リスクマップの無理
リスクマップは、リスクの損害度(経営の影響度)を縦軸、リスクの発生確率(発生頻度)を横軸として、それぞれのリスクをプロットした表です。リスクマップはリスクを洗い出し、分析、評価した内容を一つの形に整理したもので、対応すべきリスクの優先順位づけや絞り込み、リスク対応策の選択に役立つと言われ、リスクマネジメントの殆どの解説書・教科書に掲載され、多くのコンサルタントも推奨しています。
見出しの画像は、一般的に示されているリスクマップの事例です。
(出典:東京海上日動リスクコンサルティング「リスク洗い出し・リスクマップ策定支援」)
しかし、一般企業に於いて事例の様なリスクマップは作成できるのか?はなはだ疑問があります。
なぜなら、事例のリスクマップは企業が抱える様々なリスクを掲載していますが、リスクの発生原因は区々であり、発生頻度も損害度も区々です。よって一つの評価軸で表すのは極めて難しいのです。例えば、株価変動と為替変動のリスク発生率に差をつけて評価できる根拠何か? どうして落雷の発生率が高くて盗難の発生率は低いと言えるのか? 何故不良債権の損害度が社内不正より大きいと言えるのか? 地震リスクには全く被害のない小さい地震から、東日本大震災クラスの大地震があり、それをどう表現したらいいのか? よくよく見れば疑問だらけであり、合理的で説得力のある正しいマップを作製するのは困難ということが分かる筈です。
担当者の感覚で作られた表によって、対応すべきリスクの優先順位づけや絞り込みを行うのは到底困難なのです。
ただ、リスクマップを本来の目的で使用できる方法が一つあります。それは、プロットするリスクを一種類にするのです。そうすれば損害度の評価も発生度の評価も一つの基準で行うことができるため、合理的な説得力のある表を作成することが可能になります。
例えば、与信リスクを対象とするなら、損害度は与信額または取引額、発生度は倒産確率として自己資本比率によって取引先をそれぞれ評価すれば、全ての取引先を合理的に表にプロットできるのです。
以上から、リスクマップの作製は全てのリスクを対象とするのではなく、一つのリスクで作成することを主張します。
以上