カネジュンの孤独のASMR ~第3回 さまざまなASMR動画(アトロクの補足)
全国の刃牙さん。ラジオ、聴いてますか。
去る2020年5月28日(木)に、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」の「ASMR特集」に私ことカネジュンが満を持して出演し、実例を交えてガッツリ「ASMR」について語らせてもらいました。刃牙さんもぜひ、聴いてみてください。(下記公式HP内のリンクから、放送を無料で聴くことができます。)
5月28日/29日のアトロクは、ASMR関連トークが多かったので、ぜひ他のパートも聴いてね!(以下、無料のpodcastのリンクです。)
木曜OP:新ジャンル!?口笛ASMR!!!?
Spotify Presents ラジオ、できるかな?#8「ダミーヘッドマイクを使ってみた!」
金曜OP:山本アナ「僕はASMR人間なんです!」
さて今回の「カネジュンの孤独のASMR」では、「アフター6ジャンクション」で紹介した動画について、選定基準などをご説明したうえで、改めてご紹介し、併せて、放送時の勘違いなどを訂正したい。
ASMRの定義
ASMR(エー・エス・エム・アール)とは、Autonomous Sensory Meridian Responseの略。視覚や聴覚への刺激によって脳が気持ちよくなる感覚のこと。この感覚を生み出すような動画をASMR動画という。楽曲や物語性のある映像など、複雑で言語による読解ができるような音・映像ではなく、単純で繰り返しの多い音・映像がASMR動画とされる。
当初はTV番組のワンシーン(優しくささやきながら油彩で着色するシーンなど)にASMR的な効果があることが指摘されていたが、2010年ごろから、動画配信サイト(特にYoutube)で様々な国の人々が自作のASMR動画を投稿するようになった。
人気動画は全世界で数千~数百万回再生されており、一大ジャンルを形成している。内容は、耳かき、石鹸を削る、スライムを触る、タッピング(指先で何かを弾く)、雨音など環境音……などなど、多種多様。一人でも「脳が気持ちいい音・映像だ!」と思えたら、それがその人にとってのASMRだと言える。
※この記事では、私から見てセックスを想起させると判断した動画はASMRに含まないこととする。
参考ページ
Wikipedia ‘ASMR’
ニコニコ大百科 ‘ASMR’
5月28日の「アフター6ジャンクション」では、6つのASMR動画を紹介するにあたり、おおよそ次のような基準で動画をチョイスした。
【積極的な基準】
① 人気のあるジャンルから、再生数の多い動画をチョイスする。
② ASMR動画の多様さがワカるよう、なるべく異なる種類の音声からチョイスする。
【消極的な基準】
③ ラジオなので、視覚的な情報の重要性が高いジャンルは扱わない。
④ 短い期間でチャンネル主に許可を取る必要があるため、日本語話者だと推定できるチャンネルから選ぶ。
⑤ チャンネル主に著作権があると推定できる動画を選ぶ。
⑥ 私個人の意見として、ASMRをセックス(エッチな要素)から切り離したいため、セックス成分があからさまだと思われる動画は選ばない。
まず、Youtubeの動画を検索した結果などから、「人気のあるASMR動画ジャンルだ」と推定し、おおまかに分類した一覧は以下のようになる。
人気のあるASMR動画のジャンル
A. 身体のマッサージやケア (各部位へのマッサージのほか、耳かき、ヘアカット、メイク、歯科治療など)
B. 人間の声や息、咀嚼 (ささやき、ボイスパーカッション、寝息、咀嚼など)
C. 自然音・環境音 (焚火、せせらぎ、波の音、雨音、虫の音、雑踏の音など)
D. 人間の指や爪によるタッピング、スクラッチング
E. 固めの物体を切ったり混ぜたりする (キネティックサンド、ソープカービングなど)
F. 柔らかめの物体や液体を混ぜる (スライムなど)
G. 描画・着彩
H.料理を作る工程
※ このほかにも、私が見落としている人気ジャンルがあるかもしれない。
これらA~Hについて、②~⑥の基準を加味し、以下の(1)~(6)の下位ジャンルをさらに選出した。
A.(1) 耳かき音ボイスなし(乾燥系)
(2) シャンプー(泡立ての音)
B. ささやきや咀嚼音は、ラジオ番組内で簡単に再現できるのでチョイスしなかった。
C. (3) 焚火
D. (4) タッピング
E. (5) キネティックサンドを様々な形に成型して切る
F. (6) スライムを混ぜたりこねたりする(スライムに別のものを混入させていない)
G. 描画・着彩の動画は、視覚的な要素が重要なのでチョイスしなかった。
H. 料理を作る工程の動画は、視覚的な要素が重要なのでチョイスしなかった。
この6つの下位ジャンルからさらに、再生数の高い動画を聞き比べ、私の好みでチョイスしたのが、以下の6つの動画だ。(なお、放送を許可していただくための連絡はTBSスタッフにお任せした。)
(1)耳かき音ボイスなし(乾燥系)
チャンネル名:音蜜 onmitsu ASMR【ASMR】
この記事の第1回でも取り上げたように、「身体のマッサージとケア」に関するASMRの中でも、「耳かき」は特に巨大ジャンルだ。ゆえにASMRtist(作り手)がそれぞれに趣向を凝らしており、それらをたった1本の動画に代表させることは難しい。そういうわけで今回は、私自身が「乾燥系」の、カリカリ・バリバリ・ゴソゴソという音が好きであるのと、大きめの音でわかりやすいこと、382万再生(2020年6月2日閲覧)という人気を加味して、この動画を選んだ。
竹耳かきで、耳型の集音マイクに詰まった、固まった砂のような謎の物体を強めに掻き出していく。実はこの物体の正体は「麩」であることが最後まで見ると分かる。(※5月28日のラジオでは緊張していたため、間違って「コルク」と言ってしまったことをお詫びします。)
音蜜さんが「ゴッソリ感」を出すためにたどり着いた、「麩」という素材に、改めて感謝!
(2)シャンプー
チャンネル名:ASMR あずまるch [AZUMARU CHANNEL]
「身体のマッサージとケア」から二つ目は、「シャンプー」(泡立て)。やはり全世界で広く愛されており、なかでも「泡立て」は他のジャンルにない独特の音だと思うので、選出したげた。
「耳かき音」が「実物の耳以外(ダミーヘッドマイクなど)を耳かきして撮影する」ものが主流となっているのと異なり、シャンプーは「実物の頭部以外をシャンプーして撮影する」という事例が少ないため、内容にあまりばらつきがないジャンルだ。しかしそれゆえに、音質・画質・シャンプーテクニックの巧拙が先鋭的に出やすいジャンルでもある。
この動画はプロによるシャンプーを撮影したものらしく、丁寧に髪の毛をお湯で濡らすところから始まる。ラジオでは4:30(泡立て開始)から60秒ほど使用させてもらった。音だけでも、細かな泡が髪の毛を包み込み、巧みに泡立てられることがわかり、気持ちよいと思う。ぜひ視覚的にも楽しんでほしい。
これら(1)(2)の動画は、身体のマッサージやケアを主題としているため、ASMR初心者にも比較的、「気持ちよさ」がわかりやすい動画だと思う。
しかし、「音や映像自体が気持ちいい」というよりは、かつて「耳かき」や「シャンプー」をされたときに皮膚が気持ちよかった経験がある人が、その時に付随していた音や映像によって記憶を反芻しているだけなのかもしれない、という疑惑は否定できないと思う。実際の「耳かき」や「シャンプー」のほうが気持ちいいに決まっているが、それを今は実現できないから、音や映像で代用しているというわけだ。たとえば「耳かき」や「シャンプー」が気持ちよかったという経験がない人は、これらの動画を気持ちよいと思うことはないかもしれない。
だが、ASMRは定義的に、経験や記憶とは関係なく、「音や映像自体が気持ちいい」というものであるはずだ。
そういうわけで次の動画から、さらにASMRの「純度」を高めて行きたい。
(3)焚火(たきび)
チャンネル名:forest of wing
自然音系のASMRで人気を二分するのは、「水」と「火」。水音(ウォーターサウンド)は、川のせせらぎ、海の波音、水中の音、雨音、水滴の垂れる音、氷の入った水、炭酸水……などなどバラエティに富むが、他方で「火」は、焚火、暖炉、キャンドル、マッチ……など硬派なラインナップだ。
この動画では、一斗缶(HiGH&LOWでもおなじみ)の中に木炭を入れ、焚火した様子が3時間たっぷり楽しめる。パチパチと静かに木がはぜる音や、遠くに聞こえる虫の音が心地よい。
水音や焚火といった自然音については、「実際に水に入ったり、火にあたったりして心地よかったという過去の経験があるから、気持ちよいのでは?」「実際に水を触ったり、焚火したほうが気持ちよいのでは?」という疑念を、まだまだぬぐい切れないかもしれない。
そんな疑り深い刃牙さんのために、次からはいよいよ、もっともっとASMRの純度を高めて、「経験に左右されない」と思われる音声・映像を紹介していく。
(4) タッピング
チャンネル名:Coromo Sara. ASMR
指や爪で固めの素材を叩いたり弾いたりして音を出すことは、「タッピング」と呼ばれている。
こちらの動画では、コルク、木、革製のメガネケース……などなど、いろいろな素材を用意し、両手で高速でタッピングする様子が1時間たっぷりと収録されている。素材によって音が変わるので、一番好きな音はどれか、探してみてほしい。視覚的には、素材感がわかることのほか、女性の手指、爪の美しさも重要なポイントであると思われる。
ラジオでは、「タッピングだけを収録した動画は少ない」「メイクなどを主題とする動画の中で、タッピングの要素が含まれていることが多い」と発言したが、これについて訂正させてほしい。私の調べ方が下手だっただけで、例えば「タッピング コスメ」「tapping cosmetics」で検索すると、化粧品をタップする動画を多数見つけることができる。調査不足を謝罪して訂正したい。なお化粧品は、「硬質な素材でできており、開閉する部分があり、水音が出せるものもあり、見た目が美しい」などの特徴があり、タッピングASMRに最も適している生活用品だと思われる。また、やや傾向が違ってくるが、キーボードのタッピングも人気である。
このタッピングについては、「タッピングをする/される経験のある人が、その気持ちよさを思い出している」とか、「いまタッピングできないから、代わりに動画を見ている」といった種類の気持ちよさではないことは、ワカってもらえるのではないかと思う。「タッピングをする/される」ことが気持ちいいのではなく、単純にこの「音」が気持ちよいのだ。
過去の経験や記憶であったり、体験の代用品という要素をそぎ落とした、「純粋」なASMRに近づいてきたと思う。
(6) キネティックサンドを成型して切る
チャンネル名:YAACHAMA J-ASMR
「キネティックサンド」とは、はカナダの知育玩具開発会社Spin Masterが商標登録している玩具で、「マジックサンド」とも言われる。水分を含み粘性を帯びた状態の細かな粒子で、触感がとても気持ちよく、ねんどのように形を作って遊ぶことができる。自作する場合は、コーンスターチなど粒子の細かい素材に水を適度に混ぜて作る。
参考ページ
Wikipedia 'Kinetic Sand'
いつごろ誰が始めたのかわからないが、キネティックサンドを様々な形に成形してカラフルに着色し、ナイフで切ったり、つぶしたり、混ぜたりする音と映像が、ASMR動画として多数公開されている。キネティックサンドのかたまりは、ナイフで切ると「スススス……ゾリッ」という独特の音を楽しむことができる。この部分のみを30分間楽しめるのが、今回チョイスした動画だ。
実際に聴いてもらうとワカると思うが、この「キネティックサンドを切る音」について、(キネティックサンド以外の体験に付随する音として)「記憶にある」とはっきり言える人は珍しいのではないかと思う。ナイフでよく切ることのある食材で、固めた砂のような物体はあまり存在しないからだ。私自身もキネティックサンド動画を見たとき、「初めて聞く音だが、心地よい」と思った。
これが事実であるならば、私たちは「初めて聞いた音」に対して、「心地よい」と感じることができる。つまり、「気持ちのよかった経験」に付随していた音や映像だから気持ちよく感じたり、「もっと気持ちのよい実体験」の代用品として音や映像を楽しんでいるのではなく、「音や映像そのもの」に気持ちよさを感じることができるのだ。
(6)スライム
チャンネル名:わんこそばOne-Co Soba Noodles
キネティックサンドと並んで、ASMR界で一躍、大人が楽しめる素材として躍り出てきた子ども用の玩具といえば、スライムだ。
この動画では、桶に満たされたピンクのスライムをスプーンや手指でこねて、湿潤系・ヌルヌル系の音を引き出している。タイトルがやや不穏だが、動画主のコメントによれば、「暴力的な内容ではないにも関わらず何故か年齢制限がかかり、結局いつまでも(多分これからも)制限が解除されないことを恨み、そうこうしてるうちに年齢制限スライムと名付けられました」とのこと。
さて、この「ヌルヌル、グチャグチャ」という音については、刃牙さんはあまりご存じないかもしれないが、「ローションマッサージ」や「リップ音」にやや近いため、もしかするとエッチ系の妄想に使用している人もいるかもしれない。しかしエッチ目的の人が本当に多いのならば、音だけ抽出した動画のほうが人気が出そうだと思うが、スライムをこねる様子を愚直にひたすら映しつづける動画がいくつも数百万再生されているのだ。私の調査がまた何かを見落としているのかもしれないが、やはりこれはエ目(えもく=エッチ目的)ではなく、「スライムの音や映像そのもの」を楽しんでいる人が多いのではないかと推測する。
なお、私自身も勉強のために、アトロクの予算でスライムを購入して送ってもらったのだが、おそらくプロのASMRistたちが自作しているスライムとは素材や配合や物量が違うためか、動画のような、良い感じの音が全く出なかったことを報告しておく。
(↑ スライムを完全にもてあましてしまった様子)
以上、6つのASMR動画、いかがだったろうか。
ASMRを引き起こすきっかけ(トリガー)になるような音や映像は個人差が大きいと言われているが、これらの動画から「多様さ」を感じてもらえただろうか。また、「過去に何らかの気持ちよさを経験したときに付随していた音や映像だから、記憶によって気持ちよく感じている」という説明ができそうなジャンルもあれば、「音や映像そのものが気持ちよさを引き起こしている」と言ったほうがふさわしいジャンルもあったと思う。
ASMR初心者の刃牙さんが、この中に「これは」とビビッと来た動画があったら、ぜひ同じジャンルの動画を、他にも探して視聴してみてほしい。微細な違いがASMRを呼び覚ますことがあるため、同ジャンルで、もっとビビッと来る動画が見つかる可能性がある。
また、これらの動画に全くビビッと来なかった刃牙さんも、がっかりしないでほしい。この6つは氷山の一角、砂漠の砂の一粒だ。インターネットにはすでに全体像を把握するのが困難なほどの数のASMR動画があり、回線を切ったリアルワールドには無限の音や光がある。この連載の第4回以降も、おすすめジャンルを紹介していくので、期待していてほしい。
(おわり)(第4回につづくッッ)
→第1回 耳かき音(ボイスなし)
→第2回 描画・着彩
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noteで連載した「刃牙」シリーズ感想記事が、書籍になったよ!
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