財務制限条項に関する問題の整理(2024.3改訂前)
金融庁はコベナンツ(財務制限条項)など債務状況の開示ルールを改定し、2024年4月以降に発行される有価証券報告書や臨時報告書から適用される予定にある。以上から本稿は改訂前のルールによる開示の実態を検証するものである。
財務制限条項(コベナンツ)は、金融機関が企業に協調融資などをする際に、一定の財務健全性維持を求める契約条項であり、元利払いの確実な回収を目的とし、条項に抵触すると返済期限前でも金融機関は資金返済を要求できるとされている。
1.財務制限条項の設定自体に大した意味はない
シンジケートローンに対して事務的に設定されることが多く、融資先企業の経営内容や財務内容の良し悪しを評価してのものではない。よって設定があるからといってその会社の信用度を云々できるものではない。
2.「事業等のリスク」の記載は間違っている
財務制限条項の設定を有価証券報告書の「事業等のリスク」に記載している企業がある。
しかし、前述の如く設定自体に大した意味はなく、事務的に設定されたもので、「事業等のリスク」に掲載するには該当せず、間違っていると判断される。
尚、条項に抵触した時は「事業等のリスク」に該当する場合があると考えられる。
3.財務制限条項の内容が説明されていない
財務制限条項設定自体の説明はあるが、その内容について殆ど説明されていない。重要な契約ではないと理解するのなら別だが、重要な契約であるなら、契約時点でその設定日や対象の借入金額、金融機関名、返済予定日、判断基準となる会計勘定、数値、基準年度、条件を有価証券報告書の「経営上の重要な契約等」に於いて説明すべきである。
4.記載項目・内容がバラバラである
有価証券報告書に於ける記載項目(場所)が決算期によって区々で、統一されておらず、記載項目名に従った内容が記載されていない場合や記載項目(場所)が不適切な場合が見られた。
5.財務制限条項抵触・回避の内容が説明されていない
財務制限条項に抵触、または回避した場合、その事実の説明はあるが、表面的でその内容、事情が説明されていない。抵触では、基準となる年度の純資産額が記載されていない、複数の基準がある場合AND条件かOR条件かが分からず検証できないことがある。回避では、2期連続の経常利益赤字には次期の売上を前倒し計上する粉飾、純資産の基準割れには第三者割当の増資などで容易に回避することが可能であり、実際上の業績回復や財務内容の改善があったのと区別するためにも、内容・事情の説明が必要である。
6.借入金期限前返済の権利行使猶予の理由が説明されていない。
簡単に「金融機関との交渉により期限前返済を実行しない旨了解を得ている」、「期限の利益喪失の猶予を受けた」との説明があるが、何故金融機関が権利行使を猶予したのか、その説明がなければ、理解できるものではない。
7.継続企業の前提に重要な事象となる理由、ならない理由の説明がない。
財務制限条項の抵触は、継続企業の前提に重要な事象となる場合とならない場合が考えられる。よってなる場合、ならない場合どちらに於いてもその理由を説明しなければならない。
8.財務制限条項の抵触と解消が財務内容の変化と一致していない。
財務制限条項の抵触は財務内容の悪化、解消は良化と考えられるが、条項の条件は経常利益と純資産の2つが多く、2つの財務数値が会社全体の財務内容を正確には表しておらず、財務制限条項の抵触・解消が財務内容の悪化・良化とは連動していないことがある。
財務制限条項の有価証券報告書記載には多くの問題を抱えている。企業側の対応上の問題もあるが、記載ルールの不備が大きいと思われる。また財務制限条項に抵触しても金融機関が期限前に資金返済を要求した事例は殆ど聞かれない。この実態を考えるに、財務制限条項の存在価値に疑問が持たれ、何ら価値のない条項の説明に多大な業務を費やす企業側の労苦には「お疲れ様です!」というしかない。
以上
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?