(G)I-DLE 5thミニアルバム 「I LOVE」感想

I Love

ミニアルバム、フルアルバム共にタイトルに「I~」とするというルールに則り、「I Love」としたわけだが、ここに来て「Love」としたのは意味がありそうだ。
とはいえここでは楽曲そのものへの感想を書くことにしよう。

「NXDE」
前に曲の内容というか裏のメッセージ的な事を書いたので、別の方向から書きたい。

まずクラシック ビゼー作曲カルメンから有名なフレーズを使ったソヨンのイントロから始まる。
このフレーズはまた後何度も出てくるから、まあ曲としての主題の一つと言ってもいいかもしれない。(ここで言う主題とは、内容的テーマではなく、一つの曲で繰り返し使われるモチーフとなるメロディの事である)

足踏みするようなバスドラムに合わせてのミニーの歌い出しは、可愛くセクシーだが、腹に一物ありそうな、こちらを見透かすようなメロディ。
バイオリンのソロ演奏に代表されるあの感じを使って、昔っぽい音づくりをする。
被せるようにウギのパワーヴォーカル。
「ハッ!」が力強くナメんなよ感が伝わる。
そこへソヨンのおちょくるような皮肉たっぷりのラップが追撃してくる。
僕がよく見る海外の人の、(G)I-DLE MVリアクション動画では、アメリカのプロのラッパーがこの曲のこの部分を聴いて「ソヨンは韓国のベストラッパーだと思う」と言ってて、なんでもフロウのオリジナリティ、表現力、グルーブへのノリ方が凄いらしい。
どうだ、エヘンという気持ちになる。
そこへもう一つのテイスト、ムーラン・ルージュっぽく、バーレスクっぽく、ヴォードヴィルっぽく、世紀末のパリとか禁酒法時代のアメリカとかのクラシカルな興行風味を取り入れ、ここからあのレトロなバイオリンが大フューチャー。
ミンニの「Ah~」からの悲しいフレーズ、ミヨンの劇的な歌いかけ。
で、「Baby, how do I look?」という痛切な問いかけが来て、強烈なパンチラインとなる。
ストリングスの下降する伴奏が悲しみを増す。
一転、あのアイロニーにくるまれた攻撃なソヨンのラップが襲いかかってくる。
聴いてる方はみぞおちに一発体重ののったパンチをもらった気分になる。

そこからまたラップ前の痛烈な展開が繰り返され、悲しみが深まっていく。

これまで何度も出てきた「カルメン」の主題が高まってきて、シュファに「変態はあなたよ」と歌われ、肩がけに切り下ろされて、カタストロフを迎える。
最後にソヨンの「Nude」という呟きで幕を閉じる。

世紀末のパリのムーラン・ルージュ、バーレスク、アメリカ禁酒法時代のボードビル、50年代の娯楽映画、60年代のアニメーション、現代の美術館、バンクシーのシュレッダー事件などをちりばめられている。
ベティ・ブープからマリリン・モンロー、マドンナまで、女性はあまり知的でなく、男性に適度に優越感を抱かせるのが「可愛さ」であるとか、性的な美=白痴美などという今ではアウトな言い回しに代表される愚劣な価値観への軽蔑を表明している。
「女性を客体化して、一つの商品として消費する仕組みは、何も今に始まった事ではない。女性、というか生きているワタシはそのままで十分美しく、男性に認めてもらい、商品化してもらう必要などない。生まれもった美をいやらしく感じる偏見には吐き気がする」という曲のテーマをその音楽、歌詞、MVにおいて、表現しつくしている。
テンポなども変幻自在に緩急メリハリをつけ、展開もドラマチックである。
そう、この曲は一つの「演劇」なのである。

この感じは二度繰り返せないし、他のミュージシャン、アイドルも真似出来ない、一度きりの奇跡であった。
クイーンが「ボヘミアン・ラプソディ」を二回できないように。

(あれ? なぜかMV含むの感想を書いてたや。 この曲はMV含めて一つの作品って感じがするので、ご理解を)


「Love」
やけに親しみやすいメジャーキーのポップスに急展開。
どれだけソヨン引き出しが多いのか。
前の曲は凝りにこった複雑なアレンジだが、ここではAメロBメロサビ落ちサビ、ラストの大サビとポップスの教科書のようなスルメ曲。
どれだけ恋愛を語ってんのかと思って訳詞を見てびっくり。
ソヨンが自分の元カレに向けて、語りかけてるテイラー・スウィフトスタイルであった。
ワールドツアー後の雑誌、ラジオ、CMと忙しくなり、「TOMBOY」から「NXDE」自分で考えてもほんとにすごいと思う。あなたを奪っていったあのオンニとあっても今では平気、今の自分が充実しすぎて夢中。はっきり言って恋してる。ありがとう別れてくれて。
というすがすがしいまでのバッサリぶり。
ほぼアイドルとは思えない、私小説。この歌詞を親しみやすく爽やかに歌ってのけるソヨンって……。

「Change」
ミンニ作詞作曲のエレクトリックなマイナー曲。
懐かしい言い方で言えば、「打ち込み」の曲。だからというわけではないが、どことなく80年代のヨーロッパな曲だ。ニュー・ロマンティックていうかね。わかる人にはわかる話だけど。

ちなみにこの曲の詞は英語。ソヨンのラップ部分だけソヨンが韓国語でリリックを書いてる。タイ人のミンニには韓国語で詞を書くのは難しいのかもね。

「Reset」
ソヨン詞ウギ曲。もちろん僕は大好き。ウギのメロディメーカーぶりが遺憾なく発揮されたフォーキーな曲。
なんとなくだけど、ギターで作った曲かなと。
とにかくアコギの音がいい
山の頂から下を見ながら深呼吸するようなサビか最高。
これもソヨンの、別れたクズ彼氏へのせいせいした、リセットするという歌。


「Sculpture」
ミンニ作詞作曲、ラップソヨン作詞のおしゃれな曲。
前半は軽くアシッドジャズっぽい、ベースが効いたアレンジから、BPMを落としタンタンタンと迫ってきて、劇的で悲哀に満ちた曲調、「Your sculpture」のサビのハモリはなかなか凝った和音で、大人っぽいたらない。

歌詞の内容は、束縛が激しいモラハラ彼氏は私の作者、私は彫刻作品、だから削られる苦痛は平気なの。というめちゃくちゃ深い作品。
ソヨンと違いミンニの詞はは完全に虚構の世界で、束縛してくる男と、それも愛だと洗脳され支配された女の物語を陰影豊かに描いている。
ミンニの女優体質で、完全に主人公を憑依させている。

「Dark (X-File)」
ソヨン詞ウギ曲。
ウギには珍しく、陰鬱な曲。
ゆったりとドラマティックに物語を綴るような、暗い過去を振り返るような曲。
これは多分、ウギ、鍵盤で作ったね。

内容は許されない愛、、証拠すら残してはならないX-File、汚い愛、でも汚い世界の中で唯一の光という歌。


このミニアルバム、タイトルは「I Love」。
このLoveとは明るいだけではない。
光と影、男と女、知と性、過去と未来、囚われたままの現在。

僕はあまり歌詞を気にしない、というよりむしろ純粋に楽曲を楽しむにはむしろ邪魔だぐらいに思っている変人なのだが、(G)I-DLEに限っては訳詞を読まなくてはならないなと思わされた。
それぐらい曲調と歌詞の距離感が絶妙で、一筋縄ではいかないなと感じたのだ。


ちなみに「NXDE」のリミックスがオマケについたが、この曲は歌の世界の展開で、必然的に緩急つけている曲なので、EDMアレンジで台無しになった。
「TOMBOY」のEDMリミックスで、あのやんちゃなグルーブが消え失せたように。

ほんと、EDMってチャラいヌルいおもんないの三拍子揃ってんなー。
個人の感想です。

いいなと思ったら応援しよう!