年の瀬に街クラブだけが集まる大会を見ながら、多様性に飛んだ人材を育てることの意義について、ちょっと真剣に考えてみた、というお話
2024年最後のサッカー観戦は、まさかのJ-GREENでした(笑)。まさかこんな展開になるとは思いませんでした。高校サッカーを見に行かないとなるとインカレかKSLカップか、もしくは関西府県リーグ決勝大会が最後になることがほとんどです。実際、2023年の最終戦は関西府県の京都府警vs FC和歌山、2022年の最終戦は栃木のカンセキスタジアム栃木でのインカレ準決勝、桐蔭横浜大学vs関西学院大学でした。試合後、負けた関学に「もっと最初からエンジン掛けてたら勝ってただろ!」と、思わず一緒に見ていた知人と「反省会」をした試合でした(笑)。
そして、今年2024年のラストゲームになったのは、以前から見に行きたいと思っていた、日本クラブユースサッカー大会Town Club CUPとなりました。
12/28 日本クラブユースサッカー大会(U-18) Town Club CUP@J-GREEN 横河武蔵野FC U-18 6-0 FCグラシア相模原、FC. SOUTHERN U-18 0-4 室蘭FC U-18
いつもの年ならこの日が仕事納めのことが多い、12月28日。2024年は土曜日だったのでお休みの人も多かったのではないでしょうか。高校サッカーはこの日が開会式と開幕戦。多くのサッカーファンやユースヤクザな人たちはそっちに行ったはずですが、変わり者の私は同日に行われたインカレの決勝か、J-GREENで毎年この時期に行われているTown Club CUPのどちらかを見に行く予定にしていました。で、前の記事でも少しだけ触れていますがインカレの決勝は、関西から2週連続栃木に行くのもどうなの?いうことで回避(笑)、もう一つの候補であるJ-GREENに行くことにしました。なんていう後ろ向きな動機ではなく、実はこの大会に横河武蔵野FCのU-18が出場しているので、今年最後の武蔵野推しというのも兼ねて、年末最後の観戦にここを選んだのです。
とその前に、まずはこの大会の「Town Club CUP」の「Town Club」とは何かについてお話ししないといけないでしょう。「Town Club」とは、Jクラブのユースではないクラブユースチームのことです。「街クラブ」という表現でも言われることもあるので、もしかしたらそっちの方が馴染みのある方が多いかもしれませんね。
この大会の正式名称は「日本クラブユースサッカー大会(U-18)Town Club CUP」です。そうです、毎年7月下旬から8月上旬にかけて行われている、日本クラブユースサッカー大会と同系列の大会となります。一昨年まで真夏の最中、全国屈指の厳しい暑さを誇る群馬で主に開催されている、クラ選ことクラブユースサッカーと同じ扱いになります。そんなクラ選については、こんな記事があります。まだ読んでない方はこちらまで…
しかしここで疑問が。夏にクラブユースの日本一を決めたのに、なんでまた別の大会をわざわざやるの?という点です。それはクラ選に纏わる「深い闇」についてお話ししないといけません…(それほど深くもないんですけどね…笑)
夏の「いわゆる」クラ選に出場するチームのほとんどというか、ほぼ全てがJクラブのユースチームです。各地域ごとに予選を行っているにもかかわらず、毎年ほぼ全ての出場チームがJユースで占められます。なぜかというと、全国のU-18のクラブユースチームの大半がJユースで、その他のクラブユースとの実力差が全国的にどんどん開いているからです。まだ全国的にJクラブが展開されてない時代でも、J以外のクラブユースがクラ選に出ることはやはり稀でした。しかしJクラブが60チームとなり、ほぼ全国に散らばってしまった今では、どの地区においてもJクラブが優勢を占めるようになりました。一番登録チーム数の少ないのは北海道ですが、ここは昔から札幌の一強状態が続いています。尤も複数チーム出場した年がほぼなく、私が記憶している限りでは2チーム出たのは2017年のみ。その年の2チーム目は今は活動休止しているサンクくりやまFCでした。ちなみにトップチームは現在、B TOP北海道として活動しています。そんなサンクくりやまが奮闘する姿も、実はちゃんと現場で押さえております。そういえばその試合、背中越しで札幌のU-18が試合をしていたにもかかわらず「前半だけこっち見ていい?」と言って、前半だけサンクくりやまの試合を見ていました(笑)
そんな思い出話はいいとして(笑)、まだ2017年とかくらいまではJクラブ以外のクラブユースがクラ選に出ることもあったのです。実際、この年は他にも東北の塩釜FCユースと関西のセンアーノ神戸ユースが出場しました。その当時の関西は一時期だけ枠が増えたおかげで、Jクラブ以外に1枠振り分けられていたので、J以外のクラブが出ることになりましたが、その後再び4枠となり関西の枠は全てJクラブで占められました。そして今年はとうとう「J1の4クラブ以外」の奈良クラブのユースが初出場を果たしました。でも結局、出たのはやはりJクラブでしたね…。
関東もごく稀に三菱養和ユースが出ることもありましたが、今は後発のJクラブユースも実力をつけてきたので勝てなくなってきたのです。それは塩釜FCユースのいる東北も同じです。以前は仙台ユースくらいしか強くなかったのが、山形ユースや秋田U-18も力をつけてきて、さらに近年ではいわきFCユースも予選の上位に入るようになりました。そうなると、塩釜FCのようなJクラブ以外のクラブユースは、予選を勝ち抜いて全国大会に出場することがほぼ叶わなくなってしまいました。
でも、そんな「街クラブ」のユースチームでプレーする子たちは、なぜそこでプレーすることになったのでしょうか?いろいろ理由はあるとは思います。Jクラブのセレクションに落ちたとか、近所にJクラブがなかった、あるいは通ってる高校にサッカー部がなかった、もしくは弱くてレベルや目標にそぐわない、とかでしょうか。しかし、一番大きな要因と思われるのは、U-15時代からそのクラブにいた、ということかもしれません。街クラブといえどもU-18のチームだけしかないクラブはほぼ存在しないので、U-15やあるいはそれよりも小さい頃から通ったクラブでプレーを続けたい、一緒にプレーしてきた仲間とU-18年代でも一緒にやりたい、といった子も多いかもしれませんね。
しかし街クラブの方が、知名度も低ければ指導方法や練習環境もJクラブとは劣ります。Jクラブなら、厳しいセレクションで選ばれた選手しかいないので当然ながらレベルは高いでしょう。それはプレイヤー人口が圧倒的に多いであろう首都圏や関西圏においても同様で、一昔前なら三菱養和などの街クラブでもそこそこのレベルの子たちが集まりましたが、今ではそれも難しくなってきました。それが街クラブのユースチームの現状と言えるでしょう。
そんな事態を重く見たクラブユース連盟は、Jクラブを除いたクラブユースを対象とした全国大会を2017年に開催することにしたのです。初年度は石川県七尾市、翌年は前橋フットボールセンター、その翌年の2019年は茨城県つくば市で開催され、コロナ禍となった2020年からは現在の堺市にあるJ-GREENでの開催となり、開催時期も第3回から12月下旬の時期に固定されるようになりました。ただ、やはり絶対的な知名度の低さと、高校選手権と日程が被っていることもあり、よほどのユースヤクザじゃない限りは知らない大会となってしまっています。そんな大会ですが、今回は横河武蔵野サポとしてこっそりと(笑)見に行ってきました。
この日は気温も低かったのですが、特に風が強く観戦には非常に厳しい気候でした。そうでなくても特にこの時期のJ-GREENは、西側に海のある埋め立て地にあるので、この日のように西からの強風だと、直撃した上にその風が吹き抜けていくのです。時より「本日は大変風が強いので、お手元の荷物などが風で飛ばされないように注意してください」という場内放送が流れるくらい、本当に風が強かったです。特に午後の試合は、1週間前の栃木並みの突風でした。選手もそうですが、見ている側もかなり厳しい環境での試合でした(笑)
朝10時からの第1試合が、この日のお目当ての横河武蔵野U-18の試合。対戦相手は同じ関東のFCグラシア相模原というチームとの試合でした。
実はこの日の対戦相手であるFCグラシア相模原というクラブは、不勉強ながらこの日初めて知ったクラブでした。調べてみたところ、2013年に発足したクラブでジュニアから社会人チームであるトップ、さらにはその上のシニアに当たるO-40のチームまで幅広く活動されているようです。主な練習場の横山公園ってたしか、FC相模原のU-18が公式戦をやったりするところですよね?
まだ短いながらも地道に活動されている街クラブのグラシア相模原と、トップチームがJFLで長年活動している横河武蔵野とでは、やはり歴史の差と言いますか知名度の差とでも言いましょうか、両者の実力差は明らかでした。横河武蔵野は特に左サイドからの攻撃がよく、前半から何度もいい形を作っていました。40分ハーフの中盤の15分、左からのCKが流れたところを再度後ろから縦に展開。11番高崎からのラストパスを14番百瀬のシュートが決まり、横河武蔵野が先制します。さらに畳み掛ける横河武蔵野は、20分にやはり左サイドから突破した7番小木曽がそのままゴールを決めて早くも2点リードします。前半のうちにさらにもう1点追加した横河武蔵野が3-0でリードして前半を終えます。
後半も同様の展開が続きますが、後半開始に4人交代させた影響か、後半はやや攻撃に手詰まるシーンが増えました。それでも75分に4点目、その4分後には百瀬のこの日2ゴール目、80+3分にもさらに追加点を決めた横河武蔵野が6-0で勝利。翌日に5位をかけて同じく関東の東急SレイエスFC U-18と戦います。一方、負けたFCグラシア相模原は7位をかけてブリオベッカ浦安 U-18と戦うことになりました。
ピッチを移動しての第2試合は、13位決定戦という16チーム参加の最下位グループの順位決めを行うカテゴリーの試合です。
北信越代表のFC.SOUTHERN U-18は金沢市にあるクラブです。詳しい情報がなかなか出てこなかったのですが、クラブのHPを見る限り少なくとも2013年からは活動をされているようです。ここのU-15出身者が何人も、県内の強豪校の星稜や遊学館などに入学しているので、U-15のクラブとしての実績の方が高そうです。そうした強豪校に入れなかったU-15所属だった子たちや、高校のサッカー部に入らなかった子たちを積極的に受け入れているチームなのかもしれませんね。
そのFC.SOUTHERNの対戦相手は北海道代表の室蘭FC U-18です。こちらも調べたのですが、こちらもなかなかに情報に乏しくて詳細が掴めてないのですが、チームが活動し始めたのは2023年からなのは間違いないです。というのも、その年からクラブユースの北海道予選に参加しているからです。それ以外の情報はさすがに解りかねますので、それくらいにしておきたいと思います。
そんな謎だらけの両チーム。試合が始まって1分も経たないうちに室蘭FCが先制します。その後も室蘭FCがボールを支配する時間帯が長く続き、11分と18分に室蘭FCがさらに得点を重ねていきます。対するFC.SOUTHERNはというと、前半のほとんどの時間を守備に要して攻撃の糸口すら作れない状態。それでもなんとか相手陣内に攻め入ったかと思っても、チャンスらしいチャンスは1、2回あったかどうかでしま。そのまま前半を3-0と室蘭FCリードで終えます。
後半もその流れは変わらませんでした。始まってすぐの43分に室蘭FCが4点目を決めましたが、その後の室蘭FCは攻め疲れたのか、それとも横河武蔵野同様、後半は大幅にメンバーを変えたからか、攻撃が雑になりゴールは生まれませんでした。FC.SOUTHERNも前半ほどは押されっぱなしではなかったものの、ゴールを決められるほどの決定機までは作れない内容。後半の途中からは、停滞した空気感の中での試合はそのまま室蘭FCが4-0で勝利。勝った室蘭FCは翌日の13位決定戦で福尾の春日イーグルスFC U-18と、負けたFC.SOUTHERNは15位決定戦に回り、広島のFCツネイシU-18とそれぞれ対戦することになりました。
クラブユースと高体連との圧倒的な差
今回見た2試合4チーム以外にも、この大会には全国から16の街クラブのU-18チームが集まりました。さらにそれ以外にも関東、関西を中心に全国には多くの街クラブが存在、活動しています。しかし、一つ下の世代のU-15と比べるとその数は圧倒的に少ないです。以前に佐川滋賀のユースチームがなぜないのか?という疑問に、使えるグラウンドが足りないという回答が返ってきたということをお話しました。さらにU-18まで指導するだけの人材が足りないということもあってか、現状ではU-18の街クラブの数はU-15ほどはありません。地元の学校に通う小中学年代と違い、県内はおろか全国各地の学校に通える高校年代において、わざわざ実力の伴わない地元の高校や街クラブに入るより、全国レベルの強豪校に入った方がいいと考える子たちも多いでしょう。少子化の問題も重なって、特に地方で街クラブを立ち上げても、果たして採算が取れるか?いつまで続けられるか分からないのが現実ではないでしょうか。
では、なぜ少子化で子供の数が少なくなっているにもかかわらず、U-15の街クラブが全国的に多く存在するのか?それはおそらく、中学校の部活では専門的な指導を受けられるかどうかが微妙だからではないでしょうか。中学校の部活動は基本的に全員どこかの部活に所属しないといけないのと同時に、学校の教師が顧問と監督を務めることがほとんどです。そうすると、必ずしもその競技をやったことのない教師が監督を務めることも多くなります。それでも専門的な知識を習得しようとする人もいますが、みんながみんなそうではありません。そういう監督の元では、いくらサッカーが上手くなりないと思っても、効果的な指導を受けることはほぼ不可能と言えるでしょう。
しかし街クラブの指導者に、全くの素人という人はほぼ皆無です。JFAのコーチングライセンスを取得している指導者も多く、より専門的な指導を受けられる環境にあると言えるでしょう。成長に一番適している「ゴールデン世代」と言われているU-15年代に、より専門的な指導を受けられるかどうかが将来に大きく作用することを考えると、中学校の部活動よりも地元の街クラブを選択するのも無理はないと思われます。逆にU-18年代だと、強豪校でなくても県内で上位に入るくらいの私学であれば、専門的な指導者からの指導を受けることが出来るので、わざわざ街クラブのU-18チームを選択する子は少なくなるのでしょう。
さらにもっと深刻なのは、クラブユースと高体連の全国大会の圧倒的な知名度の差です。埼玉スタジアムで行われた、クラブと高体連との日本一を決める高円宮杯プレミアリーグのファイナルと、国立競技場で行われた高校サッカー選手権の決勝との観客数を見ても、プレミアリーグファイナルの3394人に対して、高校選手権の決勝は58347人とその差は歴然です。クラブユース大会の決勝に至っては1223人です(これは平日の夜開催に加えて、雷雨の影響で試合自体の開始も遅れ、さらに前半だけというトラブル連発だったのであまり参考にはなりませんが…)。
さらに「高校時代は高円宮杯プレミアリーグでプレーしてました」というより「高校時代に選手権に出ました」と言った方が、世間的な評価が高かったりもします。たとえそれが、試合に全く出ない控えだったとしても、そっちの方が高い評価になることも多いでしょう。そんな世間の評価が、同じ高校3年間を小さい頃から慣れ親しんだクラブユースでサッカーを続けるか、それとも高校選手権を目指すために強豪校に行ってサッカーを続けるかという判断を下す際に、Jクラブのそれも強い一部のユースチームを除いては、選手権に出られる可能性のある(高い)高校を選ぶ子が大半を占めるのも無理はないでしょう。保護者としてもその方が賢明と考える人が大多数だと思われます。
その逆に、中学校の全国大会が高校のそれよりも圧倒的に知名度が低いのも、U-15のクラブの方が圧倒的に数が多く、選手も集まりやすくなっている要因の一つかもしれません。近年では石川の星稜や静岡学園、青森山田や宮崎の日章学園などのサッカー強豪校が、中高6年一貫指導を取り入れ始めたこともあり、全中の価値も高くなりつつあります。それでも、それらの強豪校において中学からの内部進学者以外にその地域、あるいは全国各地のJクラブや街クラブのU-15出身者が部員やスタメン、ベンチメンバーの多くを占めています。また、地方の公立高校でさえ中学校の部活ではなくクラブのU-15チームに所属していた子たちが多くを占めます。それくらいU-15年代においてはクラブユースの存在は大きく、選手の育成に大きく貢献していると言えます。部活動やJクラブだけが選手の育成を担っているわけではないのです。
街クラブが育成を担う意義とは
そんな苦境に立つ街クラブのU-18チームですが、それでも街クラブの存在が重要だからこそ、街クラブだけを集めたこのような大会をクラブユース連盟が開催しているのです。エリートの集まるJクラブや一部の強豪校だけでは、日本のサッカー界で活躍する人材の全てを育てることは出来ないでしょう。また、学生時代のサッカーは一部のエリートだけのものではなく、そうではない大多数の人たちにも等しく存在するものです。それは高校の部活動も同じことです。学生の時にやっていた競技スポーツには何らかの愛着を覚える人も多いはずです。そうしたエリート以外の「普通のU-18サッカープレイヤー」こそ、大人になってサッカーの裾野を拡げていくことになるからです。
そうは言っても高校サッカーはともかく、街クラブのユースの裾野はなかなか拡がりません。高校サッカーの存在があまりにも大きすぎるので、高校年代においてJクラブ以外のクラブでサッカーを続ける選手はごく僅かしかいません。ここが中学年代までとの大きな差と言えるでしょう。
では、どうして街クラブでU-18チームに選手を集めるのは難しいのでしょうか?その鍵となるのは、クラブへの愛着ではないでしょうか。
U-18まで持っている街クラブの多くは、社会人のトップチームやその上のシニアチームまで活動しています。特に歴史の長いクラブのほとんどはそうです。この大会に出場したクラブの中でも、横河武蔵野FCやブリオベッカ浦安、三菱養和や枚方FCといったクラブは、創設して軽く30〜40年は経っています。それくらいの歴史があるとお父さんやお母さん、あるいは親戚がそのクラブのU-15やU-18でサッカーをやっていたという子たちが、その地域にある一定数存在するでしょう。そうすると、その子供も同じクラブに入ってサッカーをやる、あるいはそのクラブに入れるというケースも増えてくるでしょう。保護者がそのクラブに愛着があればあるのも、そういう傾向が強くなるでしょう。そのクラブで3年間サッカーを続けると、高校生になってそんなに強くもない近所の高校でサッカーを続けるくらいなら、今のクラブのU-18に入ってサッカーを続けてもいいんじゃないかな?と感じる子や、保護者もいるでしょう。それくらいまでならないと、街クラブのユースに選手が集まることはないでしょう。後発のJクラブにしても、長年Jリーグにいればいるほど思い入れの強いサポーターが増えて、そうした熱狂的でクラブに愛着のある親の元に生まれた子たちが、そうした後発のJクラブユースに選手が入ってり、集まったりするでしょう。
とはいえ、歴史の浅い街クラブにそこまでの愛着を持ってもらうということは相当困難な話です。では、どうすればいいのか?すでにトップチーム、社会人チームの存在するクラブが、今度は育成チームを新たに立ち上げるのです。そうすれば、そのクラブに愛着を持ったお父さん、お母さん世代が、子供をそのクラブの育成チームに我が子を入れようとするかもしれません。
Jリーグに入るための条件の中には、U-18、U-15以下の育成アカデミーの活動が必須となっています。後発クラブの中には、参入時にまだ完全に整備されていないこともありますが、それでも数年後にはU-18以下の育成アカデミーが全て揃っています。そうすることで、若年層の選手育成にもクラブとして責任を持たせようとしています。さらに今では、各クラブにホームグロウン制度という、クラブのアカデミー出身選手をある一定数保持しないといけないというルールがあります。それに抵触すると、登録選手を減らされるといったペナルティがあるくらい厳格なルールです。後発クラブにはやや厳しいルールではありますが、そこまでしてまでJリーグとしてはアカデミーを通じた選手育成にも力を入れているのです。
そうしたJリーグの取り組みが30年も続くと大したもので、現在JFLに所属するクラブのうち、完全な企業チームのミネベアミツミと企業クラブであるマルヤスFC岡崎、それと今年J3から降格したいわてグルージャ盛岡とY.S.C.C.を除く12チームでU-18以下の育成アカデミーチームを全て所持しているクラブが8チームあります(ヴィアティン三重は今年の4月にU-18チームを立ち上げる予定)。また、Honda FCや横河武蔵野FCといった企業チームやクラブも含まれていますし、Honda FCに至っては一度U-18チームを解散したのですが、数年後に再び復活させたくらいです。それほど育成に力を入れないといけない、というクラブとしての強い思いがあったのでしょう。その他のクラブも、今年昇格した飛鳥FC以外は少なくともU-15までは揃えているので、いずれはU-18チームも活動を開始するかと思われます。
さらにそれより下のカテゴリーを見ても、昨年の地域チャンピオンリーグに出場したクラブでは、ヴェロスクロノス都農と福山シティFCの2クラブが現在U-18まで保持しています(といっても福山シティは同じ福山市内の英数学館高校サッカー部として活動しているので、クラブのユースと言えるかは別にして…)。その他のクラブでも、決勝ラウンドまで残ったVONDS市原と福井ユナイテッド、それにFC.ISE-SHIMAはU-15まで持っています。さらに、関東リーグの東京23FCや南葛SC、ジョイフル本田つくばFC、関西の神戸FC1970などもU-18のチームを持っていますし、都道府県リーグでもU-18以下の育成チームを持っているクラブはあります。徐々にその数は増えつつあるように思います。それらのクラブの育成チームはが必ずしも競技性の高い育成を行なっているとは限りません。まだまだそんなレベルではないところがほとんどだと思います。エリート集団のJクラブとは一線を画した存在と言えるのではないでしょうか。
また、文部科学省主導による部活動の民間委託(表現が地域移行に変更されましたね)への改革推進期間の最終年となる2025年。部活動の地域委託を実施する自治体が増えてきました。その受け皿となるのはおそらくJクラブのような競技性の高いチームではなく、以前にもお話したYONAGO GENKI SCのような、どちらかというと競技を楽しむことを重視した多くの街クラブや総合スポーツクラブになるでしょう。
街クラブが人材をピックアップしなければいけない地域も…
しかし、北海道や四国といった全体的に人口の少ない地方では、そもそもクラブ自体が少ないのが現状です。それでも四国は各県にJクラブがあり、U-18チームが存在するので高体連以外の選択肢もまだあります。しかし北海道はJクラブは北海道コンサドーレ札幌の一つだけしかありません。さらにU-18を持つ街クラブも登録上はいくつかありますが、実際にクラブユースの予選に出場したのは2年連続で室蘭FCのみです。その前の2022年は旭川実業の1年生主体のクラブチームの旭実FCだけ。その前の年は旭実FCと帯北FC U-18という、帯広北高校と何らかの関係がありそうな、そんな2チームが参加しただけでした。
旭実FCは旭川実業サッカー部の部員で構成されているため、実質的に高体連のチームと言えるでしょう。なので、純然な街クラブチームではありません。もう一つの帯北FCですが、2021年こそ活動していたようですが翌年からは活動している形跡がありません。しかしU-15は現在も活動しています。そもそも帯広北は高校のみで中学校が存在しないことから、U-15は「帯広北」とあるものの外部からの選手で活動し、U-18は旭実FCと同様1年生やサブメンバー主体のチーム構成だったのかもしれません。近年、サッカーの強豪校が中学年代以下のクラブを運営するケースが増えています。それらのクラブは選手の育成はもちろん、小さい頃からクラブの母体となる高校に少しでも馴染みを持ってもらうことで、高校進学の進路選択の際に向けての「囲い込み」を行う意図があるのかもしれません。もしかすると、そうした意図でこの帯北FC U-15も運営されているのかもしれません。しかしそんなU-15年代とは違い、U-18年代ではサッカー部と帯北FCとで被ってしまうので、U-18がここ数年活動していないのも、わざわざクラブ登録してまで別チームとして活動する必要もない(あるいは、それほどの部員数もいない)ということになったのでしょう。つまり、現在北海道において街クラブとして活動しているのは室蘭FCしかいないのです。
北海道出身で、アジア各国を渡り歩きながら44歳までプロとしてのキャリアを積み上げ、現在はクラーク記念国際高校札幌大通キャンパスサッカー部の監督を務める伊藤壇氏が選手権終了後、選手権やインハイでなかなか勝ち上がれない北海道勢について「高体連に携わる者として責任を感じる」というコメントをされていました。かつては室蘭大谷が選手権、インターハイで準優勝したこともありましたが、近年はその室蘭大谷(現在の北海道大谷室蘭)は全国大会にすら出場できなくなっています。その代わりに全国大会に出場するようになった、北海や札幌大谷、札幌第一などの札幌勢や、旭川実業、帯広北といった他地区の学校が、かつての室蘭大谷のように全国で上位に勝ち上がることもほぼありません。つまり北海道全体の高校サッカー界の低迷と地盤沈下が深刻な問題となっているのです。
さらに2017年よりJ1で活躍した北海道コンサドーレ札幌が昨年J2に降格。ますます北海道サッカー界の地盤沈下が顕著になる可能性があります。そんな現状に危機感を抱いているのは何も伊藤壇だけではなく、北海道のサッカー界全体の総意と言えるのではないでしょうか。そんな北海道サッカー界の総意を示すかのように、2023年から活動を開始した室蘭FCには室蘭市周辺はもちろん、同じ道南の苫小牧や札幌、中には十勝地方や釧路、中標津といった道東から、専門的で質の高い指導を受けたいという高い志を持った子たちが、地元を離れて室蘭までやってきて室蘭FCでプレーしているのです。かつて、北海道のサッカーを牽引し続けてきた室蘭の地に、北海道全土の優秀な人材を受け入れることのできる街クラブが誕生したのは、低迷する北海道のサッカー界に一筋の光を与える存在になるかもしれません。
街クラブの発展が多様な人材を産み出す
その一方で、この日室蘭FCと対戦した金沢の街クラブ、FC.SOUTHERNは室蘭FCのように強度のある、競技性の高い人材を育てるというよりも、サッカーを通じて競技の楽しさや人としての成長を促すことをメインにしているように思います。Jクラブの育成チームはどうしても競技性が高くなり、トップチームへの人材供給といったエリートの育成を目指すチームが多くなります。高校進学時にそんなエリート路線から漏れ落ちた子たち、そもそもそこにも辿り着かなかった多くの子たちが、高体連や街クラブのチームに流れていきます。その子たちが今後サッカーとどう向き合うのかをじっくり考える、そんな場所も必要ではないでしょうか。そんなクラブがあってもいいのではないでしょうか。そうした環境の元で育った子たちがやがて大人になり、子供ができた時に自らが経験したサッカーの楽しさを伝える。そんな人材を育むことも街クラブの重要な一つの役目ではないでしょうか。そんなクラブの存在、そしてそういうクラブが増えていくこと、そうした多様性のあるさまざまな選択肢があることこそ、多種多様な目的を持つことができる街クラブが育成を担う意義ではないかと思うのです。
今、JFLや地域リーグからJリーグ入りを目指すたくさんのクラブの全てがJリーグ入り出来るとは限りません。また、今JリーグにいるクラブもこれからずっとJクラブであり続けるわけではありません。残念ながら今年JFLに降格したいわてグルージャ盛岡とY.S.C.C.は「Jクラブではなくなった」のです。来年以降も同じように「Jクラブではなくなる」クラブが発生するでしょう。もちろんトップチームがJクラブだった方がいいでしょうが、仮にそうでなくても地域のサッカーに貢献できるクラブが全国各地、大都市から小さな街まであちこちに生まれることが望ましいでしょう。そして、それらのクラブがそのような高尚な意志と誇りを持って、地域のサッカーのために育成チームの活動も続けてもらいたいのです。そして、トップチームを持たない街クラブやまだU-18のチームまで持ってないJリーグなどを目指す街クラブも同様に、さまざまなサッカーに関われる、それらの人材を育ててもらいたいです。それこそが、今後のサッカー界を明るくしていくのでしょうから…