髭鯨の第2期Σリーグ参加記録 その3(2023/11/01 開幕)
これは僕、髭鯨(ひげくじら)の第2期Σリーグ参加記録である。
言葉には力がある、と感じることがある。例えば『言霊(ことだま)』という言葉がある通り、古くから人は言葉には不思議な力が宿っている、と考えてきた。目標をあえて言葉にして、あるいは文字に起こして明確化することで、それを達成するためのパワーがもらえる、みたいな。
ともすればスピリチュアルなところへ片足を突っ込んでしまいそうな話ではあるけれど、僕個人としては、言葉には本当にそういう影響力みたいなものがあると思っている。本心から思っているわけではない言葉でも、あえてそれを口から発することで、メンタルをその影響下に置くことができる。
例えば僕には段位戦の前に必ずやるルーティンがある。開局のタイミングで、
「我慢」
と一言発するのだ。これは僕が気を抜くと難しい局面ですぐに考えることを放棄して安直なリーチを打ったり、全ツを決め込んだり、あるいはあっさり諦めてオリてしまうような悪癖があるからで。そうじゃなくてとことん考え抜いて最適解を探そうぜ、ということを意識づけるために、あるときからこの言葉を口にしてから対局に臨むようになった。口にすることで自然とそれに適した思考回路が整うような気がしている。
そういった言葉のストックはこれ以外にも幾つかあって、Σリーグ開幕節の登板でもそのうちのひとつに助けられることになった。
11月1日、いよいよ第2期Σリーグの火ぶたが切って落とされた。レギュラーシーズンは計20節40試合、翌年1月末まで続く旅路のまさに第一歩となる最初の試合に、僕の名が載ることになった。
<第1試合 C卓 組み合わせ>
・かちゃまんた / Luna de esperanza (ルナ・デ・エスペランサ ※以下ルナスペ)
・犬カルビ / ぽんてんLv47
・ひげくじら / ANC PURPLE BATS
・稚児 / 縁(えにし)
各チームの選手がどのように決まったかはそれぞれのやり方があったはずだけれど、僕らAPBは志願制みたいな感じだった。あんさんが「出たいひとー!」と呼びかけて、僕は間髪を入れずに「出たいです!」と応えた。第1試合か第2試合も選ばせてもらえる感じだったので、迷わず第1試合を選択した。こんなおっきな舞台、1試合でも多く楽しみたいよね。出られるチャンスがあれば今も全部出るつもりでいる。
それと第1試合を狙っていたのはもうひとつ理由があった。対戦チームの名前を見たとき、縁の名があったからだ。開幕戦は経験ある選手が出てきやすいだろうから、縁に所属する稚児さんが出てくるだろう、と踏んでいた。
稚児さんは僕が説明するまでもない強者であり、有名プレーヤーだ。雀魂公式大会でもたびたび上位にその名を刻んでいる。他家との間合いを慎重に測りながら手を進めるスタイルは他の打ち手とは一線を画していて、僕もちょいちょい配信を覗きに行っては勉強させてもらっている。この舞台で最も戦いたい選手のうちのひとりだった。
ぽんてんLv47からは犬カルビ選手。この人も強い。開幕前はMSリーグという個人のリーグ戦でこの人とは何度も対戦して、そのたびに苦戦していた。そのとき最終順位は僕の方がひとつ下に終わって、それもあって今回のリーグ戦では勝手にライバル視している。
ルナスペのかちゃまんた選手はこれまで交流がなく初顔合わせだったが、この人も段位は雀魂で最高段位の魂天。いきなり最高レベルの強敵3人が開幕戦として僕の前に立ち塞がった。別卓には早速天鳳位のヨーテル選手の名前もあって、みんなの注目はやっぱりそっちに集まるのだけれど、こちらの卓もそれに劣らないレベルの注目をもらえていたと思う。
そんな開幕戦を前にして、僕はそこまで浮足立ってはいなかったと思う。緊張していなかった、と言えば嘘になるけれど、どちらかと言えばリラックスしていた。ある程度打ち方を知っている人との対戦だったのも大きいかもしれない。対戦表は試合の前日の夜に公表されるのだけれど、そこから約1日、僕はかちゃまんた選手の牌譜に集中すればよかった。
当日、試合時間が近づいて、チームのみんなが集まって(今回はリーダーのあんさんが枠を取って)応援配信をしてくれる。普段僕が配信で麻雀を打つよりも多くのリスナーが集まっていて、Σリーグで打つんだ、ということを再認識したりしていた。
※開幕戦応援配信リンク
今回のリーグ戦にしたって、究極のところ打牌するのは僕ひとりだ。それでもこうしてチームで成績を共にして戦うというのは、普段の段位戦などとはまた違った感覚を味わうことができる。勇気をもらえることもあれば、逆に怖くなることもある。それで負けてしまっても、チームの誰かがカバーしてくれたり、逆に僕がカバーできることもある。本当にこれはチームでのリーグ戦ならではのことで、ひとりで打っているだけでは得がたい楽しさがある。まだそれを経験したことがない、興味がある、というひとは来季のΣリーグにぜひ応募してほしいと思う。
肝心の試合は、起親、犬カルビ選手の爆発で始まった。
東1局とはいえ6000オールなんて決められたら大半の試合が決まってしまう。役牌をポンポンと鳴かれ、わずか8巡の出来事だった。道中どうすることもできない。
これが計40戦しかないリーグ戦(レギュラーシーズンで)のこととなると、いきなり出鼻をくじかれた、以上の意味がある。スタートからチームにマイナスを背負わせてしまう、その可能性が濃厚だ。それで焦ってしまうと、ミスをしてさらにポイントを減らしてしまう悪循環に陥る事態が待っている。
こんなとき、僕はある台詞を吐くようにしている。
「カッコイイよなぁ、ここから逆転だぜ?」
なるべく不敵に、顔に笑みでも浮かべながら言うのがポイントである。実際にこのあと逆転できるかどうかなんて、それこそ麻雀である以上なんの約束もないのだけれど、それでもフリでいいからこういう言葉を口にすることで、本当に逆転するに適したメンタルへと自分自身を調整できる、そんな気がする。ちなみにこの台詞の出どころは漫画『修羅の門』で終盤に登場する破壊王(キング・オブ・デストロイ)ことプロレスラー、ジョニー・ハリスというキャラクターなのだがあまりにもマニアックすぎるネタなので紹介は控えておく(早口)。
まぁ実際そう思い通りにコトが運ぶことの方が少ないのが麻雀でもあるわけで、犬カルビ選手の勢いは止まらず、このあとも連続で2回の4000オール。さらに局が進んだ東2局では稚児選手の早いダマテン12000に僕が飛び込んでしまい、僕は早々に箱下のマイナスに沈むことになる。
それでも効果がなければ何度でも、僕は同じ言葉をつぶやく。仏の顔も三度までだというのに、こうも和了されるたびに4度もつぶやいていたら、魔法だって効果ももう望めないようなものだけれど、狙いはあくまでもメンタルの調整なので問題ない。
それが功を奏したのか、このあと手や展開にも恵まれて、僕は4回の和了を重ね(平均打点1万点オーバーである)ポイントプラスの2着で初戦を終えることができた。
犬カルビ選手が早々に抜け出す展開になって、あるいは2着を目指すことをメインの目標に切り替えるべきだったかもしれない。けれど、北家スタートということもあって、僕は一応最後までトップを目指す気持ちを傍らに置いておいた。最終的にトップまでは届かなかったけれど、頑張ってあがいたぶん、2着を射止めることができたのかもしれない。
応援配信に戻って、チームのみんなはこの結果にすごく喜んでくれた。これがやっぱりチーム戦の醍醐味だよなぁと思ったりした。ある意味で、僕は最高にこの第1試合という体験を楽しんだのかもしれない。
続く第2試合はコータさんが勝負所で南単騎追っかけリーチを繰り出すなど腕をみせ、競り勝ちチーム初トップを奪取。このあたりの詳細は公式の観戦記もリリースされているので併せてご確認されたし。
※公式の第1節観戦記
結果として、僕らAPBは最高に近い形でリーグ戦のスタートを切ることができた。他の卓でも荒れた展開や番狂わせがあって、やっぱり麻雀はこうでなくっちゃと思わされる。その乱気流を突き抜けるような形で、APBは第1節時点で首位に位置どることになった。
これは首位の立場で口にするような言葉ではないかもしれない。それでもAPB存続という目標を前に、僕はまだ逆境の中にいると思う。甲森あんさんの心変わりを引き起こすには、まだまだやらなければいけないことがあるだろうし、今期の優勝も必要になってくるはずだ。
だから僕は何度でも呟いていく。今節の試合と同じように、不適な笑みを浮かべてね。
「カッコイイよなぁ、ここから逆転だぜ?」
――続く
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?