サッカーで町おこしはありか、なしか?その現実性は?そして、スポーツが社会とどう関わるべきなのか?それに対して、社会は受け入れるだけの素養があるのか?そんな高尚なことを少しだけ真剣に考えてみた、というお話
この夏は7月に沖縄に行った訳ですが、その沖縄よりも地元関西の方が体感的に圧倒的に暑いってどういうことねすか?(笑)肌感覚でなんとなく分かっていますけど、改めて実感するとおかしな現象ですよね。特に暑いのは京都。沖縄に行った翌週に京都での全社予選に行ったのですが、朝10時の段階ですでに沖縄の13時よりも暑く感じました(笑)まだピッチが天然芝だったからよかったものの、これが人工芝ならもう大変でしたよ…。その日の帰り道、途中にあった温度計が示した気温はなんと40℃(笑)昼の4時前でこれですよ。こんなところで昼間っからサッカー見てたら、そりゃ暑さに対する抵抗力も付きますよね(笑)と、9月になってもそんな暑い暑い、京都で見た関西リーグの試合の話から。
9/7 The KSLアストエンジカップ関西リーグDivision2、A.S.Laranja KYOTO 6-1 おこしやす京都AC、京都紫光クラブ 3-1 ACミドルレンジ
ホームでDivision2首位のLaranjaが、昨年降格して1年でのDivision1復帰を狙うも、苦しいシーズンとなっているおこしやす京都を迎えての一戦。とはいっても、実はどっちも京都のチームなんですけどね…(笑)おこしやすは今日負けると優勝の目が無くなりますので、大事な一戦。一方のLaranjaは今日勝てば、優勝の確率が一気に上がります。どちらにとっても非常に重要な試合です。
前半はほぼ互角の展開でした。おこやしすは清武を中心に攻撃を組み立てます。対するLaranjaは得意のパスサッカーでおこしやすゴールに迫ります。一進一退の攻防が続きましたが39分、PKを獲得したLaranjaはエース磯部が決めて、首位Laranjaが先制して前半を終えます。
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肝心のシュートの精度がいまいちでした。
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逆転優勝にはまずは追いつかないといけないおこしやすは、途中加入のセロームを入れて中盤を活性化。その効果があったのか、49分にPKを獲得します。これを清武が落ち着いて決めて、早い時間に同点に追いつきます。しかし、ここで慌てないのが今年のLaranja。直後の51分に、磯部に変わる新エースの呼び声の高い23番山田のゴールで勝ち越します。さらに68分にはCKから5番忠政のヘッドで追加点。この頃からおこしやすの選手の足が止まり始めます。さらに78分に小塚が2枚目のイエローで退場。10人になったおこしやすに、もはや逆転する力は残っておらず、85分、87分、90+5分に西川にハットトリックを決められ、終わってみれば6-1の大差で首位のLaranjaが勝利。これで残り3試合で勝ち点1積めば優勝となり、負けたおこしやすは優勝の可能性が消滅、昇格には是が非でも2位に入らないといけなくなりました。
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早い時間帯に追いつき反撃ムード、と行きたかったのですが…
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受けた西川が放ったシュートは…
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Division2で首位を走るLaranja。一度は追いつかれたものの、盤石の試合だったと思います。全社予選でもD1のCento Cuore HARIMAに快勝して本戦出場を決めました。全社の本戦でも旋風を巻き起こしてくれることを期待しています。対戦相手は九州で2年連続優勝のヴェロスクロノス都農です。今の実力を図るには格好の相手でしょう。健闘を期待します。
優勝の目がなくなったおこしやす京都。去年から選手全員が運営会社であるスポーツXの社員となり、メンバーの数が以前より少なくなった影響が特に今年は成績に表れたかなと思います。開幕前から「ケガ人が出なければD2で突っ走れる」という評判を聞いていましたが、さすがにそう甘くはなかったようです。そんなおこしやす京都も全社に出場します。D1復帰は難しくなりました(9/22時点で2位の目も無くなりましたので、D1復帰はなくなりました)が、全社でどこまでやれるか。それによっては、来年は希望が持てるシーズンになるかもしれません。最後まで諦めない姿勢でリーグと全社、さらにカップ戦の残りのシーズンを戦ってもらいたいです。
さっきの試合が天王山なら、次の試合は「裏天王山」とも言える一戦。最下位の京都紫光クラブvs7位のACミドルレンジ戦です。近年、残留争いをするシーズンが増えた京都紫光。中でも今年はかなり厳しい戦いです。調子が上がらないままリーグ最終盤を迎え、この1戦に負けるようだといよいよ京都府リーグへの降格も現実味を帯びてきます。対するACミドルレンジは今年関西リーグに昇格するも、こちらもリーグ当初から厳しい戦い。それでも地道に勝ち点を積み上げて最下位こそ脱出したものの、残り試合如何では大阪府リーグへの降格もあります。どちらも大事な一戦となります。
前半13分に京都紫光はパスを繋いで最後は8番出原のゴールで幸先よく先制します。しかし、こちらも負けられないミドルレンジは、28分に22番油田のゴールで追いつきます。ともに負けられない試合。前半から激しい攻防が展開されて、前半を終えます。
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与えてはいけない先制点を与えてしまいました。
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ガックリ膝をつくキーパー上村。
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後半に入っても激しい攻防が続きます。同点は負けに等しい京都紫光は後半開始、さらに59分と選手を交代。膠着状態を打破しようとします。すると78分にベテラン藤川のゴールが決まり、京都紫光が勝ち越します。さらにその2分後、同じ藤川が追加点を決めて2点リードします。なんとか追いつきたいミドルレンジですが、さすがに劣勢を跳ね返るだけの力は出せずそのまま終了。裏天王山は最下位の京都紫光クラブが勝ち、勝点でミドルレンジを上回り最下位を脱出しました。
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ゴールを決めて喜び走ります京都紫光の藤川。
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この試合の激しさと重要さを物語っています。
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勝った京都紫光。自分たちのサッカーをやり切っての勝利は、苦しいシーズンにチームでもがき苦しみながらも得た結果ではないでしょうか。みんなが諦めず、愚直にサッカーに取り組んできた、その姿勢がこの日の勝利と3得点に繋がったように思えます。勝って最下位は脱したとはいえ、おそらく年明けの入替戦に臨むことになるでしょう。そこまで、チームのモチベーションを保つことができるか。たぶんやってくれることを期待しています。
負けたミドルレンジ。この一番に勝てなかったのは非常に痛いです。相手(京都紫光)次第とはいえ、残り試合全部勝たないと苦しくなってしまいました。こちらも最後まで諦めず戦ってもらいたいです。
9/22 東北リーグ1部@WACK女川スタジアム コバルトーレ女川 1-1 みちのく仙台FC
韓国や中国に向かうと思われていた台風14号が、東シナ海でヘアピンカーブを描きながら日本列島に向かってきました。温帯低気圧に変わったとはいえ、強い雨風を特に日本海側にもたらしました。
そんな悪天候の中、朝から飛行機で仙台に向かいました。仙台空港に着くと外は雨、しかも風が強く傘を差しても雨を避けられないという悪天候の中、仙台空港からさらに2時間以上かけて向かった先の女川町。町の中心である女川駅前に着く頃にはさらに激しい風雨となっていて、かなり頑丈な晴雨兼用の折りたたみ傘でも、時より傘が裏返るくらいの荒天でした。こんな雨風の中で見るのはさすがに勘弁と思いつつ、14時キックオフの約2時間前に到着し、女川駅前で昼食を取っていると、13時過ぎにやや雨が小康状態に。このタイミングで一念発起、駅前から徒歩15分程度のところにある、WACK女川スタジアムに徒歩で向かいました。
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スタンドの傾斜が急なので、かなり見やすいです。
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別にゲートがあったので、JFLだとサポーターはそっちかな?
会場に着いた頃はまだ雨は強かったのですが徐々に弱くなり、試合が始まって15分もすると雨はほぼ上がりました。後半には晴れ間も見られるという、実に謎なこの日の天候でした。
この日の試合は東北リーグ1部。2位のコバルトーレ女川は1位のプランデュー弘前と大きく勝点を離されており、さらに得失点差では倍以上の差を付けられています。逆転で優勝するには毎試合、大量得点を挙げての勝利が最低条件となります。対するみちのく仙台FCは、今年2部南から昇格したチームながら4位と健闘。来年以降を見据え、上位陣とどこまで互角に戦えるかを見極めるにはちょうどいい試合でしようか
そんな試合でしたが立ち上がりの6分、女川は三浦からのクロスに走り込んできた11番の野口が頭で決めて幸先よく先制します。その後もみちのく仙台の不安定なDFの隙をついて再三に渡りゴールを脅かしますが、フィニッシュの精度が悪く追加点が奪えません。女川はサイドからのクロスという展開が多く、前半は多彩な攻めや局面を打開できるだけの攻撃があまりできてなかったように見えました。これを見ると、総得点が弘前の半分以下なのも納得してしまうような、そんな前半でした。
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肝心のシュートが枠を捉えられなかった前半の女川でした。
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カウンターからゴールを狙うシーンが見られました。
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後半も女川優勢の展開で試合は進みましたが、劣勢だったみちのく仙台は67分にCKからDFの桑田が頭で合わせて、みちのく仙台が同点に追いつきます。最低でも勝ち越さないといけない女川は、その後もゲームを支配してみちのくゴールに迫りますが、肝心のシュートの精度が悪くそのまま試合は1-1のドロー。この結果、コバルトーレ女川のリーグ優勝の目はほぼなくなったという試合となりました。
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スポーツXが運営するクラブは何を目指しているのか?
絶対勝たないといけない試合でドローとなったコバルトーレ女川。これで地域CL進出にはほぼ全社で勝ち上がるしかなくなりました。試合後、スタジアムの外で地元の人たちと話している場面に遭遇しましたが「前者に向けて気持ちを切り替えます」と、選手たちは割り切った様子でした。でも、正直今のサッカーや出来ではとても全社で勝てるような気がしません。初戦の相手の守山侍2000はリーグ終盤にかけて調子を上げており、前半に書いたラランジャvsおこしやす京都の裏で行われていたアルテリーヴォとの試合で勝利し、結果的にはアルテリーヴォの3連覇を阻止することとなりました。大雨の中でも200人以上の観客を集め、地元にしっかりと根差したクラブではありますが、今年も厳しいシーズンで終わりそうです。
コバルトーレ女川についてはこれくらいにして、今回メインで取り上げるのは対戦相手だったみちのく仙台FCです。
まずは、みちのく仙台FCについて。元々は東北リーグ2部南で活動していた「ARDORE桑原」。桑原FCという名前で仙台市の南に位置する岩沼市の桑原を拠点に活動していたクラブでした。宮城県リーグに昇格した頃にクラブ名をARDORE桑原に変更。別のクラブのU-15、U-18のチームと提携するなど、地域のクラブチームとして活動し続けて来ました。2021年に東北リーグ2部南に昇格、その翌年に「株式会社みちのく仙台FC」が設立され、クラブの運営は株式会社みちのく仙台FCへと移りました。そして昨年、2023年よりチーム名も「ARDORE桑原」から「みちのく仙台FC」となり今に至ります。
この「株式会社みちのく仙台FC」、実はおこしやす京都ACの運営会社を子会社に持つ株式会社スポーツXの子会社です。つまり、おこしやす京都ACとみちのく仙台FCは、同じグループ企業、いや、グループチームということです。一つの会社が複数のクラブを運営するというのは珍しいのですが、このスポーツXという会社が何をやっているのかというと、プロクラブやサッカーアカデミーの運営がメインの事業です。また、今年の4月にはJ3福島ユナイテッドの株式を譲り受け、Jクラブの運営にも携わるようになりました。
で、なぜ一つだけではなく複数のサッカークラブを運営しているのかというと、「クラブ運営のプラットフォーム化」といったことがその目的で、ガーナのクラブ買収に始まり、コロナ前の2019年にはミャンマーで選手育成と代表強化を図る現地法人との合弁会社を設立したりと、今までのこの手のビジネスモデルとは違うアプローチを試みています。
「クラブ運営のプラットフォーム化」とは言ってますが、何も画一化するということではなさそうです。おこしやす京都では、選手がただサッカーだけをやるのではなく、スポンサーや地元の特に地場産業の振興を目的にPRを行ったり、あるいはそのお手伝いやコンサルタントのようなこともやって、サッカークラブと地元の産業との繋ぎ役となる活動も業務の一つになっているようです。サッカークラブをあらゆる事業に活用してもらおうということのようです、そのためには選手全員がスポーツXの社員でなければならないのですよね。ということで、昨年から私の中で継続して疑問だった「なぜ選手を全員スポーツXの社員にしたのか?」がようやく解消されたのです。
そんなスポーツXが現在、日本国内で拠点としているのは京都、倉敷、福山、長崎、そして宮城の5ヶ所です。その宮城の拠点の中心となるクラブがみちのく仙台FCです。そして、みちのく仙台FCが宮城県内でどういった事業を行おうとしているのか。それは「スポーツと農業を組み合わせた一体型の教育施設」の設立と運営、そして選手やスタッフが地元の農業に従事すると共にAIやIoTを駆使したスマート農業のノウハウを提供しようとしているのです。と言われてもなかなかピンとこないと思いますので、詳しいことはリンクを参照してください。
農業とスポーツを組み合わせた教育施設として整備される土地として候補に上がったのは、宮城県内の中部、仙台市から北へ車で1時間弱くらいの距離にある人口7300人程度の小さな自治体である大郷町です。広大な仙台平野の中部に位置し、町内に鳴瀬川や吉田川といった一級河川が流れ、肥沃な土地が広がる農業が町の主幹産業の町です。実はこの大郷町ですが、2019年の台風18号によって吉田川が氾濫し、町内の農地に多大なる被害をもたらしました。そこで町は、特に被害の大きかった粕川地区の再整備事業に取り掛かりました。その再整備事業と共に町の活性化事業の一つとして、今回スポーツX社が整備しようとしている12面のサッカーコートや宿泊施設を含む、大規模サッカー施設の整備の話が持ち上がって来たのでした。町としては、農業だけに頼らない新たな産業の構築が必要と考え、このような大規模なサッカー施設を整備することで、合宿需要や秋春制を見越してのキャンプ需要を町の新たな生業の一つにしようという思惑があるのではないでしょうか。
そして、そのサッカー場を整備する土地ですが、吉田川が南向きから東向きに大きく蛇行する東側に位置しており、今後も大雨で河川が氾濫すると水没してしまう可能性もある土地です。広大な農地が広がる平坦な仙台平野に位置しているため、氾濫を起こすと河川から遠く離れた農地にも被害が及ぶ可能性があります。一度農地に水が入るとその年はおろか、翌年以降もその影響が及び、町の基幹産業に大きなダメージを与えます。その被害を最小限に抑えるには河川の氾濫を防ぐか、氾濫してたとしても農地に被害が出来るだけ及ばないようにする必要があります。とはいえ、一級河川である吉田川に大きな堤防を作るのは費用があまりにもかかりすぎます。そこで考えられるのは、氾濫の影響を受けやすい土地を遊水池とすることです。
遊水池とは、洪水時に河川の水を一時的に貯留させるための土地のことです。分かりやすい例を挙げると、日産スタジアムの隣にある日産フィールド小机がそうです。ここは「鶴見川多目的遊水池・鶴見川流域センター」という名前で、実際に近くの鶴見川が氾濫した際には日産フィールド小机にも水が溢れてきれいに水没してしまいました。そうすることによって、遊水池は河川の近くにある住宅地への水の流入を防ぐ大切な役割を果たしているのです。それと同じことを、大郷町はこのサッカー施設の整備で実施しようとしているのではないかと思うのです。そうすれば、町のメインの産業である農業を自然災害から守ると同時に、新たな産業としてスポーツ合宿での街の活性化という2本柱が成り立って、一石二鳥ということになるでしょう。
しかし、町民から聞こえてくる声は厳しいものが…
この事業計画、まずは自治体は土地の取得と造成だけを町税で行い、工事費などは企業版ふるさと納税を活用、施設の建設から完成後の管理、運営などは全てスポーツXが行うということになっています。つまり大郷町は、土地の取得と造成という基本的なことだけは町の予算を使いますが、それ以外はほぼ町の財政負担がないという「町のお財布に優しい」事業計画になっています。
しかしこの事業計画、町民からは猛反発を受けています。それは…
①運営会社(スポーツX社)が赤字運営のため、途中で事業自体を放棄してしまうのではないか?
②新たな産業構造の構築とはいえ、サッカー事業という不確実なものに町の将来を委ねるのは大丈夫なのか?
③過疎対策というのであれば、宅地造成を行った方がいいのではないか?
というのがその主な理由です。
さらに、大郷町議会でも事業計画に対する予算案が2度も否決されています。
この予算案の否決に伴い、町では再度住民への説明会を開いたのち、町長自ら住民投票で広く賛否を問おうと条例案の採決を議会に提出するも、その条例案も議員の反対により否決。住民と議会の反対により、計画自体が暗礁に乗り上げようとしています。しかし、9/20に大郷町議会において事業費の算出のための設計測量の予算案が可決、事業計画のスタートに向けてようやく一歩前進したかと思われます。
議会で否決されたり、住民投票条例も否決されたりと大郷町の方針と真っ向から対立している町内。ただ、みんながみんな反対しているわけではないようです。過疎化を食い止める一つの手段として有効と考える住民の意見もあります。
さらに大郷町の説明には
①企業の財務状況を調査する民間企業からスポーツX社は赤字経営であることは確認済みだが、グループ会社の運営は問題なく行われている
②スポーツX社が作成した地域経済牽引事業計画を、国(産業経済省)のガイドラインに沿って宮城県が承認した
③スポーツ振興を農業振興にも役立てられる可能性が提示され、町としてもその可能性を確認した
(おおさとスマートスポーツパーク構想第2回住民説明会資料より抜粋、要約)
とあり、大郷町の発展に欠かせない事業という位置付けを示しています。
事業計画に対する予算案は否決されたものの、ある一定数の議員は何らかの過疎化対策を講じないといけないという思いがあるから、まずは調査費の予算案は通そうという流れになったのかもしれません。また住民投票条例案の否決も「もし今住民投票を行なってしまうと、間違いなく反対多数となり計画自体が頓挫、そのまま消滅しかねない」と現状を危惧した議員たちの判断もあったかもしれません。ひとまずは、この事業計画については僅かではありますが前進したと見るべきでしょう。
サッカーと町おこしとの親和性はあるのか?
よく「サッカーで町おこし」というフレーズを耳にします。サッカーに限らず、スポーツを通じて町おこしをしようとする動きは、全国各地で見られます。チームがメインか、市民スポーツクラブがメインか、あるいはスポーツ施設を中心としたキャンプや合宿がメインか、それぞれの街によって違いはあります。そういえば、以前少しだけ触れた、栃木県佐野市の「クリケットのまち」もその一つと言えるでしょう。
スポーツを通じて街を活性化させようという動きのプラス面は人口減少社会の中、特に過疎化に喘ぐ地方都市に若い人たちを引き寄せる効果が見込まれることです。競技がメインであれば、競技する人たちや多くの観客が訪れるでしょうし、競技する人たちが練習の拠点として移住してくることも考えられます。また、チームがメインであれば、チームのプレイヤーやスタッフ、そしてそのチームや対戦相手のサポーター、あるいはチームのサポーターがそのまま移住してくる可能性だってあります。スポーツ施設がメインなら、キャンプや合宿、さらには大会などを開催することで場合によれば1年中、競技をする人たちがその街を訪れる可能性があります。主要な産業がなかったとしても、スポーツを通じて人を集め、街を活性化させることが出来る。そんな魔法のような力をスポーツは持っているのかもしれません。
もちろんマイナス面もあります。たとえチームを誘致したとしても、そのチームがあまり活躍しなかったり、また知名度の低い競技だったりすると大きな人流は起こらないので、町の活性化にはつながりません。野球やサッカー、バスケットボールのようなメジャーな競技ならまだしも、競技人口の少ない競技だと思ったような効果は得られないでしょう。大きなスポーツ施設を作ったとしても、競技者にとって使い勝手が悪かったり、アクセスが悪かったり、宿泊施設が少なかったりすると、他の町の施設に流れていくでしょう。設備もその時々によって刷新していく必要もありますし、維持管理費もバカになりません。
こうしたプラス面とマイナス面の両方ありますが、スポーツを通じての町おこしは、地域とうまくフィットすれば町の活性化に大いに繋がります。その例として、特に東北ではラグビーの釜石シーウェイブスとサッカーのコバルトーレ女川、いわきFCと成功例が多く見られます。コバルトーレ女川と釜石シーウェイブスはともに、地元の大きな企業がメインとなって支えている、いわば地元起点のチーム。一方いわきFCは、メインは他の地域から来た企業ではあるものの、その後は企業もチームもしっかりと地元に根付いた、パラシュート型のチームとでも言いましょうか。それぞれ違った特徴があります。
ラグビーの釜石シーウェイブスは、日本選手権7連覇を達成した新日本製鐵釜石ラグビー部を引き継いだ歴史を持っています。古くから釜石の誇りとなるチームであることは間違いないですし、特に東日本大震災以降は町の復興のシンボル的な存在でもあります。コバルトーレ女川も同様に、町の復興のシンボルと言っていいでしょうが、しかしその歴史は釜石とは全く違っています。
2006年に創設されたコバルトーレ女川。2年後にはすでに東北リーグ2部南に昇格をしました。そして、2010年には1部に昇格しますが、すぐに2部に降格してしまいます。そしてその翌年の3月、街に壊滅的なダメージを与えた東日本大震災が発生します。選手もクラブも致命的なダメージを受けたため、チームも1年間活動休止を余儀なくされました。活動が再開された2012年には、2部南で優勝すると、昇格決定戦でヴァンラーレ八戸に敗れてしまいます。しかし、福島ユナイテッドのJFL昇格により繰り上げ昇格、2年(実質1年)で1部復帰を果たしました。そして2017年の地域チャンピオンズリーズで優勝、念願だったJFL昇格を果たしました。
しかし、当時の女川町にはJFLが開催できる天然芝のグラウンドがなかったため、石巻や宮城県サッカー場でホームゲームを行うこととなり、またその年最下位となり地元女川でJFLを開催することなく、1年で東北リーグに降格してしまいました。その後も東北リーグで上位をキープ、2022年には優勝してJFL復帰を目指しましたが1次ラウンドで敗退。今年もリーグ2位となり、全社での「復活」で再度JFLへの復帰、今度は地元女川でのJFL開催を目指します。
釜石シーウェイブスと違い後発のクラブで、さらに釜石のように全国に通用するような圧倒的な強さもないコバルトーレ女川が女川町の人たちに愛される理由として、メインスポンサーが地元女川町に本社のある水産加工会社、株式会社高政の存在が大きいでしょう。震災当時、コバルトーレの選手が何人も勤めていた高政も被災。その際、被害を免れた倉庫にあった商品である笹かまぼこを被災した町民に配ったり、また選手自ら被災した町民の手助けを買って出たりしたことはニュースでも報道されてご存知の方も多いと思います。そんなこともあり、女川駅前にはコバルトーレのポスターがそこら中に貼ってあり、さらに選手の幟が何本も立っていて、街を挙げて応援しているという雰囲気が漂っていました。この日も雨の中、試合会場であるWACK女川スタジアムに、地元の人たちが多く見に来られていたのではないかと思います。
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シーズンオフだったので、ポスターは見かけませんでしたね。
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町と共にクラブがあるということの証ですね。
重要なのは「町と溶け込む」こと
釜石と女川。チームの歴史などは違えど共通して言えることは、地元の主幹産業と密接にリンクしていること。釜石であれば鉄鋼業、女川は漁業に関連する水産加工業です。町の基幹となる産業の振興が町の発展に直結するので、その産業に関わる会社が支えているからこそ、住民の理解が得られる一番の要因と言えるでしょう。
大郷町の主幹産業は農業です。スポーツX社もスマートスポーツパーク構想の中で「DX、IoTを中心としたスマート農業の拠点」としての機能も果たすとして、町の主幹産業である農業とのリンクを謳っています。
これまでにも農業とサッカーを融合しようとしたクラブはいくつかあります。代表的なのは北海道十勝スカイアースとヴェロスクロノス都農です。
北海道十勝スカイアースといえば、2018年に胃がんで亡くなられた元ヴェルディ川崎の藤川孝幸さんが代表になった時、「農業に従事しながらサッカーをやる」というコンセプトを打ち出して話題になりました。今はどうかは分かりませんが、帯広を中心とした十勝地方は、広大な平地に大規模な農場を有する農業が盛んです。大規模な農場だと農作業の大半は機械作業となり、農作業の初心者でも機械操作さえ覚えれば、ある程度の農作業も可能です。若い人たちの人材不足に悩む農業が主な産業の十勝地方で、農業とサッカーをリンクさせようとしたスカイアースが受け入れられたのも頷けるでしょう。
ヴェロスクロノス都農も農業とのリンクを謳っています。ただ、ヴェロスクロノスがやろうとしているのは「農業を通じて人材を育てる」という試みです。サッカーと農業を教育の基盤に置いた人材育成ということで、サッカー×農業×教育というクラブのコンセプトを打ち出しています。さらにヴェロスクロノスの運営会社であるシフトプラスという会社は、全国のふるさと納税のシステムを開発、運用している会社です。ふるさと納税といえば地域振興、地域創生、町おこしと地域と密着した政策で、それに関わるということは町の発展や振興にも繋がります。また、このシフトプラスは本店を大阪から宮崎の都城に移すことで、地元との連携を密接に図ろうとしています(本社は以前として大阪市です)。
「よそ者」という点ではいわきFCの例も挙げておきます。そもそも、いわきFCは東日本大震災で大きな被害のあったいわき市に、アンダーアーマーが大きな物流センターを建てて、そこで働きながらサッカーを続けるということで生まれたチームでした。たしか、設立当初はまだJリーグということは謳っていなかったはずです。でも、震災で主幹産業だった漁業ができなくなり、さらに福島第1原発の放射能の影響も相まって街からどんどん人がいなくなっていったいわき市の住民にとっては、わずかでもいいから新たな働き口ができることは歓迎すべきことだったでしょう。さらにそこに付随したサッカークラブが全国的に有名になり、さらに強くなるとともにいわき市=いわきFCという町のシンボル、町の誇りとしてのいわきFCにいつのまにか成長していきました。そうなると、当初は想定していなかったJリーグを目指すようになり、今ではJ2中位のクラブにまで成長しました。他の地域から来た企業とそれに付随したクラブでも、やり方次第で町のシンボル的な存在にまでなれるという良い例ではないでしょうか。
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その壁面にあるいわきFCの応援バナー。
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これを毎日目にしていると、町の誇りにもなりますよね。
このようにスポーツで町おこしや地方創生などを行うには、やはり地元に根を下ろして活動しないと難しいでしょう。元々地元の企業体であれば問題ないでしょうが、そうでない場合はかなり大変だと思います。
スマートスポーツパーク構想に「地元との協働意識」はあるのか?
こう見ていくと、スポーツX社大郷町でが行おうとしているスマートスポーツパーク構想が、なぜ町民から反対の意見が多数を占めているのかも納得できるのではないでしょうか。
そもそも、スポーツX社の本社は京都市。みちのく仙台FCのクラブを運営する、株式会社みちのく仙台FCは仙台市に本社があるとはいえ、地元の人たちからすれば「よそ者」と思うのも無理はないでしょう。「よそ者」だから赤字が続いたり、うまく事業が進まないと計画を縮小したり、はたまた撤退したりするのではないか、という不信感が募るのでしょう。
他の地域から来た企業という点ではヴェロスクロノス都農のシフトプラスも同じですが、営業拠点の中心を県内に移転させるなどすることで、地元からの理解を得ようとしています。スポーツXが運営しているみちのく仙台FCの運営会社は同じ宮城県の仙台市内にありますが、現状調べた限りはこの構想に直接関与しているようには見えませんでした。このままスマートスポーツパーク構想を推し進めるのであれば、子会社でクラブの運営を行っている株式会社みちのく仙台FCが何らかの形で関わると思われます。その前にまずは、みちのく仙台FCが大郷町とホームタウン協定かパートナーシップ協定といった、大郷町との密接な関係性を持つとこで「地域に根差したクラブ」ということを広くアピールすることが大事でしょう。可能であれば、地元大郷町にある事業者にもスポンサーになってもらい、クラブと施設の運営のパートナーになってもらうことができれば、地元の住民からの理解も得られやすくなるでしょう。
前述の北海道十勝スカイアースの運営会社の親会社のリーフラスも、元々は福岡でサッカースクールを運営する会社でした。その後、サッカー以外のスポーツも含めたスポーツスクール事業を核に全国展開していった企業です。そうした企業が全く縁のない土地で新たな事業を展開するには、地元の自治体もそうですが地元企業の協力も必要です。スカイアースの胸スポンサーとなっている企業は、帯広を本社にエネルギー事業や自動車関連事業、フィットネス事業や介護事業などを全国的に展開しているオカモトホールディングスです。そうした地元の企業と連携することが「よそ者」であっても事業を成功させる秘訣と言えるでしょう。
このように、スポーツX社が宮城の地でサッカーを通じての「町おこし」を本気でやるのであれば、まだまだ足りないものが多すぎるように感じました。
スポーツと社会との間の「闇」
と、ここまでスポーツX社の話をしてきましたが、それと同時に世間におけるスポーツと社会との間にある「闇」のようなものも感じました。
大郷町の住民がここまで反対するのには、うまくいかなかったら逃げるのではないか?という不信感に加え、自分たちの生業である農業によその業界の者が踏み込んでくるという不安感もあるのかもしれません。「スポーツにお金や政治の話はいらない」という古い考えに囚われたうえでの反対、という可能性もゼロではないと思うのです。
スポーツに清貧なイメージを持ちたい人たちがまだ一定数いるのではないかと思います。少子化が進めば、部活動やスポーツクラブの将来を担う人材の確保も苦労することでしょう。部活動の民間委託の問題も、あるいは部活動やプロアマ問わず、スポーツの指導における体罰やパワハラ、セクハラなどの問題も、スポーツを学校や教育現場という閉塞した社会に押し込んでしまおうとしてきた証と言えるかもしれません。それら全て、スポーツの中の問題というような認識で捉えている人もまだまだ多いかもしれません。また、何度かお話ししているスタジアム問題も政治や財政の問題が絡んできますし、そこでプレーをする選手たちもお金を稼がないと生活が成り立ちません。健康で長生きするためにいろんな人たちが通う、町のスポーツジムや民間のスポーツクラブにしても使用料が必要ですし、ロッカーやシャワールーム、トレーニング機材のメンテナンスや更新には当然お金が必要です。スポーツを楽しむには生活にそれなりの金銭的、時間的な余裕がないと出来ませんが、それらを経済格差や自治体の財政問題、労働時間の問題などと捉える人は多くはいないでしょう。全て政治や経済の発展、少子化問題などの社会問題の解決が欠かせないのです。スポーツだからお金が掛からない、いらないというのは完全な間違いですし経済のこと、少子化、高齢化問題など様々な社会問題とも無関係というわけにはいかないのです。
地域の過疎化が最大の問題と捉えている大郷町。それを食い止めるための何らかの施策が必要ですが、かといって大きな工場を誘致することもそう簡単なことではありません。それよりも、今ある産業である農業の可能性を伸ばした方が近道ではないか。そう考えると、スポーツX社の事業計画にある「DX、I oTを駆使したスマート農業」というコンセプトの方が、町の産業構造を変えることなく町民に過度な軋轢を生じさせにくく、その上「スポーツとそれに纏わる関連産業」という新たな主幹産業を産み出すことができる。そういう意図があったのかもしれません。また、この計画予定地は水害の影響から農地に戻すにも再造成が必要で、さらに農地に戻してもまた吉田川の氾濫の被害を受けないとは限りません。それならサッカーグラウンドという形にして、それを街が管理するのではなく民間に委託させて、万が一川が氾濫した時にはそこが遊水池となって周囲の農地に被害が及ばないようにした方が賢いかもしれません。そこまで見越して大郷町がこの事業計画に乗っかったのであれば、実に先見性のある判断と言えるかもしれません。
今回取り上げたおおさとスマートスポーツパーク構想で見えてきたことは、自治体はスポーツを社会問題の解決の手段として活用しようとしているが、対する住民はスポーツと社会との関わりを認めない、そんな確執がまだ存在しているのかもしれないということです。もしかすると、スポーツを社会と切り離した状態の方が望ましいと考える人たちがいるからではないでしょうか。スポーツが社会性を持って、世の中のさまざまな問題の解決に一役買うようにならないと、成熟した社会とは言えないと思います。そしてそういう試みに取り組んでいるのが、今回取り上げた「おおさとスマートスポーツパーク構想」を掲げたスポーツX社です。スポーツを通じて社会問題を解決する、そういった価値観が広く受け入れられるようになるのは、まだ先のことでしょうかね…。今回の一件でそう感じたのでした。