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韓国の本格ソウルシンガー イ・ハイを聴いてくれ

僕は色んな音楽が好きなのだが、中でも一番好きなのは60年代から70年代のブラックミュージックである。
R&Bとかネオソウルとかではなく、こってりソウルミュージック。
アメリカは広いので地域性が色濃く音楽に反映しており、デトロイトの超メジャー売れ線のモータウン・レコード、南部メンフィスの渋め硬派のスタックス・レコード、都会派軟派のフィラデルフィア・インターナショナル・レコード、なんでもござれ。
他にもジャズやブルース、ゴスペル、ファンクなども聴く。

でも何故か日本、韓国や他のアジア諸国ではオシャレでカッコいいブラックミュージックは聴かれるが、もっとパンチに体重の乗ったガツンとくるやつはあまり流行らず、特に韓国はR&B、HIPHOPが盛んで、アーティストも多いけど、僕の好きな「ど」ソウルをやる人はほとんどいない。聞くところによると、韓国の、特に若い人は音的に軽くオシャレでないと「ダサい」と感じがちだそうだ。
だからちょっと諦めてかけていたのだが、縁あって聴いたイ・ハイという人の歌に心臓を撃ち抜かれてしまった。

「K-POPスター」なる番組は、JYPからは餅ゴリ、YGからはヤンサ、SMからはBoAが審査員として素人を発掘しに来る、まあ我が国の往年の「スター誕生」の豪華版みたいな番組だったが、そこに2011年頃、韓国年齢で18歳のスゴい女子高生として、準優勝を勝ち取ったのがイ・ハイ。
そのハスキーな声で声量があって、迫力満点でソウルフルで、歌唱力表現力がずば抜けている、その才能に、各社争奪戦を繰り広げ、勝ったのはYG。
2012年に「1,2,3,4」でデビュー。

ソウルがあるよね。
まだ自分のモノみたいに振る舞う元カレを蹴っとばすという、YGテイストの歌。

1stアルバム「First Love」が2013年にリリース。
リード曲の「ROSE」等をTeddyが、当時YGと関係が深く、ヴォーカルトレーナーもやっていたソヌ・ジョンアが2曲、デビュー前のBLACKPINKジェニーがラップで参加など、けっこうYG本気だった。
そのソヌ・ジョンア作詞作曲の「One-Sided Love」。
これはもう、ほとんどゴスペルである。
ゴスペルというのはアフリカ系アメリカ人たちの教会音楽で、まあこんな感じ。

本場ゴスペルクワイア
「天使にラブソングを」

1stアルバム「First Love」所収、「Dream」。
これぞ本格ソウルバラードの名曲!この当時、まだ18,9歳だったはず。それを聞いて僕は精神的に腰を抜かしました。

それから、YGからは2NE1の妹分扱いで、「YGファミリー ワールドツアー」にも加わり、2NE1と共演したり最後の全員勢揃いステージに共に立ったりしてた。

ところが、その後YGは変な経緯で2NE1を解散させ、社運をかけて新しいガールズグループを作らなければいけなくなり、巨大プロジェクトが始まった。
会社的にも「やっぱ大黒柱はアイドルでなきゃ(大きい収入は見込めない)」という流れになってしまい、ソロアーティストのイ・ハイは放置、というより飼い殺し扱いがおざなりになっていった。
彼女にしてみたらたまったものではない。
シンガー志向なのに寮に入れられ、アイドル虎の穴とも呼ばれる地獄の練習生として、得意でもないダンスとか学ばされ、月イチの評価に耐えながら頑張ったあげく、デビュー活動の後3年近く放ったらかしである。

結局社内レーベル「ハイグラウンド」所属となり、代表TABLOとイ・ハイが組むことに。ヤンサ丸投げ。ていうかヤンサ以下YG全社的にそれどころではない2015~6年頃。
だからこそTABLOは好きな事ができた。
大ヒットした前のアルバムはYG関係の人脈でしか作れなかったが、2ndアルバム「Seoulite」はBOBBYとかDOK2とかヒップホップR&B関連のこれはというアーティストを自由に参加させられて、結果的にいい意味で柔軟で、YG的に売り出したいアーティストイメージに縛られない傑作ができることになった。

まずご紹介したいのは「MY STAR」。
スープリームスとかのガールズグループ的で、体温が上がるような楽しい曲。
ドラムがまんまモータウン。
ここにタンバリンが入れば。
終わり頃のコールandレスポンスはまるでテンプテーションズとの共演ステージを彷彿とさせる。

「HOLD MY HAND」はTeddy作のキラキラした、エモいソウル。

で、ついにTABLOは禁じ手、SMエンタのSHINeeからジョンヒョンを連れてきて、K-POP史に残る大傑作「BREATHE」を作らせる。

ところがリリース後にジョンヒョンが自死してしまう。

そこからまた3年が経過。
ミニアルバム「24℃」をリリース。
僕は「Love is over」が好きだ。
フィリーソウル的な好バラード。

まあこれも盛んにカムバック活動してたけど、相変わらず会社はまあまあな感じでしか力を入れてないのでは?という。
あのグループはワールドツアーとかやらせてもらえるのに、ソウルの小さなスタジオでMCはAKMUのスヒョン(ちなみにイ・ハイの大親友)ミニライブ。
で、彼女が何をしていたかというと、スヒョンの証言によれば、ずっとスタジオにこもり、トラックメイキングしていたりや作曲の練習をしていたらしい。付き合っていたスヒョンが音を上げて「オンニもう帰ろうよ」と言ってたそうな。
道理で動画においてピアノに向かい、「コードが分かれば弾けるのに……」という場面があったわけだ。

契約期間の7年が過ぎたら、ヒップホップがメインのレコードレーベル「AOMG」に移籍。

ここからイ・ハイが生まれ変わったかのように量産……はしないけど、名曲を続けざまに出しはじめる。
まずは「HOLO」。

「みんなといてもひとりでも寂しいのは同じよ」という鮮烈な歌詞と、8/6の物悲しいピアノのアルペジオ、ちりめんの如く細かいビブラートは抑制した感情を滲ませる。
この曲から以降のMVは、皆さんにお目にかけたくなる。この曲のMVもまるでショートフィルムのようだ。何度も見たくなる。

で、僕が一番好きな3rdアルバム「4 ONLY」が来る。
このアルバムではかなりの曲数らイ・ハイ作詞作曲。何曲かはアレンジも。雌伏期間の努力が実り、歌詞はかなり思索的、かと思えばセクシーにもなり、大人になりました。(と言っても25歳。ウギと同じ歳)
クラシックソウルに限らず、ラバーズロックレゲエやファンクなどもくびきから放たれたかのように自由に歌っているが、まずはこのディスコ曲「Red Lipstick」を聴いてほしい。ユン・ミレfeaturing。MVには「ストリートウーマンファイター」で有名になったモニカとLIP Jがゲスト出演してます。他にもCODE KUNSTなどがカメオ出演。

「H.S.K.T」。featuring Wonstein。彼はMVにも女子高生イ・ハイの相手役として出演していて、思春期のホルモン香るモヤモヤがY2K的に映像化されている。

「ONLY」。MVにはイ・ジェフンが。何度も見ると、その深い内容に感動する。

名曲「Darling」。これはMVがないので、イ・ハイ本人が歌っている動画を。なぜかスペイン語の字幕付きである。世界的に受けてんだなと。

これまで色々あったからこそ、この歌、この境地に達したのではないだろうか。
そういえばファン達がネットであの時のYGは酷かったね、イ・ハイさんは会社に冷遇されてたよねみたいに言い募り始めた時、イ・ハイは「決して皆さんが言うようなことはありませんでした。会社の色んな方に親身になって良くしていただいたし、今も感謝して、関係は良好です」と声明を発表。
実際には2ndアルバム発表前は過呼吸になったり、ずっと不眠症に悩んだりしてるらしいんだけど。
なんて器の大きい、オトナな人なんだと。

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