……。そうですねぇ……例えば、U病院さんとか、Oリハビリテーション病院さんとか…、比較的最近できたばかりの新しい病院ですけど、Sリハビリセンターさんとかは、規模の大きい病院ですよ。」
Tさんはそう言って、それ以上踏み込んだ話にはならなかった。
難しいってどういう意味だろ?
あくまでも中立の立場でいなくちゃいけないってこと?
それとも、専門外でおすすめは分からないってこと?
やっぱり大きい病院の方が安心かな?
二の足を踏んでいる場合じゃないのに、部屋の外から聞こえる、他のソーシャルワーカーさんたちの忙しそうな声や電話が鳴る音を遠くに聞きながら、難しいって言ってるんだから、これ以上しつこく聞いてはダメな気がして、ぐっと飲みこむ。
「Oリハビリテーション病院って、わたしでもどこかで聞いたことあります。有名な病院ですよね?」
「そうですね、確かに。みなさん、聞きなじみがあると思います。」
Oリハビリテーション病院って、やっぱり費用も高いのかな?
これからしばらく働けないんだろうから、治療費や入院費の高い病院には入れない…。いや、高くても、無理してでも入った方がいいよね??
でも、そもそも、ベッドに空きがなければ入れないよね???
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
何から手を付けようか?
何を調べようか?誰に相談しようか?
頭の中がごちゃごちゃして、また、心臓がばくばくしてきた。
リストの中のたくさんの小さい文字たちが、白い用紙にたかる黒い蟻のように見えた。最初はお行儀よく整列していたのに、最後は散り散りとなって、どこかへ行ってしまった。
考えることができない。アタマが全然まとまらない。
最後まで読んでくださってありがとうございます💗 まだまだ書き始めたばかりの初心者ですが、これからの歩みを見守っていただけるとはげみになります。