「冥」という漢字
「冥」という漢字を知る
漢字の成り立ちは次の六種類に分類される。象形・指示・会意・形声・転注・仮借、これらをまとめて「六書」と呼ぶ。
各規則についての説明は割愛するが、「冥」という漢字はこのうちの「会意」と「形声」という造字法によって作られたと言われている。(漢字ペディア、新漢語林調べ)
「会意」とは「象形」や「指示」によって作られた文字(例えば「牛」「木」(象形)や「上」「本」(指示)など)を基本的な単位として組み合わせ、複合的な意味を作る方法である。
例:「武」⇒「戈」+「止」
「戈」は古代中国で用いられた代表的な武器の象形
「止」は人間の足が二つ並ぶさまを象った文字、元は「人間の足」を示す語から転じて「進む」の意味を持っていた「形声」とは「会意」同様に複数の基本的な文字を組み合わせて意味を作る方法であるが、うち一つが発音を表す要素として組み込まれている。
例:「桜」⇒「木」+「嬰」
「木」は樹木であることを示す
「嬰」には「まとう・めぐらす」の意味があるが、ここでは「オウ」という音の要素として使われている
「鸚鵡」の「鸚」も同様に「形声」から成っている。
※ただし、実際には中国での発音と日本での音読みは必ずしも同じではないため、「形声」であっても分解した音の要素が日本語の発音と異なる場合もある。
初めて見るような漢字をなんとなく読めたり、字義が分ったりするのはこの「形声」と「会意」に分類される文字であるからで、また「履歴」を「ふくれき」と誤読してしまうのは、語の成り立ちを誤解してしまっていることに起因していると言える。
「冥」を作る
「冥」という漢字を「会意」と「形声」の規則に従って解体していくと次のような三つの文字に分けられる。
漢字ペディアおよび手元にある新漢語林を調べてみたところ、前者では「会意」、後者では「形声」として語の成り立ちを説明している。
「冖」(ベキ) ⇒「冥」の音を担う部分であるが、この部分自体に「覆い」の意味がある
「日」 ⇒「ひ、明かり」の意(漢字ペディア)/もとは「口」で場所を示す意(新漢語林)
「六」 ⇒「両手」の意である「廾」(キョウ)が変化したもの
上記のように分けられた「冥」という字を「会意」の規則に則り解釈してみると、「ひかり/明かりを両手で覆う」というような意味がとれる。
そこから「冥い」や「冥々」「冥暗」といった光の届かないイメージの語や、目に見えないことから転じて神仏の加護をイメージする「冥加」「冥土」「冥利」などの熟語が作られたと思われる。
「冥」が含まれる漢字
漢字辞典onlineで「冥」という字を検索すると「冥を含む漢字」という項目に23の漢字が挙げられている。そのうち漢字検定1級までの範囲に含まれるのはわずか5文字だけである(因みに漢検1級の範囲は約6000字、常用漢字は約2000字)。残りの18漢字は用例さえ載っていない。
その中でも面白い熟語や慣用句をいくつか紹介したい。
冥冥の裡――「知らず知らずの間」
使っていきたい表現ではある。溟渤――「果てしなく広い海」
「氵」からしか海要素が得られないのに「大海」を表せるのが良い。以て瞑すべし――「物事が上手くいったから、もう死んでもかまわないという気持ち」
婉曲表現はいくつあってもいい。幎冒――「顔隠しで死者の顔を覆う。また、その物」
葬儀の場でうんちくを披露するのは憚られるので一生使わない言葉。
また夏目漱石『草枕』には次のような一節がある。
難しすぎる。
「氤氳」は天地の気が盛んなさま、生気・活力が旺盛なさま。「瞑氛」は暗い気配、幽玄な気配。「纏綿」はまとわりつく、絡みつくこと。
熟語の意味が分かっても、この一節を解するのは容易ではない。
「冥」で遊んでみよう
無限の六道冥
「冥」という漢字を調べる嚆矢となったVtuberの六道冥(Youtube/Twitter)を初めて目にしたときからやってみたかったことがある。
なんと「冥」という漢字の下半分から新たな「六道冥」を生み出すことができるのだ!!
このアイデアを形にできたので、私は以て瞑すべしといった気持ちです!!
身近にある榠櫨の木
上で示した漢字以外にも「冥」の左に「木」をつけると「榠」という字になる。これは植物の「榠櫨(カリン/メイサ)」に用いられる漢字で通常は「花梨」と表記する。
冥が枝持ちゃ榠櫨の榠
ということでパペター六道冥と榠櫨の木のツーショットを撮りに行ってきました。
最後に今回漢字を調べるにあたって参考となった種本を紹介しておきます。
『漢字道楽』阿辻哲次著
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