板垣恵介『餓狼伝』の堤城平ルートがあまりにも完成されたイチャラブ恋愛マンガだった 乙女の聖典~女子こそ読みたい「刃牙」シリーズ~その20(餓狼伝その2)
よくわかる『餓狼伝』1~8巻のあらすじ……
丹波文七(たんば・ぶんしち)(年齢不詳)は何をやって生活しているのかよくわからない男。こつこつと道場破りや乱入を続け、竹宮流の泉宗一郎(いずみ・そういちろう)、北辰会館の松尾象山(まつお・しょうざん)、FAWのグレート巽(たつみ)らの好感度を上げていた。
一方、竹宮流・藤巻十三(ふじまき・じゅうぞう)(年齢不詳)は、やはり何をやって生活しているのかよくわからない男。泉冴子(いずみ・さえこ)に一方的に惚れており、彼女を強姦した男を殺したため、指名手配されている。藤巻は冴子と結婚したいと思っているが、なぜか彼女の意思を確認せず、冴子の父(泉宗一郎?)に結婚を願い出たり、様々な男(文七を含む)と立ち合ったりしていた。
「誰……?」「なんで……?」という描写が連続し、初見の読者が不安になる中、異様に濃密に描かれるグレート巽の過去。巽とサクラの、愛と別離。出会いと秘密、プロレスラー、彼らの気持ち、村祭り。そして輝き続ける一握りの格闘家(※注1)。乙女ゲーのヒロインみたいな立ち位置の文七が、最後に選ぶ男はだれなのか。そして竹宮流の伝説の技「虎王(こおう)」とは……?
あらすじを書いてみて、改めて『餓狼伝』、マニア向けすぎないか、と思った。何をやって生活しているかわからない大人の比率が高い。私も皆さんからそう見えているだろうから親しみは持てるが、やや一般ウケしづらいのではないか。あと藤巻は、作中でエターナルフォースブリザード(※注2)風に語られている「虎王」を会得しており、予想のできない動きをするという意味で最重要キャラクターだと思うが、これまでの描写で、読者(主に私)が藤巻を好きになる要素がゼロすぎないか。
そんなこんなで、『餓狼伝』に対し、いまだ初見の三次元の人間に対するような戸惑いを隠せない私だが、今回は9~13巻で開催された「FAW 四連戦まつり」(作中でイベント名が書かれていないので勝手に名づけた)について熱論(かた)りたいと思う。
さっそく『餓狼伝』9巻で、重要っぽい男が新たに登場する。グレート巽が自分の後継者として7年かけて育ててきた若者、鞍馬彦一(くらま・ひこいち)だ。
この「帽子を目深にかぶり、読者に期待感を持たせ、タメ気味に登場」というのは、『グラップラー刃牙』通常版21巻において、俺たちの愚地克巳(おろち・かつみ)の初登場シーン(※注3)でも使われた演出だ。彦一はそれだけでなく、後継者としてひそかに育成されてきたという経歴や、巽(師匠)に対する不遜な態度、イケメンぶり、陽気な性格を備えており、なかなかの克巳みがある。しかし克巳の時も思ったが、かなりの実力の選手を「他の武道団体に隠して育成する」というのは現代社会で可能なのだろうか。いや、無粋なことを言うべきではない。刃牙社会や餓狼社会(SWORD地区のような位置付け)(※注4)では、よくあることなのだろう。
鞍馬彦一の克巳みを見逃せない私だが、同9巻で登場した久我重明(くが・じゅうめい)も、別の意味で見逃せなかった。「大学のサークル(TRPGサークル)に居た」「なんなら3人ぐらい居た」というたたずまいのこの男、見た目通りの黒魔導士ぶりを見せつけてくる。強い。
この時点の彦一は久我に太刀打ちできていなかったが、若々しいポテンシャルを感じさせる良い負け方をしていた。私も一人のグラップラーとして見習いたい。やはり、負けて意識を失うのはいいが、救急車を呼ばれる流れ(※注5)は、かませ感が強すぎるのではないか。救急車を呼ぶなとは言わないが、コマ外で呼んで欲しかった。
こうして有望な若者を着実に育て上げていくグレート巽だったが、それと同時に、すかさず丹波文七にも声をかけ、FAW四連戦まつりへの出場を誘っていた。巽のこのぬかりない挙動、文七よりも乙女ゲーム(シミュレーション系)の主人公っぽい。まあいいんだけど、FAW四連戦まつりの趣旨が謎というか、FAWと無関係なカードが2戦ある。ちなみに北辰会館がらみは同じく2戦。これでは「FAWに人材が居ない」風に見えてしまうが、ふだんからプロレス団体の興行というのはこんな感じなのだろうか。
そんなこんなで、グレート巽の導きで、文七は意中の男性=堤城平(つつみ・じょうへい)とマッチングしてもらったのだった。かねてから男に対する発情を隠さないことで有名な文七だが、人間フォークリフトこと堤さんに対する、このあからさまな喜び具合を見てあげてほしい。
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