執刀医との面談
執刀医はあの日わたしに「同意書にサインをしてください」と仰ったあの先生だった(以下、B先生)。厳しい顔つきと少し近寄りがたいオーラ。
それが第一印象だったし、今日もそれに変わりはなかった。なんだか怖い先生だった。この頃のわたしのこころが勝手にそう思わせていただけなのかもしれない。
看護師さんにお願いしてB先生と面談の機会を作っていただく。
未来をはっきり示してもらいたかったから。
最悪の話だったとしてもけりを付けてしまいたかった。これからどうなってしまうのか、期待と不安が振り子のようにあっちへいったりこっちへいったりしていて、宙ぶらりんのまま過ごすのがとてつもなくつらかった。
「まず、これから1か月を目処にリハビリ病院へ転院できるように治療していきます。今は脳がむくんでいるので頭蓋骨を外しています。それを戻す手術を終えてから転院することになります。」
そうか、このまま傷が治って、そのまま家に帰るってことにはならないんだ。そうだよね、そんなに簡単な話じゃないよね。
予想が裏切られることを期待しているわたしがいることに、あっさりと気づいた。さっきまでの勇ましい気持ちが瞬く間にしわしわになった。
「あと1~2週間後くらいを目処にICUから一般病棟に移予定です。」
「それから、コーラの話…、今は、脳の機能がかなり低下していて、他人を思いやれるような状態ではありません。自分のことで精一杯。最重症度で入院してきて、ここまで回復できているのは早いと思います。良いことだと思ってもらっていいです。あと1時間ここに到着するのが遅かったら…。命があるだけでもすごいことなんです。」
最重症度なんだ、と思って、またあたまをごつんとやられて正気に戻る。
そうかもしれない、先生の仰るとおりだと、あたまでは理解できる。
でも、家族を気遣う気持ちがなくなっていて、本当に”良いこと”だって思っていいんだろうか。
「もっともっと長い目でみてください。」
もっともっとっていったいどれくらいなのか。それを教えて欲しくて、面談を申し込んだのに…。
でも、本当は誰かに教えてもらわなくてもちゃんと分かっていた話で、それ以上はなにも聞けなくなった。
振り子はまだあっちへいったりこっちへいったりして動きを止めることはない。