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誰でもできる「危ない会社の見分け方」事例(2)             ―グルメンピック詐欺―

1.事件の概要
 大東物産株式会社は、2016年7月、東京オリンピックに向けて、日本・全国各地のグルメを世界に発信していくことを目的に、日本最大級の食フェスを謳ったイベント「グルメンピック」の開催を目指し、事業を開始した。
 「グルメンピック2017」を、東京都調布市の味の素スタジアムで、2017年2月13日から2月17日、2月20日から2月24日の10日間、「大阪グルメンピック2017」を舞洲スポーツアイランドで、同年2月17日から24日の8日間、開催するとし、全国の飲食店を中心に募集を開始した。
 先着申込には出店料20万円、その他は40万円を設定し、29年1月23日には大阪、同月24日と25日は東京でイベントの説明会を実施する予定だった。
 しかし、2017年1月17日、当社は両イベントの説明会および開催日程の延期を発表。
 会場運営等の請負会社の急なキャンセルで、事故や災害を事前に防ぐことが困難となったことを理由にあげ、イベントの見直しを4月ごろまでに、実施を8月末から遅くとも9月初旬に開催するとしたほか、1月23日、2月末までに出店料を返金することを公表していた。しかし、イベントは開催されず、合計1億2,689万円、508店舗の出店料等を返金しないまま、2017年2月20日、東京地方裁判所に破産手続開始申立、倒産した。
 詐欺罪に問われた田辺智晃被告(43)は2017年6月に逮捕。懲役10年を求刑。判決は2019年3月14日の予定だったが出廷せず、再指定された19日も出廷せず、保釈が取り消された。矢野千城被告(43)は、懲役6年(求刑懲役9年)の判決が下された。髙木信治被告(求刑5年)と元社長の中井冬樹被告(求刑4年)には「計画に関わっていない」などとして、無罪とされた。

2.事件の背景
 本件には、主催者である大東物産の経営内容とイベントの開催方法、募集方法などに問題が指摘されていた。

(1)大東物産の経営内容
 当社のホームページでは、会社内容として平成25年5月の設立とある。業歴僅か4年で、一度も食フェスの実績のない会社が、日本最大級を謳うほどの大きなイベントを開催できるのか、不安視されていた。

(2)開催方法
 出店募集のパンフレットではテント設営となっているが、東京会場の味の素スタジアムはキッチンカーでの出店、大阪会場の舞洲スポーツアイランドは火気厳禁であり、開催できるのか?疑問視されていた。

(3)募集方法
 ホームページの広告や募集案内などは良くできていた。また、開催場所の「味の素スタジアム」も、出店者をだますのに、大きな効果を発揮した。
開催期間中(5日間)の売上が75万円以下の場合、出店料を返金する返金保証や、店舗を手伝うボランティアスタッフの3人提供、保冷車での材料運送、2017年1月15日まではキャンセル代無料、テントやテーブルなど出店セットの無償提供、有名タレントのサプライズゲスト出演予定など、様々な好条件が提示されていた。
 50店舗限定という特別枠で出店料を40万円から20万円に値引きするとしていたが、実際は、ほぼすべての参加者が20万円の特別枠だった。しかも、20万円という金額は、弁護士を雇って回収する金額でもなく、被害者は泣き寝入りするのが常とされる値段であった。
 また、20万円は企業にとって特に警戒するような金額ではなく、更に業務柄現金回収で与信管理を日常業務としない飲食業者が相手とあって、明らかな問題もリスクとしては認識されなかったものと考えられる。
 
3.商業登記によるリスクの認識
 事件の背景を見るに、通常の感覚で「おかしい」「危ない」と思われることが多々あり、一般的な与信判断で、損害は回避できたものと言えるが、ここでは、誰でも入手できる商業登記から、当社のリスクを検証する。
 
 大東物産株式会社の商業登記の変遷は図表の通りである。

 H25.5、設立時の社名は「ブリスフルフーズ」で、中央区日本橋を本社とし、資本金700万円、尾垣尚美氏を代表とし、飲食店業を目的としていた。  
 僅か7か月後のH25.12、「ワールドリップル」に商号変更し、中央区新川に移転、長岐明晴氏に代表者交代、事業目的は電子マネーと、全く異なる事業に変わった。同社はH27.1「Ripple Commerce Japan」に商号変更し、資本金も1億2,000万円と、大幅増資した。電子マネー事業に本腰を入れたものと思われるが、まだ仮想通貨事業が不安定な時期にあって、同社も失敗し、廃業したものと思われる。その後、商業登記は朝倉広水氏に買い取られ、H28.1「大東物産」(現商号)に商号変更、事業目的は商社・金融に変更された。H28.2千代田区霞が関に本社移転、僅か2か月後のH28.4中央区新川に本社移転、青野泰治氏に代表者交代した。
 「ワールドリップル」と「大東物産」は、事業目的、代表者共に関係なく、全くの別会社と思われるが、同じ本社所在地を使用しており、不可解である。(詐欺会社が事業実態のない場所を登記上本社に設置することが多々ある)。H28.6大須健弘氏が代表に就任、イベント・研修事業に変更。ここから、グルメンピックの開催を企画したものとみられる。よって登記上の設立はH25.5だが、実質本業を開始したのはH28.6で、グルメンピック開催予定日の僅か7か月前であった。全く実績のない企業が同イベントを開催するには、極めて短期間であり、開催の実現性はかなり低いことが明白だと判断される。その後、H28.10中野区東中野に本社移転、H28.11中井冬樹氏が代表に就任した。
 
 以上の通り、短期間での煩雑な商号変更、全く関連性のない商号変更、短期間での煩雑な本社移転、関連性のない煩雑な事業目的の変更、関連性のない多数の事業目的、短期間での煩雑な代表者変更など、これら変更の経緯は、パクリ屋などの詐欺会社が、短い業歴を隠し、資本金を大きく見せ、いざという時に責任逃れをするために行うテクニックそのものであり、大きなリスクを抱えた商業登記と言える。

 逮捕された田辺智晃被告、矢野千城氏(懲役6年)は、当社役員には就任していない。問題発覚時の代表だった中井冬樹氏は、無罪とされている。これは、実質経営者は表に出ず、僅かの金銭で雇った人物を代表に据えることで、急場での責任逃れ、時間稼ぎに利用するという、詐欺会社によくあるテクニックである。事実上代表者と思われる経営の実権者が、登記上代表取締役や取締役に就任していない場合は、要警戒と言える。

                               以上
注:本稿は2019/3作成されたものです。

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