地域後発組クラブだからこそ出来ること、出来ないこと。そのあたりの切り分けをちゃんとしたうえで、正しく棲み分けることがこれからの10年、20年の課題になるのかな?などと漠然とそう感じたよ、というお話
先日、全国社会人サッカー大会の東海予選にてキックオフ30分前に気温40℃を超えたので試合を中止、トーナメントのため次の代表決定戦へ進むチームを決めるための抽選を行い、東海リーグ所属のSS伊豆が敗れてしまうという事態がありました。
東海学生リーグに通っている身としていつも感じるのは、確かに住んでいる関西エリアも夏は非常に暑いのですが、それに負けずとも劣らないくらい名古屋を中心とした東海エリアも暑いのです。以前、8月の朝9時キックオフの試合が前半終了時にWGBTが基準値を超えたため、試合が中止になったということをお話ししました。今回の試合は14:00キックオフ。その前の週くらいから、梅雨の合間の晴天には似つかない酷暑の日々が続いていたので、その結果を聞いた時は「あ〜、やっぱりですか…」という思いでした。この日は関東でもゲリラ雷雨が発生し、JFLの武蔵野vs滋賀、浦安vs新宿、関東リーグの東京23FCvsVONDS市原、東京ユナイテッドvsヴェルフェ矢板がそれぞれ中止に、大学リーグも一部中止やキックオフ時間の変更がありました。関西リーグでも、公式記録に「気温37.3℃」などと書かれるくらい、普通に外にいるだけで体調不良を起こしかねない環境でサッカーのような激しい運動をするのはいかがなものか?と思いが強くなっています。
しかし現状のスケジュールでは、この問題に対してどうすることもできないのも事実です。日程を大幅に変更するには、やはりJと同じタイミングで秋春制に踏み切るしかないのかな?などども思ったりします。
今回はそんな堅苦しい話題がメインではなく、そんなSS伊豆の抽選負けのあったちょうど1週間前に見に行ったら東海リーグのお話からです。
6/29 東海リーグ1部@伊勢フットボールヴィレッジAピッチ FC.ISE-SHIMA 4-0 中京大学FC
今回の会場である伊勢フットボールヴィレッジ。以前に行くタイミングが何度かあったのですが、まだ一度も行ったことないんですよね。
東海学生リーグの下部にあたる三岐大学リーグというものがありまして。名前の通り、三重県と岐阜県の大学リーグなんですが、そのリーグの試合を実はこの伊勢フットボールヴィレッジでよく開催しているのです。一度は見に行きたいと思いつつも、試合開始が19:00とか「いや、そんな時間にどうやって帰るの?」といった日程なので、流石にムリ!ということで断念したり、またある時は西日本医科学生体育大会という、関係者以外誰得なのか?といった大会がお盆の真っ昼間に開催されたのですが、そんなタイミングにしかも日程すらどうにかして探し出さないといけないような大会…。まあムリですよね…(笑)
ということで、今回初の伊勢フットボールヴィレッジとなりました(笑)
キックオフが15:00と遅めでしかも名古屋よりも西にあるので、朝の出発がゆっくりできるというのはやはり嬉しいですね(笑)。乗る前に買っておいたイオンの安いお弁当(その一言は余分だぞ!笑)を近鉄特急の車内で食べ、JRへ乗り換える伊勢市駅には13時前に到着。次の列車まで50分くらいあったのですが、伊勢神宮の外宮にも行けなさそうだったので、外宮前の参道でお土産と酒屋で地酒の飲み比べセットをチャチャっと飲んで、現地に向かいました。
最寄りの二見浦駅から歩くこと約25分、暑かったですが平坦な道だったのでそれほど苦ではなかったですね。会場の伊勢フットボールヴィレッジですが、全部で5面のピッチを有しています。そのうちAとBは三重県営サンアリーナの隣にあり、残りのC〜Eまでの3面はサンアリーナのすぐそばを走るバイパスの北側にあります。A〜Dは人工芝、Eのみ天然芝というサッカーをやるには申し分ない施設です。試合が行われたAピッチには屋根付きの観客席があって、観戦するにも何の問題もない素晴らしい環境でした。
会場の外にはキッチンカーが数台出店しており、試合前からたくさんの人で賑わっていました。FC.ISE-SHIMAのメインスポンサーであるおやつカンパニーさんより、来場者全員に配られたベビースターラーメンを受け取り、隣で売られていた東海リーグのパンフレットを購入。受け取った際、渡してもらった人の隣から「ありがとうございました!」と声がしたのでその方向を振り返ると、そこには現在FC.ISE-SHIMAの代表を務められている元日本代表の小倉隆史さんの姿が!あまりにも衝撃的過ぎて、とっさに声をかけるのも写真を撮らせてもらうのも全く出来ませんでした。ハーフタイムにもう一度行ってみたのですが、もう姿は見られませんでした、残念…
ホームのFC.ISE-SHIMAですが、この時点で7試合終了で6勝1分の首位。東海リーグは毎年日程消化にばらつきがあるのですが、少なくとも他に無敗のチームがいないので「実質首位」と言ってもいいでしょう。アウェイの中京大学FCですが、8試合終了で5勝3敗。学生チームはこの時期くらいから「チームが仕上がってくる」ので、首位のISE-SHIMAといえども苦戦することも予想されます。しかも15時キックオフといえど、30℃を超える中での試合。厳しい試合になりそうです。
そんな見立てでしたが、始まってみるとISE-SHIMAがペースを握る展開。2列目の杉山ビラル正将が積極的にドリブルで仕掛けチャンスメイク。さらに後方からのボールに対しては、1トップの濱田の絶妙なポストからの展開と、しっかりとした形で攻撃を仕掛けます。10分に中央付近からのボールに反応した濱田が、DFの追撃を振り切ってゴールを決めて、ISE-SHIMAが先制します。愛知学院大学時代から見ている彼は今年、同じ東海リーグのwyvernから地元三重のFC.ISE-SHIMAに移籍して、活き活きした動きを見せてくれました。今日はもう、これだけでお腹いっぱいです(笑)。その後もISE-SHIMAは攻撃を手を緩めず中京大学FCゴールに迫りますが、キーパーの長身東下の活躍もあり追加点は奪えず、前半を終えます。
後半もISE-SHIMAがペースを握る展開。しかし、なかなか追加点を取れません。選手交代で打開を図ると、その直後の72分。交代で入った西口がボールを持ったままエリア内に侵入。飛び出したキーパーの東下が西口の足を刈って倒したとして、ISE-SHIMAがPKを獲得。やや厳し目の判定のようにも思えましたが、そのPKを西口自らが決めて待望の追加点を上げます。ここまで凌いできた中京大学FCの気持ちがやや切れたのか、その3分後には右からのクロスに中でやや無理な体勢から合わせた6番宮寺のゴールで3点目。試合終了間際にも、交代で入った9番の山田のゴールでダメ押し。中京大学FCに1本のシュートも記録させない、ほぼ完璧なゲームでFC.ISE-SHIMAが4-0で完勝、8試合負けなしの7勝1分で首位をキープしました。一方、負けた中京大学FCは5勝4敗と、上位を脅かす位置からはやや遠ざかってしまいました。
勝ったFC.ISE-SHIMA。盤石な戦い方ではなかったでしょうか。早い時間帯に先制点を取り、その後も手を緩めずに攻め続けることで相手の体力を奪っておいて、後半は選手交代からペースを握りなおして、追加点にダメ押しと実に理想的な試合運びだったと言えるでしょう。さすがは首位のチームといった安定感のある内容でした。東海リーグはwyvernがすでに4勝3敗1分の勝点13と、優勝が絶望的な成績となってしまったので、消化試合の少ないながら5勝1敗とISE-SHIMAを追随するFC刈谷との直接対決がまだ2試合残っていることを考えると、まだまだどう転ぶか分からない状況と言ってもいいでしょう。
負けた中京大学FCですが、一昨年に見た中京大学FCよりもやろうとしているサッカーのイメージが、トップチームに近いことをやろうとしているように思えました。ただ、トップチームの選手よりも判断やボールの扱いがやや劣るので、今はまだここにいるのかな?といった印象でした。それでも今年はトップチームにいる畔柳くんも、卒業後Honda FCにいった知花くんも一時期、セカンドチームである中京大学FCで成長したことを考えると、この中からトップチームで活躍する選手が現れる可能性は高いと思います。チェックしておくのもいいかもしれませんね。
6/30 JFL@中津市永添運動公園 ヴェルスパ大分 3-2 横河武蔵野FC
翌日は大分県の中津に向かいました。JFLのヴェルスパ大分vs横河武蔵野FCです。武蔵野は天皇杯前から絶不調の真っ只中にあり、残念ながら今年は残留争いに完全に巻き込まれるシーズンになりそうです。対するヴェルスパ大分も実はあまり調子が良くなく、ホームゲームも2ヶ月近く勝てていないとのこと。どちらがその不調から脱することができるか?という、ちょっと残念な両チームの対戦となりました。
当初の予定では土曜日から大分入りし、九州大学リーグを見ようと思っていたのですが、今月は3週連続で泊まりの遠征があり、流石に身体のことを考えると泊まりは避けておこうということで、先に書いた東海リーグに変更したのでした。でも、変更して良かったのは前日はそこそこの雨だったらしく、雨の中での撮影はけっこうツラいのでパスして正解だったかもと…。
いつ以来でしょうかね、大分空港に降り立ったのは、というくらい久々の大分空港着。直前に決めたにも関わらず、消化しないといけないJALの株優を使って比較的リーズナブルに乗れました。日曜の朝便はだいたいどこも空席が多いので、なんとか取れました(笑)
空港から直接行くにはやや早い(この日の試合は14時キックオフ)ので、こういう時じゃないとなかなか立ち寄る機会の少ないであろう、杵築という町に行ってみました。
杵築は小さな城下町であまり有名ではなさそうですが、街の造りが特殊なことで城好きには有名な街です。元々あった城郭の近くにある2つの山の間にある谷間に街道を通して、その街道沿いに町人の住む町屋を、その街道を挟み込む両方の山の上に当時この地域を治めていた松平家の家臣などが住む武家屋敷を配置。「サンドイッチ城下町」なる表現で街をアピールしていました。
街歩きの途中、小雨に降られたりしましたが、昔行ったことのある、同じ大分の臼杵という城下町を歩いた時もそうでしたが、こういう街ってちょっとくらい雨が降ってた方が風情があっていいんですよね。ということで、約2時間弱でしたが杵築城とその城下町を散策、昔ながらの武家屋敷を活かしたカフェっぽいお店でちょっと休憩しながら、中津に行くまでのわずかな時間を過ごしました。
せっかくなのて、9年前に行った臼杵の様子も一緒にご覧ください。
杵築を離れて、特急ソニックに乗って中津に向かいます。中津市は大分県の最北部にあり、さらに小倉のある北九州市などと同じ豊前国に属しているため、大分市などのある豊後国よりも文化的にも経済的にも結びつきが強いと思われます。中津といえば古くは黒田如水が治め、明治初期には慶應義塾を創設した福沢諭吉を輩出した街です。歴史の深い街なので、次来る時はちゃんと時間を使って街歩きしたいです。
会場となる永添運動公園。どうやらネーミングライツを導入しているらしく「ディーアクトスポーツパーク永添」という名称らしいです。どこもかしこもネーミングライツでよく分かんないんだよね?と、地方に行ってタクシーに乗るとよく言われますが、この日の運転手さんはネーミングライツで伝えなかったので、果たしてどっちだったんだろうか…(笑)ちなみに帰りの運転手さんはどっちも把握されてました。
毎年1、2試合はヴェルスパ大分のボールゲームをここで行うのですが、お世辞にもJFLを行うにはちょっと厳しいかなといった感じのスタジアムでした。ピッチの構造上、スタンドのある側がバックスタンドになったのですが、そちら側にクラブハウスがあるのでピッチを対角線上に歩いての選手入場。西が丘でもここまで時間かからないだろう!と思うくらいで、ちょっとウケてしまいました(笑)
試合は、スタメンを大幅に変更した武蔵野が序盤からペースを握ります。11分にCKから小林がゴールを決めて、武蔵野は6月に入って初めて「流れの中からのゴール」で先制します。その後もベテランをベンチに置いて、若手中心のスタメンの武蔵野がいい形を作るのですが、追加点までは奪えません。そこが今の武蔵野の苦しいところでしょうか。前半のうちにもう1点取れていれば、結果は全然変わったかもしれません。結局、前半は武蔵野が1-0でリードして終了しました。
後半もこの流れが続くかと思われました48分、ヴェルスパ大分が右からのクロスに24番佐々木のヘッドで同点に追いつきます。すると、負けが込んでるせいか、まだ同点にも関わらず武蔵野が動揺して完全にリズムを失います。そして、66分に地元中津出身の中野が鮮やかなミドルシュートを決めて勝ち越します。彼は広島ユースの時代から見ているので「あ〜、昔からこういうの、上手かったよね〜」と悔しいながらそう思ってしまいました。さらに76分には山崎のゴールも決まりヴェルスパ大分が突き放します。しかしその1分後、3枚替えで入ったベテラン阿部と鈴木裕也が作ったチャンスを、同じくベテランの後藤が決めて1点差に詰め寄るもそこまで。調子の上がらない両チームの対戦は、ホームのヴェルスパ大分が逃げ切って勝利。武蔵野はいよいよ残留圏内も怪しくなってきた、痛い敗戦となりました。
目標が見えてきたヴェルスパ大分、目標を見失いつつある武蔵野…
今期は引き分けが多く、前節はラインメール青森に0-4と大敗しているヴェルスパ大分。この日は先制されながらも勝ち越し、ダメ押しと決めたことでなんとか勝ち切りました。おそらく山崎のゴールがなければこの日もドロー、もしかしたら負けていたかもしれません。この試合に勝ったからか、リーグ中断前の段階でJ3昇格要件の一つである2位以上を射程圏内にまで順位を押し上げてきました。今年は高知ユナイテッドが走っているので2位以下が混戦です。この時点での勝点6差は十分挽回可能でしょう。序盤はほぼ諦めかけていたJ3がちょっとだけ見えてきたのではないでしょうか。
逆に負けた武蔵野は、JFL残留が目標となりつつあります。この日は若手をスタメンに使ってとにかく走れるだけ走ってもらい、後半途中から経験豊富なベテランを入れて試合の流れを作ろうという狙いだったと思います。それはうまくいったと思いますが、結果がついてこなかったのは誤算でした。これで勝点3が取れていれば、中断までの残り3試合もいい流れで進められたのではないでしょうか。この翌週の試合は雷雨で中止になったもののレイラック滋賀に先制したし、その次の試合はあと1分凌げば勝点3というところまで行けました(裏を返せば勝点2を落としたとも言えるが…)。残留争いのライバルとなるであろうミネベアミツミ戦を落としたのは非常に痛いですが、それでもまだ「残留圏内」にいるとポジティブに捉える方がいいでしょう。延期試合が入るので他のチームより1週短いインターバルとなりますが、コンビネーションが噛み合ってくるインターバル明けに、少しだけ明るい兆候が見えたのは大きいと思っています。夏の間にチームが纏まり、残留へ向けて戦い続けてもらいたいと、そう願っております。
地域2番手クラブが生き延びる術は金か?それとも棲み分けか?あるいは両方か?
今回ピックアップしたチームに共通することは「地域2番手クラブ」ということです。完全アマチュアクラブである横河武蔵野FCはさておき、ヴェルスパ大分はJ2の大分トリニータというJ1やナビスコカップ優勝経験のあるクラブに次ぐ2番手、FC.ISE-SHIMAは同じ三重県のヴィアティン三重とアトレチコ鈴鹿というJFLクラブの次に位置する、やはり2番手クラブです。少し前に「2番手クラブの生き残り戦略はホームタウンを別にするか、あるいは『太いパトロン』を掴むこと」と書きましたが、この2チームがどういう戦略を取っているのかに注目すると、その戦略の難しさも見えてくるのです。
まずはFC.ISE-SHIMAから。まだ三重からJクラブが誕生していないので、JFLの2クラブを差し切って県内初のJクラブという可能性もまだISE-SHIMAには残されていますが、現実的ではないでしょう。2番手として生き残る道が現実的となる以上、JFLにいる2クラブとの差別化を図る必要があります。そこで彼らが取った戦略は「棲み分け」を図ることでした。
FC.ISE-SHIMAは現在、NPO法人として運営されています。チームのスタートは県中部にある志摩半島の南部に位置する志摩市の商工会が、地域活性化の具体的な施策としてスポーツと自然環境を活かした街づくりを提唱。それに基づいてチームが立ち上げられました。桑名市を中心としたヴィアティン三重、鈴鹿市が中心のアトレチコ鈴鹿とは完全に地域的な棲み分けは、すでにこの頃から出来ていたと言ってもいいでしょう。東海社会人リーグに昇格し、さらに1部に昇格して2年目の2017年からはホームタウンを伊勢市、志摩市、鳥羽市、松阪市、度会郡、多気郡として三重県の中部からJリーグを目指すことになりました。鈴鹿市と桑名市という地理的に三重県の北部とされるエリアをホームタウンとする2チームとは異なるエリアをカバーすることで、チームの特色を打ち出しやすくなるというのはサンフレッチェ広島と異なる経済圏からJを目指す福山シティと全く同じ戦略ですね。
さらにISE-SHIMAのメインスポンサーは、ベビースターラーメンでお馴染みのおやつカンパニーです。おやつカンパニーの本社は三重県の中部に位置し、県庁所在地でもある津市です。さらに、おやつカンパニーと並んで大口スポンサーであるシンフォニアテクノロジーも本社は東京ですが、三重県内の拠点は伊勢市と鳥羽市にあり、共にFC.ISE-SHIMAがホームとする三重県中部エリアの大企業です。しかも、ホームゲームを開催している伊勢フットボールヴィレッジには、全国的に超有名な赤福も看板を出しています。今はまだスポンサーにはなってませんが、JFLに昇格することになればスポンサーに名乗りを上げる可能性もあるでしょう。
また、クラブ事務所のある志摩市は「スポーツ観光都市宣言」というスポーツを活用した観光振興を中心とした街づくりを目指しており、将来のJリーグ入りを目指すFC.ISE-SHIMAにとってはホームタウンに相応しい街ではないでしょうか。FC.ISE-SHIMAは後発組だからこその「棲み分け戦略」が出来ているクラブではないでしょうか。
後発組だからこそ苦しんでいるヴェルスパ大分
一方のヴェルスパ大分はというと、逆に後発組なのでいろいろと苦労しているように思えます。元々は豊洋精工のサッカー部だったこのクラブ。2011年にNPO法人の大分スポーツ&カルチャークラブにチームを移管、その年にチーム名を「HOYO Atletico ELAN」から「HOYO AC ELAN」に変更。翌年にJFL昇格、さらにチーム名を2013年に「HOYO大分」、そしてシーズン終了後に今の「ヴェルスパ大分」となりJリーグ昇格を目指すクラブに生まれ変わりました。2011年にクラブチーム化してから毎年のようにチーム名が変わるというバタバタ感が、このチームがこの期間「行き当たりばったり」で運営していたことを示しているようにも思えます。
また、ホームタウンも実は「行き当たりばったり感」が否めなく、2021年にJリーグ百年構想クラブへの申請時に元々ホームタウンだった大分市を外して、別府市と湯布院温泉のある由布市をホームタウンにしました。さすがに大分トリニータという地域のビッグクラブと同じホームタウンでは敵わないということでしょう。そもそもホームタウンを大分市にしたのも、Jリーグ開催要件を満たすスタジアムが大分市にしかなく(おそらく大分市陸上競技場と思われます)、そのために大分市をホームタウンとせざるを得なかったのではないかと推測されます。しかし翌年の J3クラブライセンス申請時には、昨年ホームタウンから外したはずの大分市を再びホームタウンに追加、ホームスタジアムを大分市陸上競技場にしました。この対応もどこか場当たり感のする動きとも言えるでしょう。
では、どうしてこうも場当たり感のある動きが多いのでしょうか。思い当たることとしては、先ほども申し上げましたがこのチームが元々は豊洋精工のサッカー部で、クラブ化された後も豊洋精工の社長がクラブの代表も兼ねているということでしょうか。レイラック滋賀の前身だったMIOびわこ滋賀も、昨年癌で亡くなられた、チーム発足時からのオーナーさんの意向が強くチーム経営に現れていたように覚えています。発言力の強いオーナーがチームの運営に携わると、いい時はそれがチームを発展、成長させるいい推進力になるのですが、問題が発生しその対応があまり良くなかったりすると、かえってどんどん良くない方向に舵を取ってしまいがちになります。おそらくヴェルスパ大分もその悪い面が出たのかもしれませんね。同じJFLの栃木シティも強いオーナーさんがチームを経営されてます。一時期、あまり良くない方向に向かっていましたが、ようやくいい方向に舵を切ることができたのではと思います。ヴェルスパ大分もそのうちいい方向へと舵を切ることが出来ると思います。
とはいえ、ヴェルスパ大分の現状はなかなか厳しいものです。スポンサーを集めようとチーム名に「大分」と入れたものの、思うようにスポンサーも集まっていないようです。また大分県自体が、先日お話しした福山シティのある福山市や今回お話ししているFC-ISE-SHIMAのある三重県のように全国規模のシェアを誇っている企業の本社や大企業の工場などの拠点が多いわけではなく、どちらかと言えば農業などの第一次産業が中心の経済構造のため、たとえスポンサーが集まったとしても多額の支援を得られるとは限りません。そういう意味では、大分県の2番手クラブは厳しいと言えるかもしれません。
ちなみにこの日試合のあった中津の永添運動公園。ネーミングライツによりディーアクトスポーツパークという名前が付けられていますが、この会社はダイハツ大分の子会社です。ダイハツ大分と言えば、大分トリニータの胸スポンサーでもあり、大貞総合運動公園内にあるダイハツ九州アリーナ(中津市総合体育館)を筆頭とした中津市内のスポーツ施設のネーミングライツを手掛けています。スポーツに対する理解の深い「太いパトロン」と言っていいでしょう。ただでさえ大企業の少ない大分県で、これだけの大企業がすでに県内1番手のトリニータの大口スポンサーとなっている事実は、想像以上にヴェルスパ大分にとっては痛手と言えるのではないでしょうか。
さらに、先ほども少し触れましたがJ3開催要件を満たすであろうスタジアムも、レゾナックスタジアム以外だと大分市営陸上競技場くらいしか思いつきません。そして、その大分市陸ですが…、現在KYUリーグに所属している強豪チーム「ジェイリースFC」を持つジェイリースがネーミングライツの権利を持っており、その名称も「ジェイリーススタジアム」となっています。もし仮にヴェルスパ大分が J3に昇格したら、ホームゲームは「ジェイリーススタジアム」で開催する、というなんだかおかしなことになるのです。しかもジェイリースFCが JFLに昇格すると「ジェイリースのホームゲームを、ジェイリーススタジアムで開催できない」という事態も発生しそうという、ますます持ってして謎が謎を呼ぶ展開になってしまうのです(笑)
実は「3番手クラブ」もいる大分県
そんなジェエリースFC。実は6月の天皇杯、セレッソ大阪戦を見たのですが、試合については尺もないのでカットします。しかし、平日の大阪開催にも関わらずたくさんの社員の方々も大阪の支店だけでなく、大分の本社や東京の拠点からも来られていたようです。さらに太鼓や応援グッズも配って声を張り上げて応援されていました。
KYUリーグでは首位、ヴェロノクロノス都農に大きく水を開けられていますが、全社からの復活で地域CLも十分あり得るくらいの実力はあるのではないでしょうか。ジェイリースFCは企業チームということもあり、JFLより上を狙うことはまずないでしょう。そういう意味ではヴェルスパ大分の直接的なライバルにはなりえないと思われます。たとえそうであったとしても、スタジアムの面では完全にライバルとなってしまうのです。
ジェイリースも大分に本社を持ち、大阪や東京を含む全国に支店を持つ、規模の大きな企業です。そんなジェイリースは自前でチームを持っていることに加え、ジェイリースFC発足以前から大分トリニータのオフィシャルパートナーになっているので、いまさらヴェルスパ大分のスポンサーになることはまずありえないでしょう。
ジェイリースとヴェルスパ大分のメインスポンサーの豊洋精工。共に大分県に本社を置く企業で、規模も県内で上位に入るくらいです。しかもジェイリースは日本国内に飽き足らず、アジア進出も見据えているようです。
その2社が互いにサッカークラブを運営するという「県内で融通できるであろう大口の資金を奪い合う」形になっている、今の大分県内のサッカークラブの現状。JFL止まりでも構わないジェイリースと違い、Jリーグを視野に入れているヴェルスパ大分にとっては必要なお金の額もスタジアムなどの施設も大きく異なります。ヴェルスパ大分にとっては、このジェイリースFCというチームの存在が今あるさまざまな問題の深刻さに輪をかけているようにも思えるのです。
苦しい立場のヴェルスパ大分。逆転の一手はあるのか?
とはいえ、苦しいとばかり言ってる場合でもありません。なんとかしてこの局面を打開しないといけません。そこで、打開策を考えてみましょう。
まずはホームタウン。ライセンスの関係で大分市を加えたのはやむなしですが、県内で一番人口の多い自治体をホームタウンにすることは、たとえビッグクラブとエリアが被るとしてもメリットは十分あるでしょう。しかし、現在ホームタウンとしている別府市、由布市、大分市以外の自治体もホームタウンに追加することを考えた方がいいでしょう。候補としては、毎年ホームゲームを開催している、この日の試合会場である永添運動公園のある中津市、同じく日田市陸上競技場のある日田市、それと昨年までホームゲームを開催していた佐伯市の3市が有力でしょう。しかし問題は、その3市はそれぞれエリアが点在してしまい、それぞれが互いに連携しにくいということが懸念されます。県最北部の中津市と県最南部の佐伯市では全く文化も違うし、人の交流もかっぱぬてはありません。この2市をリンクさせることは難しいでしょう。なのでまずは別府、湯布院とは古くから湯布院日田往還で繋がりの深い日田市をホームタウンに追加するのがいいのではないでしょうか。また、日田往還は中津に抜けるルートもあるので、日田市とともに中津市も一緒に追加できるとよりアピールしやすくなるでしょう。トリニータは大分市、別府市、佐伯市を中心とした県全域なので、大分市と別府市が完全に被る以上、由布市やそれ以外の自治体を巻き込む方が、ヴェルスパ大分のホームタウンの棲み分け戦略としては重要になるでしょう。
次はホームスタジアムの問題。ホームスタジアムとして申請しているジェイリーススタジアムを使い続けるのはあまり得策とはいえないでしょう。しかし、別府市にも由布市にもJリーグはおろか、JFLですら開催可能なスタジアムはありません。それでも現在、中津の永添レベルでも良ければ別府市には 実相寺サッカー場と野口原総合運動場の2ヶ所に開催できそうな会場はありますが、野口原はスタンドはあるものの陸上競技場なうえに老朽化が激しく、実相寺は天然芝と人工芝の2面あるものの共にスタンドはなく、どちらも実際にホームスタジアムにするには大規模な改修が必要となります。さらに別府駅からのアクセスもバスしかなく、また別府市内は全体的に道が狭いので渋滞の問題も発生します。いざどちらかを改修したとしても、試合運営でさまざまな問題が発生しそうな予感がします。
それであれば、いっそのこともう一つのホームタウンの由布市に新しいスタジアムを作る方がいいのかもしれません。由布市には、ヴェルスパ大分のレディースチームがホームゲームを開催している湯布院スポーツセンターというところがあります。湯布院の街中からは少し離れていますが、大分自動車道の湯布院インターから近く、湯布院駅からもタクシーでも10分もあれば着くのでそこまでアクセスは悪くないです。今はスタンドもないただの陸上競技場ですが、陸上競技場の施設は補助競技場に集約させることで今の陸上競技場をサッカー専用スタジアムに変えることも可能でしょう。ラグビーでも合宿などでよく利用されているようですので、ラグビーと連携して整備するのも一つの手ではないでしょうか。
以上のように、ガリバークラブである大分トリニータと差別化を図ることで、今のヴェルスパ大分はクラブの価値を高める方向に進めていく必要があるでしょう。
棲み分け戦略のできているFC.ISE-SHIMAにも不安要素は…
ヴェルスパ大分と比べて、うまく棲み分けが出来ているように見えるFC.ISE-SHIMAですが、やはり課題はあります。
最大の課題はヴェルスパ大分同様、スタジアム問題です。まずはホームゲームが行われている、この日の会場でもある伊勢フットボールヴィレッジ。試合のあったスタンドのあるAピッチでも1000人も入れば一杯というくらいの規模(この日の観客は786人でした)です。さらに人工芝なので天然芝への張り替え工事も必要ですし、そのうえすぐ隣には三重県営サンアリーナがあってスタンドの増設も難しいです。なので、改修はまず無理だと思われます。もう一つ開催されている松阪市総合運動公園もスタンドはなく、やはりこちらも改修するとなるとかなり大規模なものになるでしょう。
もしISE-SHIMAがJFLに昇格したときにホームゲームが開催されると思われる最有力の会場としては、伊勢神宮のすぐそばにある三重交通スポーツの杜伊勢こと、三重県営総合競技場(伊勢陸上競技場)ではないでしょうか。コロナの影響で開催が中止されましたが、2021年三重国体のメインスタジアムとして20000人規模のスタジアムに改修されました。国体のメインスタジアムなので、Jリーグ開催スタジアムの要件は概ねクリアされてるものと思われますが、実はその伊勢のスタジアムがもしかしたらJリーグが開催できないかもしれないのです。
というのも、伊勢陸上競技場の改修事業計画書を見ると、そもそもピッチサイズがJリーグ開催要件を満たさない可能性があるのです。細かい改修内容にピッチに関することが書かれていないのですが、少なくとも改修前のピッチサイズは104m×67m。Jリーグ開催要件にあるピッチサイズが105m×68mと、規定には縦横とも1mずつ足りません。実は陸上競技場のインフィールドでJリーグの規定サイズを取ろうと思うと、トラックのギリギリまでピッチを切らないといけないのです。奈良クラブのホームスタジアムのロードフィールド奈良も、照明灯の設置と共にピッチを拡げる工事を経て晴れてJリーグ開催スタジアムになったのです。もし、改修時にインフィールドを拡げる工事を行なっていなければ、Jリーグを開催することはできません。ただ、この伊勢陸上競技場。JFLまでなら開催は可能です。今すぐに改修が必要というわけではありませんが、わずか数年前に大規模な改修を行ったにもかかわらず、またピッチを改修するとなると反対の意見も出てくるでしょう。
さらに陸上競技場なので地元の陸上競技連盟、いわゆる陸連との兼ね合いが出てきます。特に伊勢陸上競技場は、日本選手権や日本学生選手権などの大きな大会も開催できる県内唯一の陸上競技場なので、仮にJリーグのホームスタジアムとなってしまうとそのような大きな大会を誘致しにくくなります。同じ陸上競技場でもヴィアティン三重のホームスタジアムである東員(LA•PITA東員スタジアム)や老朽化の激しい四日市(四日市市中央緑地陸上競技場)はサッカーに渡したとしても、伊勢陸上競技場だけは絶対にサッカーには渡さない、という変な縄張り意識から改修工事に反対されてしまうと、もうどうしようもありません。
特に地方の陸連はどこもかなりの「政治力」を持っており、それを盾に他の競技団体に対して強硬な態度を示すことがよくあります。特にJリーグでその影響を受けているのはザスパクサツ群馬でしょう。ホームスタジアムの敷島陸上競技場は、陸上大会の撤収のためにキックオフを19:30にせざるを得なかったり、あるいは陸上大会の投擲競技の影響でピッチの芝生がボロボロの状態で試合をしないといけなかったりしています。現に三重県でも陸連が政治力を行使しようと、コロナ禍で開催されなかった国体に変わる大々的な陸上の大会を開催したいと県に打診をしたらしいです。しかし県からの回答は「そんな費用はありません」という実につれないものだったそうです。まあ、仕方ないですよね…(とはいえ、何かそれなりの規模の大会は開催されるようですが…)
というのはさておき、このように陸上競技場をJクラブのホームスタジアムにするのはその後の運用のハードルが高く、特に国体開催時のメインスタジアムとなるとさらにそのハードルが高くなるでしょう。滋賀県みたいなケースはレアケースだと思います(たしか滋賀県は、県の方からレイラック滋賀に「ぜひとも使ってね」という打診があったような…)。各競技団体の縄張り争いのために、せっかく整備した新しい器も最大限に活用できないという可能性があるのです。
もっとも、陸上競技場は「陸上競技をやるための施設」であって、それを他の競技団体が優先的に使おうというのがそもそもの間違いではあるのです。本来ならここでもうまく「棲み分け」を図らないといけないのですが、今の地方自治体にそんなサッカーなどの球技専用の、しかも1万も2万も収容できるような規模のスタジアムを新設するというのは酷な話でもあります。31年のスポ体に向けて、新しい大規模な球技専用スタジアムを作ろうと意気揚々だった奈良県も、知事が変わった途端にその話が完全に消えてしまったということもあります。もはや全国規模のスポーツイベントを誘致しても、新しい施設を作ることすら難しくなっているのです。これはどこの後発組のクラブも抱えている悩みでもあり、1年や2年で解決できるような問題でもありません。この問題を抱えながら、今後もクラブを動かし続けないといけないでしょう。
https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000577883.pdf
もう一つ懸念材料としては、人材の確保です。FC.ISE-SHIMAの立ち上げに尽力したのは横浜フリューゲルスなどで活躍した中田一三です。ISE-SHIMAで監督も務め、理事長を辞して京都サンガの監督を務めた後はクラブアドバイザーも務めています。このクラブアドバイザーには中田一三と四日市中央工業で同級生だった中西永輔、関西大学の監督を長年務めていた島岡健太がいます。さらに中田、中西と同級生の小倉隆史が今の理事長を務めています。さらに監督の金森智哉、ヘッドコーチの飛騨暁も四日市中央工業のOBです。チームの主要ポストがみんな四中工出身なのです。それもそのはず、四日市中央工業の監督を長年務められた城雄士さんが名誉監督として名を連ねています。チームの立ち上げにも関わっていたと思われますので、その繋がりで四中工OBが集まってきたのでしょう。
しかし城監督の後を継いだ樋口士郎元監督は、今はヴィアティン三重の育成カテゴリーの指導に携わっていますし、弟の樋口靖洋監督も昨年までヴィアティン三重の監督を務めていました。今後、四中工OBの人材がこの両チームに分散されてしまう可能性があります。
サッカークラブの人材確保ほど、人脈に大きく作用されるものはないと思います。Jクラブとなればそれがますます顕著に現れます。だから、Jで監督経験のあるS級ライセンスを持っている人がここでもそこでもあそこでも監督を務めたりするのです。地域リーグのチームだとライセンスがなくても監督が務まりますが、JFLに昇格すると最低でもA級のライセンス保有が必須条件となりますし、Jに上がれば当然ですがS級ライセンスが必須となります。近年、S級ライセンス保有者が増えてきたとはいえ、それでも人材の確保は困難です。全国大会の常連ではなくなったものの、浅野拓磨のような代表選手を筆頭に三重県で最もJリーガーを輩出している四日市中央工業との繋がりは重要です。チームが大きくなるにつれて、チームの人脈が拡がる可能性はありますがそれでも貴重な「地元の人脈」を絶やさない努力が必要でしょう。まあ、そのことをよく分かっている人たちがチームの上層部にいるので問題はなさそうですが…
ここでも見られるスタジアム問題。解決への秘策はあるのか?
これらの課題、チームの屋台骨を支える人材についてはまた先の話なので後回ししたとしても、スタジアムについては今すぐにでも対応しないといけない問題ですし、1年2年で解決できる問題でもありません。ただ、手をこまねいている場合でもありません。ということで、現状ではいくつか実現可能と思われるプランを考えてみます。
まずは伊勢陸上競技場のピッチを含む改修工事を実施する案でしょう。トイレやビジョン、照明灯などのピッチ以外の施設もこれでJ1規格のスタジアムに改修できれば、Jリーグ参入即J1ライセンスの発給も可能となり、これが一番費用的にも安上がりで工期も一番短く済みそうです。しかし先ほどからお話ししているように、実現するには陸連との綿密な折衝が必要となり、おそらく今までの流れを見るとそれはそうとう困難かと思われます。それでも粘り強く交渉を重ねていけるかどうか。それだけの時間を費やすことが出来るのか?そして、その折衝には所有者である三重県が中に入る形になるでしょう。「陸上競技だけで施設の維持費を賄えるのか?」という県サイドの懸念から、幅広い使用選択肢を持たせる必要があるという方向に話が進めば、もしかしたら再改修ということもありえるかもしれません。まあ、先の長い話になりそうですが…
次に、ホームタウンの松阪市の総合運動公園のグラウンドにスタンドなどを設ける案。実際にホームゲームの開催実績はあるものの、ここは人工芝でなおかつ周囲は金網で囲まれているため、まずは人工芝から天然芝への張り替え工事と周囲の金網の撤去工事が必要です。そのうえでスタンドやロッカールームなどの必要な施設の建設と、これも意外と時間を要しそうです。
ただ、同じ時間が掛かりそうでも伊勢陸上競技場よりもこちらの方がまだ話が進みやすいと思うのは、この施設が松阪市の所有という点です。伊勢陸上競技場のように三重県の施設だと、改修工事の予算は県のお金からとなります。当然ながら予算案は三重県議会で審議されるのですが、この改修工事の利益がないであろう自治体選出の議員さんたちからの賛同を果たして得られるのか?という問題が生じます。そしてその中には、Jリーグ参入を目指す他のクラブのホームタウン選出の議員さんも当然ながらいます。そういう人たちがライバルとなる、他の自治体が支援するクラブのホームスタジアムの改修工事案に賛成してくれるかどうか…、まあおそらく無理でしょう。そうしているうちにどんどん時間だけが過ぎていくことになりかねません。
でもこれが松阪市の施設であれば、改修工事の予算は松阪市、予算案を通すのも松阪市議会なので、松阪市全体で盛り上がろうという機運さえ高まれば、予算を通すのはそう難しくないでしょう。
しかしながらこれにもやや問題があります。今のサッカー場の位置では、スタンドやその他の施設を建てる場所がないのです。隣には「芝生広場」という名の陸上のトラックのようなものがあるグラウンドがあるのですが、そっちにずらせば出来るかなるという感じです。使用実績は定かではありませんが、また陸上競技場を潰すことになるのです。なので、これもまたなかなか難しいかもしれませんね。
2万人規模のスタジアムも、改修可能と思われたサッカー場もどちらも課題が山積、と前途多難の様相を呈していますが実はもう一つ、もしかしたらという秘策があります。それは、伊勢フットボールヴィレッジを改修するという案です。えっ、さっきそれは難しいって言ってませんでしたっけ?ええ、そうです。でもそれは、唯一スタンドのあるAピッチのお話です。Aピッチとサンアリーナのそばを通る、伊勢二見鳥羽ラインの北側にあるC、D、Eピッチのいずれかを改修するのであれば、まだ敷地に余裕はあるかと思われます。中でもEピッチは一つだけ独立した配置になっており、しかも隣にあるソフトボール場や芝生広場の敷地もうまく活用すれば、それなりの規模のサッカー専用スタジアムの建設も十分可能ではないでしょうか。
そしてこの案、伊勢フットボールヴィレッジも三重県ではなく伊勢市の持ち物なので議会の賛同が得やすいということも、一番実現可能なプランかと思われます。仮に伊勢市による全面改修が難しい場合でも、Eピッチのある一帯ををFC.ISE-SHIMAに譲渡、あるいは貸与して、あとはクラブにお任せということであれば、市議会の賛同もえやすそうてすし、あるいは市長以下の関係各所の調整次第で十分可能な話ではないでしょうか。
さらに踏み込んで、伊勢フットボールヴィレッジ自体の施設運営管理者をFC.ISE-SHIMAにしてしまうというのもありでしょう。そうすれば、栃木シティのホームスタジアムのような「魔改造」も可能もなります(まあ、あれはあれで後日「流石にやり過ぎだろう!」「市民の利益に反している」という批判が上がりましたが…笑)。Eピッチだけだとなかなか収益性が見込めませんが、全体なら今の稼働率を考えても十分収益性は確保できるでしょう。あとは伊勢市次第かな?と…。
個人的には伊勢神宮の内宮近く、おかげ横丁から歩いていける距離にある伊勢陸上競技場をホームスタジアムにしていただき、サッカーと伊勢神宮観光とおかげ横丁でのグルメと買い物がセットになった、お得な遠征が一番いいのですが、そこは観光都市伊勢。「それじゃあ日帰りで終わっちゃう。距離を空けておけば伊勢に泊まる客も増えるだろう。そうすれば経済効果も半端ないよね!」などという思惑が透けて見えそうな…、そんな気がします(笑)
伊勢市としては「伊勢市の持ち物なので、改修はいつでも出来ますよ」という姿勢を取っておけば、クラブに対する好アピールになりますし、またFC.ISE-SHIMAがホームスタジアムを伊勢陸上競技場にしてもらい、それで持って施設の稼働率を高めようとするべく三重県が改修を行うというのであれば、それに対してのかっこうの牽制にもなります。ただ、一番やってはいけないのは伊勢市が動いた途端、三重県が動き出して改修工事に動いてしまうという事態です。東近江市が改修の動きを見せた途端、改修する前は何も動きを示さなかった県営の国体用スタジアムのレイラック滋賀のホームスタジアムにすべく動いた彦根市、という地獄絵図の様相を呈した事態が隣県で繰り広げられたので(笑)、ここは伊勢市と三重県との間で互いに牽制しつつも、事前に調整を図っておく必要はあるでしょう。おそらく三重県としては、どこかのクラブにだけ肩入れすることはできない、という姿勢を取ることと思われますが(そうでなければ、とっくに鈴鹿スポーツガーデンの改修を行っているでしょう)三重県、伊勢市、松阪市いずれの自治体が動くにしても、一刻も早くJリーグやJFLが普通に開催できるスタジアムが出来ることを期待しています。
ないものばかりの2番手クラブ。でも一番大事なものは…
どちらのクラブを見ても「スタジアムがない」「スポンサーが少ない」などのないものばかりなのが現状です。でも一番大事なものはというと、やはり地元からの支援であったり、地元住民にとってクラブが本当に愛すべき存在で、しかも必要な存在なのかどうかということでしょう。それがあれば、すぐにJリーグやJFLに上がれなかったとしてもクラブは存在していけると思うのです。それはJを諦めてアマチュアクラブに戻った横河武蔵野を見ればよ〜く分かります。三鷹の駅前商店街にはチームのポスターがあちこちに貼られているくらい、地元との繋がりが強く、互いに必要と感じる存在です。たとえアマチュアだとしても、またカテゴリーやクラブの形がどうであれ、そんなことは大して関係ないのです。
FC.ISE-SHIMAはまだ地元との繋がりが強い方だと思いますが、ヴェルスパ大分はまだそこまでは強くないように思えます。なのでヴェルスパ大分としては、県内のガリバークラブのホームタウンである大分市ではなく、別府市や由布市といった周辺の、しかもサッカーと観光をリンクしやすい街にホームタウンの主軸を置く方がいいのではないでしょうか。そしてそれは「後発クラブだから」こそ、そのような戦略が立てられるというそのメリットを、今後のクラブ運営に最大限活かしてもらいたいです。
それでは最後に、旅先である杵築市内で見つけたとあるポスターを貼っておきますね(笑)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?