防波堤
僕は彼女に
「防波堤になるからさ」と言った。
そんな詩的な事を
格好つけて言ってみたが、
自信はなかった。
彼女が仕事に悩んでいた。
対人関係である。
話を一通り聞いた後に
格好つけててそう言った。
僕は会社勤めをした事がないから、
どんな高くて激しい波に
彼女が襲われているのかはわからない。
だから僕という防波堤の高さが
それを防ぐに足りるかわからない。
彼女だけでなく、
おおかた、この年齢になると、
悩みは仕事や家庭だったりする。
僕にはそのどちらもない。
僕は誰の救いにもなれない。
「お前に何がわかるねん」と言われた時、
粉々になってしまう防波堤だ。
とても、とても、脆弱な防波堤だ。
だから出過ぎた真似は決してしてはいけない。
簡単に人を理解した気になってはいけない。
あれもこれもしてあげる母性ではなく、
そっと、見守る父性が今は必要なのだろう。
僕とて様々な事で傷ついてきた。
色んなことに悩んできた。
が、その経験を元に
誰かに言えることは何もないのである。
役に立つことは何もないのである。
生きている中でどうでも良いことばかりに
苦悶してしまっていた。
全く無駄な悪足掻きを
今までしてきた。
少しでも人の痛みにより添える、
そんな人間になりたいと願った自分は
高尚な人間ではなく、
ただただ、おこがましい人間なのです。