髭鯨の第2期Σリーグ参加記録 その2(2023/10/30 お披露目配信)

 これは僕、髭鯨(ひげくじら)の第2期Σリーグ参加記録である。

 前回のnoteが思ったより各方面に好評で、それは僕にとって素直に嬉しいことだった。
 APBでもう1シーズン続けてやりたい。リーダーのあんさんにそう思ってもらえるような楽しいチームにする(そして優勝する)、という目標は、あるいは僕の胸の中だけに秘めておくやり方もあった。けれど、そういう僕の目標を他チームのメンバーとか、リーグ関係者とか、リーグをとりまくファンのひとりひとりに知ってもらって、あわよくば味方になってもらえるような空気を作ることができれば、きっとその方が目標は達成しやすくなると思ったから(優勝する、に関してはもちろんそうはいかないけれど)。だからその第一歩として、僕のnoteは一定の成功を収めた、と言っていいのかもしれない。
 同時に懸念がないわけでもなかった。APBが今シーズンで最後になる、というあんさんの決断の裏にはとてもデリケートな事情があるかもしれないから。それをあんなふうに書いて注目を集めてしまったら、あんさんはちょっと複雑な気持ちになるかもしれない。当然あんさんあってのチームだから。あんさんも含めて、楽しいチームにならないと意味がないから。

 そういう意味で、次にあんさんと直接会話する機会があるまで、僕は内心ドキドキしていた。とても冷たく接されたら、あっ、と察する心の準備だけはしていた。
 その機会は10月29日に訪れる。チームのみんなで練習戦をしよう、という話になっていた。noteを公開してから1週間後のことだった。ドラフト会議からは2週間経つことになる。
 その頃は僕にとってまだ手探りの時期でもあった。楽しいチームにする、という目標を立てたはいいけれど、具体的に何をしたらいいのか、がはっきりと見えているわけではなかった。
 ちょうど同時期、他チームLogicart(ロジカート)ダイゴさんやLuna de esperanza(ルナ・デ・エスペランサ)雪霧雪さんがリーグ参加者の凸待ち配信をしてくれていたから、そこへ僕はふらりと飛び込んではアドバイスを乞うなどしていた。「今のAPBは個性的な面子が揃っているから、配信で各々の特徴がしっかりでるようにしてみたらどうだろう」みたいなことを言ってもらえたりした。確かにそうかもしれない。
 他チームだって「楽しいチームにしたい」という思いは、程度の差こそあれ、どこだって抱いているはずで、そのためにどんな工夫をしているのかはやっぱり気になるところだった。Xのポストを眺めていたら、どこそこのチームで牌譜検討が盛り上がっている、とか、他チームの対策としてこんなことをしてるぜ、みたいなアピールも流れてくる。それを目にしては内心ちょっと焦りを感じたりもした。
 APBのDiscord内でも、動きは確かに生まれていた。むいさんルシャバさんが積極的に牌姿を投げ込んではコータさんや僕だったり、みんながそれに答える、みたいなやりとりが自然と発生していたし、ルシャバさんが広報の立場も活かして他チームの選手の特徴を教えてくれたり、前期の注目の試合をピックアップしてくれたりしていた。あんさんも配信のやり方をシェアしてくれて、それは僕にとってとても勉強になった。
 チームみんなが同じならいいな、と思った。みんな初参加だから、探り探りで、たどたどしいけれど、楽しいチームにする、という路線の上にはみんな一緒に乗っかっている。少なくともみんな近いところにいる、という実感みたいなものはあった。
 練習戦で僕はコウモリーチ18000やコータリーチ24000に盛大に放銃したりしたけれど、それをネタにみんなでワイワイ笑い合った。その時は打算などなく純粋に楽しかった。
 けれど本当に練習戦にのめりこんだせいか、あんさんとの間でnoteの話は触れる機会がなかった。

 翌10月30日にはチームのお披露目配信が予定されていた。今季のAPBはこの5人で戦います。こんなメンバーです。というのを広く知ってもらうための機会だった。
 APBだけでなく、Σリーグ参加の12チームがそれぞれ実施している。しかもしっかりチーム同士で日程が被らないように調整しながらだ。そういった点はリーグとしてのこだわりが感じられて好きだと思ったし、身も引き締まった。
 僕らAPBは最後から2番目の実施で、つまり僕らよりも前に10チームがすでにお披露目配信を済ませていた。5人の回答が揃うまで終われまてん、みたいなことをするチームもちらほらあって、なるほど、確かにメンバーの人となりが掴みやすいなぁと思ったりした。
 APBは事前にもらったマシュマロ(匿名投稿の質問)に各自が応える形式だった。

※お披露目配信リンク
https://www.youtube.com/live/cvVcn4rjPm4?si=rdX1vy7FJmbtbF7T

 まだみんなで話すのは慣れていなくて、ところどころ妙な間の取り方が残ったりではあるけれど、徐々に距離感は近くなっていると思う。あんさんが旅行&写真好きだとわかったり、コータさんが結構ロックンロール寄りなこととか、むいさんががっつりゲーマーなこととか、ルシャバさんがMTGプレーヤーだったりとか、今までぼやけていたその人の輪郭がだんだんと定まってくる。楽しいチームを目指すのなら、やっぱりその人が何が好きかを知らないわけにはいかないだろう。
 他にも色々質問があって、その答えを聞きながら、僕はぼんやり各メンバーの性格や思考回路を想像したりしていた。
 届いたマシュマロの中にはAPB存続を願う声もあって、やっぱりこれまでこのチームは愛されていたんだ、と感じたりもした。

「あんさん、せっかくなので――」

 と僕が声を上げたのは、そのお披露目配信の中盤のことだった。

「あんさん的にこの5人はこういう期待で選びました、みたいなのを聞けると嬉しいかもです」

 メンバー選考をテーマとするマシュマロが何度か続いて、答えも繰り返しになってしまうタイミングだった。こういう質問をぶっこむならここがベストだと狙っていた。あんさんの答え次第で、今後のヒントになるものが得られるかもしれない。

「これがねぇ、まぁ……難しくてですねぇ、応募者全員に可能性はあるんですけど……」

 と、あんさんは明らかに困った口調になった。それまでと違って、とても慎重に言葉を選んでから口にするふうに変わったのがわかる。答えをまとめると、以下のような感じだった。

・近しい人だけで固めてしまうのはリーグの理念的にも避けたかった
・情熱や配信での映えなど幾つかの評価要素があって、選んだ4人はバランスよくその要素を備えている

 聞くと、なるほど、となる一方で、肝心の部分はすかされてしまったような感触もある。思ったのは、あんさんは自分の気持ちをある程度セーブしてでも、自らの役割をまっとうしようとするところがあるかもしれない。Σリーグは広く門戸を開いているから、そうあるべきだから、APBは近しい人だけで構成するのは避けた。
 どうだろう、今回のAPBが最後となる決断も、そんな気質が多少なりとも影響しているんだろうか。もしそうだとしたら、その決断を支える理由のひとつひとつは公共性のある正しさみたいなもので鉄壁のガードを築いているのかもしれない。

「あのnoteは――」

 と、同じ配信の中であんさんが口を開いた。僕が小説好き、という話の流れでのことだった。あんさんの方から触れてくるのは少し意外だった。だけど、

「あのnoteはいろんなチームの方からコメントがあって好評だったね」

 主語は「私」じゃなかった。本心がやっぱりガードで守られている。そんな感覚。どれだけ手を伸ばしても、肝心な所に触れることができないような。掲げた目標は、いま僕が思っている以上に難易度が高いことなのかもしれない。

 でも、と思う。

 これからリーグ戦が始まる。麻雀だって、その戦いにどんな難しい条件が付きつけられていたとしても、開局前なら達成の可能性は必ず残されているはずだから。
 だから今はまだできるって信じていたい。

 11月1日、第2期Σリーグが開幕する。残すところわずか2日にまで迫ってきていた。

――続く


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