秋田のスタジアム問題のその後、そしてその陰に潜む数々の「スタジアム問題予備軍」について、ちょっとだけ触れてみた、というお話(9/24追記あり)

以前お話ししました、各地の新スタジアム建設計画についてのあれこれ。そのうち、秋田のケースで大きな動きがありましたので、ざっとお伝えしようと思います。

秋田の新スタジアム計画は、ブラウブリッツ秋田が2017年にJ3で優勝したものの、J2規格に沿ったスタジアムがなかったため昇格を断念したことでスタートしました。
当初は、現在のホームスタジアムであるソユーズスタジアムのある八橋運動公園内に新設するのが望ましいという流れでした。しかし、秋田県と秋田市との間で意見の相違があり、それからはお互いに立案するもそれを双方が否定し合うという、関係者ならずともなんとも言いがたい議論が繰り広げられていました。さらに「新スタジアム建設は民間主導で」という姿勢を特に秋田県が誇示したこと、クラブや秋田の財界の単独では資金を調達できないということから、計画はさらにこじれてしまいました。
そこで秋田市から、市内郊外にある卸売市場の建て替えで生まれる用地にスタジアムを建設する案を提示しますが、スタジアムの着工が可能となるのは卸売市場の建て替えが完了した2030年以降と、Jリーグ側から提示された暫定措置の期限の2024年内の着工は無理となり、この案では来年のJ1ライセンスの発効はおろか、ライセンス剥奪される可能性が出てきました。

というのが、ざっとこれまでの経緯です。さらに詳しいことを知りたい、もう一度確認したいという方はアーカイブを置いておきますので、ぜひそちらをご確認ください!

そんな停滞感のあった新スタジアム問題について、大きな動きがあったのは今年の5月でした。
最初に秋田市が出した八橋運動公園の施設内に新設する案。実は八橋運動公園内に新設する場合、現在ある第2球技場などの施設の敷地に建設することとなり、それらの施設の代替地の選定が必要とされたのですが、その代替地の選定に行き詰まり計画が頓挫したという経緯がありました。
さらに断念したもう一つの理由というのが、地元ラグビー協会が新スタジアムのサッカーとの共用に根強い反対意見があったからとされていたのです。しかし、今年に入ってラグビー協会などの関係者に再度確認したところ、ラグビー協会はスタジアムの共用について概ね賛成で、むしろ早期のスタジアム建設を望んでいるとの回答があったというのです。さらに「新スタジアムは市の中心地にある八橋じゃないと、観光振興という面でもメリットがない」とも話しており、秋田市側が当初発表した話とは全く違う内容であることが明らかになったのでした。

上記の記事にもありますがラグビー関係者からは「市の担当者の対応は、最初から市が立案した外旭川地区の卸売市場整備計画と抱き合わせにすることを念頭に、協会側の意見を否定する方向に意図的に変えられたのではないか?という疑念が湧いてきた」とあります。ラグビー関係者からすれば、明らかに不利益を被るような判断を下されたのですから、そう感じるのも無理はないでしょう。
この主張の食い違いを受けて、新たに秋田市が新スタジアム計画の立案を行い、一度は見送られた八橋運動公園の案が再浮上。代替施設の問題次第ではありますが、おそらく八橋の案で纏まりそうな予感がします。

八橋の案が再浮上したのには、実はもう一つ理由があります。今までは10000人以上収容のスタジアムを整備すること、とされていましたが、その要件が緩和。各地域の人口規模や経済規模などを考慮して5000人以上でもOKになったからです。10000人規模のスタジアムのままでは、八橋運動公園の敷地内に建設するのは非常に困難だったのですが、その緩和要件を受けて八橋でも敷地が十分に確保できるとして、秋田市は八橋運動公園の案を再提示することになったのです。ブラウブリッツ秋田にしても、ラグビー関係者にしても、さらに今まで八橋に慣れ親しんできたサポーターにしても、地元の財界関係者にしても、みんなが望んでいた案がこの最終盤に来て現実味を帯びてきました。

ここまで聞くと、一番みんなが納得できそうなプランに収まりそうで「めでたしめでたし」といきたいところですが、実はそうでもないのです。というのも、今回秋田市から「公設で整備することも検討」との発表があったのです。秋田のスタジアム問題は、秋田県も秋田市も共に自らでは整備せずに民間主導、つまりブラウブリッツ秋田が主導で整備するならば県も市も1/3づつ補助しましょう、というスタンスを貫いていました。今回、秋田市が公設での整備を示唆したことで、一番お金を出し渋っていた秋田県がどう動くのか?また、約90億とも言われる建設費用を本当に秋田市単独で賄えるのか?という新たな問題が浮上するのではないでしょうか。

それについて、つい先日行われた秋田県と秋田市、それとブラウブリッツ秋田との協議会で、秋田市が敷地を確保するのであれば秋田県は支援をするということ、公設の場合の民間資金の活用法について検討する、ということが改めて確認されました。ブラウブリッツ秋田側も仮に公設での建設となった場合でも、一部の負担は当然のことという見解を示しました。実際にどれくらい掛かるか分かりませんが、来年のライセンス交付の期限の9月末の直前の土壇場になって、ようやく秋田のスタジアム問題に明るい兆しが見えてきそうです。

しかし、まだ正式に建設が決まったわけではありませんし、ましてや来年のライセンスの交付も決まったわけではありません。主体となる事業者は誰がやるのか?ただでさえ多額の費用が掛かるうえに、昨今の建設資材の高騰などでどれだけ予算が上振れしてしまうのか?それを誰が負担するのか?まだまだ余談は許しませんが、それでも希望の光が見えてきただけでもかなり進展したと言えるでしょう。

秋田がメドが付きそう。次は…

秋田がうまくいくと次は…、といきたいところですが、なかなかそうはうまくいかないようです。鹿児島ユナイテッドはJ1ライセンス申請期限までに申請書を提出したものの、肝心の建設計画についてはまた予定地から再検討という話と共に、現在のホームスタジアムである白波スタジアムの改修ではダメなのか?といったスタジアム建設以前の話が持ち上がったりと、完全に振り出しに戻った模様です。このままでは秋田と違い、J1ライセンスの交付はほぼ無理でしょう。さすがにこれで交付してしまうと、この先なんでもありになってしまいます。一度ダメになった秋田と、そうでない鹿児島との周囲の温度差の違いとでも言いましょうか、そういったものを感じてしまいます。

さらにライセンス交付の条件に「新設の球技専用スタジアム」のあるのに、この場に及んで「改修でもOK?」みたいな話を出されると、Jリーグサイドとしてはもう何の救済措置も出せないと思います。リーグとしては、抜け道となるような前例は作りたくないでしょうから、鹿児島ユナイテッドへのライセンス交付は難しいと言わざるを得ないでしょう。
ただ、じゃあ今年が無理でも来年は…というと、それもおそらく難しいでしょう。秋田も鹿児島同様、県と市との縄張り争いの様相でしたが、ブラウブリッツ側が民間主導でも建設するということを強く主張したことと、県が秋田市に完全に投げてしまったことで、紆余曲折ありながらも何とかここまで漕ぎつけました。でも鹿児島はどうも、県も市もお互いの足の引っ張り合いをしているように見えてしまいます。かといって鹿児島ユナイテッドが自ら動く姿勢を見せているかと言うと、そういう動きも見られません。これでは一向に先には進まないでしょう。新スタジアムの建設は、残念ながらしばらくの間は難しいかもしれませんね…
今後、ライセンス交付のために新スタジアムを建設せざるを得ないクラブと自治体は、この2つの例をしっかりと捉えて、どのように動けばいいか?どんな準備をしないといけないのか?といったことを学んで、そして活かしてもらいたいです。

そして、次に訪れるのは「J2中堅クラブのスタジアム問題」?

ここ数年でJリーグに参入したクラブが新設したスタジアムはどこも、まずはJ3の規格に沿ったスタンドも最小限に抑えたものを作り、クラブの実力がついて上のカテゴリーが見えて来たら、スタンドを増設するというコンセプトで作られたものが多いです。八戸のプライフーズスタジアムや宮崎のいちご宮崎新富サッカー場などは、まさにそんな感じのスタジアムでした。なので今後問題となりそうなのは、鹿児島のようなスタジアム要件が緩かった頃に参入したJクラブではないでしょうか。

昨年、ヴァンフォーレ甲府がJ2クラブ2チーム目のACL参戦を果たしました。本来なら、ホームアンドアウェーのホームゲームを地元甲府のJITリサイクルイングスタジアムこと、小瀬陸上競技場でホームゲームを開催するはずでしたが、小瀬がACLの開催スタジアム要件を満たしていなかったので、仕方なくホームゲームを全て新国立競技場で開催しました。実は私もそのうち1試合見たのですが、それはそれで個人的にはありとは思いましたが、やはりサポーターからすれば地元甲府でグループリーグ3試合+決勝トーナメント1試合の計4試合を見たかったでしょう。それもこれも、長年Jリーグがクラブへの負担を避けるためにスタジアム要件を緩くし続けた代償と言えるかもしれません。

実はこれが初の新国立競技場でした(笑)
広告も気合い入ってます!
あ〜、ホントに国際試合なんだね…(笑)
遅刻して着いた頃にはすでに1-1でした。
これが甲府2点目のシーン。
前半は2-1と甲府リードで折り返し。
私みたいな物好きが沢山いたとしても、
この人数は大したもんですよ。
これは甲府の3点目。起死回生の同点ゴールです。
85分、交代で入った宮崎のゴールでした。
このゴールがあったから、次のステージに行けたのです…
Ventforet Kofu 3
Melbourne City FC 3
実に見応えのあった試合でした…

現在、J2に所属するクラブのうち、J1昇格時にスタジアムの大幅な改善を求められそうなところは秋田と鹿児島と甲府以外では、山形(NDソフトスタジアム山形)、水戸(ケーズデンキスタジアム水戸)、群馬(正田醤油スタジアム群馬)、いわき(ハワイアンズスタジアムいわき)、徳島(鳴門・大塚スポーツパークポカリスエットスタジアム)、愛媛(ニンジニアスタジアム)、岡山(シティライトスタジアム)、山口(維新みらいふスタジアム)、熊本(えがお健康スタジアム)あたりではないでしょうか。
そのうち、山形は先月に今のスタジアムのすぐ隣に新しい球技専用スタジアムの建設を発表しました。しかもこのスタジアム、クラブ自らが資本を出して建設するというから驚きです。モンテディオ山形といえば一時期、ヴァンフォーレ甲府と並んでお金のないクラブとして有名でした。そんな山形が、まさか約150億ものスタジアムを自前で作るようになるとはビックリでした。でも、裏を返せばコツコツと地道にクラブを成長させていけば、自前でスタジアムを建てられるにまで大きなクラブになれるということです。

山形がJリーグに参入したのは、J2創設者年度の1999年。足掛け25年と時間は掛かりましたが、ここまで来れるということを証明したモンテディオ山形というクラブの存在は、他のクラブへの大きな励みになるでしょう。
とはいえ、事はなかなかそううまく進まないもので、甲府も小瀬総合運動公園内に球技専用スタジアム建設の話は2017年に出ていますが、そこから先に進んでいないのが現状です。

J2オリジナルメンバークラブで、J1経験のあるヴァンフォーレ甲府でさえこの現実です。いかに山形が凄いかという事です。

とはいえ、球技専用スタジアムではない陸上競技場だからといって必ずしも「ダメ」というわけではありません。
アルビレックス新潟のホームスタジアムである、デンカビックスワンスタジアムは陸上競技場ですが、設計当時から通常の陸上競技場建設のセオリーである「全客席からトラックが見渡せる構造」を取らず、特に上層階の前方席ではトラックをすべて見渡せません。その代わり、ピッチ内は見やすい設計になっています。つまりこの陸上競技場は、陸上競技場といいながら陸上競技よりサッカーの方が見やすいという、実に特殊な作りになっています。新潟のホームゲームの日数と陸上競技の大きな大会の日数とを比べれば、どちらがより儲かるかは一目瞭然です。作るからには出来るだけ掛かった費用を一刻も早くペイしたい、そのためにはどうすればいいかを追求した、そんな見事な戦略が見事にはまったと言えるのではないでしょうか。
そして「トラックが見渡せない」と言いつつ、ここ最近は陸上競技のビッグイベントである全日本選手権やインカレなども開催されています。設計当時は「陸上を捨てた」はずなのに、逆に「陸上からも必要とされている」現実を見るとこの英断は、先見性があったと思わざるを得ないです。

このように、なにも新しいスタジアムが全て球技専用でなくてもいいんです。サッカーが見やすい、一体感を感じられて盛り上がる、そしてサポーターみんなから愛される…。そんなスタジアムであれば、専スタだろうと陸競だろうと、別にどっちでもいいと思うのです。ただ、Jのライセンス交付時にスタジアムの特記要項が付いてしまうと、球技専用の新スタジアム建設を余儀なくされます。そうならないようにするには、たとえ今のスタジアムが陸上競技場であってもJリーグを納得させられるような改修案を出せればいいし、もっと言えば改修してしまえばいいのです。
巷では「Jリーグのスタジアムはピッチから近い専スタ以外認められない」という「専スタ至上主義」な方もおられますが、そこは多様性があってもいいと思います。ヨーロッパだって全部が全部、専スタかというとそうではないと思うのです。専スタはいい、陸競はダメ、という固定概念は一度捨てて、むしろ「サッカーが見やすいスタジアム」という観点で評価した方が賢明だと思います。どこもかしこもそんなすぐに新設のスタジアムなんて作れる訳ないのですから、いずれ詰んでしまうクラブや自治体が出てきます。そうならないためにも、そんな緩い縛りにしておいた方がいいんじゃないの?と、秋田のスタジアム問題の進展を見ながら、そう思ったのでした。

最後に秋田の話が出たので、今回のスタジアムとは全く関係ない話を…

ちょうど1年前、秋田は仁賀保まで行って見て来た北都銀行サッカー部。残念ながら県リーグに合格してしまいました。文中で「県リーグに降格してしまったら、もしかしたらチーム自体なくなってしまうのではないか?」と書きましたが、どうやら秋田県リーグでまだ活動を続けているようです。良かったです。また東北リーグに戻って来てもらいたいと、そう思ったのでした…

【追記】また、つい先日ですがJリーグのチェアマンの野々村芳和氏が秋田を訪問。ブラウブリッツ秋田やその他の関係者と会って、Jリーグとしても協力するとのコメントを発表していました。Jリーグとしても、ライセンスの停止という最悪の事態は避けたいところでしょうから、話が進みそう(まとまりそう)ならライセンス交付についても問題なくなされるのではないでしょうか。秋春制への移行を決定したり、分配金の比率を実力ベースに変更したりと巷ではあまり評判の良くない彼ですが、現場もフロントも経験しているからこそそうした判断を下せたのだと思いますし、おそらく今回の秋田スタジアム問題も彼の持つ「現場の肌感覚」が大いに発揮されることでしょう。

追記

9/24、J1J2ライセンスの交付が発表されました。秋田、鹿児島の両クラブはJ1ライセンスは交付されましたが、スタジアム例外規定は適用されました(鹿児島は屋根のカバー率不足、秋田は屋根のカバー率+トイレ不足)。さすがに、新スタジアム建設計画の不備で不交付ということにはならなかったようです。まあ、それが現実的でしょう。入場可能数についての猶予期間は定められていないので、当面は現状のままでも開催は可能です(ただし、是正に向けての計画書の提出が必要)。
そしてこの、屋根カバー率不足。実はJリーグ発足10年以内にスタジアムに認定された平塚や柏、三ツ沢なども含まれています。このあたりに、このスタジアム問題の根深さと深刻さが表れているように思えます。1年2年でどうこうなる話ではないので、さすがのリーグ側も手の打ちようがないのでしょう。山形のように自分たちの資金で新スタジアムが建設できそうなところは多くないでしょうし、仮に出来たとしても、おそらく用地確保などの問題が発生するでしょう(特に三ツ沢や柏などの大都市のスタジアム)。

「専スタ至上主義」の方々には誠に申し訳ありませんが、100億近いお金と広大な土地が確保できる自治体はそうそうありません。かといって、鹿児島の白波スタジアムに代表される、老朽化の激しいスタジアムを騙し騙し改修して使い続けるのもまた問題です。Jのスタジアムとして使われている大規模な陸上競技場はどの地域にも必要ですが、その多くが施設の老朽化の問題を抱えています。建て替えて新しい陸上競技場を作ったうえに、さらにJ規格に沿った球技専用スタジアムの新設というのは極めて難しい話でしょう。Jクラブを抱える各自治体は、いずれ「新設するならば陸上競技場か、あるいは球技専用スタジアムか」という選択に迫られることになるでしょう。現実的には、栃木のカンセキスタジアムのような、比較的見やすい陸上競技場の新設が今後増えるのかもしれませんね…

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