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入学式と眠ったままのお父さん
いよいよ入学式の日がきた。
ちーちゃんにとっては一生に一度の、小学校の入学式。
真新しくて肩幅の合っていないぶかぶかの制服に、目深に校帽をかぶり、ピンクがかった赤い、ピカピカのランドセルを背負って、お父さんの代わりのばぁばと、そして、お母さんのわたしと手をつないで、晴れがましく校門をくぐった。
ちーちゃんはお父さんのことが大好きで、心の中ではすごく心配していただろうけど、その気持ちを口に出して何か言うことは一度もなかった。
むしろ「おかあさん、おうえんしているよ!」と、毎日のように手紙を書いてくれていた。
お父さんだけじゃなくて、お母さんまで応援してくれていた。
今日の入学式にお父さんが出られないことも、一番好きなばぁばが代わりに出てくれることで、帳消しにしてくれたようだった。
校長先生のお話、在校生からのご挨拶、1年生の担任の先生の紹介。
目まぐるしく入学式は執り行われた。
最後に、クラスに分かれて写真撮影。
ちーちゃんはばぁばとお母さんがちゃんといるのかどうか、後ろを何度も振り返って確認していた。わたしたちを見つけて、目が合って、安心してにっこりとした。
ここにお父さんがいてくれたらどんなによかっただろう。
たったそれだけで、もっともっとすごくすごくうれしくなったよね。
あんなに小さかったちーちゃんが、こんなに頼もしくなったことをうれしく思う気持ちと、残念で残念でくやしい気持ちと、ちーちゃんに申し訳ない気持ちとで、頭の中がもうこれ以上ないってくらいぐちゃぐちゃだった。
泣かないでいるのがやっとだった。
とんでもない顔をしてわたしは写真に写ってしまったんじゃないだろうか。
保育園のころからのお友達や、そのお母さんやお父さんの姿を見つけては、こんなにおめでたい場面で、どんなふうに言い訳すればいいのか分からなくなって、誰にも気が付いていないふりをして、ちーちゃんとばぁばを急かしながら、逃げるように小学校を後にした。
ちーちゃんのランドセル姿をお父さんに早く見せるために、急いで病院へ向わなければならないから…。お父さんを安心させてあげなくちゃいけないんだ。
筋の通らないへんてこな理由を作って、わたし自身にそう言い聞かせた。
主人は眠っていた。
「おとうさーーん!」
「お父さん、来たよ。入学式、終わったよ。」
深く眠っていて、起きる様子がなかった。
ちーちゃんはやさしく「おきなくてもだいじょうぶ!」と言った。
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