ラインメール青森のライバルはヴァンラーレ八戸でもブランデュー弘前でもないよ、ってお話
11月の青森ってけっこうハードですよ。まだ冬のシーズンも遠征していた頃は平気というか、そうでもなかったかもと思いますが、流石にやらなくなるとその大変さが身に沁みますね…。てか、冬の遠征って言っても屋内だから実際はそんなにキツくないんですよね、実は…(笑)
実はこの日程。当初は会場が未定だったんですよね。未定だから、まあいつも使ってる新青森運動公園のカクヒロアスレチックスタジアムや球技場は使わないんだろうな、とは思ってました。「それならいっそ、11月のむつ開催やってくれよ〜」などということを考えてましたが、決まってみれば弘前開催。あっ、そうですか…、あそこですね。まあ、いいですけどね…。というわけで、弘前まで武蔵野の試合を見に行ってきました。
出発当日の朝、伊丹が大変なことになってまして…。何やら、一旦預けた手荷物を全てチェックしないといけない事案が発生したらしく、7時台ほぼ全ての便に遅れが出るという緊急事態。搭乗する便も当然ながら遅れることに。「これは大変!試合に間に合わない!」ご安心を。到着便に接続した弘前行きのバスには乗れなくても、その30分後に名古屋から着く便に接続するバスには間に合うので、何の問題もなく弘前に移動することができました。めでたしめでたし…
弘前には今回で3回目。2月と5月に来たので、これでほぼフルシーズンコンプですね(笑)ちなみに青森県内は青森、八戸と弘前、全て2回以上訪れてますが、個人的に一番好きなのは弘前ですね。
前回来たのは5年前とのこと。日本に12しかない現存天守のひとつ、弘前城の天守(と呼んでいるが、あれはただのちょっと大きい櫓であって…、そもそも天守が消失した際、当時北方警備で功績を上げた恩賞として特別に幕府から3つの櫓の改築を認められたところを、1つだけにしてその代わりその櫓を大きめに作ったのが今ある「天守閣」と呼ばれる隅櫓であって、あれは本来は天守閣でもなんでもないんだよ!)の石垣の解体、補修工事のため、天守と呼ばれるものを曳屋でもって移動させた、本来ではありえない位置にいる天守とやらの建造物を見に行ったのです…。説明がとにかく長い。ふ〜、疲れた…(汗)
試合ですが、前日に奈良クラブとFC大阪の事実上J3参入が確定したため、立ち上がりからテンションの上がらないラインメール青森。それにお付き合いするように、武蔵野もスローペース。先制したのは武蔵野。相手のクリアミスを鳥居がダイレクトで決めて先制。見事なゴールでした。
しかし、それで目が覚めたのか青森がようやく動き始めます。ピットブルの落としたボールに反応した榊原の同点ゴールで前半を1-1で折り返します。
後半は青森優勢の展開。後半16分に岩間→榊原→岩間と中央で細かいパス交換から最後はピットブルのゴール。勝ち越しに成功した青森は、その後も試合のペースを握ったまま2-1で勝利。3回あった弘前開催で最も多い746人が見守る中、見事な逆転勝利を収めました。
ラインメール青森は最終節を前にJFL5位と、J3参入条件の一つである4位とは勝点1差につけています。とはいえ、たとえ最終節で4位になったとしても前述のように百年構想クラブの中で2位以内という条件に満たない(奈良クラブとFC大阪には勝点で及ばないため)ので、今年のJ3参入は叶いませんでした。
しかし、仮にそれを満たしたとしてもラインメール青森の今年度のJ3参入は不可能でした。なぜかというと、ホームゲームの入場者数の1試合平均2000人超という条件をクリアできなかったからです。では、今年のラインメール青森の1試合平均の入場者数はいくらなんでしょうか?
答えは651.6人。条件である2000人はおろか、その半分の1000人にも満たないのです。これでは話になりませんよね…。一番多かった試合でも1475人、しかも今年どこの試合でも一番多くの観客を集めた鈴鹿戦でこの数字です。ちなみに、新国立で行われたクリアソン新宿との試合が16218人、花園ラグビー場のFC大阪戦では12152人、奈良クラブの試合でも過去の観客動員を考えると異例とも言える14202人と、どこも「ここで稼がないと」と躍起になっていたはずなのに、青森での試合にはたった1475人でした。これは由々しき問題であって、この現状を無視して「来年J3参入を目指します」と真剣に言われても、正直首をかしげるしかないです。
では、なぜラインメール青森は観客動員にこうも苦しんでいるのでしょうか?その要因を探ってみましょう。
まずは青森県の人口分布から見ていきます。令和2年という一昨年のデータから引用すると、青森県の人口は123万7984人。人口の多い自治体は青森市で27万5192人、次に多いのは八戸市の22万3415人、その次に来るのが弘前市の16万8466人。実はこの3都市で半分強の人口を占めるのです。
そう、実はそれが1番の問題なのです。経済圏としてはその3つに区分されますが、文化圏という観点では青森市は他の2都市とはやや劣るのです。昔から青森県の文化圏は八戸を中心とした南部地方と弘前を中心とした津軽地方に分けられ、青森はどちらの中心地でもないのです。しかも青森市と弘前市とは車で1時間くらいの距離と近いので、圧倒的に弘前の後塵に配していると言わざるをえないのです。これだけ規模の大きい経済圏なのに、文化圏的には隣の経済圏と同じというケースは他に思い当たらないです。それくらい特殊な地理環境にあるのです。
かといって、青森と名乗りながらも青森と弘前のダブルホームタウンということが可能かというとそれも無理で…。弘前には同じくJリーグ入りを目指すブランデュー弘前があるので、弘前の人のプライドも考えるとそう簡単に弘前の人が青森のラインメールに靡くわけもないわけです。なので、ラインメールは文字通り青森市にしっかりと根付かないといけないのです。
これくらいの距離でも文化圏が明確に分かれていれば苦労もしないのです。例えば博多と小倉や広島と福山のように経済的にも文化的にも明確な違いがあると、アビスパとギラヴァンツ、サンフレッチェと福山シティのようにクラブも綺麗に色分けが出来るのです。でも青森の、ことにラインメールとブランデューは距離も近く、文化的には人口規模の小さい弘前が実権を握っている、さらに青森は県庁所在地としてのプライドがあるとなるとますます話がややこしくなるのです。
次に観客動員について見ていきましょう。ラインメールのホームゲームは青森市内がメインですが今年は弘前で3試合、下北地方のむつで2試合行なっています。じゃあ、それぞれの会場が実際どれほど観客動員数の違いがあるのかを調べてみましょう。本来なら「平均値」で見るのが一番いいんでしょうが、今年は鈴鹿戦という「観客動員ボーナスステージ」があるのでちょっと違った基準で調べてみます。それは「中央値と平均値との間のズレ」です。
数学の統計の授業で習ったと思いますが、個体のちょうど真ん中の値のことを中央値「メジアン」と言います。そのメジアンと平均値である「アベレージ」とを比較して、メジアンがアベレージからどれだけズレているかをみることで個体のバラつき具合を調べます。そうすることで、通常時に想定されるであろう観客動員数を推測ってみよう、というわけです。今から何をやるか、なんとなく理解していただけたでしょうか?
それではまず、それぞれのメジアンを出してみましょう。J3に参入するとメインで使われることになるカクヒロアスレチックスタジアムの観客数を試合順に羅列すると770 479 1475 1259 667(いずれも単位は人←当たり前です(笑))です。個体が5つあるので真ん中は3番目の値「770」。これが、カクヒロのメジアンになります。
次にカクヒロと同じ敷地にある新青森球技場は409 294 293 607 736でメジアンは「409」、弘前も見ていくと487 656 746でメジアンは「656」。いちおう、むつも見ておくのですが、442 455でメジアンはこの2つの平均値になるので、平均値と全く同じになっちゃいますのでここではカットしておきます。
全てのメジアンを求めたところで、次は各会場の平均値を出します。まずはカクヒロの平均値は930、新青森球技場が468、弘前は630。この平均値と中央値とをそれぞれ比べてみると、カクヒロは平均値930-中央値770でその差は160となります。同じように比べていくと、新青森球技場は59、弘前は-26となります。ちなみに、同じ敷地内のカクヒロと球技場を「同じ青森市内の会場」と捉えると、中央値は637で平均値は699でその差は62となり、中央値と平均値がまあまあ近似値かな?と言えなくもない数字となります。おそらく、今のラインメールの青森市内での実質的な観客動員力はこれくらいになるのかと思います。
逆に弘前は個体が少ないとはいえ、中央値が平均値を上回っているうえに、青森市内の試合とほぼ同じくらいの動員力があることがよくわかります。裏返せば、ブランデュー弘前のお陰で弘前にサッカーを見る文化が根付いているとも言えるのではないでしょうか。
これから分かることは、観客動員が大幅に増えた試合が1試合でもあると自ずと平均値が上がるが、平均値が高いからといって実質的な観客動員力がそれくらいあるかはまた別の話だということ。まあ、当たり前の結論ですよね…。
ちなみに来年J3に参入しそうな2チームも見ておきますと、FC大阪は残り1試合の数字がまだですがメジアンが1156、アベレージが1643で、その差が487。奈良クラブのメジアンは1205、アベレージが2456。その差なんと1251。奈良クラブがいかに「2、3試合かだけたくさん入ったか」がよく分かるわけです。まあ、別に不正とかしてないので問題ないんですけどね(笑)逆にFC大阪は、それなりに観客動員力を付けてきているということが、このデータから見て取れるかと思います。あのチームのフロントはなかなか強かですよ、ほんとに…。
ここまでいろんな数字を羅列してきましたが、気になるのは青森市の約60%の人口規模にも関わらず、弘前市開催では青森市開催とほぼ同じくらいの集客力があるということ。これはラインメールにとっては非常に頭の痛い話で、観客動員を稼ぐのなら青森市でも市街地からちょっと離れた新青森運動公園で開催するよりも、弘前市内で開催した方が良いのではないか?となりかねないのです、たとえライバルチームのホームタウンであっても…。ラインメール青森が来年以降のJ3参入を目指す上で、目先の観客動員を取るか?それとも、青森で客が増えるようにアプローチしていくか?今オフにしっかりとプランを立てないと、来年もまた同じように観客動員が足りないなどということになるでしょう。そうならないことを願いたいですね。
と、これではまだ終わりません。じゃあ、青森の集客力は本当に少ないのか?という疑問が湧いてきます。実はそうでもないんじゃないかというのが、私の見立てです。なぜかと言うと、別のプロスポーツチームの観客動員がラインメールのそれと比べてもかなり多いからです。
別のプロスポーツチーム、バスケB2リーグ所属の青森ワッツのことです。青森県全体あちこちで開催しているので参考程度ではありますが、2021〜22シーズンを見ると1月2月の真冬は200人台やそれ以下の試合がありましたが、それ以外の時期はおおよそ600人から700人程度の観客動員数でした。4月のホーム最終戦は1000人近い観客を集めていました。
そしてこの数字、実は収容人員の50%などの人数制限の元での数字ということを忘れてはいけません。現にコロナ前の2019〜20シーズンの平均観客数は1500人超であったことから、それと比較すると少なくともコロナ前の8割くらいの観客は保てていると見てとれるので、コロナの影響をあまり受けてないと言ってもいいと思います。
ただ、やはり青森市内とその他の地域とではその集客力に多少の差があるようで、南部地方の中心地である八戸開催の方が青森開催よりも集客力があるのかな?と思います。同じ青森県でも八戸のある南部地方と青森や弘前のある津軽地方とでは、特に冬の天候に大きな差があります。太平洋側で暖流の影響を受ける八戸は、青森県内でもまだ雪が比較的少ない傾向にある一方、津軽地方の冬は雪が降るとドカ雪になることも多く、さらに風も強く地吹雪に晒されるくらい普通に生活していくのにも厳しい天候になることが多いです。
でも、そんな悪天候でも屋内競技とはいえ外に出てバスケの試合を見に行くというのは、それだけ青森ワッツの人気が高いことを表していると言えるのではないでしょうか。そしてそれは、青森が決して集客力が低い地域ではないことを証明しているとも言えるのです。
では、どうして青森試合には潜在的な集客力があるにもかかわらず、ワッツには人が集まりラインメールには集まらないのでしょうか?それを読み解く鍵はリーグの開催時期にあると思います。サッカーのシーズンはご存知の通り、3月から11月の冬以外のオールシーズンです。一方のバスケのシーズンは10月から年を跨いだ4月、長くても5月の中頃くらいまで。この「10月以降」というのが実は重要で、この時期というのは青森ではいわゆる「農閑期」に当たるのです。青森県は農業が盛んな土地柄で、農閑期に当たる秋から冬は仕事が忙しくない時期となり、言ってしまえば「何もやることがない」季節になるわけです。農作業などの仕事はなく、でも外は吹雪。本来なら家に篭って寒い冬をやり過ごすところを、それでも外に出てバスケを見に行く。そのパワーたるものはとても雪国以外に生まれ、暮らす者にとっては計り知れないです。もちろん、秋や春先のまだ気候がマシな時期であっても、農閑期ならばやはり「やることがない」のです。そういう人たちをうまく惹きつけたのが青森ワッツではないでしょうか。農作業の忙しい時期にしか試合のないラインメールは、そういう意味でも集客力でやや劣ってしまうのかもしれませんね。
しかし今年のシーズンは、その集客力に翳りが見られるのではないかと思うのです。ちょうど弘前の試合の同じ日に、カクヒロアスレチックスタジアムの隣にあるマエダアリーナでのホームゲームがあったのですが、観客数は土曜日が840人、日曜日が854人。今年は観客の人数制限がなかったはずなのに、2日とも1000人を大きく下回っています。コロナ前の平均の約半分の数字です。
なぜここまで減ってしまったかは分かりませんが、長期にわたるコロナ禍で外出する習慣が減ってしまったのか?会場ではなく配信で十分楽しめることが分かり、会場へ足を運ばなくなったのか?それともB2ですらあまり勝てなくなってしまったので、熱が冷めてきたのか?まあこの日は、隣のカクヒロでサッカーの高校選手権の決勝が開催されていたとはいえ、それでもここまで落ちるとは考えにくいです。いずれにしても、青森ワッツの集客力が落ちてきたことは否定できないでしょう。
たとえワッツの集客力が落ちたとしても、それが即ラインメールの集客力アップに繋がるとは限りませんし、客層が全く違う可能性だってあるのです。ただ一つ言えることは、ラインメールの集客力アップを図るには今年の成績(5位)を足掛かりにしなければいけないこと。J3が本格的に見え始めた来年が勝負になるでしょう。今まであまり本気を見せることが少なかったように思えるラインメール青森のフロントですが、そろそろ来年こそ「絶対にJ3参入を果たす」という強い意志を持って、ピッチだけでなくフロントも必死になってもらいたいものです。
最後に、今年のラインメール青森がなんで強いのかな?という答え合わせも出来たので、その回答を示しておきます。
とにかく、Jでそれなりに活躍したベテランで経験豊富な選手が多く、その選手たちがまたいい仕事してるんですよ(笑)細かい説明は不要かと思いますので、しばし画像でお楽しみください(笑)
特に浦田や多々良、岩間とかJでもかなりのキャリアを積んだベテラン選手たちが、それぞれの持ち場でそれぞれの能力を活かしたプレーをしていました。ここまでくるともはやブックオフやセカストに並ぶビンテージ物、いや、ベテラン選手の品評会のように思えました。今のJFLレベルだとこれでも十分勝てるんですよ。ただ、このレベルのままで一つ上に上がるとえらい目に遭うんですよね、今年の相模原みたいに…(汗)
毎年、この時期になるとベテラン選手の契約満了のニュースがよく聞かれますが、捨てる神あれば拾う神ありというもので、ベテランも使いようで全然活かせられるということを、今年のラインメールを見て改めて感じましたね。
今回は最近にしては珍しく文字が多い内容になりましたので、弘前の写真を大量に貼り付けて締めたいと思います(写真の多くな5年前のものです、あしからず…)