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(G)I-DLEの音楽、その変化の兆し

講釈師、見てきたような嘘をつき。
これから書くことには、ぜひ眉に唾をつけながら読んでいただきたい。
騙されないために。

ダンサブル+耽美的

デビュー曲の「LATATA」からこっち、タイトル曲を中心にレゲトンやムーンバートンなどの流行りのダンサブルな感じに、耽美的な世界観を合わせるという、独自のサウンドを押し出してきた(G)I-DLE。
彼女らの曲と歌詞は不可分なので、ここでは歌詞で描かれた内容も含むということなのだが、大きく言って、「繊細に作られた世界の中で歌って踊る彼女たちを、外から聴いて見ている」感じに仕上がっていることが多かった。
その閉ざされた世界で唯一、ソヨンのラップが聴いている人に向けられた声だった。「LION」の、こっちに向かってくるラップですら、「来たきた、こっち来る!」という圧はありつつ、どこか檻の中のライオンの咆哮のように、「リスナーの安全」は守られてる感じがした。

ロック、ヒップホップ+メッセージ

ご承知の通り、一年半のやむなくとらされた活動休止を経て、「もう(G)I-DLEは終わった」という心ない声をはねかえす命賭けの復帰作「TOMBOY」で、これまでにない音楽を作らなければいけなくなったソヨン。
「ダンサブル」を一時封印し、思い切ったメッセージと攻撃的なロック的楽曲、「別になんとも思ってませんけど?」的な口笛風な音で、「I never die」感を醸し出して見せた。
歌詞も絶妙に「ウイスキーを飲むのが好き」などと、K-POPアイドルや(G)I-DLEに求められてきた「望ましいイメージ」を裏切った。
MVでも後ろ姿でおもちゃのピストルを頭に向けて撃ったり大股開きで座ったり、落ちているポップシクルキャンディを拾って舐めて見せたり、男を拉致したり、それまでの理想像もモラルもひっくり返す、よっぽどの信者でない限り、誰でもどこかに抵抗を感じるポイントを作り、見て聴いている人、受け手が「安全でいられない」揺るがしてくるパワーを備えたパンキッシュな世界を放ってきた。
音楽が、ではなく精神がパンク。
オーディエンスに何かぶっかけてきて、中指を立てて吠える。
見ている方も対岸の火事よろしく他人事ではいられない。

そんなかっこいいK-POPはそれまでなかったし、ソヨンに「You get the song right, you'll get what I mean “Tomboy” /曲を正しく理解すれば、私の言う"Tomboy"の意味がわかると思うよ」と言われては、黙って降参するしかない。
例えて言えばレイジ・アゲンスト・マシーンとかリンキン・パークのように、攻撃的なロックに強力なラップを乗せてきた、ミクスチャー・ロックのように。
そういう意味では、すでに相手はK-POPアイドルではないのだが、でもちゃんとテレビの歌番組の枠で、歌って踊るという離れ業を笑ってやってのけた。
というより、自分達がK-POPアイドルでないとは考えてないのだ。

この曲で、もう終わりという悲観的な巷間の気分を吹き飛ばしてのけた以上に、一皮むけて(G)I-DLE唯一無二の音楽世界を確立した。

しかし、マイナス面として、そういう強いメッセージのあるエッジの効いた曲を要求されるようになってしまった。でも賢いソヨンは、そんな周りからの期待など気にせず、自分の中から出てきたものを曲と歌詞にしていった。
「NXDE」である。

実は(G)I-DLEは、ミニアルバム、フルアルバム共に、きちんとアルバム・コンセプトをかためてきた。

「NXDE」がタイトル曲になった「I LOVE」も、様々な愛の形を表現している。

ところで、(G)I-DLEの歌詞には「抑圧とそれに抗う自分」という大きな主題があり、ラブソングですらどこか「私とあなたの関係性」を感じさせた。

でも「Queencard」がタイトル曲になった「I FEEL」では、ソヨンがこう言ったそうだ。
このアルバムでは、自分たちがやりたい事をやろうと。
それを受けてミンニとウギ、二人のソングライターは、思いっきり自分が書きたい曲を書き、歌のディレクションもした。
ソヨンは周りから期待されるメッセージ性は「Queencard」と「Allergy」で担保しつつ、音楽的にはクールでダンサブルな曲や楽しいポップパンクなど、ジャンル的には固定せずにやりたい放題で、しかもきっちりヒットさせるという統括プロデューサーとしての役割は果たした。

そんな風に、周りからの期待に応えつつ、やりたい曲をやりたいようにやるという、K-POPアイドル誰しもがあまりできなかった、僕が思うにBIGBANGしかやれなかった道を歩んできた。

一方で、ソヨン曰く、「私は野心と競争心がとても強い」(田舎料理大作戦 イ・ヨンジ出演回より)
そうなので、タイトル曲のコンセプトと結果に責任を感じているとおぼしい。
だから常に、他の第4世代アイドルのプロデューサーたちがどう来るのか気になっているそうだし、もうネタが尽きそうとグチもこぼしていた。

そして二枚目のフルアルバム「2」である。

ここでソヨンPDは大きな賭けに出る。
タイトル曲
で、(G)I-DLE史上最大の予算をかけてMVを作り、アメコミとディズニーとヘヴィメタルの要素を合わせ、アメリカ的スーパーパワーで女性をエンパワメントするという一大プロジェクトをやってのける。
冒頭のソヨンの高音ヴォーカルの居合抜きで斬りつけ、ミンニの低音ラップで迫り来る、戦う気満々の曲を放った。
それは、ヒットしても黒字にならないという、「お金のことは考えたことない」というソヨンならではのタイトル曲であった。

アルバムの最後は「Wife」という、メッセージ性を風刺の効いたヒップホップでしめて。

その間は、完全に自分達の作りたい曲を自由に書いて挟むという実験をした。

ミンニは、ピンク・パンサレス的な軽快でダンサブル、しかも彼女の持ち味のドリーミーで美しい音楽を「VISION」「7DAYS」で展開、ウギは基本アメリカンロックやポップスの人なんだけど「Doll」「Rollie」などのUKまたはヨーロピアンな世界を打ち出してみたり。

で、ソヨンは完全に自分の趣味で作ったという「FATE」を何気なくラス前に紛れこませた。
「頭の中の3/1はアニメとマンガが占めてるし、アニソンもめっちゃ聴くし、なんなら初音ミクも」と、元IZ*ONEのイ・チェヨンのネット番組で、そう話してて。歌詞も「前世か来世か、別の時間軸で恋人だった人と出会い、記憶はないけどなぜか涙があふれた」という物語を歌ったと語ったが、チェヨンがマンガを読まないと聞くと、「じゃあこんな話をしてもしょうがない」と止めた。

「FATE」がチャート逆走した時、「嬉しかったけど、こんなにオタクがいたの?思った」

よく考えると、全社的なプロジェクトの「Super Lady」より、超個人的趣味で作った「FATE」の方がヒットし、その後の各音楽賞でも絶大に評価されるという、皮肉。
狙って計算し尽くした曲ではなく、別に自分が作りたかっただけの何気ない曲が評価されると言うね。
そこで、「私が自分の作りたいものを作れば世界に認められる、神のような存在になった」と勘違いしないところが、我らがソヨン。

むしろ変な力みが消え、夏がテーマのミニアルバムを出し、「DUMDi DUMDi」以来やらなかった楽しい夏ソングをプロデューサーとして責任もってヒットさせる。
その代わり、全4曲の3曲はウギとミンニに作ってもらうと、「I SWAY」を出す。
いい感じで肩の力が抜け、他の二人へ絶大な信頼を表明して見せたのである。

だからこれからは周りからのプレッシャーをものともしない、新しい音楽をやってくれそうな、いい予感しかしない。

(おまけ)
ソヨンの趣味の、アニメのOST的J-POP的な曲は今に始まったことではない。
ミニアルバム「I LOVE」の「Love」。

そしてソヨンソロ曲、未発表の「Not Enough」。

ワールド・ツアーのソロコーナーで披露した時はこうでした。

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