マッハを超えろ! うっすら脂肪を残した灼熱ボディがこの夏、過激にソニックブーム 乙女の聖典~女子こそ読みたい「刃牙」シリーズ~その23
しれっと一カ月半以上、「刃牙」の感想記事を更新してなかった金田淳子ですが、この夏、皆さんいかがお過ごしですか。今回は『範馬刃牙』11~17巻を読解(よみとい)ていきたいと思います。
『範馬刃牙』11巻といえば、俺たちの愚地克巳が久々に登場する。ありがとうございますと、舌なめずりして見ていくわけだが、出てきた次の瞬間には、名指しで範馬勇次郎に辱められてたのが、はちきれんばかりに克巳みを出している。この人、久しぶりに登場するといつも、時候の挨拶ぐらいの気軽さでいじめられてるな……すごい速さで帯とか靴ヒモを取られてるな……と思う。もはや謎の安心感すらある。
そして私ぐらいになると「やだ……勇次郎、克巳のこと、そんなに観察してたの……? 気になるの……? 好きなの……?」とか思う。いや正直、勇次郎があの7人(+1人)の中で、克巳だけ特筆して、「俺にも刃牙にも父親にも」とか、他人の気持ちを勝手に創作してまで貶めてきたことについては、「なんで?」っていうか、特別に克巳を好きか嫌いかの、どちらかとしか考えられないでしょ。「俺(勇次郎)が独歩と結婚したら、克巳が義理の息子になるんだな……」ぐらいは考えたことあるでしょ。
さてこの夜の「わくわくピクル夜這いチャレンジ」、採点するなら、際立っておもしろい潜入をした烈さんが優勝……と言いたいところだが、独歩さんが謎の発想力で差をつけてきた。
烈さんの背後霊のような隠密法や、勇次郎の顔面おもしろガラス破壊(※注1)が、読者に対して「おもしろいだろ?(チラッ)」と見せつけてくるヤダ味があるのと比べ、独歩さんの潜入方法は、パッと見には地味ですらある。しかし「何十時間、その中にその姿勢で入っていたのか」と考えると、じわじわと恐怖を感じる。全体として、この人たちが凄いというよりは、米軍基地がガバガバという印象があった。あと寂さんがさっそく克巳をスカウトしてくれていたのが嬉しかった。
まあそれで、ピクルですよ。
正直、ピクルという設定に関しては、真面目に考えれば考えるほど、地球の生命進化史上のオーパーツすぎるので、地球外生命体だと思う。ホモ・サピエンス(明らかにピクルとは別の種)のメスに対していきなり生殖行動をとろうとするとか、敵として向かってくる生き物しか食べない等の謎行動について、「野生」(生物として生まれながらに備わった本能)という概念で説明するのは無理がある。かといって「話として盛り上がるから……」「負けると喰われるという新要素を付け加えたかっただけだから……」とか言うのもヤボなので、まあ白亜紀の地球に漂着したプレデター(蘇生の過程で記憶を失った)みたいな奴なんだと思う。この生物の肉体的な暴力性の危険とかより、検疫は……とか思ってしまう私だ。そしてあの最凶プリズンをくぐり抜けてきた刃牙さんが、「読めねェよ英語」と言ったこと(※注2)が、ピクルの登場以上に衝撃だった。英会話だけできるんだとしても、いろいろ限度ってもんがあるだろ。
その後、刃牙さんが烈さんにフラれ、ピクルに恋い焦がれた烈さんは、自ら餌になると言い出した。ここらあたりの徳川光成の挙動が、実質的に駿河御前試合(シグルイ)めいており、「誰か殴って止めろよ」と思う。地下闘技場の時からではあるんだが、本人が戦いたいって言ってるから戦わせようって、そもそもそういうギリギリの戦いが見たくて、ピクルを連れてきたのお前だろ。 『範馬刃牙』がモンスターパニック映画だったら、ここぞという場面でイチバン嫌な死に方するレベルの悪行だぞ。ピクルを蘇生したアルバート・ペイン博士が一応、たまに批判してるけど、こいつはこいつでピクルの学術的価値という観点しかないので、光成と同じ穴のムジナ感がある。
烈さんは周囲の誰にも知らせなかったのか、光成、ペイン博士、ストライダムだけが見守る中、駿河御前試合(第一試合)が始まる。追い詰められて駄々っ子パンチを繰り出した烈さんだが、スーパー攻め様みたいな大いなる存在(理想の自分)に抱きしめられ、身を任せた(セックス)……が、負けた。
これまで、左手を失った独歩さんが実は失っていなかった、みたいなことがサラッと描かれていたので、そういうマンガなのかなと思っていたが、今回の烈さんに関しては、誤魔化しようもなくガッツリと右脚を失っていた。
このあたり全体として「いい話」「だれも悪くない」風に描いてあると思うのだが、しかし、ピクルが愛着を感じた相手(向かってくる敵)だけをあえて食べるというのは、胃腸がそれしか受けつけないというわけではなく、自分で決めたルールなので、「呪わしき運命(さだめ)」とかいって涙を流されても困るし、なじめない。克巳ではないが、「そーゆーのをナメてるって言うんだよ」。
一方で、喰われる覚悟を決めていたはずの烈さんが、心の底では生き永らえることを期待していた、という描写については、私は「いい話」だなと思った。個人的な意見だが、殺されることを(諦めるのではなく)万全の覚悟でもって受け入れる、という人間がいるとしても、カッコいいとは思わない。烈さんという「道にはずれない」人が、たとえ親友との約束や、自分の信念に反しているとしても「喰われたくない、生き永らえたい」と思ってしまう人間でよかったと思う。
そして長らくお待たせしました、ここから皆さん待ちに待った「愚地克巳 186.5㎝/うっすら脂肪を残し116㎏、21歳の夏、灼熱の時間(とき)ーーーーさなぎから蝶へ」編の始まりです。
★お知らせッッ★
このシリーズを加筆修正し、『「グラップラー刃牙」はBLではないかと1日30時間300日考え続けた乙女の記録ッッ』として、河出書房新社から2019年11月に書籍が発売されました! 電子書籍もあるよ! もちろん秋田書店さんの許可をバッチリと取っております!!
書籍に収録されている範囲は、その1〜その16まで(『グラップラー刃牙』『バキ』までの感想全部)です! ぜひ一家に一冊、いや百冊!!
さらにこの奇書を原案として、松本穂香さん主演の実写ドラマ『「グラップラー刃牙」はBLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ』が制作されました!!(WOWOWさんが制作幹事) 2020年8月20日〜10月1日まで、全7回放映! 現在、いろんなサブスクで配信中ッッ! お一人で、またご家族で、そしてご友人とぜひお楽しみください!!
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