新しいスタジアムを見に行きながら、そこで見たクラブの姿から「2番手、3番手クラブ」のあり方について、ちょっと真剣に考えてみた、というお話
天皇杯といえば一時期「ジャイアントキリング」というキーワードで世間に広く認知されたかと思います。かつての天皇杯は、どんなチームが県代表に勝ち上がるだろうかと胸躍らせワクワクし、実に楽しみな大会だったのでしたが、J3が各県の予選に出場するようになってからは、そのワクワク感が一気になくなってしまいました。それでも毎年会場には足を運びますが、2回戦以降はほとんど興味がなくなってしまいましたね。私の天皇杯の楽しみは、各地のいろんなチームを見るいい機会というものである以上、まあ致し方ないですよね…。
なかなか天皇杯に関心が及ばない近年ですが、今年はやや事情が違っていました。というのも、1回戦で今年完成した新しいJチームのホームスタジアムを使う試合がいくつか組まれていたからです。一つは3月に行った金沢のゴーゴーカレースタジアム金沢、そしてもう一つは広島に出来た待望の新スタジアム、エディオンピースウイング広島です。「金沢はすでに3月に行ったしな〜」ということもあり、それならばカードは関係なしに広島の新スタジアムに行くか!ということで、今年の天皇杯は広島に決定しました(笑)
5/26 天皇杯JFA第104回全日本サッカー選手権大会 @エディオンピースウイング広島 福山シティFC 3-0 沖縄SV
広島13時キックオフだと、朝出発するのはゆっくりで全然問題ないです。しかしこれまでも、またこれからも遠征が続くことを考えると、ちょっとでも安く上げられるならばそれに越したことはない。ということで、今回は新幹線は一切使わずに行きは在来線+バス、帰りは在来線のみで向かうことにしました。
JRの在来線でまずは岡山まで向かいます。8:34に岡山駅に到着すると、岡山駅西口バスターミナルを8:50に出発する広島バスセンター行きの両備バスに乗り換えます。かなりタイトなスケジュールですが、岡山駅はだいたい勝手知ったるところなので(笑)特に何の問題もなくトランジット完了。しかしこのバス、日曜朝の便なら普段は座席が全部埋まるなんてことはほぼないはずなのに、4日前に予約状況を確認したら残り数席になっていました。慌てて押さえたのですが車内に乗って分かったことは、どうやら広島で某アイドルグループのコンサートがあったようです。「あ〜、だからこんなに埋まってるんだ〜。で、女子ばかりなんだね〜」などと思ったのでした…(笑)
広島バスセンターに到着。コロナの前の2019年くらいに大規模な改修を行った広島バスセンター。乗り場のある階と上層階ではフードコートとレストランを併設。フードコートに隣接してお土産などを購入できるお店もあり、かなり使い勝手が良くなりました。向かうスタジアムはこのから歩いて10分程度なので、11:30過ぎで早めではありますが、まずは昼食を取ることにしました。
では、そろそろ現場に向かおうとバスセンターを出て新スタジアムのある方向に歩くのですが、その途中にある広島県立総合体育館(広島グリーンアリーナ)の前を横切ろうとすると、ものすごい数の人…。あっ、ひょっとしてさっきバスに乗っていた子たちは、みんなここが目当てだったんですね…。ということで、ごった返す人の波を掻き分けながら直進し、その先にある新スタジアムであるエディオンピースウイング広島にそそくさと向かうのでした。
ゲートを通って中に入るとまずはコンコースが2階にあって、1層の席はそこから下って席に行く感じになります。2層は開けてなかったのですが、コンコースに階段があって、そこから上がる構造です。コンコースや売店の作りはどことなく吹田のパナソニックスタジアムに似た感じです。施工業者は別ですが、まあ造りはどうしても似てくるのかな?といった印象です。
それよりもこのスタジアム1番の魅力は何といっても、ただサッカーを見るだけの席だけではなく、バラエティに富んだ変わり種の席種があること。一番後ろの列のさらに後ろにあるのは、スポーツバーのカウンターを思わせるようなテーブルと脚の高い椅子を用意した「ハイカウンターシート」や(しかもこの席のすぐそばには大きなモニターがあるので、これは完全にスポーツバーを意識してますね)、1層のコーナーには4人掛けのテーブル付きのテラス席、さらに座席の間にミニテーブルのあるペアシートや1層の中段あたりにあるのは「バルコニー6」という自宅のバルコニーでサッカーを見ているような感覚になる、そんなシートも用意されています。ちなみにその席は、サンフレッチェ広島の最上級のクラブ会員の先行販売でも秒殺だそうです(汗)。そして、そんな数々の席にこの日はなんと、一切の追加料金を払わずして座れてしまうということに。「まあ、なんということでしょうか〜」と、某リフォーム番組のナレーションのようなフレーズが頭をよぎるのでした(笑)てか、そんなこと知ってたらわざわざメインのチケットなんて買わずに後援会チケットで入って、ハイカウンターシートか、バルコニー6に座ってましたね…(笑)まあ、でもハイカウンターシートだと写真は撮りづらいですけどね…
そして、一番驚いたのは大型ビジョン。とにかくデカい!(笑)そして、圧倒の2画面!なので、スタメンと動画のリプレイが同時に表示できるという、実に便利なビジョンです。さすがはエディオン様様、といったところでしょうか?(笑)
さて、試合ですがどちらもリーグ戦に向けてメンバーをやや落としてきた模様。特に沖縄SVは大幅にメンバーを変えてきました。福山シティもリーグ得点王(試合当時)の高橋をベンチスタートにして臨んだ一戦。開始早々の2分に右からのクロスを福山シティのFW大久保が頭で合わせて、福山シティがあっけなく先制します。出鼻をくじかれた形となった沖縄SVですが、反撃を試みるもあまり出ていないメンバーが中心なためか、攻守にぎこちなさが目立ちます。すると、続く10分に相手のパスミスを拾った杉浦がゴールを決めて、福山シティが早くも2点リードを奪います。しかしそのプレーで、ゴールを決めた杉浦は負傷交代、嫌な空気が漂います。
その後も、福山シティが押し込む時間帯が続きます。しかし格下相手に無様な試合はできない沖縄SVも、徐々にペースを握り福山シティゴールに迫りますが、福山シティのキーパー宮崎の好セーブやDFの守備の前にゴールを奪えません。前半はそのまま2-0で福山シティリードで終わります。
後半になり、2人交代させた沖縄SVはなんとか追いつこうと何度も攻撃を仕掛けます。しかし、リードされている焦りからか、あるいは福山シティの守備の対応が上手いのか、決定機までは作れたとしてもゴールを奪うまではいきません。時間だけが過ぎていく嫌な展開の中、76分には福山シティの野浜のほぼ角度のない位置からのシュートが綺麗に決まり、試合を決める決定的な3点目。沖縄SVは我那覇を投入するも、3点リードのある福山シティは苦もなくゴールを守り続け、終わってみれば3-0というどっちが格上なのか分からないスコアと内容で、中国リーグ1位の福山シティが快勝しました。沖縄SVはメンバーを落としていたとはいえ、立ち上がりの10分の入りの悪さが最後まで尾を引いた結果となりました。
格上ながら実に不甲斐ない試合をしてしまった沖縄SV。今年から監督がCEOでもある高原直泰から小野木玲監督に変わりました。小野木監督は昨年まで、常葉大学のコーチと監督を務めていたのでどういう雰囲気かはよくわかっていました。清水エスパルスの育成部のコーチをされていたこともあり、指導方法は実にソフトです。分かりやすい言葉を使って的確な指示やアドバイスをされている、個人的には高い評価に値する素晴らしい指導者だと認識しています。その点は全く変わってなかったように思えました。しかしその反面、育成部の指導者特有の「勝負に対する姿勢」がやや弱いというか、なんとしてでも勝ちたいという戦術を執ってまで自らの戦術を変えたりはされないのかな?という印象も受けました。前半2点リードされた状態で早く追いつこうと思うなら、後半開始から我那覇を入れてどんどん前線にボールを預けていく戦術をしても良かったと思うのです。で、相手のDFラインが下がってきた頃に、ボランチで起用されていた富久田にミドルを打たせたり、ベンチスタートだった荒井がスペースを活かしてどんどんドリブルで切り込んだりさせるのもありだったと思いました。しかしそのような戦術を取らず「いつもの戦い方」に終始したように思えました。
また、JFLは全試合ネットでの配信があります。相手の福山シティとすれば、事前にどのようなサッカーをしてくる相手かのリサーチは簡単だったと思います。さらに福山シティの森亮太監督はスペインのコーチライセンスを持っており、日本ではINAC神戸のヘッドコーチやアルビレックス新潟のアカデミーダイレクター、昨年は同じ中国リーグのベルガロッソいわみのTOPコーチを務めていた方です。
育成畑とはいえ、スペイン流の勝負にこだわる姿勢の強い指導者ではないかと思います。同じ育成畑の監督でも、その思想の違いでこうも試合の進め方が変わるのか?ということを、試合が終わってしばらくして改めて振り返ってみて、そんなことを感じたのです。
長いリーグ戦を見据えると、一発勝負のトーナメントである天皇杯の位置付けは非常に難しいです。勝ち上がれば上がるほど試合日程が過密となり、チームや選手の疲労が溜まっていきます。かといって、明らかに格下の相手に対して無様な負け方をしては、それ以降のリーグ戦にも影響してしまいます。選手の疲労や選手層を厚くすることを考えて、トーナメントはサブメンバーを主体にチームを組むこともありますが、果たしてそれが上手くいくかはやってみないと分かりません。ここまで5勝3分1敗だった沖縄SVですが、この試合を境に一つも勝てていません(6/30日現在、1分4敗。しかも最下位のミネベアミツミにもアウェイで1-3で敗れるという絶不調っぷりです)。それに対して福山シティは未だ無敗です(ただし、連勝はストップしてしましたが)。リーグ戦とは違うとはいえ、プレーする選手は同じです。たかが1試合、されど1試合。その1試合がその後の流れを大きく左右してしまう怖さを、改めて感じた1戦でした。
6/1 JFL@CITY FOOTBALL STATION 栃木シティFC 3-0 横河武蔵野FC
本当なら天皇杯は広島ではなく別の場所にいなければいけない立場だったはずなんです。というのも、今年は珍しく(笑)横河武蔵野FCが東京都予選を勝ち上がって天皇杯本戦に出場しているからです。
しかし、そのカードが大問題で…。初戦の相手は「栃木県代表」と栃木県グリークスタジアムでの対戦となったのですが、その栃木県代表の最有力候補である栃木シティFCとは、天皇杯のある翌週にJFLのリーグ戦で栃木ホームでの試合があるのです。つまり、もし仮に栃木シティFCが栃木県代表になった場合、横河武蔵野FCは2週連続で栃木シティFCとの「アウェイ戦」を戦うことになるのです。関東在住ならまだしも、遠方から2週連続で栃木に行くというのは、もはや単なる罰ゲームでしかありません(笑)(←おい、失礼だっ!!その表現、謝れ!(笑))。それならば何度も行ったことがあり、さまざまな嫌がらせ(笑)や、時にはあらぬことか事件にさえ巻き込まれた(謎)ことのある、清原台工業団地のキヤノンの工場の隣にある栃木県グリーンスタジアムよりも、まだ行ったことない、しかも栃木シティの親会社である日本理化がネーミングライツと指定管理者をテコに「魔改造」を図った、岩舟総合運動公園サッカー場の方が行く価値があるという判断のもと、天皇杯はパスしてJFLを優先することにしたのです。
試合の前に、例によってあちこちと訪問するため、いつもよりも早い飛行機で羽田入りしました。そこから京急→JRと乗り継ぎ、まずは北千住まで。北千住なんて来たの、いつ以来だろうか…。まあ、なかなか使う機会のない駅ですね。そこから東武鉄道に乗ってまずは栃木県内まで向かいます。
区間急行の終点、館林に到着。そこからさらに乗り換え、まずは栃木県の佐野市に向かいます。
館林から乗ったお客のほとんどは途中の佐野駅で降りる中、私はさらに先へと向かいました。降りた駅は田沼という駅。駅の周りには、特にこれといったものもないなんてことない駅ですが、この周辺に私がどうしても行きたかった場所があるのです。田沼駅から歩くこと約20分。途中、堅固な山城として有名な唐沢山城のある唐沢山の案内が見える、そのちょっと先にこの日のお目当てがあります。それは「佐野市国際クリケット場」です。
日本では全く知名度はないスポーツですが、実は2028年ロサンゼルス五輪から正式種目になるのです(正確に言うと復帰した)。イギリスやオーストラリアなどで盛んに行われていて、特にインドやパキスタンでは日本でいうところの野球のような超大人気スポーツなのです(ちなみにパキスタンのイフラム・カーン前大統領は、パキスタンの超有名なクリケットプレイヤーだったりするそうです)。国内での競技人口はまだ4000人程度ですが、この佐野市には国際大会を開催できる規模のクリケット場があり、近年では「クリケットのまち」として全国的にアピールをしているそうです。
この日は試合がなかったのでほぼ誰もいない状態でしたが、カフェがクリケット場に併設されていますので、試合がなくても広々とした芝生を眺めながらアフタヌーンティーを、なんてことも可能です。
いろいろ調べてみると意外とクリケット場は各地にあるらしいので、興味がある方は一度訪れるのもありかもしれませんね。
再び、東武佐野線に乗って佐野駅まで戻ります。せっかく佐野まで来たんだから…ということで、年末のCMでお馴染みの佐野大師にお参りに行ってきました。駅から徒歩15分くらいだったでしょうか、想像してた以上に境内は狭く、初詣の時はどんなことになってしまうのだろうか?とちょっと心配になるくらいでした。葵の御門の寺紋を見て、由緒書きを読んで「ふむふむ、なるほどな」とそうやって、また一つ賢くなるのでした(笑)。佐野駅に戻る途中、もう一つの楽しみである佐野ラーメンを食べて、ようやく本日の最後の目的地である栃木シティのホームスタジアム、CITY FOOTBALL STATIONに向かうのでした。
最寄りの岩舟駅からは歩いてでも行けるのですが、今日はすでにかなり歩いているのでタクシーに乗ることにしました。10分くらいで目的地の岩舟総合運動公園内にある、CITY FOOTBALL STATIONに到着。パッと見はなんてことない、ただのサッカーグラウンドのようでしたが、近づいてみるとコンパクトながらもなかなか凄いスタジアムでした。
メイン中央の座席はゲーミングチェアのような、居住性抜群なシートが売りの席です。JFLにしては破格の5000円という価格ですが臨場感もあるので、Jの試合会場でたまに見かけるトラックの上に設置されたパイプ椅子みたいなのに座らされて5000円とかよりも、こっちの方が圧倒的に値打ちはあるでしょう。また、ゴール裏含めて客席とピッチを仕切るフェンスがないので、距離感が近く障害物もないので、カメラを撮る身分として実にありがたいです。バックスタンドの中央に大きなビジョンがあり、それはそれで非常に見やすかったのですが試合中、メンバーをフォーメーションで画面に映し出すことが多く(しかも1チームづつ)、一般的なスタジアムのビジョンのように両チームのスタメンと得点掲示とが一緒に表示されることが少なかったのはちょっとマイナスポイントでしたね。
また、私は立ち寄らなかったのですが、スタジアムの外の物販エリアも充実していたらしく、特に好評だったのはスタジアムに併設されているスポーツバーでした。どうやら対戦相手に合わせたお酒を用意しているらしく、この日は武蔵野ということで東京は奥多摩、青梅にある小澤酒造の澤乃井があったそうです。そんなこと知ってたら飲みに行ったのに…(笑)なかなか憎いことをやってくれますね、栃木シティさん!
さて試合ですが、ちょうど1週間前の天皇杯は0-1で敗れた横河武蔵野。その時もスコアこそは1点差でしたが、見た人から聞いた話だと途中からは完全にダメモードになっていたらしいです。そしてこの日は、それに輪を掛けてダメダメな展開でした。開始3分で、縦からのロングボールからDFの裏を抜かれて、藤原にあっさりと先制ゴールを決められます。圧倒的なスピードで両サイドをえぐられ続ける武蔵野は飲水後の27分のCKで、エリア内に侵入した栃木シティの選手を倒してしまいPKを献上。1点目をアシストした吉田が落ち着いて決めて2-0と突き放されます。さらに40分にはやはりCKから吉田に頭で合わされて3点目。武蔵野はほぼ何もできない状態で前半を0-3で終えます。
後半も栃木シティがガンガンと攻める展開ではありましたがシュートの精度が悪かったことに加えて、メンバーを大幅に入れ替えたことでリズムを崩してしまったからか、疲れ切った武蔵野DFの前にシュートが枠をとらえられません。対する武蔵野ですが、相手のリズムが崩れ出した後半途中からようやく攻めに転じられるようになったものの、3点リードの余裕からか栃木シティも冷静な対応で凌ぎ、後半は共に無得点で栃木シティが3-0で勝利しました。2週連続で同じ相手に完敗、しかも2戦目の方が完膚なきまでに叩かれたって、そういえばついこの前もそんなことあったよな…。あっ、1戦目は「お試し感覚」で臨んで1-2の最小失点差で凌いでおいて、2戦目のホームでフルボッコにしたアル・アインだ!などと思っていましました(笑)(おいっ、傷口に塩を塗るでない!(笑))。1戦目で相手の出方やスカウティングをやっておいて、2戦目で完全に対策を講じて完膚なきまでに叩くという、容赦ない戦いをされたY浜Fマリノスさんの苦痛はこういうものだったんでしょうね…。お気持ちよ〜くお察し致します…。
栃木シティですが、まあ強かったです。武蔵野の選手と比べてレベルがやや違いますし、それ以上に感じたのは「ここでこういうことをやれば相手は嫌がるだろう」といったことをしれっとやってのける、サッカーをよく知っている選手が多かったです。もちろん監督が教えて出来ることもありますが、少なくとも小さい頃から身につけたものの蓄積の差が、ちょっとした細かいプレーに現れていたように思います。
また、栃木シティの今矢直城監督は生まれたのは日本ですが、小学生の頃から海外で生活をしており、サッカープレイヤーとしても主にオーストラリアでキャリアを積んだという異色の経歴の持ち主です。そのため、横浜Fマリノスで通訳を務めたり、その時のコーチが監督になったので一緒に清水に移りコーチを務めたりされていました。海外での経験が長いことで、自然とサッカーについての様々な見方も自然と身に付いたのでしょう、それをチームにうまく落とし込んでいるように思えました。それが分かりなんとなく腑に落ちました。
それでも後半のグダグダ感は栃木シティとしては今後の課題でしょう。さらにもう1点、2点は取っておかないといけない展開だったと思います。そのあたりが改善されてくるといよいよ、いわきFCでもFC今治でもなし得なかった、JFL一発通過という快挙も十分あり得るのではないでしょうか。個人的にはあと1、2年はいてもらっても全然構わないんですが(笑)、そうなるのであれば見送ってあげたいと思います。
武蔵野ですが、何をやるにしても完全に読まれていたというか、とりつく島もなかったほどの完敗でした。ちょうど1週間前に対戦したことで、相手に完璧なまでのスカウティングをされてしまったのかな?と思います。もちろん、どこのチームも事前に映像などでスカウティングはやっているでしょうが、どんな素晴らしいスカウティングをしたとしても、実際に選手がマッチアップした方が相手のことは圧倒的に理解できます。それをしっかり活かした栃木と、全く活かせなかった武蔵野との選手のレベルの差がこの日のスコアに現れたのではないでしょうか。
そして何より大変なのは、この試合で相当ダメージを負ったのか、この試合以降武蔵野は4試合で1勝3敗。しかも勝った試合は1-0に対して、負けた試合は0-3、0-2、2-3といずれも複数失点。順位も気が付けば残留圏内ギリギリの14位。今年もまた厳しい戦いになるのかな…。秋ごろに「天皇杯さえなければ…」などと言いたくないので、7月以降の巻き返しに期待したいです。
派手なイメージの栃木シティ。でも、そうではない一面も…
さて栃木シティの話に戻りますが、昨年の専門学校サッカー大会についての記事で、栃木シティとはどういうチームなのかということについて書いてますので、ここでは簡単に触れておきます。栃木シティの親会社とでも言いましょうか、オーナーの大栗社長は株式会社日本理化工業所という、グループ全体で700人弱の従業員を抱える大企業の代表取締役社長でもあります。そんな日本理化工業所が全面バックアップする栃木シティ。元々は日立栃木工場のサッカー部だった栃木ウーヴァがJFLから降格、関東リーグに落ちた年にチームの運営権を買い取り、その資金力を活かして今回訪れた立派なスタジアムを作り上げたり、また関東リーグ時代から全選手のプロ契約化という破格の待遇で選手を獲得したりと、とにかく話題を欠かないチームです。話題だけでなく、実力的にも常にJFL昇格候補だったにもかかわらず、地域チャンピオンズリーグに毎年のように挑戦するも、肝心の勝負運に恵まれずようやく昨年の大会で優勝、晴れて今年からJFLで戦うことになったのです。
そんな派手な一面ばかりが目につく栃木シティですが、今回現地に行ってみて驚いたことがあります。それは何かというと、先ほど触れましたが最寄りの岩舟駅からタクシーで向かったのですが、その乗ったタクシー会社というのが実は日本理化工業所が経営しているタクシー会社のタクシーだったのです。岩舟駅の隣に事務所のある岩舟タクシーと、同じ栃木市内にある藤岡タクシーの2社を2018年10月に共に買収、日本理化工業所の子会社にしたのです。
2018年と言えば前身の栃木ウーヴァがJFLから関東リーグに降格した年で、大栗社長がオーナーとなってチームの立て直しを図った年でもあります。その年の10月に、後にホームスタジアムとなる岩舟総合運動公園の最寄駅の隣にある小さなタクシー会社を完全子会社化するということは、その時点でここをJリーグを開催できるだけのスタジアムに仕立て上げて、さらにただ収容人員だけを基準に満たすだけでなく、見に来たお客さん全てを満足させるだけのスタジアムを作ろうという構想があったのかもしれません。逆にそこまで見通していなければ、いくら年商200億円以上ある企業のトップと言えども周囲から反対されていたでしょう。そこまでのビジョンを描けていたからこそ、今の栃木シティがあると言っても過言ではないでしょう。
乗せていただいた運転手さんと軽くお話ししたのですが、実は日本理化工業所の子会社になってからまだ1度も黒字になったことがないらしく「このまま赤字でも会社は続けるつもりですが?」と聞いたらしいのです。すると「赤字でも会社は続けていく」との返答があったそうです。実際、サッカーの試合がある時は当然スタジアムまでの送迎のお客さんが多いのですが(この日は武蔵野が相手だったので特に多かったそうです)、平日は病院に行かれる高齢者だったり、あるいは共働されているご家庭のお子さんの送り迎えなどがあるので、それなりにはタクシー需要はあるそうです。なるほど、ただ単にスタジアムだけを作るのではなく、それ以外の面でも地元にちゃんと貢献しているんですね、栃木シティは…。
奇抜なことをやると、人はどうしてもその奇抜な面だけをピックアップし、時には誇張してイメージを膨らませてしまいがちです。でも、奇抜な行動の裏にはちゃんとした理念やそれを導き出す思想が隠れているものなのです。確かに私も以前は、栃木シティについての奇抜な面しか見えてませんでした。しかし、いろいろな人からお話を伺ったり、また自らで調べていくうちに、その見方が大きく変わりました。この記事を読んで、栃木シティというチームに対する見方が少しでも変わることがあれば嬉しいです。そして、これだけのスタジアムを作ってしまえるクラブはやはり凄いんだ、ということを改めて感じたのでした。
県内で「2番手のクラブ」はどうあるべきか?
今回ピックアップした栃木シティ、今回深くは掘り下げなかったですが福山シティと沖縄SV。いずれも同一県内で2番目のJクラブを目指すチームです。かつて、同一県内で複数のJ指向クラブが競っていた際に、何故かそれらを一つにまとめて新しいクラブを作ってJリーグを目指すという流れがありました。確かに、同一県内で2つのJクラブが成立するくらいの経済規模があるのか?首都圏のような大きな経済規模を持ち得ない多くの県において、しかも同じホームタウン(というか、県庁所在地)で2つのJクラブが並立できるのか?という観点から、私も当時は同一県内の複数Jクラブには否定的でした。しかし今ではほぼ全都道府県にJクラブが存在し、中には同一県内で複数クラブが成功しているのを見ると、要するに「やり方次第」ではないのかと思うのです。
県内の財界が完全に二分されてしまった鹿児島、県の財界を牛耳る超大手企業の一存によってチームの行く末が左右された富山などの負の歴史があったからこそ、「県内2番手クラブ」はどう生き延びていくべきかという課題に向けての試行錯誤があちこちで始まったように思えます。そして出された一つの結論は「ホームタウンは別にする」ということではないでしょうか。それが証拠に栃木シティと福山シティ、共に先にJクラブとなっているサンフレッチェ広島と栃木SCとは別のホームタウンを拠点にしています。経済圏や都市生活圏を別にすることで上手く棲み分けすることが可能で、それこそが経済規模の小さい県でも複数のJクラブが成り立つための最適解なのかもしれません。
とはいえ、クラブを運営するだけの資金をどうやって集めるのか?という問題はあります。その点福山市は、隣の岡山県最西部の笠岡市なども含めた一大都市経済圏の中心で、なおかつ洋服の青山を経営する青山商事や物流大手の福山通運などの有名なところから、食品容器の国内シェアNo.1のエフピコや作業服のメーカーの自重堂、ポンプやろ過装置などのメーカーでグループ全体で1500人規模のテラルなど、さまざまな業態で業績を上げている企業が集積しており、それらの優良企業から資金を調達できれば、十分にクラブを運営できるだけのお金が集まるでしょう。
一方で栃木シティのホームタウンである栃木市はというと、福山市のように大きな企業はありません。でも、スポーツやスポーツビジネスに理解のあるオーナー企業である日本理化工業所がバックとなり、クラブのパトロンとなっているのが大きいでしょう。そうです、2番手といえどもJクラブになるには一定のまとまったお金が必要なんです。全体の経済規模がそれほど大きくない大多数の県では、すでに最初に出来たJクラブに県内の財界大手がスポンサーとして付いているケースがほとんどです。それに加わってない、かつそこそこの資金力のある企業を探すのはなかなか困難なことだと思います。それでも探せば意外と見つかるものですし、そういう企業は一度掴むとそう簡単にはクラブを見離さないでしょう。2番手が生き残るためにはそのような企業を見つけていくという、1番手以上に地道なことをやらないといけないのです。
地味でもコツコツと、でも確実に実績を挙げていけば地元の財界の評価も上がってきますし、最初は非協力的だった地元自治体も徐々に協力的になってきます。「石の上にも三年」「ローマは一日にして成らず」と言いますが、地道に活動を続けていく。それがJに進むための近道なのかもしれません。
今はまだ地域リーグにいるクラブでも、今行っている地道な活動を継続していくことで得られた実績と信頼の積み重ね。それが多ければ多いほど、のちのちになってその恩恵を得られるはずです。昇格できなかったことを悔やむよりも、将来への糧や蓄えを貯められる期間が増えたと思えばプラスに思えるでしょう。とはいえ、1年でも早く昇格した方が良いに決まってます。そのチャンスがあるならば福山シティはJFLに、栃木シティはJ3にとっとと上がった方が良いに決まってます。まあ、個人的には栃木シティさんには、今年立ち寄れなかった例のスポーツバーに次は行きたいので、あと1年はJFLにいてもらってもぜんぜん構わないんですけどね…(笑)そして福山シティさん、上がるんなら優勝して上がってください。くれぐれも入替戦には来ないでください。何故なら、万が一武蔵野との入替戦になったら、間違いなくメンタルやられるので…(笑)てか、武蔵野が14位以内になればいいだけなんですけどね…(汗)
Jリーグ発足当時に「Jリーグ100クラブ」なんてことを言ってましたよね。実際は現状の60チームでもう打ち止めでしょうが、その60チームと入れ替え可能なクラブは10〜20チームくらいは必要でしょう。で、今実際にJFLや地域リーグにいるJ指向クラブを数えると、おそらく100近くはあるのではないでしょうか(それ以上かもしれません)。そう考えると、あながち100クラブというのも何らおかしな話ではないのかもしれませんね。そんな2番手、3番手のクラブが生き残っていくスタイルづくりが、今まさに求められているのではないかと、これらのクラブを見ながら改めてそう感じたのでした。
最後に思ったこと。天皇杯で負けたチームが、その直後からこれだけ調子を崩すんだったら、下手に天皇杯なんて出ないほうがいいのかもしれないね?などと思ってみたり…(笑)あ〜、恐ろしや恐ろしや…